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【後編】坂本美雨with CANTUSインタビュー 〜これまでの音楽の歩みを辿る〜

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2016年6月28日


【後編】坂本美雨with CANTUSインタビュー 〜これまでの音楽の歩みを辿る〜


【後編】坂本美雨with CANTUSインタビュー 
    これまでの音楽の歩みを辿る

 

前編では、坂本美雨 with CANTUS(カントゥス)として6月22日に発売されたミニアルバム『Sing with me』の制作

エピソードについてお話しを伺った。

後編では、坂本美雨さんとCANTUS太田美帆さんにそれぞれスポットを当ててお話を伺う。

特に、坂本美雨さんにとって出産が表現活動における新たな転機となった今、改めて音楽活動のルーツや表現方法、

彼女のこれまでの音楽人生の変遷を辿る。生後10カ月の赤ちゃんを抱きかかえながら深く語っていただいた。

 

 

girls Artalk:

CANTUSの皆さんは坂本さんとご一緒する前はどのような活動をされていたのでしょうか?

 

太田美帆さん(CANTUS)

私たちは聖歌隊CANTUSという形なんですけど少し動きが変わっていて、七尾旅人さんとヒューマンビートボクサーの

櫻井響さんとで、「VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE! VOICE!VOICE!」という声だけのバンドを組んでボイス

パーカッションをやったり、FISHMANSのコーラスやその他演劇の方と組んだり、他ジャンルの方との活動も多く行

っています。

というのも、聖歌隊と言っても私たちは信者ではないので。東京少女少年合唱隊という児童合唱団にいたメンバーのOG

から構成されています。子供の頃から宗教音楽に慣れ親しみルーツではありますが、それだけではなく、ハーモニーと

いうものを使って様々なジャンルの方と遊ぶのが専ら好きなんです。コラボレーションのお話頂いて面白いと思うと

「やります!」って飛びついちゃいます(笑)

 

girls Artalk:

坂本美雨さんはお母さんになってから音楽の考え方にも影響があったことと思いますが、今後の活動はどのように

なっていきそうですか?

 

坂本美雨さん

まずは娘が楽しんでくれるような、ということが中心にあります。最初に子供からの反応がリアルに来るので。

美帆ちゃんが先ほどおっしゃっていたように、たとえば歌い上げるとか「私ってこうなの」というようないわゆる表現

活動としての歌は、きっと今まで坂本美雨の歌い方として無意識に作り上げたものがあったと思うんですけど、そうい

うものがこの子には全く通用しない。

この子にはそんなことはどうでもいいわけで。うまく歌っても感動してくれるわけではなくて、「とにかく楽しい気分

にさせてくれ」みたいな。

 

girls Artalk:

お子さんにはどんな歌を歌うんですか?

 

坂本美雨さん

「おにのパンツ」が大好きです。(歌いながら)♩おにのパンツはいいパンツ 強いぞ〜

(途端に笑顔ではしゃぎだす赤ちゃん)

 

girls Artalk:

わー、かわいいー!本当にこんなに表情が変わるんですね!!

 

坂本美雨さん

こういう歌が本物といったら言い過ぎなのかもしれないけど、「伝わる」。今までミュージシャンとして伝わる音楽は

何か考えてきたつもりなのですが、実際に人に伝わっているのはこういう場面だったりして。笑顔にしたい一心で歌う

というか。子供の誕生から新しい価値観を完全に埋め込まれ、覆されましたね。

 

girls Artalk:

これがひとつの転換期であるとすると、ご自身の音楽人生を振り返った時に、このようにある種の節目を迎えた時

期は他にもありますか?

 

坂本美雨さん

そうですね。『PHANTOM girl』というアルバムを作った時が最初の転換期ですね。

その少し前に「ちょっともう音楽はやれないかな」と落ち込んでいて。

 

girls Artalk:

何歳の時ですか?

 

坂本美雨さん

29歳の時です。自分のことを全然知らないエレクトロなプロデューサーとやってみようとiTunesで知ったShanghai

Restoration Project のデイブ・リアンに連絡をとってみたら、偶然当時住んでいたニューヨークで近かったので会い

に行って一緒にアルバムを作ることになりました。

それまではエレクトロはやったことはなかったので、自分のテクノのルーツも振り返ってみたかったんです。

彼とはその後3部作作りました。その時は音楽性に沿って歌い方も変わっていたし「より明るいものをあえて作り

たい、自分の心情よりも人を励ましたり誰かに歌う、世の中に明るいものを残す」ということを意識した明るい

アルバムとなりました。

 

girls Artalk:

転換期を迎えるきっかけともなった「もう音楽をやれないかもしれない」という葛藤は実際どのようなものだった

のでしょうか?

