35年の35点展 地域の人々と歩む練馬区立美術館
2020年10月1日に開館より35周年を迎えた練馬区立美術館。西武池袋線の中村橋駅を降り高架下を進むとすぐにその姿が見えてきます。子どもたちの賑わいで溢れる練馬区立美術の森と隣接して建っている練馬区立美術館は、近・現代アートを身近なものとして触れることができる空間として、地域とともに35年間歩んできました。
今回、その35年の過去すべての展覧会をチラシ・ポスター、更に各年に開催された展覧会の出品作から1点ずつ選ばれた35点の所蔵品を見ることができます。
練馬ゆかりのアーティストたちの表現の場
昭和60年度から令和元年度まで、35年間に開催された展覧会は200本。美術館の記念すべき最初の展覧会は342名の作家を紹介する「練馬区在住作家展」。翌年からは「ねりまの作家」と題する展覧会シリーズが始まるなど、地域ゆかりの作家を中心としながらも、明治大正の日本画・洋画、戦前前後の油彩画・版画の歴史を振り返る展覧会は本館の1つの軸となりました。
そして、本展のポスターにもなっている古賀忠雄の「練馬の男」が昭和63年度の作品として展示されています。力強くさと繊細さの両方を感じるその作品は、練馬区立美術館開館後初の彫刻家の個展だったそうです。
この昭和末期から平成初期においても既に、山口長男の《野形》やオノサトトシノブの《utitled 1960》等の抽象画家の個展も実施され、様々なアートと地元の人々を繋ぐ展覧会が開催されていました。
平成初期であった1990年代を越え、2000年には「ねりまの美術2000 高橋節郎展 ー漆芸と絵画ー」が開催されました。長く練馬区に居住していた高橋節郎の個展、その中でも圧倒的な存在感を示す作品「追憶の記」も本展にて展示されています。黒の中に在る優しく凛と輝く漆塗りの黄金の情景は今でも見ていて吸い込まれてしまいそうです。
ポスターたちから感じる変化と進化
本展の見どころは35点の作品だけでなく、200点に及ぶ35年間で開催された展覧会のポスターたちです。歴史やレトロさを感じるものや今見てもモダンだなぁというデザインのものまで。特に2011年に初の本格的な海外作家個展「グランヴィル展」が開催された以降は日本の近現代作家に加えて、所蔵品に海外作家の版画が加わりました。これ以降、海外作家、現代作家、工芸、漫画、浮世絵など、様々なバリエーションの展覧会が開かれるようになり、来館者層にも厚みが出てきたといいます。それと比例して、ポスターの表情も豊かになって行くさまを感じることが出来ます。
0歳からアートに触れることのできる美術館
2004年頃からは「子どもワークショップ展」が夏休みに開催されるようになりました。この頃からより身近な存在として3世代で楽しめる美術館へとその間口を広げていくことになります。今でこそ色んな場所で行われているワークショップですが、この時代から体験型のワークショップはもちろん東京藝術大学の学生や先生によるアートプロジェクトも行われ、双方向なイベントが企画されていきます。これらのワークショップのポスターももちろん展示されており、これらを見るだけでも練馬区立美術館が親子層にも愛されてきた歴史を感じることができます。
2015年には美術館の同敷地内にある美術の森緑地がリニューアルされ、子どもたちの笑顔あふれる今の場所としての位置を更に確立することになります。
美術館入り口には「子どもと楽しむ美術鑑賞ガイド」が置かれ、子どもでも楽しめる粋な心遣いを感じました。幼少期に訪れた好奇心に触れた場所というのは意外に覚えているものです。そこでアートに触れた世代がまた大きくなってこの場所を訪れ、次の35年に繋いでいくのでしょうか。
最後に
練馬区立美術館の35年は“地域ゆかりのアーティストの表現の場”から“アーティストと観覧者のコミュニケーションの場”へと、今もなお変化を続けています。この歴史を見るだけでも懐かしさとそして美術館の新たな在り方の1つを体感することが出来ました。一人ではもちろん、親子または3世代で来ていただいても楽しめる素敵な展示になっています。2021年のアート初めとしてしても是非足を運んでみてください。
文=水上洋平
写真=新井まる
【展覧会情報】
練馬区立美術館開館35周年記念展 35年の35点 コレクションで振り返る練馬区立美術館
会 期 2020年12月12日(土)~2021年2月14日(日) 無料 ※2階展示室のみ
休館日 月曜日
開館時間 午前10時~午後6時 ※入館は午後5時30分まで
観覧料 無料
主 催 練馬区立美術館(公益財団法人練馬区文化振興協会)