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日本美術展史上最多!光の魔術師フェルメールに会いに行こう

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2018年11月24日


日本美術展史上最多!光の魔術師フェルメールに会いに行こう


 

日本美術展史上最多!光の魔術師フェルメールに会いに行こう

 

 

1581年、スペイン・ハプスブルク家から、世界初の「共和国」として事実上の独立を果たしたオランダは、17世紀には「黄金時代」を迎えます。

 

そんな時代に活躍した画家の一人ヨハネス・フェルメール。

 

ゴッホやダリを惹きつけ、日本人にも人気が高い彼ですが、その真作はわずか35点ともいわれています。

 

ですが、現在そのうちの約4分の1にあたる9点の作品(うち2点は期間限定)を見る事ができる場所があります。

 

そう、10月5日より東京・上野の森美術館で開催されている「フェルメール展」です。

 

今回は4日の内覧会の様子を通して、展覧会の見どころをご紹介しましょう。

 

 

 

展示風景

 

 

 

 

①絵画のヒエラルキーと、若き日のフェルメール

 

 

 

 

今回の展覧会では、「肖像画」や「歴史画」、「風景画」とジャンルごとに分けられた5つのセクションを通して、17世紀オランダの美術の様子を見る事ができます。

 

 

ヨーロッパの絵画には、14~15世紀のルネサンス以来、厳格なヒエラルキー(序列)が存在していました。まず頂点に来るのが、神話や聖書のエピソードを題材とする「歴史画(物語画)」です。これは、題材となる文芸や聖書に対する知識、そしてそれを解釈し構成していく想像力とが必要とされ、画家にとっては自分の技量と地位とを保証してくれるものでした。

 

 

具体的に作品を見てみましょう。

 

 

ヤン・ファン・ベイレルト作<マタイの召命>(1625~30年頃)は、当時のヨーロッパ絵画に多大な影響を及ぼしていたイタリアの画家カラヴァッジョの影響を強く感じさせてくれる一枚です。実際に、画面の右端から腕を伸ばすイエスのポーズなど、同主題の彼の作品とよく似ています。

 

 

カラヴァッジョの強烈な明暗効果は、ユトレヒトの画家たち、そして彼らを介してレンブラント(1606~1669)にも影響を与えています。

 

 

こうした状況の中で、若いフェルメールが、画家としての名声を得るべく歴史画家を目指したのも、不自然なことではないでしょう。

 

 

 

ヨハネス・フェルメール《マルタとマリアの家のキリスト》1654-1655年頃

スコットランド・ナショナル・ギャラリー National Galleries of Scotland, Edinburgh. Presented by the sons of W A Coats in memory of their father 1927

 

 

 

この<マルタとマリアの家のキリスト>(1654~55年頃)は、フェルメールが22~3歳で制作した初期の作品で、絵全体の大きさも縦約160㎝、横約140㎝と、他の彼の作品よりもはるかに大きいのが印象的です。

 

 

作品のソースになっているのは、新約聖書の「ルカによる福音書」、キリストが、自分の熱心な信徒であるマルタとマリアの家を訪れた時のエピソードです。

 

 

給仕に勤しむ姉のマルタに対し、妹のマリアはじっと座ってイエスの話に聞き入っています。ついに見かねたマルタは、イエスに「妹にも手伝うよう、先生から言って欲しい」とイエスに訴えます。しかし、「彼女(マリア)は正しい方を、神の言葉を選んだのだ」と逆に諭されるのです。

 

 

パン籠を抱え、やや口をとがらせ気味にしてイエスに話しかける姉。穏やかに彼女を見返し、訴えに耳を傾けるキリスト、そして彼がそっと指し示す先には頬杖をつき、イエスの語る言葉を受け取り熟慮している妹。

 

 

さりげない動作の中で、それぞれの心の動きや交わされている会話の内容も感じ取れるかのようです。

 

  

しかし、オランダが奉ずるプロテスタント(新教)では、偶像崇拝が禁止されていました。

 

 

また絵画の購買層である市民たちも、仰々しい作品は求めてはいなかったのです。

 

 

こうした現実の中で、フェルメールは別のジャンル、「風俗画」への転身を選んでいくことになります。

 

 

