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鈴木康広さんインタビュー 鈴木さんは、何で構成されているの? Vol.1 ~アーティストに「なる」過程~

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2018年9月30日


鈴木康広さんインタビュー 鈴木さんは、何で構成されているの?  Vol.1 ~アーティストに「なる」


 

 

鈴木康広さんインタビュー 鈴木さんは、何で構成されているの?
Vol.1 ~アーティストに「なる」過程~

 

 


数々の芸術祭や国際展に作品を出展し、現代アートの旗手として活躍している鈴木康広さん。日本のみならず世界中に出没している《まばたきの葉》、瀬戸内国際芸術祭2010で海を切り開いた壮大な《ファスナーの船》、六本木アートナイト2018にも登場した《空気の人》などの作品は、くすっと笑えるユーモアと、日常ではなかなか出会えない気づきに溢れ、忘れられないインパクトを与えます。今回は鈴木さんご自身のお話と、アーティストとしての原体験が詰まった大学卒業前後の時期のエピソード、そして過去・現在から未来へと繋がっていく作品の魅力について、三回に渡ってお届けします。

 

 

 

 

 

 

 

◇作品制作を通してアーティストに「なって」いく

 

 

 

girlsArtalk(以下、gA):本日お伺いしたいのは、「鈴木さんは何で構成されているのか」です。

 

鈴木康広(以下、鈴木):作家としての活動、とかでしょうか?

 

gA:アーティストとしての話はもちろん、鈴木さんの人となりを知りたくて。

 

鈴木:初対面なんですが…(笑)。

 

gA:アーティストって特別な人間だと思われがちですが、身近な一人の人間だというお話が聞けたらいいなと思いまして。

 

鈴木:そうですね…。実家は祖父の代くらいから個人商店を営んでいました。僕は長男なので、土地や家を守り、先祖の築いたものを継いでいくものだと教わり、子供ながらに強く意識していました。ところが中学から高校生になった頃には、祖父や父の代とは時代が変わり、将来は個人商店ではやっていけないという状況があって、じわじわと追い詰められている気持ちがありました。あとは、僕は基本的に情報としてまとめられているものを客観的に見ることができなくて、常に世の中を主観を通して見ていました。

多分、自分が周囲の環境にうまくフィットしていれば、将来について深く悩まずに済んだと思うのですが、そういった要領の良さはなかったんです。僕は、身を置いている環境の中で作品制作を通して自分なりに考えてきて、アーティストに「なった」のだと思います。

 

gA:小さい頃はどのような子供だったのでしょうか?絵本も出版していらっしゃいますよね。

 

鈴木:実は、子供の時、絵本になかなか馴染めなかったんです。だけど、母親の読み聞かせや、絵を見るのは好きでした。母親が、読んでいるうちに眠りそうになったり、声のテンションが変わったりしていたのが印象に残っています。内容はほとんど覚えていないので、文字の情報は入っていなかったのだと思います。

 

 

 

◇言葉との関わり

 

 

 

 


gA:鈴木さんは、ものを考える時にどうしていますか?例えば、言語で思考しているタイプの人と、そうではない人がいると思うんですけど、鈴木さんはどういう感じなんでしょうか。

 

鈴木:僕は、論理的な文章を書くのは苦手なのですが、意外にも「言葉の人」と言われますね。「こんな感じかな?」ということを言葉にするのは好きかもしれない。正しさと誤りの間くらいの曖昧な状態にある言葉を使うことにワクワクします。

 

gA:アイデアの断片にコピーをつけるように言葉をつけるんでしょうか?それとも言葉が先なんでしょうか?

 

鈴木:どちらのパターンもありますね。何かを見て、言葉が苦手だったはずなのに言葉が出てきたり、ある状態に対して言葉がおのずと出てきたり。はっとして「なんでこの言葉が出てきたんだろう」という疑問が出てくることがあります。そういう時は、全く知らない言葉ではなくて、今まで使った言葉や、本を読んだときに出てきた抽象的な思考が出ているんです。辞書などで検索して調べると、自分の感じたことや考えたことがちゃんと意味の中に入っているんですよ。自分が思ったことが言葉の意味の幅の中にちゃんと用意されているので、一人で感動したりしています。

 

gA:アイデアの断片を拾って、作品化していく過程がとてもユニークですね。繰り返すことで磨かれてきた能力ですか?

 

鈴木:だんだん身についていったんでしょうね。僕の場合、作品をつくることで自分の視点が動的に(ダイナミックに)変わっていくんだと思います。

 

gA:アートは、人が変わっていくきっかけになるのだろうと思います。

 

鈴木:そうでしょうね。自分が変わるのって、作品を見ることでも起こるのかもしれないですけど、僕はつくることで初めて自分なりの見方を獲得できたんだと思いますね。逆に言うと作品制作をはじめるまでは「自分」という存在の認識すら危うかった気がします。

 

例えば教育の場合、一万人が対象になって同じように取り組めば、統計的な答えが出てしまうものだと思います。それに対して、僕がやっているのは個人的な遊びですね。教育と遊びは紙一重のところがありますけど、僕は自分が遊んでいく中で、工夫して新しい方法を見つけていきました。その意味では、僕はアートという、遊びを最大限発揮できる場所に居場所を見つけたのかなと思っています。

 

 

 

 

 

 

gA:子供の頃の遊びの具体例ってありますか?

