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俺はあえて ”偽物” を作るから、本物を知ってほしい – ストリートアーティスト、TENGA one が仕掛ける孤独な挑発

NEWS

2017年7月5日

俺はあえて ”偽物” を作るから、本物を知ってほしい – ストリートアーティスト、TENGA one


俺はあえて ”偽物” を作るから、本物を知ってほしい

– ストリートアーティスト、TENGA one が仕掛ける孤独な挑発

 

 

現在、原宿にあるアートスペースBlock House Tokyoで、ストリートアーティストTENGA oneの個展Fabrication」が開催中だ。

10代の頃からグラフィティライターとして活動を始め、近年では大規模な壁画の制作からSIDO CORE×渋谷西武やART FAIR TOKYOなど屋内での大きなグループ展にも参加してきた、彼にとって初となる単独の展覧会。

場所を問わずに描き続けてきた彼が、一人きりの空間で表現するものとは何か。

Fabrication=偽り」と題した会場中に仕掛けられたFAKE から浮上する、真のメッセージを紐解いてみる。

 

 

世界一有名な素材 ”ダンボール” にみる、雑な扱いへの反発

 

girls Artalk(以下、gA):今まで私はSIDE CORE(※)の展示を通して、何度かTENGA oneさんの作品を拝見してきました。

今回は自身、初となる個展ということで、作品からTENGA oneさんご本人のことまで、改めてお伺いできたらと思います。

 

 

 

 

1階の展示室には「Red Bull」企画で描かれた巨大壁画などが飾られ、地下の展示室には新作が並んでいます。

新作についてお伺いしていきたいと思いますが、

今回の展示で注目すべき点は、キャンバスとなっているのが木で掘られた”ダンボール”ですよね。

本物そっくりに掘られていることに驚きなのですが、

まずはダンボールというモチーフについて、なぜ選んだのか教えてください。

 

TENGA one (以下、To):単純に、世界で一番有名な素材だから。

正直、モチーフは何でも良かった。ハンバーガーでも何でも。消費されるものであれば。

でも、みんなが絶対に知ってて、みんなが絶対触ったことがあるものは”ダンボール”っていう存在。

他に思いつかないし、ダンボールならどこにでも手に入る。

そして世界共通のもの。北朝鮮だろうが日本人だろうがアフリカだろうが、みんな持ってて。

で、普通に捨てる。

 

 


TENGAone『Fabrication7』『Fabrication8』『Fabrication9』acryl on wood boad (2017年) Block House Tokyo

 


TENGA one『Fabrication5』acryl on wood boad (2017年) Block House Tokyo

 

 

gA:「捨てる」っていうのは、TENGA oneさんの作品テーマにおいて重要な要素なのでしょうか。

 

To:そうですね…。まぁ雑に扱うっていうか、そういう言葉に関しては敏感に反応しちゃう。

グラフィティやってて自分自身が、結構雑に扱われてきたことが多かったんで。

それに対する俺のメッセージっていうか。怒りっていうか。

…まぁ、いいんですけどね(笑)それは。

 

gA:「消費」という点は作品モチーフからも感じられます。

まず、入口はいってすぐのこちらの作品。

 

 


TENGA one『King Of Pop』Spray Paint & acryl on wood boad (2017) Block House Tokyo

 

恥ずかしながら、作品の前で携帯のカメラをかざして初めて、マイケル・ジャクソンって気づいたんです。

 

To:そう。カメラをかざさないと見えないんですよ。全部ドットで描いてるんですけれど、彼はもうこの世にいないから、姿が見られるのはメディアの中だけっていう。あとはもう消費されるだけの、

「King of pop」。

 


TENGA one『Fabrication6』acryl on wood boad (2017) Block House Tokyo

 

 

gA:こちらも世界的に有名なカフェのロゴですが、毎日消費されているものですね。コラージュですか?

 

To:いいえ、全部手で描いています。

 

gA:え!…あ、本当だ! 