 

 

②風俗画―――何気ない情景の中に隠された意味

 

 

 

 

プロテスタント(新教)を奉じる共和国において、主権を握るのは裕福な市民たちでした。彼らが自分たちの家を飾るために、遠い昔の神話や聖書の物語に基づいた大型の絵よりも、むしろ小ぶりで親しみやすい絵を求めたのは当然と言えるでしょう。

 

 

彼らが愛したのは、身近な風景や、質感まで精緻に再現された静物画、そして当世風の生活を捉えた風俗画など、絵画のヒエラルキーの中では下位に位置づけられるジャンルでした。

 

 

また、当時のオランダを旅行したイギリス人の著述家は、こんな証言を残しています。

 

 

「オランダでは絵画が至る所にある。普通の商人で絵を家に飾ってない者などほとんどいない」(小林頼子、『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品 改訂版』、東京美術、2017年、p.XII)

 

 

その様子は、具体的に作品を見て見ればわかりやすいでしょう。

 

 

 

ハブリエル・メツー《手紙を読む女》1664-1666年頃

アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo © National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4537

 

 

 

作者ハブリエル・メツー(1629~67年)は、アムステルダムで活動した風俗画家で、フェルメールやデ・ホーホの影響を強く受けた画家です。実際に、この作品も左の窓から差し込む光や、女性の上着など、フェルメールに通じる要素が見られます。しかし、女性の足元にいる犬は、フェルメールの作品には登場しないモチーフです。

 

 

左側には、座って手紙を読む女主人。そして右側には、それを届けたと思しき女中が立っています。女主人が手紙を読み終えるまでの間、手持ち無沙汰なのでしょうか、彼女は緑色の垂れ幕をまくり、その下の絵を見ています。

 

 

描かれているのは荒れる海の中を進む船の絵です。

 

 

このように絵の中に描き込まれた絵画作品は、画中画と呼ばれますが、それは時には単なる部屋を飾る小道具に留まりません。

 

 

この船の絵の場合は、実は「愛は荒れる海のようである」という比喩を含んだものなのです。そして、女中の垂れ幕を捲って絵を見せるという行動を通し、作品を見ている私たち鑑賞者に、女主人の前に横たわっている「危険」について、注意を促しているのです。

 

 

このように、何気ない生活の一情景を描いているように見えて、アレゴリーや教訓を含んでいるのが、オランダの風俗画の面白いポイントです。

 

 

もしも、室内を描いた作品で画中画が登場していれば、その内容についても注目してみてください。

 

 

 

 

③フェルメール・ルーム

 

 

 

 

今回の展覧会は全部で6つの章から構成されています。

 

 

第一章の「肖像画」にはじまり、第五章の「風俗画」までで、当時のオランダ絵画をジャンルごとに一通り見わたした後は、いよいよ今回の展覧会の最大の注目ポイントです。

 

 

 

 

 

 

この白い長い廊下を抜けた先、そこにあるのが、フェルメールの作品8点(会期中入れ替えあり)が集められた部屋「フェルメール・ルーム」です。

 

 

初期の宗教画<マルタとマリアの家のキリスト>から、フェルメールと聞けば誰もが思い浮かべる作品の一つ<牛乳を注ぐ女>まで。まさに夢の空間、と言っても過言ではありません。

 

 

それらの中からまず一点、<手紙を書く女>をご紹介しましょう。

 

 

 

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》1665年頃 

ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr., in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1

 

 

 

暗い部屋の中、浮かび上がる一人の女性。彼女自身が淡い光を放っているかのようでもあります。

 

 

青いテーブルクロスと黄色い上着のコントラストも印象的です。

 

 

そこに、さらに女性の耳元や、テーブルの上に置かれたネックレスの真珠が放つ仄かなきらめきがアクセントを添えてくれています。

 

 

一度この作品の前に立つと、黒目勝ちの眼にじっと見つめ返され、動けなくなります。微笑を浮かべた口元は、時間と空間を越えて立つ私たちに何を語ろうとしているのでしょう。そして、彼女が今まさに書いている手紙は、一体どのような内容なのでしょうか。

 

 

