feature

映画ファン垂涎の企画 『ベルイマン生誕100年映画祭』で、映像美に酔いしれる

NEWS

2018年7月29日

映画ファン垂涎の企画 『ベルイマン生誕100年映画祭』で、映像美に酔いしれる


 

映画ファン垂涎の企画 『ベルイマン生誕100年映画祭』で、映像美に酔いしれる

 

 

2018年は、スウェーデンが生んだ偉大なる映画監督、イングマール・ベルイマンの生誕100年にあたります。ベルイマン作品における人間の本質に迫るテーマ、確かな美意識に裏打ちされたショット、高い完成度と飽くなき革新性は多くの映画監督を刺激し、熱いオマージュを捧げられてきました。

 

この夏、7月21日(土)~8月17日(金)のYEBISU GARDEN CINEMAでの公開を皮切りに、ベルイマン監督の代表作13本がデジタル・リマスター版で全国巡回上映されます。至宝の如き映像をスクリーンで見ることができる貴重なこの機会に、ベルイマンファンであるgirlsArtalkの編集部二人が作品を鑑賞した上で、初期作品の『夏の遊び』を鍵にしながら、ベルイマン作品の魅力を存分に語り合いました。

 

 

 

 

 

 

汚れることのない美しさを持つ過去は、永遠の憧憬である

 

 

 

 

 


『夏の遊び』(1951年)
(C)1951 AB Svensk Filmindustri

 

 

 

girlsArtalk 中野(以下、中野):ベルイマンのキャリアの中で前期に撮られたにも関わらず、今回の鑑賞で、最初に発見があったのは『夏の遊び』でしたね。

 

girlsArtalk 鈴木(以下、鈴木):ええ。『夏の遊び』で既に、ベルイマン作品の主題の片鱗が散りばめられていました。

 

中野:私はこの作品に対し、ベルイマンが「この映画には私自身の青春の一部が反映している」と述べている通り、若い男女が繰り広げる切なく瑞々しい物語という印象を持っていました。しかし見直してみると、幸福に満ちた過去に対し、現在のシーンが冷たく無機的で、より現実味を帯びて見えます。

 

鈴木:幸せな記憶としての過去と、苦悩に満ちた現在が入り混じるという点で、中期の傑作『野いちご』を連想させますね。フラッシュバックの効果的な使用法も然りです。ロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキーがオールタイム・ベストに挙げた詩的な『野いちご』は、是非、スクリーンで見て頂きたいです。

 

 

 


『野いちご』(1957年)
(C)1957 AB Svensk Filmindustri

 

 

 

神の不在と抗えぬもの死、病、老いへの恐怖

 

 

 

 

 


『第七の封印』(1956年)
(C)1957 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 

 

 

中野:ベルイマンの作品において、光に満ちた生が描かれる一方で、死への恐怖も重要なテーマであるように思います。

 

鈴木:ベルイマンにとって、決して逃れないもの、抑圧できない人間の欲望も含め、解決できないものは、すべて恐怖の対象だったのではないでしょうか。

 

中野:『夏の遊び』でも、短い夏を楽しむ恋人たちの輝かしい生の喜びが溢れる一方で、死に抵抗する老婆や人形遣いに扮する不気味なバレエ教師など、病や老い、恐怖や苦痛の象徴のような存在が控えていますものね。

 

抗えぬものの最たる例が、冒頭に死神が登場する『第七の封印』だと思います。主人公の騎士が、魔女と判定された少女を通じて神を知ろうとするシーンが印象的です。

 

鈴木:ベルイマンは、騎士の持つ善意にこそ、神が宿っているのかも知れないと発言しています。恐怖体験を前にして、人間の真価を問うストイックな作品ですね。スタイリッシュな構図は、古臭さを一切感じさせません。若い方にこそ躊躇することなく、チャレンジして頂きたいです。

 

 

 

女性性への強烈な憧れと侮蔑

 

 

 

 

 


『叫びとささやき』(1972年)
(c)1973 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 

 

 

中野:ベルイマンの作品に登場する人物はおおむね情緒不安定で、『夏の遊び』のマリーもかなり不安定なように思えます。

 

中期作品の『沈黙』の二人姉妹や後期作品の『叫びとささやき』における三人姉妹は、姉妹の中で抑制と奔放、理性と感情という相反する役割を引き受けながら、その枠にはまり切れない苦しみと情念の中で喘いでおり、狂気がより複雑に描かれているように思います。

