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資生堂初代社長 福原信三の美学の行方 『それを超えて美に参与する』

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2018年10月31日

資生堂初代社長 福原信三の美学の行方 『それを超えて美に参与する』


 

資生堂初代社長 福原信三の美学の行方 『それを超えて美に参与する』

 

 

2019年に開廊100周年を迎える資生堂ギャラリー。資生堂の初代社長は、福原信三(ふくはら・しんぞう)と言い、資生堂ギャラリーの創設者であるとともに、写真家としても大きな功績を残しました。特筆すべきは福原の一大思想とも呼べる美学です。彼が執筆した美と写真に関するテキストはなんと約145万字に及びます。

 

現在、銀座の資生堂ギャラリーにて、資生堂ギャラリー100周年記念『それを超えて美に参与する』 福原信三の美学が開催中です。本展は、福原信三のアーカイブ的な視点のみならず、ミレニアム世代のASSEMBLE、THE EUGENE Studioが福原信三のテキストにインスピレーションを受け制作をした、「過去・現在・未来」がクロスするチャレンジングな展覧会となっています。また本展は1st、2ndの2部構成となっているのも特徴です。

 

 

 

資生堂の初代社長・福原信三ってどんな人物?

 

 

 

 

 

 

経営者として名を残した福原信三ですが、着目していただきたいのは彼の美学です。本展のタイトルの一部「それを超えて美に参与する」とは、実際に福原が書き記した言葉で、一つの領域に捉われることなく生活すべてに美をと考えた福原を象徴する言葉となっています。

 

コロンビアで薬学を学んだ福原は、写真や芸術のみならず調香を学び、より多くの人々が写真を楽しめるようにと写真家として活動しました。芸術と経済の関係性にもいち早く着目し社会に対して企業が貢献する、すなわち「ソーシャル・エンゲージ」を見据えた多彩で、美意識の高い人物でした。

 

銀座のサロン・ギャラリーを通じて人々が自由に意見交換することを福原は重要視しました。その意志、DNAは脈々と受け継がれ、資生堂は今まで、3,000以上の展覧会を開催し5,000人以上のアーティストを世に紹介してきたのです。

 

 

 


写真家としても素晴らしい作品を残した福原信三。

 

 


福原氏が愛用したカメラと同じ型のカメラも展示されている。

 

 

 

AIと言語処理を用いて、福原信三の行動志向を明らかにする斬新なキュレーション

 

 

 


福原信三、ASSEMBLE、THE EUGENE Studioの自動言語分析

 

 


福原が残した貴重なテキストを見ることもできる。

 

 

 

本展のキュレーター、伊藤賢一朗氏は本展覧会について以下のように語りました。

 

「本展は福原の思想を現代の観点から検証して、次世代の創造に繋げるのが目的です。福原が書き残した美や芸術に関するテキストを自動言語分析にかけ、本質的な結果を反映させ、美の本質に迫るという仮説を立てました。従来の展覧会ではキュレーターが自分自身の経験値やリサーチに基づいてキュレーションを行いますが、本展では展覧会を作り上げていくプロセスにAIのテキスト分析を導入したのです。AIの分析により福原の美に対する志向性を取り出しました。さらに、ASSEMBLE、THE EUGENE Studioにも同様のAI分析をかけ、それぞれの志向性を示しました。3者の芸術や創造の共通項を見つけて広げることにより、我々がより良い生活、創造的社会を創るきっかけとなるのではないでしょうか」

 

この新たなキュレーション方法は、展覧会会場で動画にて紹介されていますので、是非足を運んで詳細をご覧頂きたいです。

 

 

 

展覧会設定を手がけたTHE EUGENE Studioが考える福原とは

 

 

 


美の先端を常に行く資生堂が発刊する「花椿」も持ち帰り自由だ。

 

 


THE EUGENE Studioのカンガワユージン氏。

 

 

 

