2012年4月から休館していた「黒田記念館」がついにリニューアルオープンいたしました!
黒田記念館は、日本近代美術の巨匠、黒田清輝が1924年に没した際、遺言に遺産の一部を美術の奨励事業に使うよう残し、その言葉を受け4年後の1928年に建てられた美術館です。
国指定有形登録文化財にも指定されたこの建物の設計者は岡田信一郎。彼は古今東西の建築様式に精通しており、歌舞伎座をはじめ明治生命館や関東大震災後のニコライ堂再建など数々の建物を手がけた建築家です。
2012年より続いていた耐震工事が終わった今、この記念館では黒田清輝の油彩画約130点、デッサン約170点、写生帖などの所蔵品を鑑賞することができます。
黒田記念館には、年に数度しか開かない特別室があります。
ここには黒田清輝の代表作である「湖畔」「読書」「舞妓」「智・感・情」の4作品が展示されており、2015年は1月2日~1月12日、3月23日~4月5日、10月27日~11月8日の3回のみの公開となっています。
(上:湖畔 下:智・感・情)
また、常設展でも、彼の描いた油彩やデッサン、貴重な書簡などをたっぷり味わうことができます。
この黒田記念館で私が一番好きだった絵は、常設展示である「昔語り下絵(舞妓)」です。
特別展にも舞妓の絵は飾られていたのですが私が特に惹かれたのはこの下絵でした。
「昔語り下絵(舞妓)」1896年
舞妓さんが男性の手を握り寄り添う姿、わたしにはこれはほかにはない切ない絵に見えました。
花街で舞踊、お囃子などの芸でとても華やかに宴席を盛り上げる舞妓さん。小さい頃から厳しく芸を仕込まれた彼女たちは真のプロフェッショナル、きっとプライドも高いでしょう。そんな舞妓さんは普段ならお客の男の顔をしっかり見て微笑んで接客するのでしょうが、伏し目がちの彼女の表情は、完全に恋する女性のそれに見えます。
絵の中で色がついているのは舞妓さんと男性の手のみ。私には、この作品には男性の気持ちが全く描かれていないように思えました。
もしこれが素敵なカップルの絵ならば、せめて男性の着物や背景にも色をのせているはずではないでしょうか。
男性の周りに色が一切ないことが舞妓さんの片思いを感じさせ、彼女がぎゅっとつないだ男性の手にのみ塗られた色はより一層切なさを際立たせます。
「なんだかその人はやめておいたほうがいいよ、舞妓さん。」と絵の中の彼女に語りかけたくなる…そんな1枚でした。
「昔語り下絵(舞妓)」をはじめ、ここに飾られた絵たちはどこか秘めた思いが眠っているようなものばかりで、一枚一枚とじっくり対話しているだけであっという間に時間がたってしまいそうです。
画風としてはレンブラントやフェルメールを彷彿とさせるような光や色調が特徴的ですが、それだけではなく黒田清輝の絵には文学的要素も感じられるので、日本洋画に親しみがない方でも一冊の小説をめくるようにお楽しみいただけるのではないでしょうか。
ルネサンス形式で建てられた昭和の近代建築の傑作に足を踏み入れ、日本洋画界の巨匠、黒田清輝作品を鑑賞、今週末はそんな休日を過ごすのはいかがでしょうか?
《開催概要》
2015年特別室開放日 : 1月2日~1月12日、3月23日~4月5日、10月27日~11月
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
黒田記念館WEBサイト : http://www.tobunken.go.jp/kuroda/