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ゴッホと彼を取り巻く芸術の世界に浸る「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」が開催中!

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2023年11月12日

ゴッホと彼を取り巻く芸術の世界に浸る「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」が開催中!


ゴッホと彼を取り巻く芸術の世界に浸る「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」が開催中!

 

17世紀オランダから20世紀初頭までのヨーロッパの静物画の流れに、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)を位置づけ、彼が前人から学び、自身の作品にどのように反映させ、さらに後続の画家たちにどのような影響を与えたのか。それらを明らかにする展覧会「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」が、SOMPO美術館(東京・西新宿)で2023年10月17日(火)から開催されている。

 

ゴッホは生涯に油彩画850点を制作しているが、その中でも静物画はおよそ170点。彼は主観的な視点で描いた静物画を通じて、独自のスタイルを確立しました。本展では、ゴッホの作品25点、特に《ひまわり》と《アイリス》をはじめとする作品が展示され、彼から学び、彼に影響を受けたモネ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌ、ヴラマンクなどの画家たちの静物画も展示されている。

 

また、この展覧会では「ひまわり」に焦点を当てたセクションも用意されており、ゴッホ自身や他の画家による「ひまわり」を描いた作品が展示され、なぜこの主題が彼らにとって魅力的だったのかを探る。SOMPO美術館蔵のゴッホの代表作《ひまわり》とオランダ ファン・ゴッホ美術館蔵の《アイリス》が並ぶまたとない空間に、作品の前の長椅子に座って、ゆっくりと観賞に浸ることができる。本展の作品の大部分が撮影可であることも嬉しい。

 

本展は、元々2020年に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大により中止され、3年の時を経てようやく実現する運びとなった。本展ではゴッホの静物画を中心に、彼の時代以前や同時代、その後の時代の作品との比較が行われている。以下、簡単にテーマごとに紹介する。

 

 

伝統

ピーテル・クラース 《ヴァニタス》(1630年頃) クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー
© 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

 

展示会に足を踏み入れると、17世紀の《ヴァニタス》とゴッホが1887年に描いた《髑髏》という、メメント・モリ(死の戒め)の要素を持つ作品が最初に目に飛び込んでくる。

 

ヨーロッパの美術史において、静物画が絵画のジャンルとして確立されたのは17世紀のこと。ネーデルランドやフランドル(現在のオランダとベルギー)の市民階級が隆盛し、経済的に発展したこの時代には、身の回りの品々から富の象徴である山海の珍味、希少な工芸品、高価な織物などが描かれた。他方で、砂時計や燃え尽きた蝋燭、頭蓋骨など、人生のはかなさや死を象徴する要素を寓意的に描いた作品も制作され、人々に警鐘を鳴らす作品も。

 

ゴッホは当初、人物画家を志していたが、油彩技術の向上のために静物画を「習作」として取り組んでいた。《麦わら帽子のある静物》は、ゴッホが油彩画に取り組み始めた初期の作品であり、その技術の発展を示すものとなっている。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ《麦わら帽子のある静物》(1881年)

 

花の静物画

ゴッホが花の静物画を描き始めたのは、パリ滞在中(1886~1887年)のこと。この時期、モデル代の負担軽減や色彩の研究を兼ねて、花の静物画に取り組むことが多かったそうだ。また、ゴッホと彼の弟テオは、マルセイユ出身の画家アドルフ=ジョゼフ・モンティセリの作品を愛好し、収集していたため、パリで描かれたゴッホの花の静物画には、モンティセリの作品と共通する要素が見受けられる。

 

ピーテル・ファン・デ・フェンネ《花瓶と花》(1655年) ギルドホール・アート・ギャラリー、ロンドン
Guildhall Art Gallery, City of LondonCorporation

 

ここで、時代性が分かる作品を一つ紹介する。17世紀のオランダの花の静物画家、ピーテル・ファン・デ・フェンネが1655年に制作した《花瓶と花》では、ガラスの花瓶にはチューリップ、白いアイリス、バラ、ワスレナグサなどが美しく配置されている。左右に描かれたチューリップは現在のオランダを代表する花だが、元々はイラン周辺に起源があり、トルコを経由してヨーロッパに広まったもの。

 

特にオランダでは1620年代から30年代にかけてチューリップが大ブームとなり、特異な縞模様を持つチューリップが人気を集めた。この熱狂は「チューリッポマニア」として知られ、球根の価格が急騰し、球根を巡る「先物取引」も盛んに行われたが、1630年代後半には「チューリップ・バブル」が崩壊し、経済的混乱が生じている。短命の蝶や羽虫、ガラスの花瓶は、生命の短さや物事のはかなさを暗示し、かつての栄光の脆さや現世での虚飾を戒めているようにも見える。

 

