interview

私たちの祖先は、偉大な航海者だった!?大航海の謎に迫る!国立科学博物館・国立台湾史前文化博物館『3万年前の航海徹底再現プロジェクト』

NEWS

2018年7月6日


私たちの祖先は、偉大な航海者だった!?大航海の謎に迫る!国立科学博物館・国立台湾史前文化博物館『3万


 

私たちの祖先は、偉大な航海者だった!?大航海の謎に迫る!
国立科学博物館・国立台湾史前文化博物館『3万年前の航海徹底再現プロジェクト』

 

 

 

 

 

 

およそ3万年前、祖先たちが台湾から沖縄に渡った航海を再現しようという、ロマン溢れるプロジェクトが注目を集めています。私たちの祖先はどのような舟で、どのような思いで遥かなる航路を切り開いたのでしょうか。
2016年に始動したこのプロジェクトは、クラウドファンディングにより古代舟を復元して当時と同じルートで航海するという、これまでにない試みです。いったいどんな発見があるのか、ワクワクしますね!本プロジェクトの主催者である国立科学博物館人類史研究グループ長の海部陽介さんにお話を伺いました。

 

今、世界中にいる人類(ホモ・サピエンス)は、約20万年前にアフリカで誕生し、約6万年前以降に世界へ拡散しました。このアフリカ起源説は、人類進化学では大変大きな発見だそうです。

 

ガールズアートーク(以下gA):アートの側面から質問させて下さい。ヨーロッパではショーヴェ洞窟に代表されるように壁画や彫刻が数多く見られますが、アジアではあまり出土していないようなイメージがあります。アフリカ起源説から考えると、同じ人類なので似たような壁画などがアジアにもあっておかしくないと思いますが、この違いは何なのでしょうか?

 

海部さん:ヨーロッパには証拠が目に見える形であるけど、アジアではなかなか見えないんです。でも、あるはずだという考えになってきています。今は、アジアでも散発的に出始めているんですよ。ただアジアの場合は、アートという形ではなかなか見えてこない。色は使ってるんですよ。朱色を使うというのは古くからあるんだけど、それで壁画を描いたという証拠はなかな見つからなかった。インドネシアでようやく古い壁画が見つかったんですけれど、ヨーロッパほど派手じゃないんです。アートの面で見るとそうだけど、でも地域ごとに違う形でホモ・サピエンスの能力が顕現しているという風に僕は考えています。逆に舟で海を越えることはアジアでしかやっていないですしね。

 

gA:今回の『3万年前の航海 徹底再現プロジェクト』ですね。

 

海部さん:海に出るために舟を作る発明をするという新しいチャレンジと想像力…。「そうぞうりょく」はクリエイション(創造力)とイマジネーション(想像力)の両方がありますけど、そういうものって多分、根源的にはきっと同じで、いろんな形で発露している。それを違う形で違う場所から見ている、と僕は整理しています。そういう意味では、アートも舟と根源的には同じと言える。

 

ホモ・サピエンスが、大陸から海で隔てられた日本列島に到着したのは4万~3万年前の間。これまでの研究から、定説といわれているルートは以下の3つです。

 

①朝鮮半島から対馬経由で西日本に入る「対馬ルート」、②シベリアからサハリン経由で北海道へ南下する「北海道ルート」、③台湾から琉球列島への「沖縄ルート」。
本プロジェクトでは③の沖縄ルートに注目します。私たちの祖先はいったいどのように日本列島へたどりついたのでしょう?

 

難しい航海だったに違いありません。場所によっては島と島の間の距離が200 km以上もあり、さらには世界最大の海流である黒潮が航路を阻んでいたと考えられます。本プロジェクトは当時の航海の技術がどんなものだったのかを科学的に研究し、舟を再現するところから取り組んでいます。舟の材料はなんだったのか、どんな形をしていたのか…。など多くの謎の解明に挑みます。

 

 

2016年草束舟の実験・2017年竹筏舟の実験の記録はこちら
https://www.kahaku.go.jp/research/activities/special/koukai/

 

 

※テレビ放送予定があります。

NHKスペシャル「人類誕生」 第3集「ホモ・サピエンス ついに日本へ!」
2018/7/15日(日) 午後9:00~9:49
番組公式サイト http://www.nhk.or.jp/special/jinrui/

 

 

 


撮影協力:国立科学博物館

 

 

 

gA:ご自身で研究されている中で、初めから航海の再現はやってみようと思われていたのでしょうか?

