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視点を拡張し、日常が輝き出す「さいたま国際芸術祭 2023」

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2023年11月4日

視点を拡張し、日常が輝き出す「さいたま国際芸術祭 2023」


視点を拡張し、日常が輝き出す「さいたま国際芸術祭 2023」

 

3回目の開催となる「さいたま国際芸術祭2023」が、10/7(土)からスタートしている。 今回は、同芸術祭にこれまで引き継がれてきたコンセプト「共につくる、参加する」を念頭に、過去にアーティストとしても参加した、現代アートチーム目[mé]をディレクターとして迎え、「わたしたち」をテーマに掲げている。

 

様々な問題が同時並行的に取り巻く時代を生きる私たちは、どのように「わたし」の延⻑線上にこの世界を捉えることができるか。市⺠参加型の芸術祭として、わたしたちが世界をとらえ直す機会を参加者と一緒に創り上げていくものだ。

 

目[mé]の3人

 

目[mé]の活動拠点も⻑年、埼玉県の北本市であった。ひたすらに発展を目指してゆく都市と、その中にある人間のある種の無自覚と積極的に関わりながら少しの距離を取るさいたまから、 私が尚も「わたし」であり続けるために、密やかに日常に繰り広げられる人間の「無自覚」への微かな抵抗。そんな確かに”ここにある“感覚を残すことを目指して、本芸術祭では多様なプログラムが展開される。

 

メイン会場の 「旧市⺠会館おおみや」は、1970(昭和 45)年に完成し、2022 年3月の閉館まで、半世紀に亘って“ハレの舞台”として、多くの市⺠に親しまれた劇場だ。閉館以降閉ざされていたが、芸術祭開催に伴い 65 日間ふたたび息を吹き返す。建物にはフレームが組まれ、透明な板によって隔てられた“導線”が設置されている。それは建物を斜めに貫き、他方で既存の記憶を丁寧に残し、時に展示空間を分断/接続させながら、観客を外から 中へと誘う。

 

 

 

また、導線のフレームは「窓」の機能を持ち、その向こう側に広がる何気なく置かれた箒や日用品などの日常的な光景を、あらためて「みる対象」に置き換え、日常に一歩踏み込んだひとつの「景色」として対峙させる。それと同時に、導線の外側からは逆に、「みられる対象」になっていることにも気付かされる。

 

川島拓人、オルヤ・オレイニ、マーク・ペクメジアン、小学生フォトグラファーによる「ポートレイト・プロジェクト」(画像はマーク・ペクメジアン)、今村源《うらにムカウ》の展示風景。導線は透明なフレームによって区切られている。

 

 

 

会場では、芸術祭のテーマと親和性の深い様々な作品を紹介している。ガーベラをガラスで挟んだアーニャ・ガラッチオの《’preserve’ beauty》や、川島拓人らによる毎日写真が入れ替わる「ポートレイト・プロジェクト」のような、来る度に変化する作品など、現代美術家、研究者、編集者、演出家や盆栽師といった様々なアーティストによる多様な展示作品や公演が連日展開される。

 

全盲の写真家・白鳥健二による《日々是是》や、今村源の《うらにムカウ》、ミハイル・カリキスの《ラスト・コンサート》も必見だ。

 

ミハイル・カリキス《ラスト・コンサート》

 

今村源《うらにムカウ》

 

大ホールでの公演は10/7(土)にミニマル・ミュージックの巨匠、テリー・ライリーによるコンサートで幕を開けた。さらに、倉田翠の構成・演出による“バレエをやめた者たち”と共に、人間の本質的な美しさを探究するパフォーミング・アーツ公演や、ダンサー/振付師のエム・ジェイ・ハーパーらによるファッションショーなどが予定されている(要予約)。

 

また、これら公演の準備やリハーサルなどの様子も公開され、会期中に変化する展示作品があったりと、 連日めくるめく変わる“動き続ける会場”として、訪れる度に表情を変える。目[mé]の南川は本芸術祭について、「その日その場を選んだ、鑑賞者固有の体験」、「今日と明日が違う、見逃す芸術祭」と語っている。

 

「テリー・ライリー コンサート」2023年、さいたま国際芸術祭2023、Photo: 丸尾隆一

 

 

さらに、市民プロジェクト・キュレーターらが中心となって展開する芸術祭会期以前から継続されてきた「市民プロジェクト」や、さいたま市の文化芸術資源との連携を計る「連携プロジェクト」など、多くの展示・イベントが市内各所で展開され、芸術祭期間中は街に膨大な”営みの集合体”が発生する。

 

 

本展企画の「SCAPER(スケーパー)」にも注目したい。例えば「絵に描いたような画家」の格好をした風景画家や、まるで計算されたかのように綺麗に並べられた落ち葉など、メイン会場やさいたま市内各所に仕掛けられるSCAPERは、パフォーマンスや作られたものとそうでないものの差を曖味にする仕掛けとして多数展開される。


これらは、目[mé]以外の演出家や研究者など複数のクリエイターによって計画され、毎日色々な場所に続々と現れる。いつどこに出現するかは、クリエイター同士の間でも知らされていない。実態が明かされることのない SCAPERの活動は、その実態の有無を観客自身の判断に委ねられ、本芸術祭の体験を一層、観客の経験に引き寄せる。


メイン会場には、都市・建築研究者の田口陽子らによるスケーパー研究所なる部屋があり、WEB上で目撃情報を募集している(
スケーパー研究所)。毎日各所に続々と現れる SCAPERを探してみて欲しい。



 

文=鈴木隆一

写真=新井まる

 

 

【展覧会概要】

さいたま国際芸術祭2023

会期|2023年10月7日〜12月10日


会場|旧市民会館おおみや(メイン会場)ほか、市内の文化施設やまちなか各所


住所|埼玉県さいたま市大宮区下町3-47-8(メイン会場)


さいたま国際芸術祭2023コールセンター |0120-102535

 [日〜木] 10:00-18:00 [金・土] 10:00-20:00

メイン会場 開館時間|10:00-18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで開館(最終入館は閉館30分前まで)


メイン会場 休館日|月(祝日の場合は開館、翌日休館)

 ※市内各会場の開館時間・休館日は会場により異なる


 

料金(1DAYチケット)|一般 2000円、さいたま市民 1500円

料金(フリーパス)|一般 5000円、さいたま市民 3500円

※高校生以下、障害者手帳をお持ちの方及び付き添いの方(1名)は無料。1DAYチケットは入館日のみメイン会場を鑑賞できるチケット(再入館可)、フリーパスは会期中何度でもメイン会場を鑑賞できるチケット(ストラップ付きパスケースの購入特典あり)。会期中、メイン会場窓口で追加料金:一般3000円、さいたま市民2000円で、1DAYチケットからフリーパスへのアップグレードも可能

https://artsaitama.jp/






Writer

鈴木 隆一

鈴木 隆一 - Ryuichi Suzuki -

静岡県出身、一級建築士。

大学時代は海外の超高層建築を研究していたが、いまは高さの低い団地に関する仕事に従事…。

コンセプチュアル・アートや悠久の時を感じられる、脳汁が溢れる作品が好き。個人ブログも徒然なるままに更新中。

 

ブログ:暮らしのデザインレビュー
https://ldesignreview.com/

 

Instagram:@mt.ryuichi
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【好きな言葉】

“言葉と数字ですべてを語ることができるならアートは要らない”

by エドワード・ホッパー