5月21日(土)からシネマート新宿他より全国順次公開が決定している『少女椿』。
1984年に丸尾末広氏の原作コミックが発売されて以来、アニメ映画化・舞台化されて高い評価を受けている本作。
その後30年間幾度と実写映画化が試みられたものの…
“エログロ”、”怪奇性”の世界観を描く難しさ故に今まで企画が立ち消えとなっていました。
そんな武勇伝を持つ原作の完全実写化に挑むべくメガフォンを取ったのは監督・TORICO氏です。
短編映画『ミガカガミ』(04)でモントリオール他、国内外の映画祭で数々の賞を受賞するだけでなく、
続く『イケルシニバナ』(06)では、海外映画祭に正式招待され、さらに高い評価を受けています。
また、彼女の活動は多岐にわたり…
インターナショナルモード誌『Numero TOKYO』でファッションブロガーとして人気を博すだけでなく、
明和電機の立ち上げたブランド『MEEWEEDINKEE』ではデザイナー・ディレクターとして就任しています。
今回、映画『少女椿』の公開を記念し、本作の見どころを伺うとともに、そんな彼女の素顔に迫りました。
girls Artalk編集部:
今回、実写映画化するにあたって丸尾末広氏の原作コミック『少女椿』を選んだ理由を教えてください。
TORICO監督:
私自身が丸尾末広先生のファンということが大きく関係しています。
先生が手がけるコミック作品の中ではじめて読んだのが『少女椿』で、
その際に「この作品を自分の手で映画化したい!」と強く思いました。
その頃の私は自主映画を撮りはじめていた時期で…
『少女椿』の原作権利を扱っていた出版社に企画書を持ちこんだのがスタートでした。
girls Artalk編集部:
これまでに『少女椿』はアニメ映画化・舞台化されていますが、
エログロといった表現方法が非常に難しいとされている作品です。
その世界観を撮る上で苦戦した点などありましたか?
TORICO監督:
”エログロ”の表現だけを切り取り、その部分を押してを撮ることは、想像の範疇でできることです。
しかし、私はエログロをアートとして表現することに重きを置きました。
それは丸尾先生のコミック自体が”エログロ”をアートとして投下するために、
美しい構図と鮮やかな配色など一コマ一コマ精密に計算されているからです。
また、”エログロ”というものが作品として奥行きを担っていると感じたことから、
映像化する際にも美しいものと共存させながらも対比させることを心がけました。
girls Artalk編集部:
実写ではありますが…作中にアニメーションの一節が入り込むシーンが設けられていましたが、
こちらにはどのような意図があるのでしょうか?
TORICO監督:
作品のターゲット層を10代〜40代に設定していることが大きな要因です。
渋谷SEIBUでおこなわれた「MISEMONOGOYA展」に足を運んでいる『少女椿』ファンに、
アンケート調査で年齢の統計をとったところ10代〜20代前半がほとんどでした。
girls Artalk編集部:
若年層が多いんですね!意外です!
TORICO監督:
そうなんですよ!
皆さん、YOUTUBEで「少女椿」のアニメーションを見て、原作コミックの存在を知ったという方々なんです。
その方々の共通点として携帯で動画は見ますが、テレビはあまり見ないという傾向にあります。
代表的な動画サイトYOUTUBE。こちらの動画は切り替わりが激しいんです…出たとこ勝負みたいな…。
『少女椿』を観る方々がYOUTUBE世代だとしたら、”間”があるものだと退屈してしまうと考え、
これまでの邦画のような撮り方ではなく、展開を早くしていく手法を選びました。
girls Artalk編集部:
なるほど…そのように統計をとってターゲット層をリサーチしたんですね。
TORICO監督:
そうですね…また、その世代は飽きっぽい傾向にあります。
なので、アニメのシーンを入れてアクセントを持たせ、一度リセットさせるということを考えました。
girls Artalk編集部:
ストーリーの展開を早くしていくにあたり…カット割りや編集など大変だったんじゃないですか?
TORICO監督:
アニメーションのように作りたくて…事前に脚本以外に絵コンテを書きました。
私が「このバランスで撮ります!」と教示することによって、
協力してくれた映画スタッフも全体の流れや編集を把握でき、
作品のテンポ感や切り替わりなどが生まれると踏んだからです。
girls Artalk編集部:
脚本より絵コンテのほうが重要だったんですね。
TORICO監督:
そうですね…むしろ、みんな脚本読んでませんでした(笑)
スタッフ全員が絵コンテを共有していたことで、すごく合理的に作品を撮ることができました。
同じアングルの映像だと撮りやすいんですけど、見ている側が飽きてしまうんですよね。
いろんな角度から撮影できるように、事前にキチンとコマ割りをして、
スタッフ共有しておくことで、現場では合理的に撮影が進められる。
そのシステムが本作の肝とも言えますね。
girls Artalk編集部:
そのシステムを作ったなんてすごいですね!
