ホイッスラー展×国際音楽祭NIPPON×girls Artalkスペシャル[後編]
「19世紀ロンドン――美術と音楽の親密な関係性」アートツアーレポート
昨年12月より横浜美術館で開催中の「ホイッスラー展」、もうご覧になりましたか?
ホイッスラー展×国際音楽祭NIPPON×Girls Artalkスペシャル[前編] 内覧会レポート「心のひだにそっと染み入る――ホイッスラー、色と形のハーモニー」
girls Artalkでは、「ホイッスラー展」と「国際音楽祭NIPPON」の美術館コンサートの両方をより深く楽しめるアートツアーを開催。
前編の内覧会レポートを担当した高野麻衣さんによるトークや、学芸員の片多祐子さんによるガイド、そして開放的なグランドギャラリーでのクラシックコンサート。19世紀ロンドンへの時間旅行を、参加者の内山美代子さんにレポートしていただきました。写真とともに、すてきな土曜の午後を振り返りましょう。
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横浜美術館で行われた、ホイッスラー展×国際音楽祭NIPPON×girls Artalk「19世紀ロンドンがわかる横浜アートツアー」に参加しました。音楽的な美の世界を描き出そうとしたホイッスラーの展覧会にあわせ開催されたこのイベントでは、美術と音楽を一緒に楽しむことができました。
ツアーはお茶会形式のサロンレクチャーから始まりました。
まずは、片多祐子学芸員の「ホイッスラー展鑑賞前レクチャー」。印象派の画家たちとの交流、唯美主義、ジャポニズムなど、画家の様々な側面を伺いました。
特に面白かったのは、画風の変遷。写実主義に傾倒していた時期と、そこから離れて色や形を重視するようになった時期、それぞれの風景画。図版を並べて解説されると、違いがはっきりわかります。
次に、高野麻衣さんの「音楽にあこがれた画家と19世紀ロンドン」。
ホイッスラーの生きた19世紀ロンドンの文化史や、当時の英国の音楽をとりまく状況のお話です。当時のロンドンのキーワードとしてあげられた「ダンディ」が素敵でした。
可愛らしい黄色の花びらがのったケーキや紅茶を味わいながら、面白いお話を聞き、贅沢な気分に。
高野さんから演奏される曲の解説を聞いた後、コンサートへ。クライスラーのウィーン奇想曲にうっとりしました。
そして、ホイッスラー展を鑑賞。観賞前は《白のシンフォニー》シリーズ(ホワイト・ガール)が観たくて仕方なく、それも勿論素晴らしかったのですが、《ノクターン:青と金色―オールド・バターシー・ブリッジ》に心奪われました。しばらく、その前に立ち尽くすほどに。
また、鑑賞前のレクチャーでも登場した、ホイッスラーのパトロンであり、その芸術の理解者でありながら、ある事件により袂を分かつことになった、富豪レイランドをもっと知りたくなりました。高野さんによると、「レイランドは音楽好きで、ホイッスラーが作品タイトルに“ノクターン”など音楽用語を用いるようになったのも彼の影響かも」とのこと。
この日、横浜美術館では、コンサートが2回ありました。
ホイッスラー展の後、コレクション展を鑑賞していたのですが、その時ちょうど次の回のコンサートが始まったのです。
小林清親の明治の浮世絵、川瀬巴水の大正の浮世絵を観ながら、聴こえるのはブラームス。
ホイッスラー展では江戸の浮世絵が並んでいたことを、想いました。
英国とフランスを行き来したホイッスラー。音楽と美術の交錯。作品にみる、日本の浮世絵や工芸品の影響。浮世絵を通して、江戸から明治・大正へ。そして、また音楽を通して西洋へ。「美術館」というひとつの空間の中で様々な場所へ旅をした、贅沢な午後でした。
音楽に深い愛着を示す画家がいるように、美術作品に着想を得て音楽が制作されることもあります。
コンサートを聴いている時、ドビュッシーの「私は音楽と同じくらい、絵画を愛している」という言葉が頭に浮かびました。かの音楽家の言葉を借りれば、私は美術が好きで、同じくらい音楽が好きです。ですからツアーの中で、折にふれ美術と音楽の親密な関係性を感じ、嬉しくなりました。
このところは、美術に熱中するあまり、音楽に触れる機会が幾分減っていたのですが、これからはもっとコンサートにも足を運ぼう、そんな風に思いながら帰路につきました。
【インフォメーション】
ホイッスラー展 (公式サイト)
横浜美術館 (〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)
2014年12月6日-2015年3月1日
構成:高野麻衣
文:内山美代子
写真:チバヒデトシ