 

 

 

木に掘られたダンボール「Fabrication=偽り」人の目を騙したい

 

gA:本当に驚いたのですが、ダンボールはすべて木彫なんですよね!全く気づかなかったです。凄い…。

 

To:そうなんです。気づかない人はそのまま、ダンボールって思い込んで帰っていきますね。

 

 


[地下展示室の様子] ダンボールそっくりに掘られた木彫。TENGA one [Fabrication] (2017年) Block House Tokyo

 

 

gA:この、”偽り”ダンボールの構想はいつくらいからあったのですか?

 

To:ずっと前から「人を騙したい」って考えていて。

作品を本物そっくりに作って、人の目を騙す行為がしたくて、4年くらい前から真剣に練っていました。それでできたのが、コンクリートっぽいクラシックな作品。

あれが始まりのFabricationですね。

 

 


[1階展示室]  中央の作品。コンクリートタイル上に見えて実はプラスチック板。『no title』rejin,cemnt,gypsum (2015年)

TENGA one [Fabrication] (2017年) Block House Tokyo

 

 

To:ダンボールモチーフの構想は今年になってからで、GALLERY TRAX(以下、TRAX) の展示に向けて、今年の1月くらいから作り始めました。

 

 


[SIDE CORE -路・線・図-](2017年)GALLERY TRAX   山梨

 


TENGA one 『Fabrication2』『Fabrication3』acryl on wood boad ( 2017年) GALLERY TRAX   山梨

ダンボールシリーズ第一弾。

 

 

gA:大体どのくらい時間をかけて作るのですか?

 

To:30センチ角の作品だから、他の作品と同時進行ですけれど、大体1週間から10日くらい。

(1個のだけ作っていると)飽きちゃうから。

先に木をダンボール調に彫って、次に表面を削り ”紙が禿げてる風” にして、抜けている状態から描き始める。

 

 


表面を削り”禿げてる風”にした上から描く。

TENAG one 『Fabrication9』『Fabrication10』Fabrication11』acryl on wood boad (2017年) Block House Tokyo

 

 

gA:緻密に構想されているのですね。1階にはたくさんの絵コンテが飾ってありましたものね。

 

 


[1階展示室]  これまでの絵コンテが無数に展示されている。 TENGA one (2017年) Block House Tokyo

 

 

To:そうですね、事前に構想を練ってから取り掛かるんで。それを具現化する。

5年くらい前まではグラフィティでも仕事でもなんでも、下書きをせずにフリースタイルをやってた。

仕事となってくると、クライアント側は事前にチェックしないとGOを出さないんで。

 

今後、これで仕事していくとなれば、そういうエスキースというか、スケッチを作って作品にしていった方が良い。それを癖づけているところかな。

 

 


Red Bullに依頼されて制作された壁画。  TENAG one 『no title』acryl on boad ( 2016年) Block House Tokyo

 

 

gA:お仕事だと、「THA」というユニットの活動としてパブリックな場所の壁画を多く手がけられていますよね。最近の動向として、その辺も教えていただけますか?

 

To:THAはimaone ,SUIKO,TENGA oneの3人のグループで、主に壁画制作を行っています。

10年くらい前にnatashiというクルーを組んでいたのが始まりで、吉祥寺のメイズワンビルの壁画や広島で巨大な壁画を制作していました。

最近のTHAの活動としては、新宿ステーションスクエアでのライブペイントや、南房総市白浜フローラルホールという施設のエントランスに壁画を制作させて頂きましたね。

 

 

 


THA  / imaone ,SUIKO,TENGA one, SHIZENTOMOTEL  壁画 (2011年) 広島  

 


THA / TENGA one 壁画  (2016年) 南房総市白浜フローラルホール  千葉

 

 

 

人のイメージを裏切って、固定観念を無くしたい

 

gA:歴代のSIDECOREのグループ展に参加されているTENGA oneさんの作品は、毎回作風がガラッと変わる印象があります。先ほど仰ってた人の目を騙すとか、イメージを裏切りたいという考えはありますか。

 

