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自分の感覚を感じて、疑って…「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」

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2023年9月22日

自分の感覚を感じて、疑って…「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止


自分の感覚を感じて、疑って…「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」

 

東京・京橋のアーティゾン美術館で、石橋財団コレクションと現代美術家の共演「ジャム・セッション」の第4弾となる「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」が11月19日まで開催中だ。

 

結論から申し上げると、山口晃氏らしい“言葉で説明するより体感して欲しい”展覧会に仕上がっている。新鮮な気持ちで展覧会を楽しんでいただけるようネタバレは控えめに、山口氏本人の言葉を交えながら、山口晃×セザンヌと雪舟/感覚を揺さぶる/Artalk的みどころの3構成で紹介していこう。

 

展示風景より、《テイル オブ トーキョー》(部分)(2023)

 

山口晃×セザンヌと雪舟

「ジャム・セッション」とは、2020年1月に開館したアーティゾン美術館のコンセプト「創造の体感」を体現し、石橋財団コレクションの中から作品を選定し、現代のアーティストが“時空を超えたセッション”によって生み出した新作や新たな視点による展覧会。

シリーズ第4弾となる山口晃氏は、大和絵に見られる「洛中洛外図」の様式を引用し過去と現在未来的を折衷しながら、ユーモを交えた作品などで知られる日本を代表する美術家だ。そんな山口氏がセッションを希望したのは、ポール・セザンヌと雪舟。タイトルにある“サンサシオン”とはフランス語で「感覚」という意味を持つが、山口晃氏が大ファンのセザンヌがこの語を制作のキーワードとして多用しているのにあやかったという。

 

展示風景より、(左)ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》(1904-1906)、(右)ポール・セザンヌ《帽子をかぶった自画像》1890-1904

展示風景より、《アウトライン アナグラム》(2023)

 

 

「感覚」を揺さぶる

「感覚」は普段当たり前に使う言葉だが、改めて意味を調べてみると下記2つの意味があった。

 

① 目・耳・鼻・舌・皮膚など、体のある部分がさまざまな刺激を感じ取る働き。また、それによって感じ取られる内容。

② 物事をとらえる心の働き。

(出典:広辞苑)

 

本展は入り口の《汝、経験に依りて過つ》から“感覚を失う”仕掛けがあり、前者の意味について体で考えさせられるところから始まる。

 

展示風景より、《汝、経験に依りて過つ》2023

 

山口晃氏は冗談交じりに「以前としまえん遊園地似たような部屋があり、今はもうなくなってしまったのでもう一度自分自身体験してみたかった。」と話す。この部屋はまさに説明なしで体感して欲しい作品。以前開催された銀座・メゾン・エルメスでの展覧会時とは大きく“角度を変えて”より山口氏のイメージに近づけることができたようだ。

 

わかりやすく自分の“感覚”と対峙できる展示は、大きく2つある。先に紹介した《汝、経験に依りて過つ》と、もう一つは真っ白な空間にいきなり放り出されたような感覚になる《モスキートルーム》だ。

 

展示風景より、《モスキートルーム》2023

 

こちらは照明のプロに設計を依頼し、一見シンプルな中に光の差し込み方などを計算し作り込まれているのだそう。この部屋では段々と自分の視界の線が曖昧になってくる。自身の眼球の丸みを感じるくらいまで数分滞在してほしい。

 

より具体的に説明すると、壁に近づいて行くと視界がほぼ白一色になって壁との距離も視認しづらくなる位置がある。丁度雪山でホワイトアウトした様な状態で、自身の目の動きにつれて飛蚊症(*)が自覚される。中空に見える飛蚊症の影のような糸くずのようなものを焦点を定めず見ていると、それらがうっすらした球形をしているのが判り、その球形を感じながら動かずにいると不思議なことに自分が球形の中にいる10センチくらいの小人に感じられるのだ。

 

(*)飛蚊症(ひぶんしょう)とは、眼球が濁ることによって視界に蚊が飛んでいるような影が見える現象。

 

