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知らない人でも読めば行きたくなる!ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展

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2017年5月28日


知らない人でも読めば行きたくなる!ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展


知らない人でも読めば行きたくなる!
ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展

 

現在、多くの人が気軽に写真を撮る時代になりました。
SNSの投稿を見ても、カメラを始めてみたという人が多くいるように見受けられます。中には、プロ並みの写真の技術・知識を持つ人もいますが、「写真を撮ることが単純に好き。でも詳しくなくて…。」と写真に関してまだまだ初心者の方もいるのではないでしょうか。
私自身がそうです。感動する場面に遭遇すれば「この景色、素敵!」「この瞬間を写真に撮りたい!」と心が揺さぶられますし、誰かのSNSや写真集を見て「この写真、なんかいいなー。」という気持ちにもなります。でも、胸を張って「写真を撮っています!」とは言えないのです。

 

そんな私が、「写真家 ソール・ライター展」を見に行きました。
展覧会パンフレットの作品を見て、「なんか、すごく好きな感じ」という「感じ」を受け取ったからです。これがその写真です。

 


“ソール・ライター 《雪》1960年 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 ©︎ Saul Liter Estate

 

今回の記事で、私が知った情報や感覚を共有することにより、私と同様に写真にまだ不慣れな人でも、展覧会に足を運んでみたくなるようなコンテンツをお届けできればと思います。

 

 

 

★伝説の写真家

 

彼がどのような経歴を持っているのか、その大まかな足跡を追っていきましょう。

 

「1950年からNYのファッション雑誌で活躍していたソール・ライター。写真界で脚光を浴びるようになったのは、2006年にドイツのシュタイデル社によって出版された作品集『Early Color』でした。」

 

こうした説明でつまずいてしまうのは、知らない用語が出てくるからだと思います。そんな方のために補足すると、シュタイデル社は、アートブックだけでなく、様々なジャンルの本の編集、印刷から出版まで全ての工程を総合的に手がける有名な出版社です。そこから作品集を出す、というのは非常に名誉なことなのです。

 

「この時、ソール・ライター83歳。1980年代に商業写真の世界から姿を消し、その間に撮影されながらも現像に至っていなかった数多くのカラー写真が世界突如現れ、大きく写真界が揺さぶられた。」

 

素晴らしい作品群が今まで長年に渡り眠っていたことの驚嘆はどれほど大きなものだったことでしょう。彼がどうして「伝説」と呼ばれるのかこの情報だけでも、わかる気がします。

 

「日本でも、2015年に公開されたドキュメンタリー映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』により、その名前が瞬く間に広がった。」

 

この映画を観賞した人にとって、この回顧展は待望の展覧会だったことでしょう。

 

 

★商業写真を撮るソール・ライター

 

彼の写真の多くを知らない私は、「パンフレットで見た写真はどこにあるのかなー。」と胸を躍らせながら、展覧会に足を踏み入れました。まず、目に飛び込んできたのは、彼が活躍していたファッション雑誌『Harper’s  Bazaar』での写真でした。

 


ソール・ライター 《カルメン、『Harper’s Bazaar』》 1960年頃 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 ©︎ Saul Leiter Estate

 

 

 

彼の写真は「より内省的で、一般的には日常の中で見過ごされる一瞬のきらめきをとらえた『都会の田園詩』ともいえる。」(展覧会資料より)と記されていました。確かに「美しい」写真ではあるものの、モデルの美しさが引き立つように華やかさを演出しているような作品ではありません。「そこにあるものはそのままで美しい」ということを鑑賞者に今一度思い出させてくれる、その一瞬を独特の角度で切り取ったという印象を感じました。

 

 

 

この当時、雑誌『Harper’s Bazaar』では、彼の他に「リチャード・アヴェドン」が有名だったという話を聞きました。早速、帰宅後、調べてみると、艶やかで華麗な美しさを際立たせた作品を目にすることができました。こうした写真が評価される一方でソール・ライターも注目されていたということです。ソール・ライターの写真の雰囲気を比べてみても面白いかもしれません。