 

坂本美雨さん

忘れちゃったなー。落ち込んだ時のことって忘れちゃいますよね(笑)

 

girls Artalk:

ではその時の重さだけが記憶として残っている感じですか?

 

坂本美雨さん

うーん。自分の音楽が世の中になんの役にも立ってないなと当時思っていたんです。自分が思っていることを音楽で

吐露したところで、何になるんだろうという葛藤があって。「だったらスタバであったかいラテの一杯でも作った方

が直接的に人の役に立てるんじゃないかな。本当に転職でもしたほうがいいんじゃないかな」って思っていました。

 

girls Artalk:

えー!

 

坂本美雨さん

だから誰かの役に立てる音楽を作ってみたいなと思って。それまで音楽に元気を求めたことがなかったの。

そういうものよりは自分に寄り添ってくれるものや、逃げ込めるものを音楽に求めていたから。でも大人はやっぱり

人任せにしないで自分で気持ちを変えていく。そして人の気持ちを持ち上げられることができるのが大人だと思うの

で、それを音楽でやりたい、ポジティブな表現というものを自分で初めてやろうって決めたんですよね。

 

girls Artalk:

自立の瞬間でもありますね。

 

坂本美雨さん

はい。おいしいラテの一杯に匹敵するような歌を歌いたかった。

 

太田美帆さん(CANTUS)

なんか美雨さんて、音楽でも生活全般においてもそうなんですけど「私はいいからみんな楽しんで」っていう考えが

あるんですよ。みんなに何か残せないかなって考えてる。

 

坂本美雨さん

そうかな(笑)

 

太田美帆さん(CANTUS)

「ラテの一杯」っていう考え方もその象徴で、「私をツールだとしたらどうしたらみんなに喜んでもらえる?」とか

「安心させられる?」「その人たちの気持ちにどう寄り添える?」とか。

生活の一貫を通してもそうだし音楽を通しても全部きっとそうなんですよ。

『Sing with me』というタイトルを考える時も、美雨さんの根底にそういう気持ちを感じて、「それってすごくいい

ことだな」って思って。私たちに関して言えばコーラスだから私たちがいなくてもそれこそなんとでもなるし、実際。

なんですけど、いてなんらかの気持ちの隙間が埋まるお役に立てたらって思っています。

 

自身が辿ってきた音楽のルーツ…その片鱗に触れる。

 

girls Artalk:

坂本さんの音楽のルーツはご両親の影響がやはり大きいんですか?

 

坂本美雨さん

そうですね。大きいですね。

 

girls Artalk:

小さい時はどんな音楽を聴いていましたか?

 

坂本美雨さん

YMOも聴いてたし。あとは小田和正さん、オフコース、大貫妙子さんはよく聴いてたかな。

 

girls Artalk:

お子さんが誕生して受け継ぐものとか受け継がれるものって意識されたことはありますか?

 

坂本美雨さん

そうですね・・。その頃聴いていた曲で例えば大貫妙子さんの「メトロポリタンミュージアム」とか、そういう

のを今も振り返ったりもしますね。

 

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左から坂本美雨さん・太田美帆さん(CANTUS)

 

子育てと音楽の両立…知られざるリアルな日常に迫る。

 

girls Artalk:

私も好きです!みんなの歌で流れていましたよね。

ところで美雨さんはどのような1日を普段送っていらっしゃいますか?

 

坂本美雨さん

子供に起こされしぶしぶ起きて。7時がベースだけど5時半だったりまちまちです。離乳食作って、自分の朝食作って、

夫を起こし、離乳食を食べさせてもらっている間にシャワー入ったりして。で夫を送り出した後、自分の仕事の用意

と彼女の用意をして、仕事にいって。仕事にいったらあっという間に1日が終わり、買い物して帰りに彼女の機嫌次第

でごはん作ったり、ダラダラ過ごすかお風呂いれて寝付かせて、それまでに夫が帰って来ればお風呂にいれてもらう

か、ごはん作って夫と食べて。

 

girls Artalk:

ということはお嬢さん中心の生活というわけでもなく、うまく子育てと仕事を両立されているんですね。

 

坂本美雨さん

まあ仕事場に全部連れて行っているので。仕事がない日はお昼寝の時間とったり、仕事の時もなるべくリズムを崩さ

ないように、だっこしながらお昼寝してもらったりしています。

 

girls Artalk:

子育ては大変ですか?

