モネ、ルノワールや俵屋宗達の国宝まで。名品ぞろいの展覧会
華やかな装飾性を核とし、現代でも通じる大胆なデザイン性が持ち味の琳派。
同時代の風景や生活の一場面を、明るい色彩で生き生きと伸びやかに描き出した印象派。
東西の美術で、それぞれに人気の高い二つのグループが共演する展覧会「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」が、東京・アーティゾン美術館で開催中です。
石橋コレクションがこれまで収蔵していた印象派の名品の数々に加え、新しくコレクションに加わった尾形光琳の《孔雀立葵図屛風》、さらには国宝に指定されている俵屋宗達の《風神雷神図屛風》(後期展示)も含め、東西合わせて約100点もの作品が出そろう貴重な機会です。
本稿では、その見どころをご紹介しましょう。
①キーワード:都市文化
16世紀から19世紀、ちょうど江戸時代の日本で花開いた琳派。
対して、19世紀にフランス・パリを中心に活動した印象派。
一見、繋がりのなさそうな両者を、今回結びつけるキーワードはズバリ、「都市文化」―――両者はそれぞれ、活気あふれる都市を舞台に生まれ、育まれたのです。
琳派は、17世紀、安土桃山から江戸時代の初期に、京都で絵屋を営んでいた俵屋宗達に始まります。
絵屋とは、扇絵屋下絵付き料紙など、各種の絵画や工芸品を扱う商人です。
オリジナルデザインの商品を売るお店、とも言えましょうか?
俵屋は特に扇絵で定評を得ていましたが、宗達はさらに屏風や掛け軸など、より本格的な作品も手掛けていくようになります。
彼の装飾的な美しさを核とする作風は、同時代の人々だけではなく、100年後に生きた絵師・尾形光琳をも惹きつけます。彼によって宗達の画風は受け継がれ、新たな命を吹き込まれました。
そこからさらに100年、今度は大名家出身の絵師・酒井抱一が光琳に傾倒。彼の画風を受け継ぎ、自分なりのアレンジを加味し、弟子の鈴木其一らと共に、江戸に広めていきます。
このように、琳派は「流派」とは言っても、そのつながりは緩やかです。最後の抱一・其一師弟以外、一人一人の間には約100年の開きがあり、直接対面したり、指導を仰ぐことは不可能です。
彼らは、先人の残した作品を手本にしながら、独力で技術や感性を習得していったのです。
が、逆にそのような緩やかなつながりだったからこそ、「こうあるべき」という伝統やルールを押し付けられず、それぞれに自分ならではの新たな「表現世界」を作り上げていくことができたのではないでしょうか。
一方、印象派の画家たちが活躍した舞台は19世紀半ばのパリです。
当時、皇帝ナポレオン3世が任命した知事オスマンによって、パリは大改造が行われ、清潔で秩序ある街へと生まれ変わりを遂げます。
カミーユ・ピサロ《ポン=ヌフ》1902年 公益財団法人ひろしま美術館蔵
伝統的な西洋絵画では、神話や聖書など、歴史上のエピソードを取り上げ、理想化して描くのが最上とされてきました。
が、古臭いそれらに目を向けずとも、新たな姿となったパリの風景、そして都市を舞台に営まれる人々の生活の一場面など、身近なところに魅力的なモチーフはある。
より身近で親しみやすいそれらを、率直に生き生きと描き出したのが、印象派の画家たちだったのです。
②見どころ紹介①~琳派
俵屋宗達《風神雷神図屛風》江戸時代 17世紀 建仁寺蔵(国宝) ※後期のみ展示:2020年12月22日[火]ー2021年1月24日[日]
琳派の始祖・俵屋宗達の代表作にして、琳派のアイコンとも言うべき作品です。
右からは、風袋を縄跳びのように持った風神が。
左からは、太鼓を背負った雷神。
主役たる両者はそれぞれ画面の端に寄せられ、完全には画面内に収まり切っていません。が、それ故に、天上を自在に駆けて、この場へと到った、そんな「躍動感」が感じられます。
