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『俳優 亀岡拓次』大ヒット記念 映画監督 横浜聡子ロングインタビュー【後編】

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2016年3月2日


『俳優 亀岡拓次』大ヒット記念 映画監督 横浜聡子ロングインタビュー【後編】


現在、全国で大ヒット公開中である横浜聡子監督7年ぶりの長編映画『俳優 亀岡拓次』。

全国での映画館の公開が続々と拡大している。

これまでオリジナル台本から監督をしてきた彼女が、今回初めて戌井昭人の小説をもとにした原作ものに挑む。

過去に手掛けた2作品の主人公のような奇抜さと常軌を逸した行動が際立つことはない本作。

けれども脇役俳優亀岡の撮影現場の足取りを辿ると、現実と非現実が交錯して、イマジネーション豊かな世界に

降り立つことができる。自由な発想や独創性はどこから沸き起こり、横浜聡子に流れる強固なものは何なのか。

前編では横浜聡子さんの映画人生を振返りながら素顔に迫った。

そして、後編では『俳優 亀岡拓次』の映画作品に触れいく。

 

 

 

girls Artalk(以下gA):

過去に手掛けた2作品もそうですが…本作も夢と現実がいったりきたりで境界線がない感じですね。

同じ映画のシーンを安田顕さんがやくざと番頭役それぞれに入れ替わって演じられていてどちらが夢で

現実か考える楽しさがありました。

 

横浜さん:
そうですね。夢と現実の境界線を曖昧にしています。

 

gA:
リアルに流れていた時間の中に、CGで急に嘘が入り込んできて印象的でした。

テアトル新宿で鑑賞された皆さんはどっと笑ってましたよ。

 

横浜さん:

よかったです!しーんとなったら困りますから(笑)

 

gA:
そうですね(笑)場内のお客さんの笑いがさらに笑いを誘って、映画館で見る楽しさを満喫した瞬間でした。

思ってもみなかった反応はありますか?

 

横浜さん:

公開前は「作品に対してわかりづらさがあるのでは?」とプロデューサーも心配していました・・・。

現実と夢のシーンと入れ替わるところもわかりづらさのひとつなんですが、ツイッターで観客の感想を見て

いると、それを気にしている感じがなくて意外でした。単純に亀岡の人生の一部を面白がってくれていることが

嬉しかったです。『ウルトラミラクルラブストーリー』まで、自分の映画は「わからない」って言われ続けて

きたので。今回それがあまりない気がします。

 

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gA:
「ジャーマン+雨」もそうでしたか?

 

横浜さん:

「わからない」って言う声はありましたよ。

何がわからないかわからないですけど。まあわからないですよね。

ストーリーはあるけど、主人公と映画がどこに向かうかやっぱりわからないというか。

 

gA:
ストーリーがどこに行き着くかわからないスリリングさがありますもんね。

でも、どれも登場人物が悲観していない感じがあります。亀岡も淡々と生きてる。

 

横浜さん:

そうですね。人生悲観してもしょうがないというか、笑っていた方がいいと思うので。

どんなに大変だろうが。それは今後の作る映画もそうだとは思います。

やりたい企画は色々ありますが、亀岡の続編はやってみたいです!

 

gA:
今までの作品は型破りな主人公像でそういう意味での奇抜さは亀岡にはないけれど、野性味みたいなものは

そのままでしたね。亀岡は演じている時以外のシーンは、食べで飲んで寝てのシーンが多いですね。

排泄のシーンもあったり。人間の生理を描きたいみたいなところはあったのでしょうか?

 

横浜さん:

今までと違う思考回路で作りました。くだらないとされるシーンをちゃんとやろう。

おしっことか映画で見せなくていいと思う人もいるかもしれないけど、ひとりの人間として生きているのであれば

ないものにはできない。くだらないところを恥ずかしげもなくやりたい。

 

gA:

印象深いシーンについていくつかお聞きします。

アラン・スペッソ監督のオーディションを受けに亀岡がどこだかわからないガレージに登場するシーンですが、

あそこは原作にはない横浜さんのオリジナルシーンだと映画を見たときに直感しました。影と光、効果音の中での

亀岡のひとり芝居は幻想的でもあり、美しい演出でした。あれはどのような発想を元にシーンを組み立てられたの

でしょうか?

 

横浜さん:

原作にはないオリジナルシーンです。ただ、他の脚本家からシナリオを引き継いだ時には設定は既にありました。

それをどんどん膨らませていってあのようなイマジネーションに到達しました。当初は、スクリーンプロセスを

使って亀岡のバックに戦争の映像を流すことも考えましたが、最終的に影と亀岡のひとり芝居のようなシーンに

発展しました。熱を今までみせてこなかった亀岡が唯一必死となるシーンです。

芝居ができる人なんだということがわかるシーンですよね。

 

『俳優 亀岡拓次』サブ1
(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

gA:

亀岡を見送った後、安曇役の麻生久美子さんがお茶漬けを立ってすするシーンは元々台本にないシーンだったんです

よね?

