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楽しい音が駆けめぐる!巨匠エルメート・パスコアール ライブレポート

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2018年5月25日

楽しい音が駆けめぐる!巨匠エルメート・パスコアール ライブレポート


 

楽しい音が駆けめぐる!巨匠エルメート・パスコアール ライブレポート

 

 

ブラジル音楽界の奇才にして巨匠エルメート・パスコアールが、2018年5月に来日。熊本、大阪、東京の3都市で6公演が行われた。今回、東京公演1日目にgirlsArtalkが潜入!その熱狂のライブの様子をお伝えしたい。

 

 

 

ブラジル音楽界の巨匠 エルメート・パスコアールとは?

 

 

 

 

 

 

エルメート・パスコアールは1936年ブラジル生まれ。弱冠14歳でプロデビューし、60年代後半にはブラジル音楽とジャズの融合を試みた先進的なアルバムを発表。その後、アメリカに渡り、マイルス・デイヴィスの作品に参加。1970年代にはブラジリアン・ジャズ・フュージョンを確立し、今もなお、精力的な活動を続けるブラジル音楽史を率いるビッグアーティストだ。

 

アルバムを聴いているだけでも、音やリズムの多様性と陽気な曲調に心が踊るが、エルメートの音楽の醍醐味は、ユニークな道具を使ったパフォーマンスにある。そんなエルメートが5月に来日。次はいつ日本にくるのかわからないのだから、これはもう鑑賞するしかない。そこで、訪れたのが渋谷WWWX「FRUE ~Universal Music Japan Tour~ feat. Hermeto Pascoal e Grupo」5月12日(土)のファーストセットだ。

 

 

 

エネルギッシュなパフォーマンスは圧巻

 

 

 

 

 

 

ステージ上にはエルメートと5人の弟子たち(バンド「Grupo」)の楽器や、楽器として使われるであろう不思議な道具類が並んでいる。そんな中、演奏しながら行進して現れるメンバー。そのかわいらしさに、さっそく心を掴まれる。そして、ついにエルメートが登場し、ライブスタート。ほぼノンストップの演奏が生み出す疾走感は、まるで断続的に打ち上げられる花火のようだ。1時間半の公演は、少しも飽きることなく駆け足で過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

弟子たちの息ぴったりの演奏もさることながら、エルメート自身の演奏も、今年82歳になるのか疑いたくなるほどパワフルでユニークだ。天井を突き抜けんばかりの暴れるような高速フレーズに、個性的なソロパートの音階やスキャット。スピーカーによって増幅される前の音も、ステージからエネルギッシュに降り注いでくるようだ。

 

 

 

遊び心をとことん追求し表現に落とし込む

 

 

 

 

 

 

この日、エルメートが使用した楽器は、キーボード、ピアノ、ピアニカ、バスフルートなど。そして、極めつけが「やかん」だ。メンバーも、木靴やビール瓶を見事に演奏し、音楽に変えてしまう。音を聴くのも楽しいが、パフォーマンスを見るのも楽しくてしょうがない。この楽器はこんな音がするのか、木靴の外と中で叩いた音が全然違う!ビール瓶を使うの?と思ったら完璧なハーモニー!視覚的にも楽しめる音楽が盛り込まれ、彼らの手にかかれば日常にあるのもの全てが楽器になるのではないかと思えてくる

 

実は、SNSでもエルメートと5人の弟子たちの動向が発信されており、オフの時間にジャズクラブへ行き飛び入り演奏する様子や、ライブ前日に急遽ビール瓶の演奏が決められたこと、移動中にペットボトルの蓋で演奏するエルメートの姿が伝えられていた。エルメートは日々、貪欲に音を探求しているのだ

 

 

 

 

 

 

あらゆるものを楽器に変えて、複雑なリズムと共に緻密な音階を演奏するエルメート・パスコアール。彼は幼い頃、電気などのインフラが整備されていない大自然の中で育ち、木製のフルートやカボチャで作ったパイプなどの楽器を自作していたそうだ。自然や周囲が生み出す環境音も音楽の一部として捉え、自身が奏でる楽器の音と空間を一体化させることにより、独自の音楽を放っている。

 

 

 

 

 

 

あらゆる道具を楽器に変えて楽しそうに演奏する様子をみているだけで、こちらも嬉しくなり、体が自然とリズムをとらえ、動き出す。「音楽は自由で、理屈抜きに楽しいもの」ということを改めて感じられた至福の夜は、登場時と同じく、小さく行進しながら舞台裾に戻るメンバーたちの姿を見送りながら終わった。そしてまた、30分後にはセカンドセットが、パワフルなライブが開始するのだ。巨匠の留まることを知らぬ活動力に感服しながら会場を去った。

 

 

 

️2018年5月12日(日)@渋谷 WWW X
「FRUE ~Universal Music Japan Tour~ feat. Hermeto Pascoal e Grupo」
【来日メンバー】
Hermeto Pascoal E Grupo
Hermeto Pascoal (keyboard, accordion, teapot, bass flute, his skeleton, cup of water…)
Itibere Zwarg (electric bass and percussion)
Andre Marques (piano, flute and percussion)
Jota P. (saxes and flutes)
Fabio Pascoal (percussion)
Ajurina Zwarg (drums and percussion)

 

 

 

テキスト:宇治田 エリ

 

 

 

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Writer

宇治田 エリ

宇治田 エリ - ERI UJITA -

フリーランスライター

美術大学・大学院にてビジュアル・コミュニケーション・デザインを学ぶ。大学職員、グラフィックデザイナーを経て、ライターに転向。現在は、ライフスタイルやカルチャーを中心に、さまざまなWebメディアで執筆中。

 

アート情報や、作家の思いを伝えることで、若手作家がより活動しやすい環境を作ることができればと、 girls Artalkに参加した。

 

インスタレーション作品や庭園など、感覚の指向性が変化する瞬間を捉えられる作品が特に好き。

 

photo by NANAKO.Murayama