TORICO監督:
いえいえ、このシステムは恐怖感から作ったものなんです。
「限られた日数で、このカット数、このシーン数、…全部撮れるかな?」という不安がありました。
前作では撮れないから最終的に妥協して長回しという手法で撮影した部分などがあり、
本作ではその苦い経験からどのカットもどのシーンも漏らさずに撮りたかったんです。
絵コンテ制作には時間がかかってしまったんですけど…その代わり現場での対応は早かったですね。
girls Artalk編集部:
撮影日数はどのくらいだったんですか?
TORICO監督:
3週間ぐらいですね。
girls Artalk編集部:
早いですね…。
TORICO監督:
皆さん、寝る時間もなかったです。
私は助監督の計らいで1、2時間寝させてもらえてたんですけど、
本当に寝てないスタッフたちは30分程度だったと思います。
girls Artalk編集部:
とっても過酷な撮影だったんですね。
TORICO監督:
過酷だった上に寒く、本当に大変でした。
空調がない倉庫に撮影のセットを組んでいるのですが、しばらくすると小物などが凍っていくんですよ。
その他にも倉庫に停めてた車に霜が降りたり…そんな中、裸の役者さんたちがいたり(苦笑)
過酷な環境にもかかわらず絵コンテを用いて効率良く撮影をやってのけたTORICO監督。
まさに本作の実写化に向け7年もの間奔走し続けた情熱が物語っています。
そして会話は作品制作から出演キャスト陣へと移りました。
girls Artalk編集部:
主人公・みどりを演じるのは映画デビューで初主演を飾る中村里砂さん。
彼女を起用した理由を教えてください。
TORICO監督:
やはり原作マンガに出ているみどりちゃんの顔に似ていたことですね。
girls Artalk編集部:
ビジュアルを重視したということでしょうか?
TORICO監督:
そうですね…このマンガは多くの熱狂的なファンを抱えています。
主人公・みどりの顔が違ってた日には多くのファンを敵に回すと思いました。
原作の雰囲気を壊さないように中村さんにオファーしました。
『少女椿』 ©2016『少女椿』フィルム・パートナーズ
girls Artalk編集部:
演技派として高い評価を受けている風間俊介さんはどういった経緯で起用したんですか?
TORICO監督:
風間さんの名前が上がった時点では正式な配役は決まっていませんでした。
しかし、風間さんにしか出せないドス黒い演技がピッタリだと思い、
私が本作の重要人物であるワンダー正光役をお願いしました。
girls Artalk編集部:
風間さんの演技力が凄すぎて終始鳥肌が立ちました…。
キャスト陣への演出はどのようにされたのでしょうか?
TORICO監督:
本格的に撮影に入る前にお稽古の期間があったんです。
キャスト陣にスケジュール調整をしていただいて、お稽古で動きや場当たり的な部分を詰めました。
キャストに至っては演じるたびに毎回演技が違う人や同じ人など様々です。
人対人なので様子を見ながら指導を入れたり、入れなかったりして微調整していきました。
『少女椿』 ©2016『少女椿』フィルム・パートナーズ
本作で映画デビューで初主演を飾るモデルと・タレントとして活躍中の中村里砂さん。
そんな彼女を支えるのが、演技派として高い評価を受けている風間俊介さん。
その他のキャスト陣も強烈な個性を持ったキャラクターを熱演しています。
girls Artalk編集部:
また、本作は美術や衣装などにも拘りが伺えましたが、そちらも結構大変だったんじゃないですか?
TORICO監督:
そうですね…美術担当者が撮影が始まる直前に降りてしまうというハプニングがありました。
girls Artalk編集部:
えっ?!!(驚)
TORICO監督:
本作の撮影が始まる前に美術は出来上がっているレベルのはずなんですけどね…
実は最初に美術担当を依頼していた方がいたんですが、その方ではなくて別の方が本作の美術を
担当することになったという経緯があるんです。
でも、結局その美術の方が降りられたことで、最初の方にお願いをして承諾をいただき、
デザインをやり直していただきました。
助監督の計らいで有名作品などを手がけている美術さんを紹介してくださり、
その美術さんが腕が立つ大道具さんを引く連れ作業を引き継いでくれました。
「はい、カットー!」と声がかかった瞬間「カーン、カーン」と金槌を叩く音が響くシュールな現場でした(笑)
girls Artalk編集部:
あの独特な世界観の裏側にはそんなことがあったなんて(笑)
でも、その美術の方も引き受けてくれましたね!
