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スプツニ子!さんインタビュー 私は未来マニア〜アートとテクノロジーから未来をデザイン〜

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2017年11月16日

スプツニ子!さんインタビュー 私は未来マニア〜アートとテクノロジーから未来をデザイン〜


スプツニ子!さんインタビュー 私は未来マニア〜アートとテクノロジーから未来をデザイン〜

 

テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を考察する映像やインスタレーション作品を制作するアーティスト、スプツニ子!さん。作品は自らが被写体、演者となってジェンダーをテーマに性差を疑似体験できるものから、遺伝子組換えシルクを扱うものまで多岐にわたる。現在は東京大学の生産技術研究所RCA-IISデザインラボで特任准教授を務めながら、NHK『スーパープレゼンテーション』の番組ナビゲーターを務めるなど、多様な活動を展開している。そんな彼女を追いかけて、渋谷西武で開催されていた彼女の展覧会「bionic by sputniko!」のオープン直前にインタビューを試みた。既存のアーティストの枠組みでは語り尽くせない彼女の素顔に迫る。

 

 

日本人の父とイギリス人の母はともに数学者。彼女自身もロンドン大学インペリアル・カレッジで数学とコンピューターサイエンスを専攻した。当時の作曲の授業で音楽活動に目覚め、アーティスト活動をスタートさせる。卒業後にプログラマーを経て、英国王立芸術学院(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)に進学し、スペキュラティブ・デザインを学んだ。理系女子から美大生へ。こうした歩みが未来のあり方を問う現在の制作アプローチに繋がり、領域を飛び越えた彼女ならではの創作たる所以だ。大学院での卒業制作時、SNSでチームメンバーを募りコラボレーションにより生み出された作品は、MOMAに出展され注目を集めた。

 

『はみだす力』と性差を超えるアート


girls Artalk(
以下gA):著書『はみだす力』は、2013年MITメディアラボ助教就任前までのスプツニ子!さんの生き方とアーティストとして歩み出すまでの過程が赤裸々に語られていますね。「もっと突き抜けていいんだよ」というメッセージに勇気付けられました。

 

スプツニ子!(以下スプ子):うれしい!そんなに本に付箋がついてるのも初めて!

 

gA:神様にでもお願いしなければ叶わなそうなことが、テクノロジーで実現可能かもしれないことにも感動しました。たとえば体の違いを乗り越える『生理マシーン、タカシの場合』や『チンボーグ』は男性が女性の生理を体験できたり、女性が男性の体の一部を体感できるアート作品です。「男性の体に一度でもなれたなら少しは男心もわかるかな」なんて以前から思っていたのに、スプツニ子!さんはテクノロジーで既にそのような作品を作られていたなんて!

 

スプ子:わー、そんなに共感得られるなんて珍しいです!照れますね(笑)

 

 

gA:俳優としての私の実感なんですけど、形って結構そのキャラクターに影響するように思うんです。役を演じる時も歩き方ひとつでその人の背景が見えることがありますから。

 

スプ子:そうそう。宝塚の男役の方で男性の振る舞いを研究するために男性器のオブジェをズボンに入れて生活した人がいるという話を誰かから聞いたことがあります。身体から役に入るみたいな…。これ、完全な都市伝説かもしれないけど(笑)

 

https://youtu.be/gnb-rdGbm6s

『生理マシーン、タカシの場合。』

 

gA:テーマだけ聞くとグロテスクなものも、ポップな作風で楽しめちゃうのが大きな魅力ですね。

 

スプ子:そう言っていただけて、ありがたいです。

 

gA:ものづくりの分野では女性はまだマイノリティーですよね。

 

スプ子:そうかもしれないですね。

 

gA:著書を読んだときに、常に少数派でありながら、発想を実現させるため突き進んでいくエネルギッシュさが爽快でした。

 

スプツニ子!さんの生活スタイル

 

gA: スプツニ子!さんのプライベートな1日を円グラフに描いていただけますか?