作品内に数分滞在してほしい、とお伝えしたが普段皆さんは展覧会で1つの作品を鑑賞する時間はどれくらいだろう。短い場合は数秒……ということも多いのではないだろうか。山口晃氏は昨今の鑑賞者の短さも残念に思っているようで、本展の特徴の1つとして期間限定で展示室内のスケッチがOKとなっている。これには日本でも美術館でのスケッチなどは(余程他の鑑賞者の邪魔になっている時を除き)個人の自由の範疇であり、禁止だの可能だのを取り沙汰するのものではないという山口氏自身の思いが込められている。実際にヨーロッパなどでは日本よりも鑑賞スタイルの制限が厳しくなく、スケッチなどをしながら鑑賞する姿をよくみかける。

 

「描くことは観ることと同義だと思っている」と語る山口晃氏は下記のように続ける。

 

「必ずスケッチをしましょうということではなく、短い時間でも深く見ることのできる人はいますから、いたずらに鑑賞時間の短さを嘆くのではありませんが、普段私たちが生活の中でするサッと見て瞬時に判断するというタイプの「見る」で作品を見てしまう方には、スケッチが「観る」ことの導入になりうると思います。例えば、「何が」描かれているのかという名詞的、記号的な見方ではなく、「どう」描かれているのかという、詳細で制作の追体験的な見方にシフトするだけで、絵は無限に語りかけてきます」

 

展示風景より

《セザンヌへの小径(こみち)》2023 作家蔵

 

その他にも本展の壁には山口氏自身の手で書かれた文章や、漫画の原画なども多数あり、どれも見逃せない。文章を読むことでさらに山口晃氏の視点への理解が深まるが、情報量が多いのでたっぷり鑑賞の時間を確保しておきたい。

 

展示風景より

 

 

ARTalk的みどころ

展示風景より、《さんさしおん》2023

 

とにかく文章も多く見応えたっぷりな「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」展。山口晃氏は「あんな部屋まで作ってしまったが、とにかくやりたいと思っていたので、口述は後から考えました。」と茶目っ気たっぷりに話していたが、それはあながち完全なる冗談でもないのかもしれない。そもそもアートとは必ず考えが先行するものばかりではないはずだ。“創りたい、描きたい”といった内側からくる言葉では説明しきれない欲望を作品にし、それを作者自身や鑑賞者が考察することもあるだろう。

そういった意味では、山口氏自身「いつも以上に説明ができないものができた」という作品を皆さんが体感し、考察する楽しみがあるのは最大のみどころだ。同時に、作家の視点で書かれた文章も多いのでその考えの深さを知り、新たな発見をするプロセスを追体験もできる。

 

展示風景 まだ白いスペースが展示会場内に3箇所ほどあった

 

ちなみに、開催に先駆けて行われたプレス内覧会時にはまだ白いスペースがいくつかあった。山口晃氏に質問すると、それぞれセザンヌ論、雪舟論、近代洋画論のテキストが入る予定だそう(セザンヌは完成したとのこと)。

どんな作品になるのか、会期中に何度も足を運んで確かめてみたい。

 

文=山口智子

写真=新井まる 

 

【展覧会情報】

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 

ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン

会期 2023年9月9日(土)〜2023年11月19日(日)

会場 アーティゾン美術館

住所 東京都中央区京橋1-7-2 Google Map

展示室 アーティゾン美術館 6階展示室

時間 10:00 ー 18:00(11 月 3 日を除く金曜日は 20:00 まで)*入館は閉館の 30 分前まで

休館日 月曜日(10月9日は開館)、10月10日

観覧料 日時指定予約制

ウェブ予約チケット 1,200 円、窓口販売チケット 1,500 円、学生無料(要ウェブ予約)

*予約枠に空きがあれば、美術館窓口でもチケットをご購入いただけます。

*中学生以下の方はウェブ予約不要です。

*この料金で同時開催の展覧会を全てご覧頂けます。

 

同時開催 創造の現場ー映画と写真による芸術家の記録(5階展示室)
石橋財団コレクション選 特集コーナー展示|読書する女性たち(4階展示室)

 

URL 【公式サイト】アーティゾン美術館

https://www.artizon.museum/

URL2 【公式サイト】アーティゾン美術館|展覧会詳細ページ

https://www.artizon.museum/exhibition/detail/558



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

instagram: https://www.instagram.com/yamatomo824/
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