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写真家A-CHANインタビュー NY10年の歩みとロバート・フランク、シュタイデルとの創作 【後編】

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2017年8月27日


写真家A-CHANインタビュー NY10年の歩みとロバート・フランク、シュタイデルとの創作 【後編】


 

写真家A-CHANインタビュー NY10年の歩みとロバート・フランク、シュタイデルとの創作 【後編】 〜アーティストのリアルを追う〜

 

 

 

NYに渡り自らの作家活動と共に、ロバート・フランクのプリンター・エディターとして活躍して10年の節目を迎える写真家A-CHAN(アーチャン)。前編のインタビューでは、彼女と現代写真の巨匠ロバート・フランク、そして「世界一美しい本を作る男」と称され、世界最高峰の出版社シュタイデル社を率いるゲルハルト・シュタイデルとのリアルな創作風景をお伝えした。

 

そんなA-CHANの写真との関わりは大学からだという。高校まではスポーツに熱中し、運動がもたらす「体が自由に動いてくれる感覚、瞬間が好きだった」が、体育会系の空気にやがて耐えられなくなり、大学進学の時に「ひとりで出来そうだし、簡単そう」と感じて写真の道へ。そうはいっても「なかなか自分のスタイルを確立するのは大変だった」という。大学在学中より、雑誌「H」で椎名林檎を撮るなど、コマーシャル写真と並行しながら、アーティストとしての作品作りを行い、渡米。
後編ではA-CHANの10年の軌跡を追う。

 

 

NYに渡る決意「アートだけで勝負したい」 

 

 

girls Artalk:大学在学中から、日本での活動は充実されていたように映りますが、それでも渡米したのはなぜでしょうか?

 

A-CHAN: NYに行ったのは、「アートをもっと掘り下げたい」という思いと、「NYの方が自分にないものがある」と思って。ドイツやロンドン、パリも候補でしたが、ヨーロッパの方が感覚が日本に近いという経験があって。NYは、クリエイティブであることは尊重されます。自由に色々なスタイルでみんな勝手にやっているので、創作活動はしやすいですね。

 

girls Artalk:たしかにNYは個人がエネルギーを振りまいて、好き勝手にやっている雰囲気があります。

 

A-CHAN:アーティストに限らず、皆、好きに生きていますよね。

 

 


A-CHAN(左) 川嶋一実(右) 

 

girls Artalk:NYでは、ものを作ることへのリスペクトが大きいので、創作はしやすい環境にあると思いますが、アーティストへの補助金などのサポートの違いなどもありますか?

 

A-CHAN:そうでもないですね。ドイツとかの方がサポートされると思います。NYは家賃も物価も高いので、金銭的な意味では厳しいと思います。

 

girls Artalk:今、ブルックリンに住んでいらっしゃるんですか?

 

A-CHAN:はい。

 

girls Artalk:じゃあロバートさんが住むブリーカーに通っているんですよね?

 

A-CHAN:ええ。週の半分くらい通って。

 

girls Artalk:年に1回くらい日本に来ていらっしゃるそうですが、東京に滞在されることが多いですか?

 

A-CHAN:茨城の実家に泊まりますが、なんだかんだ打ち合わせなどで東京出なきゃいけないので。

 

girls Artalk:「85歳くらいになったら奥多摩で過ごしたい」ということですが。

 

A-CHAN:やはり日本食がいいですよね。NYでもそうしています。手に入りやすいんですよ、日本のスーパーマーケットもあるので。

 

girls Artalk:そうは言ってもNYがいいのは、創作の環境ですか?

 

A-CHAN:そうですね。パリとか、ヨーロッパにも行ってみたいなという気はしますが、3ヶ月くらいでいいかな?という感じです。

 

 

 

NYの日常のささやかな美とドラマを捉えた『Off Beat』『Salt’n Vinegar』

 

 

girls Artalk:NYって日常的にドラマチックなことが起きるなって。もちろん東京でもいろんな巡り合わせはありますが、また、少し違う気がします。

 

A-CHAN:そう。違いますよね。

 

girls Artalk:そういうドラマがこの『Salt’n Vinegar』にはありますね。泣く子供に老人がぐっとハグするこの写真とか。顔は見えなくてもエネルギーが充満している感じ。これはどこですか?

