ハワイの海と空、1000年後の未来を描く
山崎美弥子さんインタビュー
自然豊かなハワイ・モロカイ島で「1000年後の未来」の風景として海と空を描き続けている、画家の山崎美弥子さん。淡いツートーンカラーの絵画は、ずっと見ていても飽きがこないし、何故か癒やされる不思議なパワーを持っています。
そんな山崎さんの個展が15年ぶりに東京で開催されるということで、お話を伺いました。
girls Artalk編集部:
山崎さんは2003年にご家族でハワイに移住されたんですよね。東京のご出身で、現在は人口7,000人のモロカイ島。かなりのギャップだと想像しますが、移住のきっかけは何だったんですか?
山崎美弥子さん:
移住は単独でした。夫に出逢い船上生活を経てこの島に移住することになった、人生の転機が訪れる数年前から、わたし自身の「美しいと感じる色」が変わってきたのです。それまで好きだった色に興味が無くなり、違う色たちにこころ惹かれるようになりました。理由などわかりません。でも、まるでわたしは実体のない何かを手探りで求めているかのような感覚に陥ったのです。それはまるで強い焦燥感にも似ていました。そうして、遂にわたしはこの島に降り立ち、探していたものを見つけました。
この島には有名なコーヒーチェーンやバーガーショップはもちろん、椰子の木よりも背の高い建物や、たったひとつの信号機さえありません。それを知ればおそらくきっとみなさんも東京とモロカイ島の違いがわかるでしょう。
東京という大都市に生まれ育ち、長い間「システム」に疑問を抱いていたわたしにとって、この島への移住は大きなギャップがあっても、それはとてもここちよく、不便を感じることもありませんでした。それはむしろ、魂の故郷を見つけたかのような素敵な出来事でした。そうです。わたしがとりつかれたかのように探していたのは、まさに「そんな出来事」だったのです。
girls Artalk編集部:
モロカイ島ではどんな日々をお過ごしなのでしょうか?
山崎美弥子さん:
山から昇って来る眩しい朝日に照らされながら、馬たちやアヒルたちに餌を与えます。ジンジャーやパパイヤ、バナナの若い木たちにたっぷりと水を蒔いてから、二人の娘たちを学校へ送ります。そのあとはオーガニックの豆を挽いてコーヒーを入れます。ココナツミルクをたすことを忘れずに。そうしてマグカップを片手に、カンバスに向かいます。日が高くなると仕事の合間に夫とランチをとり、午後には娘たちのフラのレッスンの送り迎えをします。日が暮れかかると夕食の支度。夫と毎日交代で作っています。必ず家族4人で揃うのがわたしたちのルール。ラナイ(バルコニー)のテーブルにご馳走を並べたら、いただきますの前に、みんなで手を繋いでこの世界を創ってくれた神様にお祈りを。刻々と移り変わる海と空の色たちに見つめられながら。
◇不思議な体験が、創作の原点に
girls Artalk編集部:
1000年後の未来の風景として、海と空を描き続けているのはなぜですか。
山崎美弥子さん:
わたしは少女の頃に、とても神秘的な体験をしたことがあるのです。円盤に拐われたとか、そういうことではないのですが、非日常的で特別な体験でした。「完全に無条件に受容される」という、でも、意識の中だけの体験。そうです。「無限の愛」の体験だったのです…。
ちょっと話が変わりますが、とある20世紀の巨匠は子供の頃、自身も画家であった父親から海の前に座らさせられ、スケッチブックと一本の鉛筆とという、そのシンプルな材料のみで「水平線を描きなさい。」と言われたといいます。毎日。言うなればそれが彼にとって、絵描きとしてのジャーニーのエピローグだったたわけですね。「水平線」と言いますけれども、本当にそこに「線」はあるのでしょうか? わたしと夫のレビーは太平洋で船上生活をしていた頃、沖に漕ぎ出し、島から島へと渡りました。波と波とを超えて。来る日も来る日も。そこに本当に「線」にあるのならこの手で掴めるはず。でも、わたしたちがどんなに彼方まで漕ぎ出しても、その「線」を掴むことは一回たりともできませんでした。海と空の境界線…。もしかするとわたしたちは、実際に在るのか無いのかわからないものを、「在る」と思い込んでしまっていることが、たくさんあるのかもしれません。あなたが在ると信じているその「線」は本当にそこに在るのでしょうか…?