 

坂本美雨さん

すっごく楽しい!そんなに思ったほどハードでない気がします。もっと面倒臭いかと思っていたけど。

未知だったから、この楽しさを想像できてませんでした。大変は大変だけど、ただお世話するだけじゃないから。

こうやって面白い反応もあるし、大変な中にこんないろんな種類の楽しさがあるなんて聞いてなかった(笑)

いい意味で予想外。子育ての大変なことばかりを耳にして、そういう類の本は沢山あるけど、純粋に子育てが楽し

い!って世の中いってくれたりあまりしないですよね。

 

girls Artalk:

確かに最近は特にそうかもしれないですよね。お子さんとの生活の中で豊かさみたいなものを日々実感していらっ

しゃるんですね?

 

坂本美雨さん

楽しいとはいえ煮詰まるときはあるし、面倒臭いこともあるしそういうときに、自分自身も歌に助けられています。

彼女も機嫌直してくれたり、歌に助けられてる部分ってあるから「本当にもっとみんななんでもないことでも日常

的に歌っちゃえばいいのに」って思います。

 

girls Artalk:

即興で歌われたりするんですか?

 

坂本美雨さん

そうですね。なんか「うんちもれた歌」とか(笑)

 

girls Artalk:

あはは(笑)

 

多様に変化していく歌声…その秘密とは?

 

girls Artalk:

坂本さんはアルバムの度、声質も違ったり色々な歌い方をされ幅が広いですよね。

その振れ幅の広さはどのように培われているのでしょうか?

 

坂本美雨さん

基本のボイストレーニングや歌の体づくりみたいなものがあるんだと思うんですけど。

一番基本の歌い方で習っているのはベルカント唱法というオペラの基礎で呼吸法として使っています。

ただ実際に歌うときにそれをやるかと言われれば違うけど、それがベースにあることで何でもできちゃうんじゃな

いかなって思っています。きっとそのベースって歌舞伎とか色々な芸術において共通するものがあると思うんです

よ。

 

太田美帆さん(CANTUS)

ベルカントは「型」なんですよ。

美雨さんは色々なことに興味があり、たくさんのことを知ってるし、それを自由に声として表現できる方なんだと

思うんです。それって「型」があるからこそ。「型」がないと色々なことを知っていても声にはのせられないんです

よ。基礎がそういうふうにあっていろんな興味・好きなこと・趣味嗜好を歌にできるからいろんな色が揃っている

んだと思います。

 

girls Artalk:

そのボイストレーニングはいつから始められたのでしょうか?

 

坂本美雨さん

24歳から。12年前からですね。産後はレッスン自体にそんなに行けてないけど、もう歌う時でない時も普段の呼吸

からそうなっています。

 

girls Artalk:

身につくのにどのくらいかかりましたか?

 

坂本美雨さん

5年くらい。週一のレッスンでものすごく真面目にやったら、もっと早く身につくかもしれないけど。

体が当たり前にやれないと。

 

太田美帆さん(CANTUS)

ベルカントって音大行く人なら必ずやっているんです。スタートは人それぞれ、小学校からやる人もいれば高3

からいきなりやる人もいる。1日3時間費やせるのであれば1年でも身につくものでもあります。

 

坂本美雨さん

最初不真面目だったから全然身につかなくて。歌う時はそういう意識にするけど自然と体がそうなるまではもう

全然。自分の葛藤もありつつ『PHANTOM girl』を作ったときの転換期に歌に対する姿勢も変わりました。

それと共に体もついてきたと思います。その頃にそれまでやってきたことの大事さに自分でも気がついて。

でやっと体も筋肉も付いてきてそれが20代最後で。歌い始めてから10年くらいたってやっと歌える体になった

なって。その時期からライブも楽しくなっていきました。

 

girls Artalk:

何かが一気に開いていった感覚があったんですね。

 

坂本美雨さん

そうですね。

 

