天王洲の新アートフェア「artTNZ」photo report
天王洲にあるTERRADA ART COMPLEXⅡで、新たなアートフェア「artTNZ」が9月18日〜21日の間完全予約制にて開催されました。今年はコロナウィルスの影響で軒並みアートイベントが中止になったなかでの久々のアートフェア、東京を中心に全国から42軒のギャラリーが天王洲に集まりました。
沢山の作品から編集部が気になったものをピックアップしてご紹介します。
会場に入ってすぐ目に飛び込んできたのが、舘鼻則孝のこちらの作品。哲学者ロラン・バルトが表した「空虚な中心」という東京論に着想を得ており、「空洞」がテーマになっています。
「緑に蔽われ,お濠によって防禦されていて、誰からも見られることのない皇帝の住む御所。その周りをこの都市の全体が巡っている」(『表徴の帝国 』より)
ロラン・バルトは、日本の皇居という実態があるにもかかわらず見ることのできない中心を「空虚な中心」とよび、同時に「不可視性の可視的な形」と表現しています。
舘鼻則孝の作品では炎のような白い部分が空洞にあたります。
2枚のアクリル板をそれぞれ削ったものを組み合わせることで、空白の空間を実体として見せています。 中心にある日本刀は奈良県の作刀家・河内國平作。
モノトーンのシンプルな線と形のが目を引いたのはエリック・ゼッタクイストの「オブジェクトポートレイト」というシリーズ。ペインティングかと思いきや、なんと骨董を撮影したモノクロ写真です。
エリック・ゼッタクイストは現在ニューヨークを拠点に活動するアーティスト。過去には現代美術家・杉本博司のもとで10年間写真と東洋の古美術を学んだという骨董好きです。
器や壺……などの古美術作品が被写体ですが、それぞれゼッタクイストが特に気に入った一部分をクローズアップして撮影、さらにコンピューターでコントラストを強める等加工を施しているのだそう。型にハマることのない写真表現を前に、改めて写真の面白さを再認識しました。
会場をぐるっと見渡すと、ひときわカラフルで目を引く作品が。 ストリート系アーティスト、リカルドゴンザレスによるもの。カラフルなキャンパスには「It’s A Living」の文字。ゴンザレスは以前カリグラフィーを学んでいたそうで、 現在ではカリグラフィーの他タイポグラフィーやレタリングなども手がける。
文字を用いたユニークなスタイルは、ゴンザレスの少年時代に祖父の古い筆跡に魅せられたという体験から生まれたのだそうです。
何でできているんだろう……と気になって近づいたのは、半澤友美による立体作品。白っぽい連続した網目は石や貝などの自然物のようにも見えてきます。
この作品はなんと、「紙」でできているのだそう。約1ヶ月間、何重にも重ねては乾燥させた紙に、銀線でできた格子を作って、またその上 に紙を重ねていき、作り上げるのだそうです。
「情報過多な世界で更新され続ける自己。重なりあった過去を一旦見つめなおし、アイデンティティと向き合う……。」そんなことを考えて制作されたとのこと。
新しいものや情報が溢れる現代では、体も心も幅広く移動して、楽しい反面、自分を見失ってしまいがち。本当に大切なものや、自分を形作ってきた過去や思い出を忘れない。そんな大切なことを思い出させてくれた作品でした。
小川万莉子「重ねの庭」シリーズ
とても好みの作品で、思わず足をとめてしまったのがこちらの作品。抽象画のように見えますが、風景を描いているのだそう。空気や温度を感じました。
実際にアーティストと話ができるのもアートフェアの醍醐味のひとつ。家に帰った後にも、あの作品ならどこに飾ろうか…と考える時間も楽しく、余韻の残るアートフェアでした。
私は個人的に気に入った作品を収集しているのですが、今回見たアーティストさんの作品で心に遺るものがあったので、購入したいな……と思っています。やはりアート作品は実際に間近でみると画像や3Dで見るのとは違うリアルさと空気感が感じられます。
観るだけでなく、購入して家に飾る、そんな楽しみ方をしてみるのはいかがでしょうか。
文=深町レミ
写真=新井まる
【開催概要】
artTNZ
会期:2020年9月18日〜21日
会場:TERRADA ART COMPLEXII
住所:東京都品川区東品川1-32-8
開館時間:12:00〜18:00(18日〜19:00、21日〜16:00)