 

 

A-CHAN 『Salt’n Vinegar』(Steidl刊,2016年)より

 

 

A-CHAN:多分ダウンタウンのウエストヴィレッジのあたりだったと思います。なんか泣いてたんで
すよね。子供だから構って欲しさで。道の真ん中で会ったので撮りました。

 

girls Artalk:NYの空気を思い出して、気持ちが沸き立ちます。何気ない日常を捉えたA-CHANの写真には、見ている人の記憶や経験とシンクロするようなところがありますね。NYでの冒険や出会った人、その光景が鮮明に蘇ります。なんだか「またNYを訪ねたい」と心がうずいてきました。

 

A-CHAN:そう言って頂けるのは、嬉しいです。

 

girls Artalk:Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代』という作品やローラ・イスラエル監督との巡り合わせもあって。ローラさんは素敵な方ですよね。フレンドリーで。

 

A-CHAN:そうですね。

 

girls Artalk:そういえば、ソール・ライターの展覧会の監修をされているポリーヌ・ヴェルマールさんもオープンな方で。展示でお会いして、話しも盛り上がり「NYで会おう」という話になりました。

 

A-CHAN:そうですか!家は結構近所です。

 

girls Artalk:NYの写真の世界も密接なんですね!

 

 

プリントして、編集して、を繰り返すしかない

 

 

girls Artalk:昨夜のポートフォリオレビュー(作品の講評)では、様々なレベルの方にあわせたスキルを磨くための助言が印象的でした。その中でお話しされていた写真撮影における「エクササイズ」とは、誰かから習うものではなく、自分の経験の中で磨いていくということですよね?

 

A-CHAN:そうですね。やっぱりそれで、形が見えてくるかと思います。

 

girls Artalk:撮って磨かれるものですか?

 

A-CHAN:そう思います。撮るしかない。撮って、プリントして、編集して、を繰り返すしかないですよね。作って人に見せて。もちろん人に見せなくてもいいですけど「自分が気に入るまでやる」っていう。

 

girls Artalk:写真集作りにおいて、シークエンスのつけ方(写真の順序をどのように並べていくか)もワークショップで見せて下さいました。実際、写真を差し替えていく工程で写真集の印象やストーリーはかなり変わりますか?

 

A-CHAN:だいぶ変わりますね。2点変えただけでも随分変わったりもするので。

 

girls Artalk:映画や文章の編集作業に通じる部分がありますね。「『LIGHTING STORE』はコンセプトも決まっていて、楽しくやれたけど他の作品作りは結構辛かった」というお話しは?

 

 

 

 


A-CHAN『LIGHTING STORE』(MATCH AND COMPANY.,LTD,2012年)より

 

A-CHAN:楽しくないんだけど、辛い感じでもなく、楽しくもないって感じ(笑)。

 

girls Artalk:ははは。

 

A-CHAN:作品をまとめると肩の荷が下りた気になるんです。またすぐしょい込んでしまいますが。

 

girls Artalk:そうですよね。写真を撮っている時と編集をする時、どこが一番きついですか?

 

A-CHAN:精神的に?肉体的に?

 

girls Artalk:肉体的にもあるんですか?

 

A-CHAN:暗室での作業は肉体的にきついですね。立ちっぱなしで結構肉体労働で。
モノクロの作業は、準備してプリントして水洗して…。簡単に5時間とられちゃうので疲れますよね。撮っている時は、結構楽しくやっていますが、精神的にきついのは編集作業で「これは出口がないんじゃないか」と陥ることはあるので。

 

 


▲A-CHANの暗室作業
DARKROOM 052417 movie by JOE TOMCHO

 

 

プライベートなもの、親密なものを撮っている

 

 

girls Artalk:「どういうものを撮ろう」と思って撮られていますか?感覚に任せているのでしょうか?