以前、資生堂ギャラリーで『1/2 Century later.』を開催したTHE EUGENE Studioのカンガワ ユージン氏は福原信三について以下のように語りました。

 

「福原信三は、経営者であり写真家であるという認識が一般的だと思いますが、僕はもっと、総合的なビジョンがあったのだと確信しています。写真を超えて生活全部を美しくしていこうと彼は思っていたのだと結論づけているのです。このテキストの量は日常的に美を追求している者にしか到底なし得ないです。もし、同時代に生きていれば、きっと仲良くなれたでしょう」

 

 

 

温かみのある空間作りを意識したASSEMBLE

 

 

 


サロンの目的を果たすスペースを設置した。

 

 

 

展示空間に入ってまず、覚えたのは「出迎えられている」という感覚でした。これはギャラリーとカフェの中間を目指したというASSEMBLEの狙い通りかも知れません。

 

ASSEMBLEはイギリスの建築家集団です。本展の開催にあたりASSEMBLEのアダム氏は

 

「内装のデザインは、観客を温かく迎え入れる親密なスペースを構想しました。冷たいギャラリースペースとは異なり、家具と材質の質感で温かさを演出したのです。今回、参加することができて光栄に思っています。本展のコンセプトである福原信三が提唱したアートと日常の交差点という考えに私たちも関心がありました。ギャラリースペースに限らず、日常の中にあるものがアートだという考えに共感しています。本展を通してそれを探求していくことが楽しみです」

 

と語り、ルイス氏は

 

福原氏の提唱した概念は普遍的で、現代でも有用性をもち私たちが普段の活動のなかで扱うようなアイデアでもあります。つまり社会・日常のなかでのクリエイティビティーとはなにか、社会・日常とクリエイティビティーを近づけられるかということです」

 

と福原の概念に共感を示しました。

 

 

 

2ndは展示の配置を変え、陶芸のワークショップを開催

 

 

 

 

 

 

1stはアーカイブ的な側面を持った展開のための設置ですが、2ndでは彼らがイギリスのリヴァプールで実践しているワークショップを銀座で開くために配置換えをします。ASSEMBLEのアダム、ルイス両氏がこのワークショップのために来日予定です。福原が抱いた美による変革は、現代アーティストに通じるものが確実にあったのだと伝えていくことが本展の狙いです。福原の美への思い入れと、理念を引き継ぐ資生堂の真摯さ、そしてアーティスト達の福原への回答を是非、その目でご覧頂ければ幸いです。また、最新号の花椿では、福原の特集(ブックレット)が組まれています。そちらを読んでから本展に行けば、福原の美学の理解がより深まるのでおすすめです。

 

 

 

テキスト:鈴木佳恵
写真:鈴木佳恵、新井まる

 

 

 

【展覧会概要】
「それを超えて美に参与する 福原信三の美学 Sinzo Fukuhara / ASSEMBLE,THE EUGUNE Studio」展

 

主催:株式会社 資生堂
展示協力:Assemble Studio CIC、THE EUGENE Studio Inc.
協力:株式会社ア・ファクトリー、株式会社ウフル、Kamimura & Co. Inc.
会期:1st:2018年10月19日(金)~12月26日(水)、2nd:2019年1月16日(水)~3月17日(日)
会場:資生堂ギャラリー
〒104-0061
東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
Tel:03-3572-3901 Fax:03-3572-3951
平日 11:00~19:00 日曜・祝日 11:00~18:00
毎週月曜休(月曜日が祝日にあたる場合も休館)
入場無料
ホームページ:https://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/

 

 



Writer

鈴木 佳恵

鈴木 佳恵 - Yoshie Suzuki -

フリーランスの編集者。
広告代理店に勤務後、フリーランスに。
得意分野は映画と純文学。
タルコフスキーとベルイマンを敬愛し
谷崎潤一郎と駆け落ちすることが夢。

 

暇があれば名画座をハシゴしています。