 

スプ子:寝るのは0時頃。でもよく途中で起きて、ネットで変な情報を結構見ますね。本当はこの時間はちゃんと寝ていたいんですけど、ダメな習慣で起きちゃうんですよ。なので夜中に巨大トカゲとか赤ちゃんパンダをYouTubeで見たり、Google Mapストリートビューでどこか遠くの国の景色を眺めるとかしてます。MITメディアラボに勤めていた4年間は、日本とボストンを月に半々くらいのペースで行ったり来たりしていたので、結構時差ぼけで起きてました。起きてだらだら作業して…。あんまり健康的ではなかったですね(笑)

 

 

gA:最先端の情報から発想を膨らませ創作されていますが、情報収集に必ず見るサイトはなんですか?

 

スプ子: 結構ふつうですよ。スマートニュース、ニュースピックス、Wiredやクーリエとか。あと研究者の友達がいると彼らがどんどん面白い研究ニュースをFacebookにアップしているのでそれを見る事も多いです。「クリスパー・キャス9の遺伝子改変でこんなこと出来ちゃうんだって〜」とか。

あと最近、日本にいる時は、週1回くらいパン教室に通ってますね。無心になってこねるのが癒されるんです。オーブンに入れた後に待っている25分間に隣の女子大生と話したりするのも、良い情報収集ですね。

 

gA:結構な頻度ですね。周囲には気づかれないんですか?

 

スプ子: それがパン教室って、いい感じに私のことを知らないコミュニティなんですよ(笑)全然違うことをやりたいなと思って始めたんだけど、わたし普段PCを触りすぎちゃうし、パン作りの間はスマホも触れないから。それに作品を大勢の人に見せたり評価されたりするのって、ちょっと疲れることもあるんです。でもパンって自分や家族、友達しか食べないし絶対に褒めてくれる(笑)プライベートで気楽に創作できる感じが息抜きにちょうど良いんです。

 

gA: たしかに料理ってクリエイティブな時間ですよね!ボストンではどのように過ごしていらっしゃいましたか?

 

スプ子:ボストンだとパン教室はないので、学生のプロジェクトの講評をしたり、教授会に出たり。あとはジムに通って筋トレしたり。制作している時って、うまくいくかわからない不確定要素が多いんだけど、筋肉は努力を裏切らない。筋肉とパンは、心の拠り所ですね。あとは掃除機かけるのが好きです。

 

gA:私生活がどんどん明るみに!結構無心な時間がお好きですか?

 

スプ子:そうそう。掃除機のザーって音、マインドフルネスじゃないですか。掃除も裏切らないし。って、どれだけ裏切られてるんだって感じですけど(笑)

 

gA:やはりゼロから作品を作り出す、産みの苦しみがあるからでしょうか?

 

スプ子:そうですね。アートや研究は、模索していくものなので簡単にゴールが見えません。作品も努力した分だけ報われるとは限らないし、自分のキャリアも生き方も努力した分だけ報われるかは分からないから。決まったレールを進んでいないので間違った方向に進んでいるかもしれないし。そういう分、仕事していない時は、パン焼いたり筋トレしたりします。あと他の時間は、人と会うようにしたり、勉強したり、制作したり色々ですけど。

 

私が興味を抱くのは、まだ見えない世界、未来が出発点

 

gA:いつも扱うテクノロジーやテーマは違っていますが、チームもプロジェクト毎に違っていますか?

 

スプ子:はい。違いますね。

 

gA:どのようにチームを結成しますか?

 

スプ子:募集をかけるものと自分から探しに行くものがありますね。映像でエキストラ100人が必要な時はツイッターで募集をしました。今回の展示のテーマのように、肉を細胞から培養できる人をピンポイントで探す時もありますし。今回は、MITメディアラボで片野晃輔君という19歳の研究者に相談してShojinmeatという培養肉の研究をしているコミュニティを紹介してもらいました。

 

gA:すごい若い方ですね!

 

スプ子: そう、片野君って若いけどめちゃくちゃ優秀なんですよ! 私の制作プロセスは、まだ見えない未来の妄想を出発点にして、そこからどんどん形が決まっていくことが多いです。私、未来を愛してるので。未来マニアなんです。

 

 

バイオマテリアルを素材にしたファッションで未来はどう変わるのか?

 

gA:では未来マニアな観点から、今回の展示「バイオ技術から生まれるファッションの未来を想像する展覧会bionic by sputniko!」ではどのような未来を描いていますか?