TORICO監督:
そうなんです…断られたら終わりだったということもありますが、
短期間であの世界観を作り上げてくれたことに感謝しています。
girls Artalk編集部:
作中には『MEEWEEDINKEE』のグラフィックワークを担当しているARUTASOUPさんの作品がありましたね。
TORICO監督:
ARUTAくんが他のライターさんを集めて、1、2週間かけて泊まり込みで制作してくれました。
その他にもパリコレに出展している新進気鋭のデザイナーさんたちの衣装を沢山貸していただき、
それを組み合わせることで本作に出ているエキストラさんたちにも着せることができました。
そのおかげで世界観を保てていたと思います。もう皆さんの愛ですね…完成してよかったです。
girls Artalk編集部:
スタイリストさんの力も大きいですね。
TORICO監督:
そうですね…今では一番仲いいですけど、現場ではいっぱい叱りました。
彼女の感想ですが「寒い、ひもじい、眠い」の三原則で「戦場だった。」って言ってましたね(笑)
girls Artalk編集部:
現場での雰囲気はピリピリしてたんですか?
TORICO監督:
いや、そんなことないですよ。私自身、現場において腹を立てることはありません。
「自分の沸点を見せたら終わりだな。」と思っていて、現場では怒らないって決めているんです。
そういうふうに決めていると…現場で何が起こっても腹が立たないんですよ。
逆にハプニングを楽しんじゃうので終始笑っていました。
girls Artalk編集部:
それでは、現場は和やかだったんですね。
TORICO監督:
そうですね。
皆のモチベーション的にも結託して悪の組織を倒すような…“対何か”に向かって結束力が高まっていました。
協力・参加した者の愛が込められている本作の公開が待ち遠しいと同時に、
様々なハプニングも楽しみながら乗り越えていくTORICO監督だからこそ、
本作の“エログロ”や”怪奇性”といった世界観が描けたのだと思いました。
そして、ここからはそんな彼女のプライベートな素顔に迫りました。
girls Artalk編集部:
多岐にわたり様々な活動をしていますが、どのような経緯で映画監督になったんですか?
TORICO監督:
映画監督はぴょんなことがキッカケですね。
そもそも、私自身が「映画監督になりたい!」という希望がありませんでした。
girls Artalk編集部:
そっちの方がビックリですね(汗)
TORICO監督:
自分の周りにいる友達や先輩が自主映画を撮っている現場に遊びに行ってたんです。
その作品にちょろっと出演したりして、それを楽しんでいた時期がありました。
その時に「自分で撮ってみたら?」って言われたので、「じゃー、やってみようかな。」という感じではじめましたね。
そんなこんなで皆が協力してくれて撮った初監督作品が、多くの映画祭で上映されることになっちゃって…
girls Artalk編集部:
そうだったんですね!そのようなことがあったとは…(笑)
TORICO監督:
それから所属している事務所がもう一本映画撮らせてくれてくれて…
その現場作りだったり、作品づくりだったり、本格的に楽しい!って思ったのはそこからですね。
自主でも、商業でも、皆で一つのものを作るという魅力に病みつきになってしまい現在に至ります。
girls Artalk編集部:
本当にひょんなことがキッカケなんですね。
TORICO監督:
そうなんですよ。
ファッションブロガーも作家の犬山紙子さんがNumeroの方を紹介してくださったのがキッカケです。
ブログを「書いてみよう!」と思って人気ブロガーをサーチしながら執筆しはじめ、
1000投稿まで毎日欠かさず投稿していたら次第に人気が出るようになってきました。
そしたら、お洋服をデザインする仕事の依頼が来るようになって…
そういう活動をしている時に知り合ったプロデューサーが『少女椿』を撮らせてくださったという。。。
girls Artalk編集部:
引き寄せですね(笑)
TORICO監督の前作であるサスペンスタッチのファンタジーで描かれた『イケルシニバナ』。
本作と通じるところがあると感じました。幼い時からこういうテイストの映画が好きだったんですか?