背後の壁にかかる絵にも目を向けてみましょう。うっすらとですが、大きな楽器が描かれているようです。これは、「ヴィオラ・ダ・ガンバ(足のヴィオラ)」と呼ばれる弦楽器で、ヴァイオリンに形が少し似ていますが、チェロのように足の間に構えて弾くのが特徴です。

 

 

そして楽器は、愛の象徴とされるアイテムでもあります。つまり、女性が書いているのは「恋文」である、とこの画中画はほのめかしているのです。

 

 

もう一つ作品をご紹介しましょう。

 

 

 

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1658年-1660年頃

アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1908   RUKS MUSEUM

 

 

 

フェルメール、と聞いてすぐに思い浮かぶ作品の一つは、この<牛乳を注ぐ女>でしょう。

 

 

籠やそこに盛られた丸いパン、陶器の壺、そして捩れるように流れ落ちる牛乳の色や質感がリアルに描き出されています。

 

 

それらには、静物画の要素を見出すこともできましょう。

 

 

この「フェルメール・ルーム」に飾られているフェルメールの室内画は、当時の生活の中の何気ない一瞬を描いていますが、いずれもはっとさせられる美しさ、長い事立って見入らずにはいられない不思議な力を持っています。

 

 

ささやかで、しかし冒しがたい気品と美しさを湛えてそこに存在する、その有様は「真珠」にもたとえられましょうか。

 

 

そう考えると、このフェルメール展の最後を飾る「フェルメール・ルーム」は、<手紙を書く女>の机にも置かれている真珠の首飾り、と言えるかもしれません。

 

 

17世紀にわたってオランダでは膨大な数、500万点余もの絵画が制作されたと言われています。

 

 

フェルメールの作品は35点という数を考えても、その氷山のほんの一角にも満たないでしょう。

 

 

それでも、彼の作品はなぜこれほどに抜きんでて人を惹きつけ続けるのでしょうか。

 

 

先ほどの、「オランダでは絵画が至るところにある」という言葉を思い出してください。

 

 

また、フェルメール自身の実家が画商兼宿屋であったことを考えると、彼が多くの絵に接していたことは確実です。実際に彼が、自身や義母が所有していた絵を、画中画として作品の中に描き込んでいることも指摘されています。

 

 

つまりあらゆる絵画を自分の血肉とし、その中で自分ならではの絵を模索していった、その結果があの珠玉の作品群と言えましょう。(そのことは、何もフェルメールだけに限らないのでしょうが)

 

 

そう考えると、他のセクションの作品もまた見返して見たくなりませんか。

 

 

それに、今回の展覧会には、フェルメール以外にも、教会などの建築物の外観や内観の描写を専門にしたピーテル・サーンレダムなど、他の国にはないユニークで魅力的な作品も多く来ています。

 

 

また会期中には作品の入れ替えや、東京や巡回先の大阪でしか展示されない作品もあります。

 

 

どうか、一度と言わず何度でも会場に足を運んでください。そのたびに新しい発見があるかもしれません。

 

 

 

今なら平日の夕方から夜の来館がオススメです。

 

 

 

 

 

【展覧会概要】

「フェルメール展」

URL:www.vermeer.jp/

 

東京展

会期:2018年10月5日~19年2月3日

会場:上野の森美術館

住所:東京都台東区上野公園1-2

開館時間:9:30~20:30 2019年1〜2月は9:00〜20:30 ※入場は閉館の30分前まで、開館・閉館時間が異なる場合あり。詳細は公式サイトを参照。

休館日:12月13日 

前売日時指定券:一般 2500円 / 大学・高校生 1800円 / 小・中学生 1000円 ※日時指定入場制

 

大阪展

会期:2019年2月16日~5月12日

会場:大阪市立美術館

住所:大阪市天王寺区茶臼山町1-82

開館時間:9:30~17:00 ※入場は閉館の30分前まで

休館日:月、ただし祝休日の場合は開館し、翌平日休館。4月30日、5月7日は開館

料金:一般 1800円 / 大学・高校生 1500円

※東京展と一部展示内容が異なる

 

 

 

テキスト:verde

写真:新井まる

 

バナー画像:ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1658年-1660年頃 

アムステルダム国立美術館Rijksmuseum. Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1908   RUKS MUSEUM








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