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「わかりあう」大切さをしなやかに伝える「トランスレーションズ展 」

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2020年11月10日


「わかりあう」大切さをしなやかに伝える「トランスレーションズ展 」


「わかりあう」大切さをしなやかに伝える

「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」

 

六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の企画展「トランスレーションズ展 『わかりあえなさ』をわかりあおう」。展覧会のディレクターには情報学研究者のドミニク・チェンさんを迎え、「翻訳」をひとつのコミュニケーションの架け橋として様々なアプローチの展示がされています。

 

みなさんは、「トランスレーション(translation)」=直訳:翻訳、という言葉を聞いてどんなイメージが湧きますか。洋画を見るときの字幕、または英語で困った時に開くgoogle翻訳など……が浮かぶ方も多いのではないでしょうか。

そもそもtranslationの語源は、より広義な意味を連想させる「別の形に(trans-)運ぶ(latus)こと」を意味します。このトランスレーションズ展はまさにその語源通りの、様々な人の「意思」「背景」「歴史」またはその概形すら本人が理解していないものを、テクノロジーや視点により、形を変え相手が理解できるように具現化しようとする試みがたくさんあります。

「ことばの海をおよぐ」「伝えかたをさぐる」「体でつたえる」「文化がまざる」「昔とすごす」「モノとのあいだ」「異種とう」の7つの展示テーマ、全21作品から構成されており、ことばの翻訳からはじまり、それは人とのコミュニケーション全体へ、そして自分と異なるモノとの向き合い方についてもそこには「トランスレーション」があると展示室内で歩みを進めるにつれて感じることができます。

 

では、早速展覧会の様子をお伝えしていきましょう。

 

1.電子化されていく言葉たち。そして世界が近づく

 

 

 

本展覧会のディレクターのドミニク・チェンは日仏英の3ヶ国語を話すトリリンガル。ルーツに日本、台湾、ベトナムの血を引くフランス国籍の国際情報学博士です。

「トランス・ポート」と題された最初の展示コーナーでドミニク・チェンの挨拶映像が流れていますが、3ヶ国語が、名詞、動詞、助詞関係なく入り混じり、まるで全く知らない言語のように聞こえます。不思議な違和感と親近感を覚えつつも、それはもはや人の個性にすらなるtrans(変化した)もののように感じました。

 

 

次のセクションは大きなインスタレーション作品です。マイクの前に立つと、正面のスクリーンは私達に「好きな言葉は何?」「好きな食べ物は何?」……などと質問を投げかけてきます。それに鑑賞者がマイクで答えを話しかけると、モニターにはそのデジタル化された信号が翻訳の過程を可視化し、無数の言語で私達の回答が表示されました。これはGoogle Creative Lab、Studio TheGreenEyl、ドミニク・チェンとの協同により「異なる言語同士にも、実はつながりがあることを示す共通点がある」という今の翻訳技術をアートとして体感できるもの。Google翻訳で今対応している言語は108ですが、世界で話されている言語はおよそ7000、今回の発見で108が1000に近づけるそうで、トランスレーション技術の進化はインターネットで近くなった世界と私達をもっともっと繋げてくれる存在になりそうです。

 

 

そこから広がる次の空間では「伝え方をさぐる」ゾーンとして、振動で音を聞く本多達也の「Ontenna(オンテナ)」やメガネで文字を聴く島影圭佑の「FabBiotope」等、最新技術を使って、障がいをもったひとたちの「わかりあえなさ」を翻訳するテクノロジーも紹介され、私達の世界はどんどん近づいているワクワク感を感じさせます。

 

 

2.翻訳できない言葉たち

 

 

思わず足を止めて微笑んでしまった作品は、エラ・フランシス・サンダースの「翻訳できない世界のことば」。日本でもベストセラーになっている著者の作品をこの展示のために作家本人が選りすぐった展示です。

例えば、ハンガリー語のszimpatikusという言葉、これは「だれかと初めて出会って、直感的にその人が良い人だと感じる状態」のこと。誰もがなんとなく「わかる!」と思うことを言葉にしている、まさに気持ちをトランスレーションしてくれているのがその言葉、そして言葉を生んだ国の文化だったりします。

 

 

お国柄がよくわかるものもありました。フィンランド語のPORONKUSEMAという言葉は「トナカイが休憩無しで疲れず移動できる距離」を表す言葉。まさに生活の中から生まれた言葉ですね。日本語からは「木漏れ日」という言葉も展示されていました、四季に富み、繊細な感覚を大切にしているからこそ生まれたのでしょうか。

 

 

 

一風変わった映像展示で興味を引いたのは永田康祐の映像作品「Translation Zone」。料理における翻訳に向き合った作品です。

例えば、日本のおでんとフランスのポトフ、中華の炒飯とマレーシアのナシゴレン、調味料は違えど、料理工程を化学的に突き詰めてみれば同じ。でも皆同じ料理とは考えていない。その料理工程を見ながらアーティスト本人が解説していきます。言われれば「なるほど同じだ」となりますが、「でもやっぱり違うよな」の気持ちが両方巡ってきます。それを永田康祐が独自のリズムと切り口で解説していく本作品は、心地よいそのリズムの中で料理を通じてそれぞれの文化の中にある翻訳しきれないものが何かを考えさせてくれます。

 

 

3.サメとヒトは愛し合うのか

 

 

サメとヒトが愛し合うことは可能か、という普段考えもしないような翻訳に挑んだのが長谷川愛の「Human × Shark」。共通となる言語として「匂い」に焦点を当てているという非常に挑戦的でかつ化学的な作品です。

サメを誘惑する香水と人が好感を持つ香水の香りが用意されていて、臭いを体験することができます。サメを誘惑する香りは、動物園のような臭いがしました。

 

 

サメの好きな香りをダイビングスーツにつけて水中に潜り、サメの雄を性的に惹起させることを実験しています。

化学の力で異種の生物とのコミュニケーションを作れる時代がきていることは、今後向き合うべき大きなテーマになるかもしれません。

 

 

 

4.最後に

 

全ての展示が非常に身近に感じるものになっています。

「言葉」を中心としたコミュニケーションというものが私達の根本的な欲求として存在し、そこに起こる「わかりあえなさ」を「わかりあう」に変えるための手助けをしてもらっているように感じました。

 

テクノロジーの進化はめまぐるしく、コミュニケーションはどんどん便利になっています。一方で、どこに私たちの「わかりあえなさ」があるのかを感じたり、考えたりすることがなくなってきているのではないでしょうか。そんな大切なことを思い出させてくれる展覧会です。

 

本稿でご紹介しきれなかった作品の多くも、私達の「わかりあえなさ」を興味深く、時にユーモラスに、時に最新技術を使って、翻訳してくれている作品ばかりです。コミュニケーションについて「わかりあう」空間と時間へ、是非足を運んでみてください。

 

 

文=水上洋平

写真=新井まる

 

【展覧会概要】

トランスレーションズ展 −「わかりあえなさ」をわかりあおう

会期:2020年10月16日~2021年3月7日

会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2

住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内

電話番号:03-3475-2121 

開館時間:11:00~18:30(土日祝 10:00~) ※入場は閉館の30分前まで

休館日:火(ただし2月23日は開館)、年末年始(12月26日~1月3日) 

料金:一般 1200 / 大学生 800円 / 高校生 500円 / 中学生以下無料

http://www.2121designsight.jp/program/translations/

※本展覧会は事前予約制です