静物画の中で最も人気のある主題の一つは花であり、17世紀には花を専門に描く画家も登場していた。しかし、ゴッホが活躍していた19世紀においても、フランスの中央画壇では歴史画や人物画が評価され、静物画は絵画の階層で下位に位置づけられていた。それでも、花の静物画には依然として高い需要があり、多くの画家がこのジャンルに挑戦していた。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり(部分)》(1888年) SOMPO美術館

 

革新

「印象主義を美術館で飾られている作品のように、堅牢なものにしたい」と語ったポール・セザンヌは、初期から晩年まで多くの静物画を描き、りんごを使った静物画を多く残したことで知られている。「絵画における事物の再現」という考え方は、印象派でピークをむかえたと言えるであろう。

 

ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》(1879〜80年) SOMPO美術館

 

印象派の「見たままを写す」スタイルに疑問を持った画家たちは、色や形といった絵画の要素に焦点を当て、これらを用いて自己表現を追求し始める。“ポスト印象派”と呼ばれるゴッホ、ポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌなどの画家たちは、静物画を通じて新しいスタイルを展開し、そのアプローチは20世紀の画家たちにも受け継がれた。モーリス・ド・ヴラマンクもゴッホの影響を受けた代表的な画家の一人。

 

1905年に、ヴラマンクら若手画家たちはチューブから絞り出すかのような強烈な色彩を特徴とする作品を発表し、「フォーヴ(野獣)」と呼ばれ、その強力なスタイルは次世代の画家たちにも影響を与えた。以下では、ゴッホ作品をさらに2点紹介する。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《靴》(1886年) ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation

 

ゴッホは、少なくとも7つの靴の静物画を制作している。これらの絵画の共通のモチーフは、紐で結ばれた古くて傷んだ靴だ。ゴッホは、かかとが擦り切れ、形が崩れた靴に魅了され、彼は友人のフランソワ・ゴージからこのような靴を入手し、それを忠実に描写している。

 

コルモンのアトリエでゴッホと共に学んだフランソワ・ゴージは、「荷馬車屋が履くような靴だが、清潔で磨かれたばかりの立派な大靴で、余計な装飾はついていない。ある雨の日の午後、ゴッホはそれを履いてパリの城壁跡を歩き回った。泥がこびりついて趣のあるものになった靴を、フィンセントは忠実に写し描いたのだ」」と語っている。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《皿とタマネギのある静物》(1889年) クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー
© 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

 

1888年12月23日、ゴッホとゴーギャンの共同生活はわずか2か月で終了した。ゴーギャンの記録によれば、激しい口論の末、ゴッホは自ら剃刀で耳を傷つけ、その後、ゴーギャンはアルルを離れてパリに向かい、ゴッホは入院したとのこと。この時期に制作された作品の一つが《皿とタマネギのある静物》だ。

 

絵の中央には皿とタマネギが配置され、手前にはボトルの一部とパイプ、右手には逆さに配された手紙が見える。皿の横にある本は家庭の医学書であり、「DELA SANTE」と一部が読み取れ、テーブルの奥にはマッチと封蝋、ロウソクをともした燭台が置かれている。手紙と封蝋はテオとの書簡を、燭台はゴーギャンの不在を象徴しており、これらの要素は、絵画を通じてゴッホの内面と状況を伝えている。

 

ゴッホは前人たちから何を学び、自身の作品にどのように取り入れたのか、そして後続の画家たちにどのような影響を与えたのか。本展を通じて、彼の芸術は伝統を受け継ぎ、革新をもたらし、美術界に永遠の影響を与えたことが理解することができる。

 

※写真は内覧会時に許可を得て撮影しています。

 

 

文=鈴木隆一

写真=新井まる

 

 

【展覧会概要】

ゴッホと静物画-伝統から革新へ

会場|SOMPO美術館(東京・西新宿)

会期|2023年10月17日(火)~ 2024年1月21日(日)

開館時間|午前10時~午後6時(ただし11月17日(金)と12月8日(金)は午後8時まで)最終入場は閉館30分前まで)

休館日|月曜日(ただし1月8日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)

観覧料|一般 2000円(1800円) / 大学生 1300円(1100円)
※( )内は日時指定料金

アクセス|新宿駅西口より徒歩5分

日時指定予約制。詳しくは、美術館のホームページへ

https://gogh2023.exhn.jp/



Writer

鈴木 隆一

鈴木 隆一 - Ryuichi Suzuki -

静岡県出身、一級建築士。

大学時代は海外の超高層建築を研究していたが、いまは高さの低い団地に関する仕事に従事…。

コンセプチュアル・アートや悠久の時を感じられる、脳汁が溢れる作品が好き。個人ブログも徒然なるままに更新中。

 

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