 

海部さん:いいえ。僕は研究者なので、遺跡地図を作ってみて「あれ、これはなんだろう?」って思ったのが始まりです。いきなり琉球列島に人が現れる。しかも一つじゃなく琉球列島全体に現れているんです。これはやっぱり海を越えるっていう新しい技術ができたに違いない。それを研究したいというのと同時に、それを再現してみたいと思ったんです。

 

gA:研究をしていく中でやりたいと思われたんですね。

 

海部さん:そうですね。海を越えることがどれだけたいへんかわかっていないのに、自分が偉そうにレクチャーするのも嫌だったんですよ。

 

gA:そうだったんですか。海部さんのおっしゃる動機の順序は興味深いですね。「興味や好奇心に駆られて海を渡る」というのは、昔の人と一緒の気持ちだと感じます。つまり、昔の人と同じ動機でやっていらっしゃいますよね。その共通点が面白いですね。

 

海部さん:そうですね。ただ、彼らがどういう動機で島に渡ったかというのはまだわかっていないんです。というか、永遠にわからないですよね。

 

gA:確かにそうですね。想像するしかありません。

 

海部さん:そのことは多くの人からよく質問されます。面白いことに、だいたいの人は「積極的に行ったんじゃなくて仕方ないから行ったんじゃないか」って考えるんですね。つまり、大陸にいれば安全だとわかっているのに、遠くで見つけた何があるからないような島に行く勇気を一体どうやって持つのか?それは、しょうがなくて追い出されたというような消極的な理由によるものなのでは、と考える人が結構多いです。

 

gA:でも海部さんは島が見えたから積極的にいってみると考えたということですか?

 

海部さん:いや、そんな単純な理由じゃないですよ(笑)。僕が言いたいのは、まず「やってみる」ということです。まずどれくらい大変なのかってことを理解して、それから理由について考えたいですね。

 

 

 

 

 

 

舟を造って気づいた大事なこと

 

 

 

海部さん:僕らの普通の研究のやり方は遺跡を掘って出てきたものを研究することです。つまり、出てこないものは研究の対象にならない。舟は証拠が出てこないから考える候補に入ってこないんですね。でも僕は、それはもったいないなって思ったんです。だって島に来てるのは確実なんだから。どうやって来たのかどうしても知りたいなと思いました。遺跡を掘るだけでは答えにたどりつかないので、このプロジェクトを始めたんです。 やってみるといろんなことがわかります。まず海に出るためには最初に山に行かなければならないってことに気が付くんです。

 

gA:舟の材料の調達のためですか?

 

海部さん:はい。まずは植物の知識を持っていないといけない。最初は、竹の舟を造るにしても、竹はそこらじゅうにあるから簡単にできると思ってました。でも実はそうではなくて、竹の種類はちゃんと選ばなくてはいけない。軽くて空洞が大きくて浮力が大きい竹を選んだほうがいい。そうじゃないと舟が重くなってしまうんです。竹ってじつは結構重いからスピードが遅いんですよ。それから竹の年齢も大事です。若すぎても年寄りでも簡単に割れてしまう。割れたら竹のよさは全部無くなってしまいますからね。そんなことを学んで、実は結構、奥深いんだなって気づかされました。

 

 

 

 


撮影協力:国立科学博物館
帆がある船が出てきたのはもっと最近のことだそう。国立科学博物館B2F人類の進化ゾーンにて

 

 

 

