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鑑賞者の人間性を問う社会派映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

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2018年4月7日


鑑賞者の人間性を問う社会派映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』


 

鑑賞者の人間性を問う社会派映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

 

 

第70回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』がアート業界で話題沸騰中だ。アーティスト本人を描いた作品は、今まで数え切れぬほど映画化されたが、本作はなんと主に美術館が舞台で、キュレーターが主人公なのだ。
監督・脚本は社会派で知られるスウェーデンのリューベン・オストルンド。アートの裏側をリアルに描きながら、人間の真価を問う衝撃の作品『ザ・スクエア 思いやりの聖域』をご紹介したい。

 

 

 

©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

あらすじ…

現代アートの美術館にキュレーターとして勤めるクリスティアン(クレス・バング)は、シングルファーザーだが、愛する娘たちを持ち、社会的に成功している。彼が美術館で次にキュレーションするのは『ザ・スクエア』という参加型のインスタレーション作品。その作品の上に立った者は「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」というコンセプトだ。PR会社は作品に対し、既に何度も扱われたテーマで、インパクトに欠けると訴える。そんなある日、クリスティアンは盗難に遭ってしまう。盗難のことで頭が一杯になってしまったクリスティアンは、PR会社の過激なプロモーションを熟考することなくOKを出してしまう。プロモーション動画は炎上、クリスティアンは謝罪を求められ、辞任に追い込まれる事態へ。さらに、スリの汚名を被されたと主張する少年が現れ、彼の人生は思いも寄らぬ方向へ進んでいく…。

 

 

 

 

 

 

加害者と被害者、当事者と傍観者 隣り合いながらも相反するものたち

 

 

 


©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

本作には権力と無力、個人と集団といった様々な対比が用いられている。
『ザ・スクエア』という隣人への優しさを問うアート作品を扱いながら、美術館の直ぐそばでは、ホームレス達の声に耳を傾けず闊歩する人々が描かれる。

 

 

 


©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

我々が「誰かが考えてくれるだろう、誰かが解決してくれるだろう」という他力本願に陥っていること、関係性は幾らでも反転する可能性があり、自分の意志とは裏腹に物事が進むことをリューベン・オストルンド監督はクリスティアンの人生で提示する。

 

 

 

「オルレアンのうわさ」と現代社会の共通項

 

 

 



©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

リューベン・オストルンド監督は社会心理学について深く追及している。オストルンド監督の長編作品『プレイ』(11・未)にもそれが見て取れる。
一つ、本作に似通った社会心理学の例をあげたい。「オルレアンのうわさ」だ。「オルレアンのうわさ」は1969年にフランスのオルレアンで起きた実際の事件だ。何人もの女性がユダヤ人の経営するブティックの試着室で誘拐され、売られたのだ。…実のところ、これは全くのデタラメで、行方不明者など一人も存在しなかった。しかし、噂が噂を呼びオルレアンの町は恐怖に陥る。

 

 

 


©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

約半世紀前の、デジタルデバイスがなかった時代の話だが、我々はインターネットという匿名性の高いコミュニケーション手段を手に入れ、ある種、常に混乱状態なのではないか。
映画の中でも、『ザ・スクエア』のプロモーションの為にPR会社が仕掛けた動画は、当初の目論見とは違う方向性へ転び、美術館は糾弾され立場が苦しくなる。不安な状況の中で更に不安を呼び込んでしまう、人間の本質はそう変わらないのだ。

 

 

 

利己的で狡猾な「クリスティアン」を誰しもが心の中に飼っている

 

 

 


©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

本作の主人公、クリスティアンは誰もが羨むような地位と権力を手にし、容姿も良く、自身のプレゼンテーションに長けた人物だ。しかし、それは表面的なものでクリスティアンの本質は利己的で、自己愛が強く、行動の基本は「自分にメリットがあるか否か」である。
その事実をミステリアスな美女・アン(エリザベス・モス)に指摘され、彼はアンを攻撃することで自分が傷つくのを回避する。

 

 

 


©2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 

 

 

『ザ・スクエア』というヒューマニズム溢れる作品を扱いながら、矛盾に満ちた行動を取る。しかし、ラスト間近、数多の困難に陥ったクリスティアンは、他者への共感能力を得る。ようやくスリの汚名を被せ、自尊心を傷つけた少年に対し、素直に謝罪したいと思うのだ。信頼や思いやり、…思いやりはまさにこの映画の副題だが、そこに人間が人間たる理由があるのだろう。
あなたの中の優しさの在り方を問う『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は、2018年4月28日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、立川シネマシティほか全国で順次公開。

 

 

 

【概要】
映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング、エリザベス・モス「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」、ドミニク・ウェスト『シカゴ』、テリー・ノタリー『猿の惑星』
2017年/スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作/英語、スウェーデン語/151分/DCP/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:THE SQUARE/日本語字幕:石田泰子
配給:トランスフォーマー 後援:スウェーデン大使館 デンマーク大使館 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/

 

 

 

テキスト:鈴木 佳恵

 

 

 

参考文献:オルレアンのうわさ エドガール・モラン 杉山光信訳 みすず書房

 

 

 

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Writer

鈴木 佳恵

鈴木 佳恵 - Yoshie Suzuki -

フリーランスの編集者。
広告代理店に勤務後、フリーランスに。
得意分野は映画と純文学。
タルコフスキーとベルイマンを敬愛し
谷崎潤一郎と駆け落ちすることが夢。

 

暇があれば名画座をハシゴしています。






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