初対面の2人をSRでつなぐ!ICC20周年記念イベント《Neighbor》体験レポート
■今年20周年を迎えるICCとは?
1997年に日本の電話事業100周年(1990年)の記念事業として開館した、NTT インターコミュニケーション・センター(以後、ICC)。
メディア・アートを中心に国内外のアーティストや研究者の作品を展示するほか、シンポジウムやパフォーマンスといった様々なプログラムを通じた活動を行なっている施設です。
PCやスマートフォンをはじめとした電子機器の発達により、メディアの在り方は大きく変容し、アートの世界にも影響を与えています。そんなメディア・アートの発展の歴史を見られるICCが、2017年4月に20周年を迎えました。
今回は20周年記念の一環として、2017年11月4日(土)、5日(日)に開催されたイベント《Neighbor》を体験してきました!
■《Neighbor》とは?
《Neighbor》は、脳科学者の藤井直敬氏と、演出チームのGRINDER-MAN、そして音楽家のevala氏による、メディア・アート・パフォーマンスです。
この公演は昨年、イスラエルの「プリント・スクリーン・フェスティヴァル」と、オーストリアの「アルス・エレクトロニカ・フェスティヴァル 2016」で上演され、話題を呼んだパフォーマンスです。今回、日本では初の上演となりました。
「VRが発達することで、『個人の世界』に没入し、一人ひとりがバラバラになる」
テクノロジーが生んでしまったコミュニケーションの「壁」に問題意識を持ち、人と人が「つながる」喜びを分かち合うSR(代替現実)ができるのでは?という発想から《Neighbor》は作られました。
■いざ、SR体験!
1回の上演につき、SRの技術を使いながら、ダンサー2名と体験者二名がステージに立ちます。そして、ダンサーに誘導されながら、見知らぬ異性の“隣人”とひとつの体験を共有します。
早速、体験開始。まずは、ダンサーの2人と、同じ回で体験をすることになった男性と挨拶をします。もちろんその方は初対面。
続いてSRの機材を装着。見た目はVRの機材と同じようなゴーグル状です。機材を通して、ダンサーや、同じ舞台に立つ男性、自分の視点が映されるスクリーンや、観客を見ることができます。
体験時間は、準備時間を合わせて約10分。ダンサーに機材をフィッティングしてもらい、みなで手を合わせて調整完了です。ダンサーと向かい合っていると、公演が始まりました。
この公演、音楽やダンサーの動きは毎回同じですが、初めて出会う2人の動きはその1度しかありません。SRの世界が見せる映像や、ダンサーの動きに誘導されながら動いてみると、不意につながる手と手にびっくり。
SRの世界で見えているものと、現実世界でそこにいるはずの人が別の人だったり、触れている感覚が違う人のものだったり、めまぐるしく変わる世界に翻弄されます。
人間は視覚を使う割合が多いと言われていますが、不思議なことに、だんだん他の感覚が鋭くなってくるのを感じました。他者である“隣人”の存在や、取り巻く気配に敏感になります。
手を触れると、「あ、今の手はダンサーさんのものだ」「今の手は隣人の方」と、誰の皮膚なのか感触からわかるようになるのです。人間の感覚ってとても鋭いものなんですね。
感覚に良い意味で振り回されながら体験終了!あっという間でした。
藤井氏が「なにも知らない初対面の人たちが、体験後にハグをしたこともあった」と言っていたのも納得。同じ時間体験をした初対面の方に「ありがとう」という感謝の気持ちが終了時に沸きあがりました。
■体験者以外も楽しめる演出
《Neighbor》は、GRINDER-MANによる演出・振付、ダンサー 京極朋彦氏、花島令氏によるパフォーマンスアートとしても観覧できます。
体験者同士で手と手が触れ合ってびっくりしている様子や、困惑しながらもゆっくり持ち上がる手の動きは、一度しか起こらない奇跡的な瞬間なので、何度見ても飽きることがありません。
■メディア・アートの“昔と今と未来”をICCで知る
ICCでは、常設展「オープン・スペース」も一年ごとに変わります。開館20周年を迎えた今年の展示は、これまでのICCの20年を振り返りながら、これからのICCの未来を考える展示となっています。
今年度の常設展は2018年3月11日(日)まで。また、2017年12月9日(土)からは坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIMEが開催されます。(※)
ぜひ足を運んでみましょう!
※2018年3月11日(日)まで
テキスト:宇治田エリ
写真:丸山順一郎
【概要】
ICC 開館20周年記念イヴェント
藤井直敬+GRINDER-MAN+evala《Neighbor》
製作、監修:藤井直敬
構成、演出、映像:タグチヒトシ(GRINDER-MAN)
振付:伊豆牧子(GRINDER-MAN)
音楽、サウンド・デザイン:evala
出演:京極朋彦,花島令
照明:藤原康弘
SRシステム・デザイン:濱條貴光
衣装:中村実樹
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