2025年7月4日(金)から8月31日(日)の期間、東京・新宿の王城ビルで、ジャン=リュック・ゴダールの映画『イメージの本』を映像インスタレーションにした展覧会《感情、表徴、情念 ゴダールの『イメージの本』について》展が開催されています。
ゴダールの最後の長編映画である 『イメージの本』は、2部構成でうち1部が5章立てとなる作品で、映画、音楽、小説、アートを引用し、一世紀以上に渡る歴史、戦争、宗教、芸術などを振り返る内容です。カンヌ映画祭では、パルム・ドールを超越する「スペシャル・パルムドール」を史上初めて受賞しました。
本展は、スイスのニヨンで初公開され、その後ドイツのベルリンでゴダールとの共同制作のもと企画設計された展覧会で、日本初の公開となります。
イメージの洪水に身を委ねる
展示はおおむね5章の構成で、ビルの二階から始まり、三階、四階と鑑賞してから一階に戻る形となり、階段の踊り場などにも作品があります。
広い会場に足を踏み入れると、『イメージの本』に登場する無数の映像が。空間にはモニターやスクリーンのほか、床や壁、鑑賞中の観客にまで映像が反映し、何種類もの音楽や声が響き合ってこだましています。
スクリーンが重なって見える角度で鑑賞していると、映像が多重露光の写真のように見える瞬間があり、さまざまな時空に身を置いているような感覚に陥りました。
階段の踊り場などにも作品が。
いくつもの映像が重なり、まるで多重露光の写真のように見える瞬間がありました。
『イメージの本』は、他のゴダール作品と同様、構図の選び方、色や音、タイポグラフィなどが大変魅力的であるのも特徴の一つ。
特に本展では、スクリーンや壁や床に、記憶に残るイメージが洪水のように押し寄せ、重なり合う様をたっぷり堪能することができます。
ゴダール作品のタイポグラフィは、とてもスタイリッシュ。
壁や床などに、まるでイメージの洪水のように映り込む映像。
見るだけではなく、体感する展覧会
本展の鑑賞は、通常の映画観賞とは異なる体験と言えるでしょう。
会場内には、少しクラシカルなランプやモニターと共に、書籍が展示されている空間が。
置かれている本は、本展のキュレーターであり、ゴダールの晩年の右腕として活躍したファブリス・アラーニョ氏の選書によるもの。中には机や椅子まで置かれている場所もあり、自由に閲覧してじっくり読むことができます。
書籍とエキゾチックなカーペットがあるコーナーは、秘密基地のような雰囲気を盛り上げます。
理解の助けになる書籍や資料を閲覧できるのも嬉しい。
カーペットに座り、本を読みふけるお客様も。
無数の映像が揺らめく空間は、まるで夜の水族館のように美しく幻想的です。
広い会場を探索していると、「この瞬間に映像を見ている」という体験が一回限りのものであることを実感し、映像がまるでその瞬間に生成されたもののように胸に迫ってきました。
無数の映像が揺らめく空間は、美しく幻想的でした。
新宿という場所で開催される意味
展覧会に赴くと、趣のあるビルの佇まいに驚かされる本展。
会場の「王城ビル」は、その名の通り城の形をした建物で、1964年に竣工され、寺山修司や中上健次といった文豪が足を運んだことでも知られる老舗ビルです。
新宿のカオスを象徴するようなこの建物は、キャバレーや名曲喫茶、カラオケや居酒屋など、さまざまな店を経営してきました。展覧会場では、昔あった店や出入りしていた人々の痕跡を見つけることができます。
扉や壁に、過去に営業していた店の痕跡が。
ロッカーやカフェ席のある空間にも、会場の一部として映像が投影されます。
新宿は、日々さまざまな出来事が起こり、無数の人が行きかう場所です。
地名を聞いて喚起するものも、歌舞伎町や花園神社、東京都庁や摩天楼、美と醜、光と影など多種多様です。映像、想像、心象、表象など、あらゆる像の集積である『イメージの本』の再構成である本展は、さまざまなイメージが積み重なる新宿で開催されるに相応しい展示と言えるでしょう。
光を受けてきらめくミラーボールも、新宿らしさを宿しています。
新宿の趣ある王城ビルで、ゴダールの『イメージの本』の映像に身を委ねることができる《感情、表徴、情念 ゴダールの『イメージの本』について》は、2025年8月31日(日)まで開催中。
文・写真=中野昭子
【展覧会概要】
ジャン=リュック・ゴダール「感情、表徴、情念 ゴダールの『イメージの本』について」
会期|2025年7月4日~8月31日
会場|王城ビル(東京都新宿区歌舞伎町1-13-2)
料金|一般 2200円