To:そうですね。裏切りたいんですね。

固定観念みたいなものを無くしたいって思っている。

グラフィティでも、同じアイコンを描き続けるとかしなくて。

 

 


TENGA one『saga5』Spray Paint & acryl on boad   [SIDE CORE 公共圏の表現](2014年) 渋谷西武 東京

 


TENGA one『男と女』Spray Paint   [SIDE CORE TOKYO WALK MAN](2015年) hiromiyoshii roppongi 東京

 

 

gA:グラフィティはそういう人多いですよね? 自分のトレードマークというか…。

 

To:そう。だからそれがちょっとした悩みでもあって。同じのが描けないっていうことが。

でも途中から、「それが俺かな?」って思ったんで。

 

 

gA:天王洲アイルでの展示では、黒一色だけで壁画を描いていましたよね。

 

To:そう。あの時は、ああいうものを描きたかった。

色をつけずに、みんなが使ってる黒字のラインだけで見せたら面白いんじゃないかなって。

普通にノートにペンで描いたものは誰もが見たことあるだろうけど、

壁画で、1色で巨大なものってあんまり見たことないんじゃないかなって。やってみた感じですね。

 

 


[ソノアイダ TENNOZ] (2016)天王洲アイル 東京

 


TENGA one『no title』acryl  (2016年) 天王洲アイル 東京. 黒一色で描かれた壁画。「資本主義」を象徴する¥マークは頻繁に登場する。

 

 

 

「もっと上手くなりたい」って思いだけで描いてた

 

gA:ここで、TENGA oneさんのルーツをもう少し遡って見たいのですが、初めに、絵はいつから描き始めたのですか?

 

To:絵は小さい頃から好きで。気づいたときには絵をずっと描いていた。ノートとかに。

グラフィティを始めたきっかけは、家の意外と近くに米軍基地があって。

米軍の兵士たちが路上や駅中でグラフィティを描いていたのをよく見てたから。

みんな知らなかったと思うけど、80年代後半とか90年代初頭には日本にもグラフィティは町中にあった。

誰も気づかなかっただけで。

 

 


TENGA one graffiti  (2015年)東京

 

 

gA:桜木町の有名な、グラフィティスポット(※)ではなく?

 

To:そういうんじゃなくて、もっと町中の落書き。タギングとかスローアップとか。僕が小学校とか中学校の時は常にあった。

 

gA:一番はじめにグラフィティを描いたときのことは覚えていますか?

 

To:最初は…。どこに描いたんだっけな。中学生くらいの時にスケボーやってて。

そこで缶スプレー持ってる友達に、「絵、描いてみれば?」って言われて。で、それからいつも描いてた。周りが「うまいじゃーん!」って言ってくれて。

 

gA:ノートに鉛筆で描くよりも、スプレーのペイントは難しくないですか?

 

To:描きづらかったと思います。

でも、もっと上手い人がいた、っていうか、周りにあったから。

「もっと上手く描きたい」っていう思いだけでやってましたね。

 

 


TENGA one  graffiti  (2007年) UK

 

 

gA:それからずっとグラフィティライターとして活動していたんですか?

 

To:そうですね。高校を卒業して、美大に行きたくて大学受験したんですけれど、上手くいかなくて。で、専門学校に行ったんですね。でも、そこもろくに行かずに…。

 

gA:「なんか違う!」って思ったのですか?

 

To:馴染めなかったんですね、学校の授業とかに。

あと、先生たちはグラフィティをやっているっていうことを知っていたけれど、

すげぇバカにされた。それで、こんな所いなくていいんじゃないかって。

 

gA:当時が2000年くらいだとすると、90年代にヒップホップが日本でも流行して、そこから派生してグラフィティも既に一つのカルチャーとして認知されていましよね?