TORICO監督:
いや、そういうわけではないんですけど…
ファンタジー系の映画作品って、内容までファンタジーなのが多いんです。
私自身、それが苦手で…のほほんと終わられると「で?!」って思っちゃうタイプなんです。
ちょっとしたラブロマンスものとかも「へぇー」みたいな(笑)
そこらへんが欠落しているみたいですね。
girls Artalk編集部:
それではどういったものが好きなんですか?
TORICO監督:
相反するものが好きみたいです。
本作だと“エログロ”に”美しい構図”とか…
”ファンタジー”に”サスペンス”をぶつけたらどうなるんだろう?
というような組み合わせから起きる化学反応に興味があるんです。
girls Artalk編集部:
お休みの日は何していますか?
TORICO監督:
ずっと寝て引きこもってますね。
私、極端な人間みたいで…パーティー行くか、一人でいるか、のどっちかなんですよね。
girls Artalk編集部:
0か1かみたいな感じで…間がないんですね。
TORICO監督:
パーティーとか凄く楽しめるんですけど、少人数での飲み会が得意ではありません。
誘っていただいたら行くかもしれませんが…例えば、10人とかでするお花見とか耐えられません。
どのように気を遣えばいいのか分からないんです。
人数的に抜けるに抜けられないし…そわそわしてしまいますね(笑)
4人とかだと深い話もできるからいいんですけど。
girls Artalk編集部:
なるほど、とてもわかります(笑)
音楽とかは何を聞きますか?
TORICO監督:
最近だと、Die Antwoord(ダイ・アントワード)ですね。
ヒップ・ホップやブラックミュージック、ミックスチャーを中心として聴きます。
洋楽がメインです。
girls Artalk編集部:
映画も洋画が多いのでしょうか?最近観た映画作品を教えてください。
TORICO監督:
邦画はほとんど観ないですね。基本的に新作は必ず観ています。
…最近観て面白い!と思った作品は『ナイトクローラー』ですね。
サイコっぽいストーリーが好きですね。
girls Artalk編集部:
やはり、普段からジャンル的にサイコサスペンス系を観ますか?
TORICO監督:
そうですね、好きですね。
後はCIAものとか、サイコものとか、IQが高い人の話が好きなんです。
girls Artalk編集部:
作中のワンダーも能力者ですもんね(笑)
TORICO監督が想い描いている今後のビジョンがあったら教えてください。
TORICO監督:
映像も、洋服も、色んなことに限らず…これからも作りたい!作り手でいつづけたい!です。
girls Artalk編集部:
ありがとうございます、とても強い意志を感じました。
それでは、最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
TORICO監督:
映画『少女椿』は世の中のタブーを詰め込んだ作品になっています。
テレビではもちろん放送できませんし、映画でしか観れない世界だと思いますので、是非のぞきに来てください。
彼女の本作にかける意気込みだけでなく、制作の裏話やプライベートにまで会話は弾み、
終始笑が絶えない和やかな雰囲気でTORICO監督のインタビューは幕を閉じました。
とても丁寧に受け答えをしてくださる様子から、現場でも一人一人とシッカリ向き合いながら、
”人対人”で物づくりに努めていることが容易に想像できます。
そんな彼女だからこそが映画監督にとどまらず、自身の活動が多岐にまで及ぶのだと感じました。
TORICO監督が”エログロ”をアートとして緻密に表現した『少女椿』は、
5月21日(土)からシネマート新宿他より全国順次公開が決定しています。
映画に詰め込んだその美学と熱い想いを覗きに足を運んでみてはいかがでしょうか。
取材・写真:新麻記子
【情報】
少女椿
5月21日(土)からシネマート新宿他より全国順次公開
監督・脚本:TORICO
原作:丸尾末広著書『少女椿』(青林工藝舎刊)
出演:中村里砂、風間俊介、森野美咲、武瑠、佐伯大地、深水元基
2016年/日本映画/デジタル/カラー/90分
配給:リンクライツ
【プロフィール】
映画監督/ファッションブロガー/ ファッションデザイナー&ディレクター
【関連イベント】
マルヲ・ワールド『少女椿展』
会期:5月7~9日
会場:東京・六本木ストライプハウスギャラリー
料金入場料:1000円(税込み)
トークショー「少女椿 クロストーク」
価格:2500円(税込み・ドリンク付き)。
定員60人のため先着・予約制で、申し込みは公式メールアドレス(maruoworld.talkshow@gmail.com)