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アートオタクな天使のスパルタ鑑賞塾~横浜美術館編~

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2017年5月17日


アートオタクな天使のスパルタ鑑賞塾~横浜美術館編~


アートオタクな天使のスパルタ鑑賞塾
~横浜美術館編~

 

 

アートを勉強しようとひたむきに頑張るアートガール“まる”の前に現れた、アートオタクな天使こと“ぷさ”。アートへの愛が強すぎるあまり、手厳しいことを言いすぎて、まるに嫌われてしまう。

 

第1話:国立博物館編
第2話:東京国立近代美術館編

 

 

ぷさ天使は、まると仲直りすることができるのか!? 今回は、横浜美術館を巡る。

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重厚すぎるモダニズム建築
 

 

ぷさ
さて今日は、横浜美術館だ!
まる
あ、ぷささん。今回も来てたんですね、少しは反省してくれましたか?
ぷさ
うぅ……こないだは、その……。
まる
ぷんっ、もういいですよう〜。じゃあ早速、今回の横浜美術館の建築について教えてください!
ぷさ
そっ、そうだな。これは戦後のモダニズム建築を牽引した丹下健三の設計だ。特に有名な建築には、国立代々木競技場なんかがある。
まる
モダニズム建築ってもっとオシャレなイメージでした。丹下建築ってこんなにどっしりとした造りなんですね。
ぷさ
いや、こんなに重厚な丹下の建物は珍しいね。他の丹下建築である、広島平和記念資料館本館、東京都庁、フジテレビなんかと比較してみると良いかもしれない。
まる
へぇ~、有名な建物を色々作っているんですね!……ん? 何かこの建物、オルセー美術館の内観、グランドギャラリー似てませんか?

 


https://ja.wikipedia.org/wiki/オルセー美術館、より転載

 

ぷさ
そう言われることもあるらしい。でも、横浜美術館が1985年着工(89年開館)オルセー美術館は1986年に開館しているから、参考にはできなかったはず。
まる
すごい偶然ですね! 中はどうなっているんですか?
ぷさ
展示室が全部で7室あって、企画展3室とコレクション展(常設展)4室に分かれている。横浜美術館の建築は“導線”が本当に素晴らしいんだ!
まる
導線、ですか……?

 

 

 

ぷさ
うん。企画展からコレクション展までが自然に続いてるでしょ?これまで取材してきた東博や東近美は、企画展と常設展が分かれているから企画展だけ見る人も多いよね?
まる
確かに常設展はいつでも見られるから、わざわざ見なくてもいいかなっていう気はしちゃうかも……。
ぷさ
そうなんだよ。でも、ほんとうは美術館は所蔵作品を見せる常設展がメインの場所なはずだよね。その意味では、横浜美術館は理想的な設計になっているね。

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~写真の町、横浜ならではの展示~

 

まる
写真専門のギャラリーがあるのも珍しいですね。。
ぷさ
良いところに目を付けたな。横浜は日本の写真興隆期における一大拠点のひとつだったいうことで、写真のコレクションに力を入れてきたんだ。
まる
横浜って、写真の街なんだ。知らなかった!
ぷさ
地域に根ざした横浜美術館の特徴だよね。いま展示中の「日本のピクトリアリズム」でも珍しい作品が見られるよ。たとえば、油絵で描かれたミレーの風景画のように、日本の田園風景をカメラで撮影しているみたいだね。自然→写真ではなく、自然→絵画→写真となっているところがが奇妙でちょっと可笑しいよね(笑)
まる
そう言われると、不思議ですね(笑)
ぷさ
風景写真なのに「絵画」が基調にある姿が面白いね。でも、自然が直接のモチーフにならないことで見えてくる自然の姿があるのかもしれない。近すぎては見えないし遠すぎても見えない。カメラは、その距離を測る装置として使われていると思うな。

 

 

 

▲マン・レイのポートレイト集

 

ぷさ
横浜美術館の写真コレクションと言えば、やっぱりマン・レイも代表的な作家のひとりだよね。
まる
わたしもマン・レイのポートレイトは大好きです!
ぷさ
よしっ!。彼はシュルレアリスム=超現実の作家だけど、むしろシュルレアリスムのほうが現実で、現実のほうがリアルのコピーなのかもしれない、と思ったことはない?
まる
どういうことですか?
ぷさ
少なくとも、ぼくたちはこのポートレイトに写っている人の顔を現実に見ることはできないよね。だって彼らはもう死んでいるから。だとすると、ぼくたちにとってはマン・レイの写真のほうが現実になる。
まる
何か混乱してきました……。
ぷさ
マン・レイの写真は現実よりも美しいってことだね。

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~ミロとセザンヌ、まずは巨匠たちから~

 