 

To:そう、グラフィティが一気に増えて問題も増えたんですよ。落書き問題がニュースになったりとかして。で、そういうメディアの過剰な報道に、周りの人たちも見事に踊らされたっていうか。

俺がやってることは犯罪だから、ある授業で講評会をやった時に「こんな絵、描きやがって」って言ってくる先生がいて。

 

gA:偏見の目で見られたんですね。

 

To:そう。「そういう感じなんだなぁ」って思いながら、けれど、その先生をみんなは慕ってるわけでしょ?「わかってねぇな、こいつら」って。もう学校には期待してなくて。

だったら一個でも多く、作品を描いた方がいいと思った。

 

 

 

SIDE COREとの出会い。もっとアートを知りたいって思った

 

gA:影響受けたアーティストとかっていますか?

 

To:ベタだけど、ジェフ・クーンズとか、あとはダミアン・ハーストとかも好きだし。

ベタベタの、超有名なアーティストが俺は好きかも知れない。イタリアのマウリツォ・カッテランとか。現代アーティストが好きかもしれないですね。

 

gA:グラフィティライターよりも?

 

To:そうですね。カウズ(※)とかは好きな時期ありましたけど。リスペクトはしてますね。

 

gA:グラフィティのコミュニティとか出入りしてましたか?

 

To:してないっす。(笑)

あんまりグラフィティの知り合いとか…。いるっちゃいるけれど。

グラフィティのクルーにも入ってたけれど、とても窮屈だった。

ずっと、ほぼ一人でやってきた。人と群れてやるのが合わないっていうか…。そういう奴じゃない。

 

 

gA:そんなTENGA oneさんが、2014年からストリートアートを軸として活動するアーティスト集団「SIDE CORE」に参加されています。彼らと知り合ったきっかけは?

 

To:5年くらい前に、「芝浦屠場見学会」っていうのがあって。

品川にある屠殺場の見学会だったんですけど、親友の小畑多丘(B-BOY彫刻家)に誘われて。

そこに、ジャンゴ(SIDE CORE ディレクター:高須咲恵)がいた。そこからですね、「やってみない?」って。当時はSIDE COREっていう存在も知らなかった。

 

gA:一番最初に参加されたのが、2014年に渋谷西武で行われた「SIDE CORE × 渋谷西武 公共圏の表現/Expression of Public Area」ですよね。あの、化粧品売り場をジャックした…。

TENGA oneさんはカルティエの看板裏一面の壁画と、階段に作品を展示されていました。

あれでTENGA oneさんのことを知った人も多かったんじゃないでしょうか。

 

 


TENGA one 『saga10,000』Spray Paint & acryl on boad [ SIDE CORE 公共圏の表現 ] (2014年) 渋谷西武  東京

 

 

To:そうかもしれないですね。いい企画だと思った。(SIDE CORE)はいい奴らだし。

 

gA:共感し得るところも多いのでしょうか?

 

To:ただ単に勉強になるから、興味のあった分野のことを…。アートを知らなかったから。

彼らのことをもっともっと知りたいって思って、僕から歩み寄っていった。

 

 

 

個展への想い。 あえて偽物を作るから、本物を知ってほしい

 

gA:これまでの活動を聞かせて頂きました。

改めて、今回の「TENGA one」として初となる単独個展をやろうと思ったきっかけを教えてください

 

To:個展は何年も前からやりたくて。でも根性がないし、やりたいことも固まってなくて。

いつも出す作品は違うけれども、芯が通ってないといけないと思っていて。

 

gA:芯というのは、いわゆる”コンセプト”ですか?

 

To:そう。やっぱりコンセプトと、あと作品の”共通点”ていうのが必要だった。

それを固める前に、ブロックハウスのオーナーである小野寺さんから「やってみれば?」って振りがあって。

俺も40だからそろそろやらないと、個展ができなくなっちゃうんじゃないかっていう焦りもあって。

すぐ、「やります!」って。なんのビジョンもないまま。

 

gA:準備に大体どのくらい時間をかけられたのですか?

 

To:個展は半年前に決まって、それからデザイン系の仕事とTRAXの制作をこなしてから、10点個展用の作品を作った。実質2ヶ月くらいですかね。

 

gA:”芯”はだんだんと見えてきたのでしょうか?