また、両者の間を大きくとることで、互いの存在を際立たせ、「天上の存在」たる神々の強大な力が、絵を見る側にも伝わってきます。
この絵に感銘を受けた尾形光琳は、宗達が描いた時代から約100年後、アレンジを加えつつ模写します。さらにその約百年後、光琳の作品をもとに酒井抱一も同じ主題を手掛けるなど、風神・雷神のモチーフは、宗達の後に続く琳派の絵師たちにも脈々と引き継がれていきました。
もう一つ、今回の展覧会の出品作で、見逃せないのが、アーティゾン美術館のコレクションに新たに加わったこの作品です。
尾形光琳《孔雀立葵図屛風》江戸時代 18世紀 石橋財団アーティゾン美術館蔵(重要文化財)
左隻にはカラフルな立葵の花々。そして右隻には、大きく尾羽を広げる孔雀。
それぞれのモチーフの描き方に注目してみてください。
たとえば、左隻は、垂直な茎に対して、丸っこい花々。
花や葉の描き方はやや簡略化されています。が、それぞれの向きや大きさも変えながら、リズミカルに配置することで、画面全体に華やかさや奥行きが生まれています。
対して、右隻は、孔雀の尾羽の描き込みが印象的です。
画面上部から伸びている枝は、筆を勢いよく走らせるようにして描かれています。
カラフルな左隻に対し、右隻の持ち味は線描にある、と言えましょうか。
③見どころ紹介②~印象派
アーティゾン美術館のコレクションは、印象派の作品が多い事でも有名です。
今回も、モネの睡蓮、ルノワールの少女像など、その画家ならではのモチーフを描いた作品を数多く見ることができます。
クロード・モネ《睡蓮の池》1907年 石橋財団アーティゾン美術館蔵
ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》1876年 石橋財団アーティゾン美術館蔵
そして、もう一つ、注目したいのが、こちらのエドゥアール・マネによる《白菊の図》です。
エドゥアール・マネ《白菊の図》1881年頃 茨城県近代美術館蔵
19世紀、日本趣味(ジャポニスム)がヨーロッパに流行した時、人気を集めたアイテムの一つが日本の扇でした。
宗達の俵屋も、扇絵を手掛け、京では人気を博していたことが当時の小説『竹斎』に残っています。
涼を取るために使うのは勿論、アクセサリーとして持ち歩いたり、広げて絵を鑑賞したり、時には骨をつけずに何枚かを屏風に貼り交ぜるなど、幅広い楽しみ方がありました。
絵を描くというと、四角い紙(画面)を用意することがほとんどでしょう。
その中で、湾曲した扇形は、なかなか特殊です。絵師たちも描く際には、放射状に建物を描いたり、風景や植物を画面の形に合わせて、デフォルメして描くなど、工夫やセンスが必要でした。
ヨーロッパ人であるマネの作例を見ると、モチーフの菊を左側に寄せて、大胆に空白を取っています。まるで、これまでのヨーロッパの伝統にはない画面の形を面白がり、楽しんでいるかのように。
琳派と印象派。
どちらの作品も、都市を舞台に、人々の生きるエネルギーを写すかのように、明るく伸びやかです。
それ故に、時代を越えて、私たちの心にもすっと入ってくるのではないでしょうか。
伝統やルールに縛られない、自由な絵画の共演、是非ご覧ください。
文:verde
【展覧会概要】
琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術
会期:2020年11月14日〜2021年1月24日(会期中展示替えあり)
会場:アーティゾン美術館6・5階展示室
住所:東京都中央区京橋1-7-2
電話番号:国内 050-5541-8600 / 海外 047-316-2772(ハローダイヤル)
開館時間:10:00〜18:00 ※チケットは日時指定予約制
休館日:月(1月11日は開館)、年末年始(12月28日〜1月4日)、1月12日
https://www.artizon.museum/exhibition/detail/45