 

横浜さん:

台本では「安曇が店の後片付けをしている」と書かれていたシーンです。

お母さんって忙しいから片手間で立ってごはんを食べるイメージがあります。

当日麻生さんにお願いして。「お茶漬けというインスタントで手軽にできる食事。しかも座って食べない」という、

私の中のお母さん像をやってもらいました。

 

gA:

さりげない日常の一コマにそういう洞察が込められているんですね。

あのように元々はシナリオにない、思い立ってやったシーンは他にありますか?基本シナリオに忠実なんでしょうか?

現場での実際の演出法はどのようにして行いますか?

 

横浜さん:

細かい動きはその場で思いついてやったりします。

例えば、亀岡がバイクを運転するシーンは台本には「運転する」としか書いてありません。現場では、嘘くさいけど

立ち上がったり、指をさす動きを付け加えてみたり。

 

gA:

リアルな芝居から逸脱して突飛に見える仕草もあるような気がするんですけど(笑)

俳優はすんなり受け止められていましたか?演出意図は現場で俳優に伝えますか?

 

横浜さん:

現場では、落ち着いて腰を据えて話す感じではないので説明は省きます。

なので、消化しないまま主演の安田さんが演技していたシーンはいっぱいあるかもしれないです。

 

gA:

安田さんも「意図をくみ取れずにやっていたけど、後から見返したら、こんな素晴らしい仕上がりになってたとは

天才だ。」とおっしゃってましたもんね。

 

横浜さん:

「作品みて面白かった。」って仰ってくれたのがありがたいです。

 

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(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

gA:

現場は17日間でタイトだったとお聞きしています。どんなスケジュールで進行しましたか?

 

横浜さん:

撮影スタートは2015年4月。オフは1日だけ。深夜を越したことは数回しかないと思いますけど。

時代劇など劇中で亀岡が出演する映画シーンがいっぱいあったので、セッティングが多く、毎日がイベントの

ようでした。主人公が毎日家帰って寝る、みたいな設定だったらすごく楽なんですけど(笑)

今回は一箇所の場所が何回も出てくることはなく、毎日違う場所を転々として・・・。

 

gA:

たしかに。俳優が撮影現場から現場へ放浪しているようなものですものね。

 

横浜さん:

撮影現場も本当にそういう感じだったので。あー今日ここか明日ここかという感じで落ち着かなかったです。

東京から次のロケ地の静岡の砂漠にいったときは目が覚めたら静岡についていたんで本当にタイムワープした

ような感覚でした。

 

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(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

ロケ地を転々としながら17日間で撮影ができたのは、撮影現場でのチームワークの賜物ではないかと想像する。

豪華俳優陣との撮影はどのようであったかを紐解くと・・・

 

gA:

主演のTEAM NACS安田顕さんとの初タッグはいかがでしたか?

 

横浜さん:

安田さんが作る側に寄り添ってくれ、撮影はスムーズにいきました。安田さんが常に半径5メートル以内にいる。

こちらが準備できたらすっと入ってくれる。なかなかそういう俳優さんていません。俳優さんは俳優さんという

ある一線があるので安田さんの作り手側に入ってくれる意識にだいぶ助けられた現場でした。

 

gA:

作中に登場する山﨑努さん・三田佳子さんは登場するだけでその風格に圧倒されました。

大御所監督役としての山﨑さんから漂う巨匠感に思わず笑ってしまいました。

 

横浜さん:

山﨑さんや三田さんなど映画界を背負ってきた人が出るだけで映画に一本の鉄骨が加わる・・・

不思議なものですよね。

 

gA:

亀岡が憧れる大女優役の三田さんが登場されたときの気迫と色香がすごかったです。

 

横浜さん:

三田さん・・・すごいですね。特にこちらが何を言うわけでもないのですが。

やっぱり、何十年もスクリーンの前で輝いてきた方たちのオーラってすごいものがあります。

 

gA:

三田さんと現場ではどのようなコミュニケーションをとられましたか?

 

横浜さん:

大女優の松村夏子という役の概要をお話しして。

「台詞でいってるのか素の松村夏子がいってるのかわからないくらいの曖昧さがいいと思うんです」ということを

伝えました。頭のてっぺんから足の指の先まで見えるところ全てに神経を注がれる。一切妥協しない点が素晴らしい

です。

 

カメタク サブサブ2
(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

gA:

原作で亀岡拓次のモデルの一人でもあり、最近バイプレーヤーとして引っ張りだこの宇野祥平さんとは4作品

ご一緒されていますが、宇野さんの魅力はどのようなところにありますか?