 

To:そうですね。作っているうちに…。もともと、TRAXでやった時の周りの反響とか見て知っていたので、ダンボールシリーズに手応えを感じていた。初めてかも知れないけれど、同じ行為をやり続けてみようって。ちょっと修行っぽかったけど(笑)本当にストレス溜まったし。

 

 


『Fabrication』シリーズとTENGA one 氏。Block House Tokyo

 

 

gA:制作する過程で浮上した、”芯”について教えてください。

 

To:本当に言いたいことは、「見た目とそこにある本質」について。

人間でも容姿ばかりに意識がいくけど、もう少し内面を見て欲しいっていうか。

”ディグる = 掘る”っていうか。

 

だから「あの人可愛いけど、性格ブスだよね。」とか「俺は外見より内面派だよ」とかくだらない話もよくあるけど、その人のことをもっと知らないと実際はわからない。

僕の経験上、「グラフィティやってるから怖いです」とか、「グラフィティだからこれくらいでやってくれない?」ってお金が安いとか…。

 

人間は、自分自身のイメージが強すぎてしまい、それで物事を考えるから掘り下げない。

例えば人間が死んでても、ファンシーな装飾をされていたらファンシーな部分に目がいってしまって、目の前の死に気づかない。「灯台下暗し」じゃないけれど、そういうのって寂しいから。

僕はわざと偽物を作って、見た人には本物を知って欲しい。逆にね。

 

それがコンセプト。

それは「BCTION」展の時もそうだけど、ピンクの花だらけの部屋を作って。あれはクマが死んでる部屋なんだけど、本質は見抜かずに、子供達は色でやられちゃったりとか花に惑わされちゃったりして。

 

 


THA / imaone、TENGA one 『no title』Spray Paint & acryl  [BCTION] (2014年 )ニュー麹町ビル 東京

 

 

カモフラージュしてると、ただ「上がる!」「可愛い!」「ポップ!」とか言ってくれるけど、

実は「クマが死んでる部屋」っていうことをみんな見ない。見るのやめちゃうっていうか、

奥まで入らず、表面だけで去って帰っちゃう。

 

 

だから、これがダンボールって思ったら、みんなダンボールって思い込んだまま帰ってしまう。

木彫っていうことを俺が説明しなければ、みんな気づかないままなんですよ。

一言「これ、ダンボールですか?」「なんでダンボールなんですか?」とか聞いてこないから。

わざわざキャプションも置かないし。

 

僕自身もそこに差別化を図っている。

僕がそこにいなかったら、そういう説明は聞けなかった。「残念だったね」で終わりっていうか。

 

gA:シビアですね…。

 

To:(笑)

路上でやってる時も、はじめは主張する言葉から考えてボミングしたり街を遊んでたけれど、

あえて、ロングランさせる方向に変わっていった。

自分がやったことに対して、周りを理解させる…。っていうことも吹っ飛ばして、もう気づかせない。

グラフィティされたこと自体、気づかれない行為を最近してた。

 

gA:具体的にはどんなことですか?

 

To:プラスチック系のタイルにペイントして、それを貼る場所とまったく同じ色で塗るだとか。

 

gA:カメレオンみたいな!

 

To:そう、保護色みたいにして。街に実はちょくちょくあるんだけど、みんな気づかないから撤去もされない。

貼られてることすら気づかない。見えないなら見なきゃいいし、気づかなければ、なんとも思わないっていうこと。

 

 


TENGA one graffiti (2015年) 東京  

 

 

行為への怒りであって、気づかなければ怒られないっていうこと自体が矛盾している、人間って。

グラフィティ自体は綺麗なものなのに、造形そのもので見てないっていうか…。誰も声をあげない。

さらに、消したほうが汚いっていう。(笑)じゃあそれ、どう説明つくのかなって。

 

gA:なるほど。グラフィティにも個展作品にも、TENGA oneさんの”怒り”というか、社会の矛盾に対する問題提起が、問われているのですね。

 