 

スプ子: あるとき「一気に増える腫瘍や癌細胞を素材にして服を作ったらどうなるんだろう?どんどん増殖していくようなファッションを作れるんじゃないかな?」と妄想して、ちょうどそのときMITメディアラボにいた片野くんに聞いてみたら、日本にShojinmeat Projectという細胞を培養して食用肉を作っている人たちがいることを教えてもらいました。「培養肉」といわれる分野なのですが、その技術が広く浸透すれば、家畜の動物を殺さないでも肉を食べることが出来ます。そしていつか人類が火星に行っても、細胞を持って行って大きなタンクで培養すれば宇宙でも肉を食べられます。沢山の家畜を火星に連れていくより、そうする方がコストパフォーマンスが良いんですよ。それで、ファッションの世界でも、レザーやファーの使用が動物愛護的に問題になっているので、着るための素材も培養肉で作れないかっていう話になったんです。

 

gA:そんな研究があるんですね…。

 

スプ子:そうですね。そのあとShojinmeat Projectにコンタクトをとって色々な話を聞きました。最初は、私の細胞を採って培養して、数珠みたいなブレスレットを作って展示しようかなと思っていましたが、ヒトの細胞って培養するには結構時間がかかるので間に合わせることが出来なくて。あと私の皮膚を採ってくれるお医者さんがなかなか見つからないんですよ。当たり前ですけど、治療でないと皮膚を採ってくれないんですよね。「スプツ肉」って名前にしよう!とか色々考えましたけど(笑)

 

gA:おー。ぶっとんだアイディアですね。

 

スプ子:今回は出来ませんでしたね(笑)。培養肉をイメージした会期中に増殖していくインスタレーション作品や、ファッションデザイナーのショウコニシ氏とのコラボレーション作品などを展示しました。空間の映像スクリーンに映っているのは鶏肉の細胞を培養したときのものです。空間全体が培養スペースというか。

 

gA:シャーレというかんじ?

 

 

スプ子:そう。培養液ってホットピンクで、意外と可愛い色してるんですよね。培養液の中でドレスが培養され、会期終了する頃には細胞が溢れんばかりになっていきます。

 

gA:展示自体が増殖していく、変化していくって面白いですね。さて、あっという間にお時間が来てしまいました。ガールズアートークは20-30代の女性向けのアートwebマガジンですが、最後に読者にメッセージをいただけますか?

 

スプ子:アートに興味を持ってガールズアートークを読んでいる時点で、私は皆さんが好きです(笑)あと女性って、キャリアウーマン以外にも様々なロールモデルが存在したりして、迷うことが多かったりすると思うんです。でも多様性が求められるこれからの時代、これまで迷ってきたからこそ発揮される強さやしなやかさがあると思います。だからどんどん迷って良いと思うし、たまにはパン焼くのも楽しいですよ(笑)

 

(左前から時計回り) スプツニ子!さんとgirls Artalk江奈さやか・新井まる・川嶋一実

 

インタビューを終えて

 

オープンに快活にお話くださったスプツニ子!さん。「私は未来を愛している」という言葉に彼女の創作スタイルの本質が表れていた。

人は新しいテクノロジーに時に恐怖心や抵抗感を抱く。しかしアートは、感性に訴えかけるものだからこそ人々に想像を促し、理解や議論を深めていく。自由な発想で生み出された彼女の作品は、これが正しいという結論づけではなく実験的な試みだ。多種多様な人たちで新しい未来について語り合い、創造すること、それが彼女の狙いなのだ。私たちはその問いかけからどのような未来を思い描くのか。無数に広がるこの先の未来に思いを馳せれば、必然的に現在の本質が浮かび上がってくる。未来を考えることは、今を生きること。彼女同様ワクワクせずにはいられない。今後の活動はHP、ツイッターをチェック。

文:川嶋一実   / 写真:新井まる・丸山順一郎

 

 

 

【スプツニ子!プロフィール】


Photo by MAMI ARAI

 

現代アーティスト。英国インペリアル・カレッジ数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。在学中より、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた映像インスタレーション作品を制作。2017年に東京大学生産技術研究所RCAデザインラボ特任准教授に就任。2013年から2017年までマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボで助教を務めDesign Fiction研究室を主宰した。著書に『はみだす力』がある。

 

HP: http://sputniko.com

ツイッター: https://twitter.com/5putniko