海部さん:舟を作っているとあることに気が付くんです。「いい舟だなあ」と思ったときに「あ、コレ、いけちゃうんじゃないかな」ってふとそんな気持ちになったことがあるんです。もしかしたらこれって昔の人も感じたことかもしれない。やってるうちにだんだん「出来るぞ」って、そう思うと行けるかもしれないですよね。だから、海を渡った動機は、消極的な理由ばかりではないような気はします。これは実験をやって初めて分かったことです。証明にはならないですが、やってみて初めてそういう要素があることに気が付くんです。体験して初めてわかることは多いので、遺跡の発掘と両方やったほうがいい。遺跡は第一の証拠でそれはもう絶対なんだけれども、こっちもやるともっと深く理解できるってことに気が付いたんですね。

 

gA:面白いですね。この舟はいいぞ!って。

 

海部さん:そういうふうに昔の人が思っても不思議はないなと。まあそれが正解かどうかは分からないんですが。

 

gA:とにかく、何とかして海を渡ったことは間違いないんですよね。

 

海部さん:間違いないです。しかも男だけでなく女も一緒に集団で渡ったということもポイントです。熟練の冒険家だけが数人で行けばいいということじゃないんです。
それから実験して分かったことは帆は使えないということ。帆を使うのって実はすごく難しいんですね。例えば縄文時代に丸木舟があるんですけど帆がある証拠が一つもないんですね。そもそもこの細い舟に帆をつけたらどうなりますか?

 

gA:ひっくり返りそうですね。

 

海部さん:漕ぎ舟と帆船っていうのはまったく正反対の考えです。帆船にするには船体の構造も変えないといけないんです。ただ帆をつけても風で横滑りしちゃいます。
いろんな方向から吹く風を自在に操る技術は、かなり最近のもののようです。だから漕ぎ舟しかないということになった。でも漕ぎ舟の問題点は、人力ですからそんなにスピードは出ない。その上、男も女も乗せないといけないでしょ?女性に優しくはできないですよね。僕らの実験では「休んでていいよ」なんて優しいことは言えないっていうのが現実です。

 

gA:昼夜とにかく漕ぎ続けるということですよね。

 

海部さん:そうです。寝ちゃだめです。夜は星を使って方向を見ていくんですよね。GPSも地図も無いわけですから。
現代人のもうひとつの誤解は、どうしても地図見て話をするから、この海流に流されていけば島に着くんじゃないかって、そういうことを言うんです。でもそう言えるのは、あなたが向こうに島があるっていうことを知っているからですよね?彼らにとっては見える世界が全部の世界ですからその立場に自分を落とし込まないといけないですよね。そうじゃないと昔の人のことは理解できない。

 

 

 

最終目標 〜水平線に隠れている島へむけて〜

 

 

 


撮影協力:国立科学博物館

 

 

 

2019年に台湾→与那国島の航海を再現することが最終目標。難関の黒潮を越えて遥か遠くの島へ向けて、なんと3日間に及ぶ航海になるそうです。

 

海部さんの「もう一度海を渡ろう」という挑戦自体が、3万年前に行われたかもしれない勇気ある行動の証明になっているのではないかと感じました。成功するか分からない、でももう一回やってみたいと思う追随者がいるということは、それ自体が私たちにはより説得的であり、リアルな歴史の証明なのかも知れません。

 

 

 

テキスト:五十嵐絵里子
インタビュアー:花房太一

 

 

海部 陽介(かいふ ようすけ)
国立科学博物館 人類研究部人類研究グループ長
東京大学 大学院理学系研究科生物科学専攻准教授
Springer国際専門書籍シリーズ「Science of Human History in Asia and the Pacific」共同編集長
アジアにおける人類の進化と拡散史の研究を専門分野とする

 



Writer

五十嵐 絵里子

五十嵐 絵里子 - Eriko Igarashi -

大阪藝術大学芸術学部文芸学科卒業。
2015年に美術検定1級取得。都内で会社員をしながら、現在アートナビゲーターとして活動中。
山形県出身、東京都在住。






トップへ