 

A-CHAN:そうですね。自分にしか見えないもの、プライベートなもの、親密なものを撮っていると思います。綺麗な空、とか風景とか…すぐに目を引くものではなく。花とかきれいだなと思いますが、撮ってもなかなか使えないんですよね。
今回、ポラロイドで春とか秋の1年間の空を撮っていますが、なぜそれが出来たかというとポラロイドを使って無理やりネガを作ってプリントしているので、出てくるカラーがメチャクチャなんですよ。そうするとすごく個人的になってくる。それでやっと自然が撮れた、という感じですね。個人的なつながりが欲しくなるんです。
これが最近NYでやった展示なんですけど。色が、パターンが入ったりクレイジーで実験的な感じです。

 

 


©A-CHAN 

 

 

girls Artalk:次のNYでの展示の予定は?

 

A-CHAN:4月に終わって。次は秋以降かな。

 

girls Artalk:私、きっと行きます。あゆみさんの作品も見たいし、お聞きしたいし。

 

A-CHAN:ぜひ。連絡させてもらいますね。

 

 

写真の楽しみ方

 

 

girls Artalk:今日はA-CHANの創作や生き方についてたくさんお聞きできました。インタビューも終盤ですが、ここで、読者に向けて、メッセージをいただけますか?

 

A-CHAN:私の作品に興味を持って頂けたら嬉しいです。

 

girls Artalk:A-CHANのサイトで作品や最新情報もチェックして頂きたいですね。さて、ローラさんにもお聞きした質問ですが、ロバートさんと過ごす中で受けた影響は?

 

A-CHAN:写真に関していうと、「ストレートで強くあること」。本当に大切なことは「自分を信じること」。そういうシンプルなことって実際は難しいんですよね。自分がいいことを信じるのって。

 

girls Artalk:そうですよね。実際、創作していく中で、すごく実感するところです。作品作りにおいて、いろいろ決断していくときには特に。

 

A-CHAN:そう。ひとみさんも演劇やっていると本当に心が強くなければいけないでしょ。いやなことも多いから(笑)。

 

girls Artalk:ははは。やはり創作には、どのジャンルも困難がつきものなんですね(笑)。
では、A-CHANにとって「写真を撮る」ということはどのようなことですか?

 

A-CHAN:日常。生活の一部。

 

girls Artalk:写真がなかったら死にますか?

 

A-CHAN:死なないと思います(笑)。 日常ですね。息する、食べるより下なこと。そんなに特別なことではないかな。

 

girls Artalk:写真家のドキュメンタリーが最近多いですよね。ヴィヴィアン・マイヤーもそう。ロバート・フランク、ソール・ライターと写真家の展覧会も盛況ですし。写真への関心がより高まりそうですが、写真初心者にとって、どのような楽しみ方がありますか?

 

A-CHAN:「どの写真を部屋に飾ったら楽しいか」と、実際に考えてみる。
そういうのもあって、今回『暑い日』はポストカード写真集にしました。写真集でも展示でもなくて、その間ぐらいの感じ。でも実用性もあって。写真を違うアングルから見られるでしょ。「自分の家のいい部屋になんの写真を飾りたいかな」と考えるだけで、私はワクワクします。

 

 

インタビューを終えて

 

 