 

▲ジョアン・ミロ「花と蝶」

 

ぷさ
まずは巨匠たちの作品から行こうか。最初は、ジョアン・ミロの「花と蝶」だ。
まる
えっ、これがミロの絵ですか? 何かもっと抽象的というか宇宙みたいな絵のイメージでした。
ぷさ
初期のミロの作品は写実的だったんだ。でも、やっぱりミロの世界観は出ているね。ほら、花瓶の柄や、その下に敷かれたマットの柄からは宇宙的な空間が感じられるでしょ?
まる
確かに……!
ぷさ
この絵でも花という自然を描いているけど、考えてみればミロの抽象的に見える宇宙も自然だよね。こんな初期の作品はオレも初めて見たよ。これを日本で見られるのはすごく貴重なんだ。

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▲ポール・セザンヌ「ガルダンヌから見たサント=ヴィクトワール山」

▲ポール・セザンヌ《ガルダンヌから見たサント=ヴィクトワール山》1892-95年、油彩、カンヴァス、73.0×92.0cm Paul CÉZANNE, Mont Saint-Victoire Seen from Gardanne, 1892-95, oil on canvas, 73.0×92.0cm

 

▲ポール・セザンヌ《ガルダンヌから見たサント=ヴィクトワール山》1892-95年、油彩、カンヴァス、73.0×92.0cm Paul CÉZANNE, Mont Saint-Victoire Seen from Gardanne, 1892-95, oil on canvas, 73.0×92.0cm

 

ぷさ
次は、セザンヌだ。これ、何を描いたものかわかるかな?
まる
これはわかりますよ! サント・ヴィクトワール山です!
ぷさ
正解! セザンヌはすごいよねぇ、何がすごいかって、誰が見ても同じはずの山を、セザンヌにしかできない表現で描いたことだね。だから、できあがった絵画には、セザンヌ自身が見たもの、セザンヌ自身の目、セザンヌの身体が含まれている。
まる
え? どこどこ?
ぷさ
違う違う! もちろん直接は描かれていないけど、ぼくたちの体も自然だということを教えてくれると思う。僕たちはセザンヌ自身の姿を見ることはできないし、触れることもできない。絵を見ることしかできない。その矛盾のようなものに挑戦したのがセザンヌだと思う。少なくともその挑戦の痕跡が見える。だから、セザンヌはサント・ヴィクトワール山を描いたとも言えるし、サント・ヴィクトワール山と共に描いたとも言える。極言すれば、セザンヌはセザンヌという人間自体の自然を描いたのだと言えるかもね。
まる
……何か、今日のぷささん、随分とエモいですね。
ぷさ
やっと気づいたか。オレはエモ系だ。
まる
キモかわいい系だと思ってた……。

 

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~海外で活躍した日本人たち~

 

▲長谷川潔の「庭(仏陀の顔と)」

 

ぷさ
次は、若くしてフランスに移住した長谷川潔の「庭(仏陀の顔と)」。彼は、戦時中に敵国人として差別され苦労しながらも一度も帰国しなかった版画家なんだよ。
まる
わぁ、庭園に大きい仏頭があって、何だか不気味ですね……。
ぷさ
おそらくパリの東洋的な庭園の風景なんだろうね。外国から見た日本、“The Japonism”と通ずるものを感じるね。
まる
でも、彼も日本人なのに、この風景に違和感はなかったのかな?
ぷさ
違和感があったから描いたんじゃないかな。この“不自然な東洋”を日本人が描くことの奇妙さに本質を見ていたのかも。だからこそ、長谷川はパリに住み続けることができたように思う。長谷川はフランスに同化されることなく、最後まで日本人でいることができたんじゃないかな。
まる
確かに海外生活が長いと、日本人らしさみたいなものを忘れてしまいそうなのに、すごいなぁ。

 

 

 


▲長谷川潔《薔薇と時》1961年、メゾチント、35.3×24.3cm

HASEGAWA Kiyoshi, Rose and Times, 1961, mezzotint, 35.3×24.3cm

 

まる
これも、長谷川潔の作品ですか?
ぷさ
そう、長谷川潔の代名詞は、「マニエール・ノワール(フランス語で黒の技法)」と呼ばれる特別な技法だ。メゾチントといって、版面にベルソーという道具で無数の傷をつけてインクを絡みやすくすることで真っ黒にするんだ。
まる
今考えただけで、気が遠くなりそうでした……。
ぷさ
でしょ?さらに、その傷やささくれを道具を使って削ったり、磨いたりすることで明るくしたい部を白く抜くいう技法なんだ。東京国立近代美術館編でも紹介した藤田嗣治が乳白色の“白”なら、長谷川潔は“黒”で有名になった
まる
黒の長谷川潔。クールですね!
ぷさ
フランスでも忘れ去られていた技法を復活させた「黒の衝撃」と呼びたくなるな。ちょうど企画展示室でファッションの展覧会が開催されているけど、コム・デ・ギャルソンの川久保玲やヨウジ・ヤマモトの「黒の衝撃」が、版画界では長谷川潔だったって言えるかもね!

