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ネパールの辺境の城砦都市へ訪れる写真展 宮本隆司個展 「ロー・マンタン 1996」

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2017年9月11日

ネパールの辺境の城砦都市へ訪れる写真展 宮本隆司個展 「ロー・マンタン 1996」


ネパールの辺境の城砦都市へ訪れる写真展 宮本隆司個展 「ロー・マンタン 1996」

Ryuji Miyamoto, “Lo Manthang 1996”, 1996/2017, gelatin silver print, 40.4 x 50.9 cm © Ryuji Miyamoto / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

 


8月26日(土)からタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで、宮本隆司個展 「ロー・マンタン 1996」が開催されています。

 

宮本隆司さんは、建築解体現場を撮影した「建築の黙示録」(1986年)や、香港の高層スラム 九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)を撮影した「九龍城砦」(1988年)など、建造物や偶発的に生まれる建築群を被写体にしてきた写真家です。近年の廃墟ブームで、退廃的な美しさを捉えた作品集などが刊行されていますが、宮本さんの真摯な眼差しは、都市の変貌や崩壊、再生など、建築の周辺環境の本質までもあらわにします。

 

本展の作品のモチーフは、ネパール・ムスタンにある城砦都市。今回、初公開の18点が展示されると知り、ギャラリーにお邪魔しました。

 

 

◇中世の生活様式が残る、城砦都市

ロー・マンタンは標高3,780mの高地にある秘境で、1991年まで外国人の入城を拒んできました。都市の中心に王宮があり、周りにはさまざまな宗派の寺院と住居が、入り組むように建ち並んでいます。土壁は手で泥を塗り作っているものなのだとか。

 

ここでは城壁の周りで家畜を飼い作物を育て、電気、水道、ガスといった近代設備のない自給自足の生活を送っているといいます。城砦が残る都市や廃墟が残されている都市はあっても、生活様式は時代と共に変わっていくもの。まるでこの地域だけ、時間が止まっているかのようです。



Ryuji Miyamoto, “Lo Manthang 1996”, 1996/2017, gelatin silver print, 40.5 x 50.8 cm © Ryuji Miyamoto / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

 

 

会場では「宮殿」「寺院」「住居」と、エリアごとに展示されています。作品を覗き込むと、ノイズのように砂が舞う中に都市が佇んでいます。

 

実はこれらの作品は1996年に撮られたもの。宮本さんは詩人の佐々木幹郎さんに誘われたことをきっかけに、現地を訪れたそうです。24日間の旅の中で、現地での滞在時間はたったの9日間。この地域の交通手段は馬と徒歩しかなく、馬に大判カメラを積み移動したのだとか。

 

ギャラリースタッフの岡村万里絵さんに当時の宮本さんの撮影について質問してみました。

 

岡村さん:道中、宮本さんは高山病にかかり、頭痛とめまいに悩まされたと聞きました。まさに奥まった僻地にある都市へ撮影に行かれたのです。「まるで自分は幻の中にいるようだ。中世の姿がそのまま残されている」と、その風景に魅了されたそうです。


高地の厳しい気候の中で砂嵐が舞い、撮影はカメラの中に入った砂を取り除きながらのことだったとか。

 

Ryuji Miyamoto, “Lo Manthang 1996”, 1996/2017, gelatin silver print, 40.5 x 50.8 cm © Ryuji Miyamoto / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

 


このような僻地の都市は、外国人の入国が許されるようになっても、実際に滞在するのは難しいはずです。その点について伺いました。

 

岡村さん:宮本さんはNPO法人「ネパール・ムスタン地域開発協力会(MDSA)」の理事長 近藤亨さんの協力を得たことで、本来訪問者は城壁の外でテントを張るところをゲストハウスに泊まることができたのだそうです。

 

撮影に至るまでにも大変な工程があったのですね。

 

◇作者の撮影時の記憶と作品イメージの相違も、鑑賞の面白さ

写真家 宮本隆司さん

最後に宮本さんご本人に作品について、印象的なお話を伺うことができました。

 

宮本さん:撮影時、高山病で私は意識が朦朧としていました。21年振りに現像した作品を見ることで、当時の記憶がイメージとして蘇ってきました。その作品イメージは記憶とは全く違うものでした。道中様々な村を通る中で、ロー・マンタン以外の村も撮りましたが、撮影した350枚近くの作品の中で選んだのは、ロー・マンタンで撮った200枚のうちの18枚です。

 


作品と、撮影したご本人との記憶が異なると聞いてから作品と改めて対峙すると、砂嵐の中に現れた幻の地が起こした夢想の出来事のように感じられます。

 

ロー・マンタンは21年の時を経た今でも、電気は通っておらず13、14世紀の中世の暮らしがまだ残っているそうです。

 

宮本さん:簡単に行ける場所ではありませんが、機会があれば再訪して撮影したいと思っています。

 

 


Ryuji Miyamoto, “Lo Manthang 1996”, 1996/2017, gelatin silver print, 40.5 x 50.4 cm © Ryuji Miyamoto / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

 


作家の見た景色の記憶と作品との相違も、作品の面白さかもしれません。展示は9月30日(土)まで。アーティストの視点を通して、遥か遠方の都市に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 





テキスト・写真/石水 典子

 

【概要】

宮本隆司「ロー・マンタン 1996」

会期:2017年8月26日(土)-9月30日(土)

会場:タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム

URL: http://www.takaishiigallery.com/jp/archives/16693/

住所:東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 2F

tel:03 5575 5004

営業時間:11:00–19:00

定休日:日・月・祝祭日

 

 

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