アルヴァ・アアルトと妻・アイノの深い絆を実感 映画『アアルト』
2023年10月13日(金)より、建築家・デザイナーのアルヴァ・アアルト(1898-1976)の人生と作品を巡るドキュメンタリー映画『アアルト』が公開されます。
フィンランドのヴィルピ・スータリ監督の手による本作は、アルヴァ・アアルトが今年2023年に生誕125年を迎えたことを記念して公開されるもので、“フィンランドのアカデミー賞”と称されるユッシ賞で音楽賞・編集賞を受賞しました。
アルヴァ・アアルトってどんな人? フィンランドを代表する建築家で、モダニズムの巨匠
近年は北欧デザインへの注目度が高まっており、関連する展覧会も多く開催されているので、アルヴァ・アアルトのアイコン的アイテム「アアルトベース」や、名作の呼び声高い三本脚の椅子「スツール 60」などを目にしている人も多いでしょう。それらのおしゃれで温かみのあるデザインは、日本の家屋とも比較的相性が良く、さまざまな場所で見かけるように思います。
イッタラの「アルヴァ・アアルト コレクション ベース」。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
懐かしくて新しい名作、「スツール60」。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
それでは、フィンランドとは遠く離れた日本でも、一定の知名度があるアルヴァ・アアルトとは、一体どんな人だったのでしょうか?
アルヴァは、1898年にフィンランド大公国(1809年から1917年までフィンランドにあった国家)のクオルタネで生まれました。1916年にヘルシンキ工科大学(現アアルト大学)で建築を学び、1923年にはアアルト建築事務所を設立、1935年には最初の妻であるアイノ・アアルト(1894-1949)と共に「アルテック(ARTEK)」を創業、多くの名作を生み出しました。
アルヴァ・アアルト。楽観的な性格で、男性にも女性にも好かれたそうです。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
アルヴァはモダニズムの建築家と称されますが、作風は「人間らしいモダニズム」であり、肩の凝らない雰囲気を漂わせています。また彼は創造性を重視しており、それが作品の親しみやすさや新鮮なイメージに繋がっているのだろうと思います。
アルヴァとアイノ、アーティスト夫妻の活躍
映画『アアルト』は、とりわけアルヴァ・アイノ夫妻の関係性にフォーカスしており、二人の手紙のやりとりが随所に差しはさまれる構成になっています。
アルヴァは、フランスのマルセイユでモダニズムの巨匠であるル・コルビュジエと関わり、ハンガリーのアーティストであるモホリ=ナジ・ラースローを自宅に招き、渡米の際、コルビュジエと共に近代建築の三大巨匠の一人であるフランク・ロイド・ライトと話をするなど、大変きらびやかな交友関係を築いています。社交的な性格で、多くの人と関わり、大きなチャンスを掴んでいったようです。一方アイノは、手紙のやりとりや写真の佇まいから、もの静かな性格だったことが伝わります。
アルヴァとアイノ。二人は建築家カップルとして知られるようになりました。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
二人の交わした手紙では、異性とアルコールを好む自由奔放なアルヴァに対し、病であっても心配をかけまいと伝えずにおき、アルヴァが家に帰ってくるのを心待ちにしているアイノの優しさが伺えます。
国際的に高名なアルヴァと共に、アイノも優れたアーティストでした。彼女は特にライティングや、空間を活かす布の提案などに秀でており、いわゆる「アアルトらしさ」や「アルテックらしさ」は、彼女の力に依るところが大きいといいます。
イッタラのベストセラー「アイノ・アアルト タンブラー」は、アイノのデザイン。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
深く愛し合っていた二人ですが、アイノは人生の中盤に病で亡くなってしまいます。二人の子どもと共に残されたアルヴァはすっかり落ち込み、当時は家に籠りがちになっていたといいます。そんな中、アルヴァは事務所に入社してきた若い女性・エリッサと出会い、後に彼女と結婚することになりました。
エリッサもまた才能豊かな女性で、溌剌とした雰囲気ながら、どことなくアイノの面影を漂わせます。そんなエリッサはアルヴァの良きパートナーとなり、最期まで付き添いました。
フィンランドの自然の素晴らしさや、素敵なインテリアをたっぷり堪能
アルヴァの伝記的要素以外に、静謐さの漂う映像美も本作の特徴の一つ。深い森と済んだ空気、控えめな太陽と月、彩度が抑えられた色味の街並みといったフィンランド特有の美しさを存分に伝え、アルヴァのアイノへの情愛が静かに流れる本作の雰囲気に、ぴったりと合っています。
パリ郊外に建つ「ルイ・カレ邸」。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
また本作は、アアルトの建築を見ることができると共に、優れた室内装飾を鑑賞できるのも魅力です。モホリ=ナジ・ラースローの影響を感じさせる窓のような照明が目を惹く図書館、外観が自然と見事に調和し、内部も親しみのある雰囲気に満ちたルイ・カレ邸といった、素晴らしい建物と、おしゃれで温かみのあるインテリアの見事な融合をたっぷり堪能できるのです。
ヴィープリの図書館。木の香りが漂ってくるようです。© Aalto Family © FI 2020 – Euphoria Film
アルヴァ・アアルトは、人生の最期に教会建築に携わり、生涯現役で活躍しました。世界中に300程度の建築物があり、実現しなかった建物も200程度あるとのことです。80年近い生涯の中で、すさまじい数の建築を生み出し、建築界に大きく貢献しました。
この秋、アルヴァ・アアルトのエネルギッシュな人生に触れ、またアイノとの豊かな関係性を味わうことができる映画『アアルト』を、どうかお見逃しなく。
文=中野昭子
【作品概要】
邦題:アアルト
原題:AALTO
監督:ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)
制作:2020年 配給:ドマ 宣伝:VALERIA
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、公益社団法人日本建築家協会 協力:アルテック、イッタラ
2020年/フィンランド/103分/(C)Aalto Family (C)FI 2020 – Euphoria Film
公式HP:aaltofilm.com
10月13日(金)〜 ヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺、
10月28日(土)〜 東京都写真美術館ホール ほか全国順次公開!