陽の光が気持ちいいですね、とリラックスしてインタビューに応じてくれたA-CHAN。
東京に戻り、陽射しが差し込むテラスで『Off Beat』と『Salt’n Vinegar』をめくっていたある日、作家自身のストーリーがするりと体に入ってきた。
『Off Beat』には、渡米して間もない異邦人の、見るものすべてが新鮮で好奇心いっぱいのまなざしを。『Salt’n Vinegar』には、どっしり重い日々だからこそ、景色の透明感やきらめきを敏感に捉えられる、そんな心情を。写真も、よりシンプルで強い。今まで見えて来なかったものが目にとまり、NYの風の音が聞こえてくるようだった。そして作者との間に生まれた接点にハッと驚く。写真家が切り取る、あの美しいささやかな瞬間はきっと誰の日常にも存在している。違いは、それを見出せる目や心の余裕をもてるかどうか。日々の生活に向ける視線がやさしく丁寧になる。
ポートフォリオレビューで、A-CHANは各作品の表紙に何度も手を滑らせ、質感、肌触り、重さを感じ取っていた。作品作りの工程すべてにクリエイティビティが宿り、見るのも聞くのも楽しいひと時を経験した。
それからというもの、私も写真集を眺めては、その手触り、インクの匂いと紙の厚さ、重さを感じとってみる。どこかで見かけたような光景の写真に自らの過去と重ね合わせ、作品の味わいは一層深まるばかりだ。そして徐々に感覚が開かれ、失われていた身体性を取り戻す心豊かな時間を、A-CHANの写真はじわりともたらしてくれる。

 

インタビュー・テキスト / 川嶋一実

 

 

【A-CHAN個展情報】

ギャラリーソラリス企画展 A-CHAN 展「Salt’n Vinegar」
会期:2017年8月15日(火)〜8月27日(日)
※8月21日(月)休廊
会場:ギャラリーソラリス(大阪市中央区南船場3-2-6 大阪農林会館B1F)
時間:11:00〜19:00
URL:http://solaris-g.com/portfolio_page/170815/
協力:MUNO|RAINROOTS

 

 

【A-CHAN関連イベント情報】

「暑い日」A-CHAN写真と音楽のSlide show with スティーブジャクソン
日時:2017年9月9日(土) 開演12:30/終演予定15:00
会場:K.Dハポン(名古屋市中区千代田5丁目12-7)
URL:https://kdjapon.jimdo.com/

 

 

【A-CHAN×RAINROOTS『暑い日』web連載】

URL:http://rainroots.tumblr.com/tagged/ATSUIHI

 

 

【アーティスト情報】

photo by Jim Goldberg 

 

 

日本で生まれ育つ。佐内正史のアシスタントを経て、1998年、雑誌やCDジャケットなどコマーシャルの仕事と並行し、自身の制作活動を始める。以後、東京、ニューヨークのギャラリーで作品を発表する。2006年、ニューヨークに移住。同年から現在まで、Robert Frankのアシスタント兼プリンター、エディターとして “Tal Uf Tal Ab” (2010)、 “Pangnirtung” (2011) 、“You Would” (2012) 、“What you have seen” (2016) などに携わる。
A-CHANサイト:http://www.a-chang.com

 

 

▼girls Artalk関連記事
NYで活躍する写真家A-CHANの写真展が名古屋の2会場で同時開催中(『Salt’n Vinegar』過去の開催記事)
写真家ロバート・フランク ドキュメンタリー映画公開!ローラ・イスラエル監督インタビュー

 

 



Writer

川嶋 一実

川嶋 一実 - Hitomi Kawashima -

週末女優 -製薬会社OL×女優-

 

聖心女子大学卒。国内外で舞台・映画出演の他、聖心女子大学哲学科芸術学の授業で特別講師として招かれるなど活動の幅は多岐に渡る。

〈 人生に転機を 〉と2011年ひとりニューヨークに飛び込み、翌年アメリカで舞台「HITOMI」に主演。
2016年プロデュースユニット“週末女優”を始動させ、女の二人芝居『たまことゆかり』(作:五戸真理枝/文学座)を春・秋と連続上演。2017年ドイツの報道番組に密着取材を受け、独自のライフスタイルが紹介された。

学芸員資格保有。映画・演劇・音楽をメインにインタビュー記事や作品紹介を通じて、アートのワクワクをお届けします!

 

★twitter:https://twitter.com/ogawa_hitomi

★blog:http://ameblo.jp/hitomi-my-style/

★HP:https://shumatsu-jyoyu.tumblr.com/profile






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