 

まる
ぷささんの白い服もパリコレ?!(笑)
ぷさ
天使界のユ○クロです。

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▲岡田謙三「灰色の静物」

 

ぷさ
次は、アメリカで抽象表現主義の作家として成功した岡田謙三の「灰色の静物」だよ。これはアメリカに行く前の作品なんだけど、めちゃくちゃに上手いね。
まる
ぷささんがこんなに褒めるの、珍しい。
ぷさ
日本で初期作品を観る機会が少ない作家だから、ちゃんと見たことがなかったんだけど、こんなに上手いとは思わなかった。色、構図、パースペクティブ、マチエール(質感や効果)などなど、あらゆる点で絵画として優れている。
まる
もっと具体的に言うと、どこがいいんですか?
ぷさ
抽象画なんだけど静物のかたちがはっきりと分かるでしょ? こういう塩梅が分かっている点で岡田は秀でている。抽象表現主義は、芸術の都パリからニューヨークがその地位を奪ったと言われるほど影響力のあった動向なのね。その中で日本人作家がこれほどの実績を残せたのはダントツでうまかったからだと分かったよ。
まる
アメリカに渡った後も、こんな感じの作風だったんですか?
ぷさ
大きくは変わっていないけど、より幾何学的な作風に変わったんだ。最後までこういう静物画も描いて欲しかったな。とは言え、その他の作品でも岡田謙三は抜群にうまいね。

 

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▲丸山晩霞「題名不詳[夏の山岳風景]」

 

▲丸山晩霞《題名不詳[夏の山岳風景]》制作年不詳、水彩、紙、67.8×50.3cm、小島豊氏寄贈(小島烏水旧蔵)

MARUYAMA Banka, Title Unknown (Mountains in Summer), n.d., watercolor on paper, 67.8×50.3cm, donated by KOJIMA Yutaka (former collection of KOJIMA Usui)

 

▲丸山晩霞《題名不詳[夏の山岳風景]》制作年不詳、水彩、紙、67.8×50.3cm、小島豊氏寄贈(小島烏水旧蔵)

MARUYAMA Banka, Title Unknown (Mountains in Summer), n.d., watercolor on paper, 67.8×50.3cm, donated by KOJIMA Yutaka (former collection of KOJIMA Usui)

 

 

ぷさ
次は、丸山晩霞(まるやまばんか)の作品だ。
まる
初めてみる作家さんです!
ぷさ
この絵が描かれた1880年代当時、日本には水彩画がなかったし、外で描く習慣もなかったんだ。そこに外国人たちがやってきて、講演会などで啓蒙したら、油彩しか知らなかった若い画家たちが熱狂しちゃった。みんなこぞって山に登って“日本の風景”を見つけようとしたの。
まる
山ガールみたいですね。
ぷさ
そんな感じ(笑)。でも、日本の景色と言えば北斎などの「名所絵」しかなかったことを考えれば、熱狂するのも無理ないよね。“自分の景色”を自分で見つけていい、って言われているんだから。
まる
確かに……あの、全然関係ないんですけど、この作品って、宮﨑駿監督の「もののけ姫」の最後の場面に似ていませんか?
ぷさ
おっ、まる、目が肥えてきたんじゃないか? 実は、俺も同じことを想っていたんだ。宮﨑駿も絵コンテの前に水彩画でイメージを作っているし、日本の風景の原点は水彩画にあるのかもしれない。それにしても、俺ら気が合うな!
まる
まぁ、8割方の人が同じことを想いそうですけどね。
ぷさ
の、残り2割に入らなくて良かったよ……。

 

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▲須田悦弘「ガーベラDrawing」

 

まる
わぁ~、これかわいい! でもこれ、スケッチブックの紙に描かれてる?
ぷさ
そう、これは教師のご夫妻が集めてた現代美術のコレクションの1つで、横浜美術館に寄贈されたものなんだけど、愛が伝わってくるよね~。
まる
丁寧には描かれているけど、展示を想定して描かれたものじゃなさそうですもんね。
ぷさ
うん、こういうスケッチやドローイングにこそ、作家の本質が出るよね。彼はすごく丁寧な人だ。それに、コレクターがこの作品を愛していたことがすごく伝わってくる。寄贈者の名前とともに大事に伝えていきたいね。

