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ダイナミックな浮世絵とともに武士と刀の物語をたどる『THE HEROES展 刀剣×浮世絵-武者たちの物語』展

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2022年3月8日

ダイナミックな浮世絵とともに武士と刀の物語をたどる『THE HEROES展 刀剣×浮世絵-武者たちの


ダイナミックな浮世絵とともに武士と刀の物語をたどる

『THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語』

 

六本木・森アーツセンターギャラリーで開催中のボストン美術館所蔵『THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語』は、刀剣の美しさを味わうだけにとどまらない壮大な展覧会です。

アメリカのボストン美術館が所蔵している日本刀コレクションがいわば「里帰り」している本展覧会では、刀装具や浮世絵を同時に展示することで、刀剣たちが武者とともにたどった物語に注目しています。

刀剣に興味はあるけど、鑑賞がむずかしそう……、という方でもまちがいなく楽しめる、ワクワクできる内容になっているので、ご紹介します。

 

小烏丸(模作) 太刀 銘 小沢正寿 昭和四十五年二月日 毎日新聞社賞受賞之作 個人蔵  

 

 

今に物語を伝える色彩あざやかな浮世絵

 

妖怪土蜘蛛を斬り殺した「鬼切」、試し切りで罪人の膝をすっぱり切った「膝丸」、怪物酒吞童子の首を切った「童子切」。有名な日本刀には、そんなにわかには信じがたい逸話が多数残されています。勇猛果敢な武者たちが残した伝説は、いまでも私たちの胸をときめかせてくれます。江戸の世の人々にとっても、それは同じだったようです。

江戸時代に技術が確立され、当時の庶民たちに親しまれた浮世絵には、美人画や風景画、役者絵など、様々なジャンルがあります。平家物語太平記といった軍記物語の英雄たちをモチーフに描かれる「武者絵」も人気ジャンルのひとつでした。

 

葛飾北為福原殿舎怪異之図  弘2~3年(1845~46)頃 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

 

 

この「福原殿舎怪異之図」では庭に集ってにらみつけてくる大量のどくろを、少しも怯えずにらみ返す平清盛が描かれています。左側にモノクロ調に髑髏の集団が右側に色鮮やかに清盛率いる平家の人々が配置され、緊迫感が伝わってくる一枚です。

 

牛若丸と弁慶の主従物語や、土蜘蛛や酒吞童子を退治したという源頼光とその部下の武勇伝も好まれたようで、繰り返し描かれています。

 

 

歌川国貞「武蔵坊弁慶 御曹子牛若丸  文化10〜11年(1813~14)頃 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

歌川国芳「源頼光の四天王土蜘退治之図  天保10~11年(1839~40)頃 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

 

 

戦乱が治まった江戸時代の人々にとって、かつての武士たちの戦いの物語は、心躍らせる一大コンテンツだったのでしょう。

 

 

刀を彩った刀装具に超絶技巧が光る

 

刀が実用的な武器として使われることの減った江戸時代以降では、刀を美しく彩る刀装具も豪華に、細かい細工が施されるようになっていきます。

浮世絵と同様に戦記の中から有名なシチュエーションを描かれたものも多く、浮世絵と並んで展示されているので、これらも同時に楽しむことができました。

「大江山図鐔」では、源頼光一行が大江山に住む悪鬼酒吞童子を退治した旅の様子が描かれており、木々の葉や滝の流れなど、ほんとうに小さな細工まで丹念にほどこされています。

 

大江山図鐔 銘 起龍軒美盛 明治時代(19世紀)William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

 

 

刀の鐔(つば)というとても小さな枠の中に、人の手でこまやかな細工がほどこされていて、すみずみまで見ようとするといくら時間があっても足りないほど。

富士山の裾野で頼朝が催した盛大な巻狩りを描いた「富士裾野巻狩図鐔」は、鐔の表面だけでなく縁まではみ出して模様が彫られており武士や動物たちが今にも動き出しそうです。

 

 

歌川国貞「源頼朝公富士之裾野牧狩之図 三枚続」 文化10年(1813)頃 William Sturgis Bigelow Collection

 

 

時代の波をくぐり抜け海を渡った刀剣たち

 

本展には、ボストン美術館のコレクションから刀剣が計20口出展されています。

最後の展示室では、これまでのあざやかで派手な空間とは一気に雰囲気が変わり、ボストン美術館の刀剣コレクションたちがしずかに佇んでいます。

 

 

平安時代中期の作品から幕末のものまで、時代の流れに沿って見ることができるようになっているのが嬉しいところ。

室町時代に三条𠮷則が打った太刀は、互の目(ぐのめ)と呼ばれる大きくうねる刃文が幅広くついており、刀身全体がぎらぎらと野心的に光ります。

江戸時代に活躍し、新々刀の祖と呼ばれた水心子正秀の作品も展示されていて、これも華やかな互の目の刃文が特徴です。

 

刀 銘 水心子正秀(花押) 寛政三年八月日 江戸時代 寛政3年(1791)William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

 

 

刀剣が彩ってきたたくさんの物語について鑑賞したあとだと、目の前のこの刀にもこれまで歩んできた道や物語があるのだ、と親しみがわいてくるようです。

なんといっても、この刀剣たちははるかアメリカへ海を渡ったのですから!

 

このコレクションが海の向こうへ帰ってしまう前に、ぜひ足を運んでみてください。

 

 

文=関根一華

写真=新井まる

 

【展覧会情報】

ボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵−武者たちの物語」

The Heroes – Chronicles of the Warriors: Japanese Swords x Ukiyo-e from the Museum of Fine Arts, Boston

 

会期:2022年1月21日(金)〜3月25日(金)

会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)東京都港区六本木6-10-1

開館時間:午前10時〜午後8時(火曜日のみ午後5時まで)最終入館は閉館30分前まで

休館日:会期中無休

お問合せ:050–5542–8600(ハローダイヤル 受付時間:午前9時〜午後8時)

 

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