 

鈴木:実家がスーパーで段ボールがたくさんあったので、段ボールで基地をつくりました。そして、椅子やグローブやバットなど、あらゆるものを段ボールでつくり、親戚やいとこに見せて使ってもらったりしました。


僕は、本来とは別の素材で既製品を再現することに興味があったんです。段ボールという素材は、低コストかつ丈夫で、それ自体が発明品だと思うんですけど、僕らの世代は段ボールそのものはあたりまえの素材になりました。もみほぐしたり丸めたりして、使い方を工夫しました。

段ボールを使う時、加工の方法論が既にあったら、多分やる気にならなかったと思います。セオリー通りが得意な人もいると思うんですけど、僕にはそれが楽しめない。段ボール加工全書みたいなものがなかったこと、あるいは段ボールの加工方法を教えてくれる人が周りにいなかったおかげで、僕は自分でやりはじめました。自分で工夫をしたり、開拓したりすることを楽しめる感覚が子供の頃からあったんだと思いますね。

僕は、ある素材を扱うとき、何げない作業でも毎回違うことをやっていることに気づきました。例えば作品をつくるときでも、想定とは違うことが起こってしまうんですよね。そうすると、何通りもバリエーションが生まれて、菌が増殖するようにアイデアや方法が広がっていくんです。逆にそれを限定しなければいけないのが大変です。

 

gA:アイデアはどんどん広がっていくのでしょうか?

 

鈴木:はい。いろいろなものが紐づいて広がっていくので混乱しますね。人間は、広がっていく混乱を抑えるために言葉や概念を働かせているんじゃないかと思います。でも一方で、爆発的に増えるものごとのつながりやインスピレーションをキャッチするのも言葉です。僕の場合、これまでつくってきた作品とタイトルがその役割をしている気がします。

 

 

 

◇問いかける作品とともに

 

 

 

 

 

 

gA:鈴木さんの作品は、答えを示すのではなくて、問いを投げかけているように思います。

 

鈴木:例えば作品の形を決める時も、既製品と同じでいいのか、原寸大がいいのか、二倍にするのか、ひとまず理由が必要ですよね。その理由にも、いろいろな疑問が湧き出してきて、決定できないんですよね。それが僕の作品が問いかけ型になっていく原因だと思います。自分自身がわからないからつくっているわけです。

 

gA:やりたいことや思いつくことは、いつもたくさんあるんでしょうか。

 

鈴木:はい。例えば、僕は大学生の時に夏目漱石の『三四郎』を読んで、こんなに面白いんだと思って衝撃を受けて、本が大好きになったんです。それまでは読書を始めると、考え事ばかりしてしまって、読み終わると何も覚えてなかったんですけど。今では、多様な本とのつき合い方ができるようになって、読書は印象さえ残っていればそれでいいのかなと思っています。

 

gA:本を読んでいる時に同じような経験をすることがあります。でも私の場合、読書中に集まってくるのは言葉ではないです。

 

鈴木:僕の場合、言葉ではないことも集まってきているのかもしれないですけど、認識できないんですよね。いびつな言葉だったとしても、自分の感じたことを表そうとしている自分がいて、その自分が何者なんだろうという感覚も常にあります。もしかすると、自分に対しての問いかけを行っているのかもしれません。

 

gA:もう一人の自分みたいなものですね。

 

鈴木:はい。僕はスケッチすることで、問いかけてきたものに答えているんだと思います。

 

 

 

→インタビューVol.2に続く

 

 

 

 

 

 

テキスト:中野昭子
取材:新井まる、中野昭子
撮影:武本淳美

 

 


【プロフィール】

鈴木康広

1979年、静岡県浜松市に生まれる。2001年に東京造形大学デザイン学科卒。
2014年に水戸芸術館にて個展を開催、金沢21世紀美術館で「鈴木康広『見立て』の実験室」を開催。 2016年「第1回ロンドン・デザイン・ビエンナーレ2016」に日本代表として公式参加する。作品集に『まばたきとはばたき』『近所の地球』(ともに青幻舎)、絵本『ぼくのにゃんた』『りんごとけんだま』(ブロンズ新社)がある。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科准教授、東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室客員研究員。

国内外の展覧会や国際展をはじめ、パブリックスペースのコミッションワークや大学の研究機関・企業とのコラボレーションにも取り組んでいる。代表作に《まばたきの葉》《ファスナーの船》《空気の人》など。

 

 



Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。

 

 






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