 

ちなみに、作品の中には、彼の長きに渡るパートナーのソームズ・バントリーを撮影したものもありました。彼がどんな性格の人で、どのような生活をしていたのか…。興味が湧いてきました。

 

 

★ソール・ライターの性格とライフスタイル

 

展覧会の資料には、「ソール・ライターは、『自分を売り込む』ことをその美意識が許さなかった頑なな性格だ。」と記されていました。それが、カラー写真が世に出るまでに時間がかかった所以でもあるそうです。 2つ目の展示ブロックには、ストリートで撮影された数多くの写真が展示されており、その中で特に彼の性格が良くわかる作品がこちらです。

 

 

街ゆく人の背中から撮られた写真、さらにその上には、彼の言葉がありました。
「人の背中は正面より多くのものを彼に語ってくれている。」

 

私は、この時、人との距離感が写真の中に現れることを知りました。
スタジオが閉鎖され、ファッション雑誌から遠のいた後の彼は、NYの芸術家が集まっていた街イーストヴィレッジで、自身の作品を生み出す生活に満足していたといいます。また、彼には画家としての顔があることも知りました。小さい頃から独学で、絵を描くことに夢中になっていたそうです。本展では彼の絵画作品やアトリエの様子も展示されています。

 

 

 

 

 

 

写真を撮る、絵を描く、その行為自体が彼の心を満たしていたのかもしれません。

 

内省的で、繊細だけれどもこだわりが強く、社交性が強くはないけれど、安定した関係の中では人とつながり、日々のルーチンワークを大切にして生活をする、そんな人物を想像しました。

 

続いて、彼の写真の特徴に目を向けたいと思います。

 

 

★写真の特徴

 

 

2つ目の展示ブロックでは、ストリートで撮影されたモノクロの写真、その後3つ目のブロックでは、カラー写真が展示されていました。(その後に絵画、ヌード、と続いています。)
<構図><色彩>からみる彼の写真の特徴を整理したいと思います。

 

<構図>
どの写真にも感じ取れる大きな共通点は、何か他の物越しに対象をとる構図です。これは、写真の知識がなくても並んでいる写真を見ると一目瞭然なので、私でもすぐにわかりました。パンフレットで見た写真以外にも似たようなエッセンスがある写真に、目を奪われてしまいました。

 

いくつかご覧ください。

 

 

 

 

 

 

窓のこちら側から1枚隔たり越しに向こう側を撮っている写真。
大きな鉄橋の棒が手前にあり奥に広がる人たち。
どこかの隙間から見えた切り取られた世界。
タクシーの中からみた外側。
傘や看板の下から覗いて見える世界。
窓についている霜や降り止まない雨や雪の中の溶けるように見える人々。
街の中にあるネオンや信号の光とそこを横切る黒い影。

 

 

これらの構図感覚は、絵画を学ぶ中で手に入れた技術なのかもしれません。
特に、強く感じたのは、これらの構図から表現される「内側と外側」あるいは、「こちら側と向こう側」そして「消えるもの、見えるもの」です。
パンフレットで見た作品も鑑賞することができました。

 

 

同じ大通りでも、そこ歩いた時に見える世界の感覚と、電車や車の中から見た時の感覚が違う体験をした人もいるでしょう。また、子どの頃、紙を筒状にして覗き穴のようにして景色を見たことありませんでしたか。普通に景色を眺めてみた時と同じ景色なのにまた違って見えたと思います。

 


ソール・ライター 《足跡》1950年頃 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 ©︎ Saul Liter Estate

 

この写真を見た時、雪の日に暖かい部屋の窓から降る積もる通りを眺めるとスノードームの中にいるような切なくて愛しい感覚になることを思い出しました。

 

日常の風景をこうした「隔たり」「儚さ」のある世界の見え方に、美しくそして大胆に切り取られている作品に感動しました。当初パンフレットを見て好きな「感じ」を受け取った理由がここで明確になりました。

 