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西洋のエッセンス入りの、独特の日本画


▲小林古径「草花(カーネーション)」1935年

 

ぷさ
さて、今回のコレクション展の目玉である、日本画だ。原三溪が支援した作家たちも多く並んでいるんだけど、日本画とはいえ、西洋の絵画も研究している作家たちだけに伝統的な絵画をどう近代化させていったかをうかがわせて興味深いね。

 


▲小林古径「草花(カーネーション)」1935年

 

まる
確かに、どことなく洋画っぽさがある。
ぷさ
そう、そして、この斜めの構図の思い切りの良さ!!!文句なし。重力で頭を下げるカーネーションの花。それに対して、自由にくるくると踊る葉っぱ。しかもよく見ると、花は一つもこちらを向いてないのね。
まる
花の絵にしては珍しいかも。
ぷさ
太陽の向きが関係しているのかもしれない。カーネーションというと愛の花だよね。 最近は母の日に送る花になってるけど、この絵の花は重いものを抱えながらも働き続ける母の姿なのかもしれない。腰が曲がった老婆にも見える……うーん……。

 

まる
ぷささん、そのわけのわからないロマンチストさ、わたしポイント1!
ぷさ
あっ、えっ、ありがとうございます!?!?
ぷさ
よしっ、ポイントgetだぞ♡

 

 

ぷさ
次は、同じ部屋の掛け軸の解説だ。これも、西洋画の影響を受けているね。有名な下村観山も西洋に留学して模写の練習をしたりしているよ。
まる
うん、何ていうかモダン。
ぷさ
そう、日本画の精神は実はとても現代的な精神だった。洋画が輸入だとすると、日本画はその洋画の輸入を受けて近代に発展したものなんだ。中でも、今村紫紅は輪郭線のぼかしかたなどに、洋画の影響がかなり強く見られるね。
まる
日本画みたいにクッキリしていない。
ぷさ
構図は必要以上に単純にしておきながら、質感は油絵の具みたいだね。でも、線のぼかし方はとても日本的というか山水画的だ。こういうハイブリッドを軽快に表現できたのは今村紫紅の特殊性だね。

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おわりに

 

その他にもみどころ色々の横浜美術館。ちらっと作品をご紹介します。

▲小茂田青樹《ポンポンダリヤ》1922年、絹本着色、78.9×56.0cm

OMODA Seiju, Pompon Dahlias, 1922, color on silk, 78.9×56.0cm

 

 

 

今回の展示室に合わせて作品を再構築した菅木志雄の作品。アスレチック公園みたいで楽しい。
5月21日(日)14:30から管さんご本人によるアクティベーションがありますよ。

 

ヘンリー・ピーチ・ロビンソン《ポートレートの習作》1873年、アルビュメン・シルバー・プリント、56.0×40.5cm

Henry Peach ROBINSON, Portrait Study, 1873, Albumen silver print, 56.0×40.5cm

 


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ぷさ
ふぅ~、何か喋り疲れたな……。

 

 

まる
ねぇねぇ、ぷささん。
ぷさ
ん?

 

 

まる
今日はありがとうございました。またアート、教えてくださいっ。

 

ぷさ
まる……こちらこそ、よろしくね。

 

凸凹コンビのまるとぷさ。2人のアート探訪はどこまでも続く……。

 

 

 

 

文:佐々木ののか  写真:吉澤威一郎  

出演:花房太一、新井まる

 

 

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花房太一 HANAFUSA Taichi

美術批評家、キュレーター。1983年岡山県生まれ、慶応義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院(文化資源学)修了。牛窓・亜細亜藝術交流祭・総合ディレクター、S-HOUSEミュージアム・アートディレクター。その他、108回の連続展示企画「失敗工房」、ネット番組「hanapusaTV」、飯盛希との批評家ユニット「東京不道徳批評」など、従来の美術批評家の枠にとどまらない多様な活動を展開。 ウェブサイト:hanpausa.com



Writer

佐々木 ののか

佐々木 ののか - Nonoka Sasaki -

1990年北海道生まれ。物心ついた頃から本に囲まれて育つ。 3歳から習っていた英会話を活かして、大学は国際系の学科に進学。在学中には1年間フランスのボルドーへ留学し、社会学を専攻した。卒業後は某メーカーに就職するも1年で退職。以後、フリーライターになり、現在に至る。英語と仏語は話せるが、全く活かせていない。

アートの知識はほとんどなく、ただいま絶賛勉強中。書くもののジャンルは、ポップな案件から固めのインタビュー、エッセイまでと幅広い。共感性の高い文章を書くのが得意。好きなものはお酒と本とタイ料理。(Twitter@sasakinonoka)

 
 





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