…またある時、わたしは不思議な賢者に出会い、こう言われました。「…あなたは目には見えない世界を描く力を授かった人。1000年後の未来、それは、我々が想像し得る理想のそのまた理想の未来。それは、現実不可能かもしれないほどの。その未来から1000年遡った過去の時点としての現在を生きること。すべてのこどもたちのために。その1000年後の風景を描いて人々に見せること。それがあなたの使命です。」と。
…もしかしたらわたしが少女の頃にあった、あの神秘の体験は、1000年後の未来へのタイムトリップだったのかもしれません。海と空の境界線が横たわる風景が、カンバスの四角い窓の向こうに広がる。それは1000年後の風景。しいてはわたしが見つめている、あらゆる境界線や条件と、時をも超えた世界の風景なのです。
girls Artalk編集部:
お休みの日は何をして過ごしていますか? 趣味や最近好きなことなどあれば教えてください。
山崎美弥子さん:
休日は、馬に乗る娘たちの隣を夫と一緒に歩いたり、家族でビーチへ行ったり、ピクニックディナーをして楽しんでいます。もちろん愛犬のピーナツも一緒に!
趣味? 自分の人生を生きることがわたしの趣味です。
girls Artalk編集部:
今回15年ぶりの個展ですが、お気に入りの作品はありますか?
山崎美弥子さん:
全部です。お気に入りでないものはお見せ致しません。笑。
思い…。神様からの手紙を紐解く瞬間です。
girls Artalk編集部:
それでは、最後にgirls Artalk読者へメッセージをお願いします!
山崎美弥子さん:
心惹かれること、大好きなことをどんどん見つけて、自分の毎日をそれでいっぱいにしてください。他の誰とも比べなくてもいいから。そうすれば、そのうちあなた自身の人生そのものがアートになっていくことでしょう。それ以上に楽しく幸福なことは無いと思っています。わたしのようにね…!(ウインク)
ハワイ海と空からパワーをもらえる山崎美弥子さんの展示は、明日9/2から。お見逃しなく!
写真提供 : 山崎美弥子
文 : 新井まる
【プロフィール】
山崎美弥子(Miyako Yamazaki)
1969年東京生まれ。多摩美術大学絵画科卒。床を花で敷き詰めるアートプロジェクト「Splendor」他、平面作品、映像、インスタレーションを国内外のギャラリーや美術館で発表。2003年に東京オペラシティアートギャラリーで発表した、巨大な青いケーキを観客と共に創るプロジェクト「海と空の結婚式」の当日は、台風の悪天候にも関わらず、その夏の同美術館の最多入場者数を記録した。その後、2004年より太平洋で船上生活を始め、現在は人口7000人の島で、心理学者の夫と二人の娘、二頭の馬と暮らしながら、主に絵画作品を制作する。ハワイ・モロカイ島在住。Instagram @miyakoyamazaki
主な展覧会は、「Love Speaks」P-HOUSE(1999)、「Love’n pieces」ワタリウム美術館/オンザサンデーズ(1999)、「海と空の結婚式」HIROMI YOSHII(2001)、「GIRL! GIRL! GIRL!」東京オペラシティアートギャラリー(2003)、「Cafe in Mito 2004」水戸芸術館(2004)
主な出版物は、「Love Speaks」光琳社出版刊(1999)、「Heavenly Brights」ニュースベース刊(2001)、「モロカイ島の贈り物」産業編集出版刊(2006)
山崎美弥子さんの絵に会いに行こう!
【展覧会情報】
【展覧会タイトル】山崎美弥子展 My one thousand years ~海と空の絵~
【期間】2017 年 9 月 2 日(土) – 9 月 24 日(日) ※月曜休
【営業時間】11:00 – 20:00
【場所】SISON GALLERy http://sison.tokyo
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町 3-18 TEL 03-6886-8048