 

鈴木:『沈黙』は姉妹達がそこまで憎み、嫉み合っているのかが明言されず、鑑賞者の想像の余白が大きく、狂気が際立ちます。『叫びとささやき』は、4本目のカラー作品とは思えぬ色彩感覚、完成度の高さですよね。ベルイマンが天才と言われる所以をひしひしと感じました。閉塞された空間の中で繰り広げられる群像劇は、緊張の連続で、目を逸らすことを許しません。叫びの中の沈黙、沈黙の中の叫び…。こうして思い出すだけでも、心がざわめきます。

 

中野:ベルイマンの持つ女性への羨望と、冷徹な程の観察眼が感じられる作品ですね。

 

鈴木:『叫びとささやき』をオマージュしたウディ・アレンの作品『インテリア』を合わせてみて頂きたいところです。

 

 

 

自己と他者。永遠に理解できない人と人

 

 

 


『沈黙』(1963年)
(c)1963 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 

 


『仮面/ペルソナ』 (1966 年)
(c) 1966 AB Svensk Filmindustri

 

 

 

中野:『夏の遊び』における現在のマリーは、心の中に壁をつくっているとバレエ教師に指摘されます。この場合の壁とは、自分と外界という解釈になると思いますが、自己/他者、私/あなたという対立がより複雑になったのは『仮面/ペルソナ』ですね。

 

鈴木:ベルイマンの作品にある極端な二極化がここでも顕著です。周囲から期待された役割(仮面)と、在りたい自分との乖離に葛藤する人間が描かれています。異なるから一つになりたい、理解されないのなら一層のこと拒絶されてしまいたい。人間の利己的な、目を背けたい本性をこれでもか、というほどクローズアップしています。

 

中野:女優と看護師という二人の女性が、語る人と黙する人、所有する者と喪失した者、観察する側とされる側といった重層的な対立項を演じる形で話が進みます。『仮面/ペルソナ』に見受けられるのは一枚岩の壁ではなく、二人の人間が持つ複数の対照的な性質である点が新鮮かつ強烈です。

 

 

 

ベルイマンの集大成『ファニーとアレクサンデル』と『神の沈黙3部作』は、是非スクリーンで

 

 

 

 

 


『ファニーとアレクサンデル』(1982年)
(c)1982 AB Svensk Filmindustri, Svenska Filminstitutet. All Rights Reserved.

 

 

 

中野:今回の『ベルイマン生誕100年映画祭』では、『ファニーとアレクサンデル』が公開されるのも嬉しいですね。ベルイマンの集大成とも称され、生への賛歌ともいえるこの作品は、311分という長尺であることを忘れさせる壮麗な美しさを持ち、映画の世界に浸る幸せを感じさせてくれる一本です。

 

鈴木:<神の沈黙>3部作と呼ばれる『鏡の中にある如く』『冬の光』『沈黙』を一挙に観れる機会もなかなかありません。難解と言われがちなベルイマン作品ですが、ゴダール同様に実験的要素もありますし、映像美に浸るだけでも十分な価値があります。映画史の宝石のように煌く作品たちを、デジタル・リマスターで鑑賞できる幸運を、決して逃したくありませんね。

 

 

 

テキスト:中野昭子・鈴木佳恵

 

 

 

参考文献:ベルイマンを読む 三木宮彦著 フィルムアート社
     世界の映像作家9 イングマル・ベルイマン (株)キネマ旬報

 

 

 

【映画祭概要】
『ベルイマン生誕100年映画祭』
配給:ザジフィルムズ、マジックアワー
後援:スウェーデン大使館
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/bergman100/
YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次開催中!

 

 

 

【上映作品】
『夏の遊び』(51)
『夏の夜は三たび微笑む』(55)
『第七の封印』(57)
『野いちご』(57)
『魔術師』(58)
『処女の泉』(60)
『鏡の中にある如く』(61)
『冬の光』(63)
『沈黙』(63)
『仮面/ペルソナ』(66)
『叫びとささやき』(73)
『秋のソナタ』(78)
『ファニーとアレクサンデル』(82)



Writer

鈴木 佳恵

鈴木 佳恵 - Yoshie Suzuki -

フリーランスの編集者。
広告代理店に勤務後、フリーランスに。
得意分野は映画と純文学。
タルコフスキーとベルイマンを敬愛し
谷崎潤一郎と駆け落ちすることが夢。

 

暇があれば名画座をハシゴしています。

Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。