feature

デンマークの巨匠、ハマスホイの作品が再び東京へ

NEWS

2020年2月13日

デンマークの巨匠、ハマスホイの作品が再び東京へ


デンマークの巨匠、ハマスホイの作品が再び東京へ

 

『ハマスホイとデンマーク絵画』が、上野・東京都美術館で開催中。(~2020/3/26(木)まで)“静かなる衝撃、再び―”と題された美術ファン待望の展覧会、その魅力とは。

 

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内》 1898年 スウェーデン国立美術館蔵 

Nationalmuseum, Stockholm / Photo: Nationalmuseum

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地》 1910-11年 マルムー美術館蔵 Malmö Art Museum, Sweden

 

19世紀末デンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)は“北欧のフェルメール”とも称され、静謐で瞑想的な画風で人気を博しています。

近年は、欧米の主要美術館が続々とコレクションに加え世界的に評価が高まっている大注目の画家です。

2008年に上野・国立西洋美術館で開催された美術展から10年余り、ついにハマスホイ作品が再び上野に集結。今回は日本初公開の作品も含め、約40点を展示しています。また、19世紀デンマーク美術の流れを本格的に紹介する日本で初の展覧会となります。

 

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《寝室》 1896年 ユーテボリ美術館蔵

Gothenburg Museum of Art, Sweden ©Photo: Hossein Sehatlou

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 

国立西洋美術館蔵 〔東京展のみ出品〕

 

柔らかな光とほの暗い影、簡素で計算された暗示的な室内。ハマスホイの世界観にいざなわれていきます。

 

ハマスホイが活躍したのは今から120年ほど前の19世紀末。

ヨーロッパではポスト印象派や象徴主義、キュビスムなど新しい表現が次々に誕生し、世紀末芸術が多彩に展開されていました。古い芸術観から脱却し、新しい試みや価値観を芸術にどんどん取り入れていく、いわば美術の新陳代謝がめまぐるしく起きた時代です。

 

一方、ハマスホイはそういったメインストリームからは距離を置き、独自の寡黙な絵画表現を追い求めていました。身近な人物の肖像や街並み、古いアパートの室内など限られたモティーフを黙々と描き続けたのです。

 

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《農場の家屋、レスネス》 1900年 デーヴィズ・コレクション蔵 

The David Collection, Copenhagen

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》 1905年 デーヴィズ・コレクション蔵

The David Collection, Copenhagen

綿密な画面構成と洗練された色彩が魅力。部屋の中は時間が降り積もったような静けさで満たされています。

 

 

会場の冒頭にはオーストリアの詩人・リルケによる書簡の一説が掲げられており、この画家の魅力をシンプルに言い当てています。

『ハマスホイは急いで語らなければならないような芸術家ではありません。彼は時間をかけてゆっくりと仕事をしています。その仕事をどの時点で捉えてみても、常にそれは芸術の重要で本質的な事柄についての話とならざるを得ないでしょう。』

 

《背を向けた若い女性のいる室内》に描かれたロイヤル コペンハーゲンのパンチボウルが展示されている。画家が実際に所有していたもの。

 

 

ハマスホイはコペンハーゲンの王立美術アカデミーに学び、1885年21歳でデビュー。初期は肖像画や風景画を描いていましたが、1890年代以降は室内画を中心に手がけデンマーク国内外で高い評価を得ました。洗練された画風で多くの芸術家を魅了し、1911年にはローマで開催された国際美術展でクリムトらと並び第一等に輝いています。

しかし、没後は時代遅れの画家とみなされ次第に忘れられた存在に。

再び注目を集めるのは1990年代以降。欧米の主要な美術館で再評価され、次々に回顧展が開催ました。それをきっかけに広く知られるようになり、近年では多くの美術ファンを魅了しています。

 

ピーザ・スィヴェリーン・クロイア 《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》 1893年

ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection

 

 

 

スケーイン派 失われた古き良きデンマークを求めて

スケーインはユラン半島北端の漁師町。19世紀後半、コペンハーゲンから遥かに離れたこの町に、近代化によって失われていく伝統的なデンマークの姿を求めて多くの画家たちが芸術家コロニーをつくりました。その中心的な画家たちは「スケーイン派」と呼ばれます。彼らは厳しい自然環境のなかの飾らない風景や漁師たちの労働に原始的な美意識を見出しました。

 

ヴィゴ・ヨハンスン 《春の草花を描く子供たち》 1894年 スケーイン美術館蔵

Art Museums of Skagen

ヴィゴ・ヨハンスン 《きよしこの夜》 1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵

© The Hirschsprung Collection

日常にかくれたささやかな幸せが絵画の中に大切にしまわれているという印象を受けます。

 

ヒュゲ(hygge)とは、くつろいだ、心地よい雰囲気を意味し、デンマーク人の幸福な価値観を表す言葉。

1880年代以降、コペンハーゲンでは室内画が盛んに描かれました。当初は幸福な家庭の親密なイメージが大きな特徴でしたが、その表現はやがて「室内空間そのものを描く」という表現方法に変わっていきます。生活感を排除した美的空間として捉え、色彩や構成などの洗練された表現が追求されました。ハマスホイの室内画はその究極的な表現といえます。

 

 

 

文:五十嵐 絵里子

写真:新井 まる

 

 

 

ハマスホイとデンマーク絵画

会期:2020年1月21日〜3月26日

会場:東京都美術館

住所:東京都台東区上野公園8-36

開室時間:9:30〜17:30(金・2月19日・3月18日〜20:00) ※入室は閉室の30分前まで 

休室日:月(2月24日・3月23日は除く)、2月25日 

料金:一般 1600円 / 大学・専門学校生 1300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1000円 / 中学生以下無料

*3月20日~26日は18歳以下(2001年4月2日以降生まれ)無料、2月19日、3月18日は65歳以上無料。いずれも証明書持参

 

巡回

会期:2020年4月7日〜6月7日

会場:山口県立美術館

住所:山口県山口市亀山町3-1

開館時間:9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで

休館日:月(5月4日は除く)、6月1日

 

問い合わせ:03-5777-8600



Writer

五十嵐 絵里子

五十嵐 絵里子 - Eriko Igarashi -

大阪藝術大学芸術学部文芸学科卒業。
2015年に美術検定1級取得。都内で会社員をしながら、現在アートナビゲーターとして活動中。
山形県出身、東京都在住。