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最後に…

 

girls Artalk:

girls Artalkの読者に向けてこのアルバムの楽しみ方などメッセージをお願いします。

 

坂本美雨さん

お子さんがいらっしゃる方はお子さんと聴いて欲しいし、もちろん疲れた時にお母さんのリセットのために静かに聴いて

いただくのも嬉しいです。お子さんいらっしゃる方もいらっしゃらない方も日常的に歌う事、なんでもない歌でも声を出

して歌うことは気持ちが豊かになることだしそういう風に聴いていただけたらと思います。

 

取材後記

「The Other Side Of Love」で父・坂本龍一プロデュースのもとSister M名義でデビューを果たし、透明感溢れる歌

声、多岐にわたる表現活動からこれまでどこかミステリアスな印象のあった坂本美雨さん。そのベールをひとつひ

とつはがしていきたい思いでお話しを伺った。

足取りをたどると偉大なミュージシャンである両親から多大な影響を受けながらも、音楽人生の中で直面した苦悩

から逃げることなく、自ら新しい巡りあわせを求め模索し独自の道を見出していくその姿は人間味に溢れ共感と勇

気を頂いた。

インタビュー中、坂本さんがごく自然に「鬼のパンツ」を口ずさんだ。

すると生後10ヶ月のお子さんが笑顔いっぱいにはしゃぎだし、その表情に一同思わず声をあげ心が和んだ。

人が理屈ではなく心と感覚で選び取るもの、伝わるものに普遍的な価値を見出し、その源となる日々の生活を慈しん

でいる様が美しかった。

改めて坂本さんのこれまでのアルバムからCANTUSとの新作『Sing with me』まで聴き直すと、ひとりの女性が様々

な出会いを通してしなやかに進化を遂げる姿が浮かび上がり清々しい気持ちとなった。澄み切った世界観の中で歌う

楽しさやささやかな喜びに溢れた『Sing with me』をぜひお聞きいただきたい。

 

文/小川仁美 写真/洲本マサミ

 

【アルバム情報】

ミニアルバム『Sing with me』/坂本美雨 with CANTUS
2016年6月22日(水)発売

<収録曲>
01. 星めぐりの歌
02. ノスタルジア
03. When You Wish Upon A Star ~星に願いを~
04. pie jesu(ピエ・イェズ)

■Amazon ページ
http://www.amazon.co.jp/dp/B01E3A4HAG/
■商品紹介ページ:
http://www.yamahamusic.co.jp/artist/detail.php?product_id=849&artist_id=57

 

【リリースイベント情報】

日時:2016年7月3日(日)12:00
場所:東京・タワーレコード 新宿店 7F 特設イベントスペース
イベント内容:ミニライブ+特典会
イベント参加券配布対象店舗: タワーレコード 新宿店 / タワーレコード 渋谷店
問い合わせ先:タワーレコード 新宿店(03-5360-7811)
*ミニライブの観覧は無料。
<イベント特典>
・直筆サイン色紙お渡し会
<対象商品>
ミニアルバム『Sing with me』

※参加方法・他イベント情報詳細は特設ページへ

 

◆『Sing with me』 特設ページ:http://www.yamahamusic.co.jp/sing-with-me/

◆  坂本美雨オフィシャルサイト:http://www.miuskmt.com

◆  CANTUSオフィシャルサイト:http://otamihoandcantus.client.jp

 

 

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Writer

川嶋 一実

川嶋 一実 - Hitomi Kawashima -

週末女優 -製薬会社OL×女優-

 

聖心女子大学卒。国内外で舞台・映画出演の他、聖心女子大学哲学科芸術学の授業で特別講師として招かれるなど活動の幅は多岐に渡る。

〈 人生に転機を 〉と2011年ひとりニューヨークに飛び込み、翌年アメリカで舞台「HITOMI」に主演。
2016年プロデュースユニット“週末女優”を始動させ、女の二人芝居『たまことゆかり』(作:五戸真理枝/文学座)を春・秋と連続上演。2017年ドイツの報道番組に密着取材を受け、独自のライフスタイルが紹介された。

学芸員資格保有。映画・演劇・音楽をメインにインタビュー記事や作品紹介を通じて、アートのワクワクをお届けします!

 

★twitter:https://twitter.com/ogawa_hitomi

★blog:http://ameblo.jp/hitomi-my-style/

★HP:https://shumatsu-jyoyu.tumblr.com/profile






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