To:そう。ただ、僕が言っていることは環境問題とかそういうことじゃない。

戦争が悪いとかそういうことも言えない。どっちでも良いっていうスタンス。

本音はどうでも良い。平凡に暮らせればなんとも思わない。

教育とか先入観とかで反発心は煽られるけれど、「本当にお前が思ってるのか?」って。

 

 


TENGA one『Open Season』acryl on wood boad ( 2017年 ) 

 

 

ダンボールが咀嚼されてゴミになっていくことも、それは別に悪いことではない。

けど、そこを忘れてはいけない。そこをちゃんと見ようよ、っていうことですね。

(完)

 

 

(※1)SIDE COREストリートカルチャーに影響を受け、独自に消化し表現するアーティスト集団。「都市における表現の発展」をコンセプトに各地で自主企画を展開。メンバーは不定。拠点場所を持たず不定期に活動を続けている。

http://sidecore.net

 

(※2)旧桜木町駅・横浜駅間の高架下壁面は有名なグラフィティスポットだった。老朽化の補充工事により、2008年に消去される。

 

(※3)カウズ(KAWS):アメリカ・ブルックリンに拠点を置くアーティスト。風刺を効かせたポップなテイストで世界的人気をほこり、日本でもユニクロとのコラボレーションで話題となる。

 

 

 

「同じことをし続ける」行為は修行のようでもあったというTENGA one氏の個展。

渾身の作である『Fabrication』シリーズにも、固定化されないこれまでの作品にも、

一貫してある「本質を見抜け」というメッセージ。そして 「怒り」。

その始まりは、絵を描くことにイメージという壁を置きたがるおとなたちへの失望。

その壁をうち破るように鍛錬されたものが、TENGA one 氏の ”画力” だった。

「アートとは…」と説きたがる人間の目を騙し通すことが彼なりのアートへの回答であって、

ただ純粋に絵が好きで描き続けてきた、孤高の勝利の証明だ。

 

 

自身の目や感性が試される、TENGA one 「Fabrication」。

この機会に是非、あなたも挑戦してみよう。まだ間に合う!

 

 

文:多田愛美

 

 

【アーティスト情報】

 

TENGA one

東京を拠点に活動しているストリートアーティスト。

アーティスト名は「画が天職(天画)」から。日常にある些細な「怒り」、育った環境の「寂しさ」

ストリートでの経験から感じた「人間の矛盾」をテーマに、スプレー缶での壁画、絵画、立体を制作。

’08年、米・ロサンゼルスにて行われたW a l t Disney主催の企画展「BLOC28」へ、アジアからの招待アーティストとして参加。また近年では西武百貨店×SIDE COREブースに作品を出展。’15年、’16年にはART FAIR TOKYOに参加。

以降、国内外の展覧会に多数参加するなど精力的に活動。

またTHAというユニットに所属しており、多くのミュラル(壁画)に取り組んでいる。

http://www.ritzcorporation.jp/tha/

 

【展覧会情報】

TENGAone 個展『Fabrication』

会期:2017年6月24日(土)~7月9日(日)

時間:13:00~20:00(月曜日休 / 土日は〜21:00まで)

会場: BLOCK HOUSE B1F / 1F 

http://blockhouse.jp/(東京都渋谷区神宮前6-12-9)

企画 : BLOCK HOUSE

協力 : THA、SIDE CORE、island JAPAN

 

 

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Writer

多田 愛美

多田 愛美 - manami tada -

新潟出身。大学でカルチュラルスタディーズを専攻し、卒業後は広告代理店のもとで映画の販促キャンペーン等を企画。その後、銀座のギャラリーに勤務し美術雑誌に携わる。ホワイトキューブを飛び出した、ひらかれたアートに感銘をうける。幼少期からピアノに触れ、上京後に作曲、ツーピース、トリオの演奏活動も行う。

情報過多な今に対応しきれないコンプレックスを抱えながら、アートを通して世界の今を覗く。アーティストの生き様から息遣いまで届けられたらと思います。