 

横浜さん:

映画の中での自分の立ち位置をふまえ、ちゃんと考えて現場に臨んでくれる。でも、実際演技するときにはいったん

真っ白にして自分の用意してきたことを手放す。監督の指示することに素直に反応することだけに集中し、頭で考えて

いない感じがあります。

gA:

宇野さんご自身が普段からいい距離を保つ方ですよね。

 

横浜さん:

距離感を壊さない。ずるずると入ってこない。上品な方だなって思います。

 

カメタク サブサブ4
2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

gA:

工藤夕貴さんのマネージャー役も魅力的でした。亀岡との電話越しの声に躍動感があって。

 

横浜さん:

プロデューサーと「鋭いけど可愛らしい声がいいね」という話になり、女性のキュートさを持っている工藤さんに

お願いしました。

 

gA:

『俳優 亀岡拓次』2回目を観て、お酒を美味しそうに飲むから、ひとりで飲みに行きました。

 

横浜さん:

それが狙いです。酒がおいしそうに見えたら万々歳だなって思ってました。

 

gA:

麻生久美子さんも安田顕さんもおいしそうに飲む!麻生さんが飲み干すところは本当に色っぽいですね。

 

横浜さん:

私、女の人の色っぽさに関しては同性でよくわからないので…綺麗に撮るのはもちろんですけど、そこから

先の麻生さんが普段あまり見せない艶っぽい部分は、男性であるカメラマンが引き出してくれた気がします。

 

gA:

今回の現場では先ほど好きだと仰っていた山﨑努さんとお話されましたか?

 

横浜さん:

寡黙でいらっしゃるわけではないのですが、こちらが緊張して話せない、ということはありました(笑)。

 

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(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

俳優の存在感や躍動感が横浜作品の魅力のひとつ。

それは監督が俳優に寄り添って個々の魅力を引き出しながら俳優もまた映画の枠をはみ出た横浜ワールドに

引き込まれていくからではないだろうか。

 

gA:

最後に。girls Artalkの読者に向けてメッセージをお願いします。20-30代の女性たちにはどのようにこの作品を

楽しんでもらいたいですか?

 

横浜さん:

人からどう見られるかっていうことを誰しも気にするじゃないですか?

見た目もそうですし内面も。「そこまで無理しなくていいんだ」ってことを『俳優 亀岡拓次』を見て感じてもらえたら

嬉しいです。

 

 

インタビューを終えて・・・

『俳優 亀岡拓次』を見た後ひとり酒をした。鈴木清順監督作『ツィゴイネルワイゼン』での原田芳雄さんの

すする蕎麦がおいしそうで、映画館を出た後に蕎麦屋に直行、日本酒をあおった時以来だ。いい作品に出くわすと、

お酒を飲んでその余韻に浸りたくなる。映画を見た後の高揚感がたまらない。

 

横浜聡子監督は、ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくださった。普段はとても細やかに周囲への気遣いを持って

接して下さる方であるが、一方で自らのやりたいことを貫くタフさに満ち溢れているように感じた。

正解も不正解もない表現の世界。たとえ、理解されようがされまいが、恐れず「私はこれで行く」という確固たる強い

意志に触れられた思いである。彼女の人生観や哲学がひとつひとつの言葉に凝縮されている。映画監督にとって

映画作りとは生き方そのものなのだ。

 

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取材・文:小川仁美  / 写真:小瀧万梨子

 

 

◆  『俳優 亀岡拓次』公式HP:http://kametaku.com

 

◆  横浜聡子さん プロフィール

1978年、青森県生まれ。横浜の大学を卒業後、東京で1年程OLをし、2002年に映画美学校で学ぶ。

卒業制作の短編『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』が2006年CO2オープンコンペ部門最優秀賞受賞。

長編1作目となる『ジャーマン+雨』を自主制作。翌2007年、CO2シネアスト大阪市長賞を受賞。

自主制作映画としては異例の全国劇場公開となる。2007年度日本映画監督協会新人賞を受賞。

2008年『ウルトラミラクルラブストーリー』(出演:松山ケンイチ、麻生久美子)を監督、トロント国際映画祭他、

多くの海外映画祭にて上映された。松山ケンイチが第64回毎日映画コンクール男優主演賞など受賞、

作品がTAMA CINEMA FORUM最優秀作品賞を受賞、多くの評価を集めた。2011年『真夜中からとびうつれ』(出演:多部未華子、

宇野祥平) &『おばあちゃん女の子』(出演:野嵜好美、宇野祥平)。2013年は『りんごのうかの少女』

(出演:とき[りんご娘]工藤夕貴、永瀬正敏)が、第21回レインダンス映画祭の横浜聡子特集上映で上映された。

 

 

 

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Writer

川嶋 一実

川嶋 一実 - Hitomi Kawashima -

週末女優 -製薬会社OL×女優-

 

聖心女子大学卒。国内外で舞台・映画出演の他、聖心女子大学哲学科芸術学の授業で特別講師として招かれるなど活動の幅は多岐に渡る。

〈 人生に転機を 〉と2011年ひとりニューヨークに飛び込み、翌年アメリカで舞台「HITOMI」に主演。
2016年プロデュースユニット“週末女優”を始動させ、女の二人芝居『たまことゆかり』(作:五戸真理枝/文学座)を春・秋と連続上演。2017年ドイツの報道番組に密着取材を受け、独自のライフスタイルが紹介された。

学芸員資格保有。映画・演劇・音楽をメインにインタビュー記事や作品紹介を通じて、アートのワクワクをお届けします!

 

★twitter:https://twitter.com/ogawa_hitomi

★blog:http://ameblo.jp/hitomi-my-style/

★HP:https://shumatsu-jyoyu.tumblr.com/profile






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