<色彩>
色彩の美しさもまた彼の魅力の1つであることが、この展覧会の解説からも理解できました。
そもそも芸術作品としてのカラー写真は、1970年代にようやく評価されるようになったとのことです。耳にしたことあるかもしれませんが、ニューカラーというカラー写真の表現を取り入れた新しい写真家たちの流れがこの時代に生まれました。
ソール・ライターの写真集『Early Color』で撮られた写真は、1940〜60年代。
カラー写真が主流となった時代よりも随分と前から撮っていたということです。
時を経て、現在のデジタルによって、忠実に彼のカラー写真が現像され、二ユーカラーの前からこんな素晴らしいカラー写真が存在していたとは!という驚きの中で今脚光を浴びているわけです。

 

鑑賞している時、1つのことに気づきました。それは、どの作品も「黄色」「赤」が目に入るのです。

 

 

 

 

この時代のアメリカの街がそうした色にあふれていたとも考えらます。しかし、信号にはきっと青もあったはず。それに、綺麗な青空が入っている写真もほぼありません。その2色にこだわった理由は、想像することしかできませんが、黄色と赤に加えて、少しくもりのかかったグリーンも多いように感じます。

 

このグリーンどこかで見た色に似ているなと思っていた時、1つの解説が目を引きました。そもそも絵画作品も扱っていた彼は、ナビ派芸術家ボナールヴュイヤール敬愛しており、さらには、 ジャポニスムへの関心も高かったといいます。ナビ派というのは、ゴッホやゴーギャンなど後期印象派の後の19世紀末のパリで、ゴーギャンの言葉に賛同した芸術家たちのグループです。
(ナビ派の展覧会レポートもこちらにありますので、もし興味のある方はご覧ください。http://girlsartalk.com/feature/24784.html

 

どこかで見たと感じたあのグリーンの色はおそらくナビ派の展覧会で感じた色の感覚と通じるものがあったからだと気づきました。どの作品もビビットすぎない、それでいてどこか、ハッと気づかされるような日常の中に潜んでいる鮮やかで落ち着く色。

 

 

 

大胆な構図も色彩も、画家としての顔があった彼だからこそ表現できたのかもしれません。

 

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《東57丁目41番地で撮影するソール・ライター、2010年》(撮影:マーギット・アーブ)©︎ Saul Liter Estate

 

さあ、ざっと「写真家 ソール・ライター展」をご紹介しましたが彼の魅力が伝わりましたでしょうか。
写真の歴史に詳しくない人、いつもは絵画の展覧会しか行かない人も、ちょっとのぞいてみたいかも?という気持ちになっていただけたら嬉しいです。

 

そこにある日常が物語性を帯びてふわっと胸に降り立ってくるスナップ写真。見え方を意識して視点を変えることで、日常の中に潜む「美しさ」を、こんなにも鮮やかに私たちの胸に5感を通して教えてくれる。それが、写真の素敵な所だと改めて教えてくれた「写真家 ソール・ライター展」でした。

 

 

文:Yoshiko  写真:丸山順一郎

 

 

展覧会情報 
「ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展」
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2017年4月29日(土・祝) – 2017年6月25日(日)
開館時間:10:00~18:00(毎週金・土曜日は21:00まで) ※入館は各閉館の30分前まで
休館日:6月6日(火)
観覧料:一般1400円、大学生・高校生1000円、中学生・小学生700円
HP:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_saulleiter/

 

 

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Writer

Yoshiko

Yoshiko - Yoshiko -

東京都出身。中高は演劇部に所属。大学、大学院と心理学を専攻し、現在は臨床心理士(カウンセラー)として、「こころ」に向き合い、寄り添っている。専門は、子どもへの心理療法と家族療法、トラウマや発達に関することなど教育相談全般。

子どもの頃から読書や空想、考えることが大好きで、その頃から目に見えない「こころ」に関心があり、アートや哲学にも興味をもつ。

内的エネルギーをアウトプットしているアートと沢山携わりたいとgirlsartalkに参加した。昨年はゴッホ終焉の地であったオーベルシュルオワーズを訪れるため、パリに一人旅をし、様々なアートを見てまわる。






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