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モノクロが織りなすよるべなさ 立木義浩写真展『Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)』

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2018年9月8日

モノクロが織りなすよるべなさ 立木義浩写真展『Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)』


 

モノクロが織りなすよるべなさ 立木義浩写真展『Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)』

 

 

銀座のシャネル・ネクサス・ホールにて、立木義浩(たつき・よしひろ)の写真展『Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)』が開催中だ。立木は、作家の開高健、俳優の仲代達也、加賀まり子、夏目雅子など、昭和の名だたるスターを写真に収めてきた。特に「舌出し天使」は1965年の「カメラ毎日」に58ページにわたり掲載されるや否や、カメラ界のみならずファッション・広告業界まで大きな衝撃を与えた。

 

本展は4人の女性に寄り添ったフォトセッションや日常の何気ない瞬間を切り取った新作『Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)』で展示・構成されている。プレスビューで立木本人に本展覧会と、自身の作品について話を聞ける機会に恵まれたので、彼の世界観を共有できたらと思う。

 

 

 


立木義浩氏。メインビジュアルの前にて。

 

 

 

日本の写真家の代表者の一人。立木義浩の軌跡

 

 

 

立木義浩は、1937年に徳島県の「立木写真館」の3代目、真六朗の次男として生まれた。母、香都子は亡くなるまで写真館を切り盛りし、彼女の生き様はNHK朝の連続テレビ小説『なっちゃんの写真館』のモデルとなった。恵まれた環境で育った立木は、1956年に東京写真短期大学(現・東京工芸大学)に入学する。その後、写真家・細江英江(えいこう)の紹介でアート・ディレクターの堀内誠一と知り合い、大学卒業後、堀内が設立した「アドセンター」に入社した。持ち前の明るいキャラクターとそれまでになかった感性で瞬く間にトップ写真家へと上り詰めた。映画監督・伊丹十三と『大病人の大現場』の共著を手がけるなど、様々な分野を自由に往来し、少年少女が羨望する「今をときめく写真家」として活躍してきたのである。

 

2001年には、阪神・淡路大震災の被害に遭いながらも、復興に励む人々を被写体にした写真展「KOBE・ひと」を開催するなど、精力的な活動を行っている。

 

 

 

 

 

 

自分のスタイルを大切にしながら、新たな事にチャレンジし続ける柔軟な精神

 

 

 

『Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)』は、カラー作品も展示してあるが、圧倒的にモノクロの作品が多い。モノクロを撮り続ける理由を立木は、以下のように語った。

 

 

「昔、私の住んでいた徳島県に洋画を専門にしている珍しい映画館がありました。当時は西部劇が多かった。やはり、映画に夢見るわけですよ。当時はモノクロの映画だったから、その憧れが今でも深く残っているんです」

 

 

また、インスタグラムを思わせる9枚の写真を用いた作品について「現代的な手法を取り入れたかった」と展示した理由を述べた。被写体に対する真摯な姿勢はそのままに、新しいものを柔軟に受け入れる姿勢は易々(やすやす)と時代を飛び越えてくる。

 

今年で81歳を迎える立木だが、ダンディズムを体現し非常に若々しい印象を受ける。それは今も、少年時代の憧憬を追い続け、瑞々しい感性を持ち続けているからだろう。

 

 

 


インスタグラムを意識した1:1の作品

 

 

 

 

 

モノクロ写真だからこそ見えてくる被写体の生々しさ

 

 

 

 

 

©YOSHIHIRO TATSUKI

 

 

 

時代を彩る大女優たちを被写体にしてきた立木に、どのような女性に心を惹かれるのか質問したところ、意外な答えが返ってきた。

 

 

「恥ずかしいという気持ちを持っている人。よるべなさというのかな・・・。だって、人間って恥ずかしいものじゃない」

 

 

確かに、4人の女性たちはどこか憂いを帯びている。風景写真、草木といった被写体にすら「切なさ」を覚えるのだ。モノクロによる撮影により、人物や物の輪郭は深くなり陰影が際立つ。まるで、写真越しの彼女たちが隣に実在し呼吸をしているような生々しい錯覚を鑑賞者に起こさせる。また、日常に潜む非日常を立木は繰り返し提示する。

 

 

「写真は写真家の人間性、さらには無意識まで写す」

 

 

と語る立木。大胆なジョークを飛ばし記者たちを大いに笑わせてくれた一方で、人間の悲哀を撫でる繊細な一面をうかがい見せた。

 

 

 

初秋に発売予定の写真集は「舌出し天使」全作品を網羅

 

 

 

嬉しいことに、立木を一躍有名にしたデビュー作「舌出し天使」の全作品を掲載した写真集が、今年の秋に発売を予定されている。

 

スターに愛された伝説的写真家、立木義浩の色褪せぬ観察眼とエネルギーを存分に感じられる本展は9月29日(土)まで。黒と白が織りなす濃密な空間と、タイトルの一部である「Yesterdays」、過ぎ行くものへの写真家の眼差しを感じ取って欲しい。

 

 

 

立木 義浩 写真家
1937年徳島県生まれ。1958年東京写真短期大学写真技術科卒業後、アドセンターに入社。1969年にフリーランスとなり、女性写真の分野やスナップ・ショットで多くの作品を発表。広告、雑誌、出版などの分野で活動し、現在に至る。第9回日本写真批評家協会新人賞(1965)、日本写真協会賞年度賞(1997)、日本写真協会賞作家賞(2010)など受賞歴多数。主な写真集に『小女』、『Tōkyōtō』、『étude』、『動機なき写真』などがある。また、立木の名を世に知らしめた1965年のデビュー作『舌出し天使』が、2018年秋に出版予定。

 

 

 

【展覧会概要】
「Yesterdays 黒と白の狂詩曲(ラプソディ)立木義浩写真展」
会期:開催中~9月29日(土)(入場無料・会期中無休)
時間:12:00~19:30(9月14日(金)は17:00まで)
会場:シャネル・ネクサス・ホール
   中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
問い合わせ:TEL 03-3779-4001
URL:http://chanelnexushall.jp/program/2018/yoshihiro_tatsuki/

 

 

 

テキスト/鈴木佳恵
写真/鈴木佳恵、新井まる

 

 

 

【シャネル・ネクサス・ホールの過去の展示はこちら】
移りゆく儚き美の世界 『D’un jour à l’autre 巡りゆく日々』サラ ・ムーン写真展
 写真が物語る、日本の過去と現在「東京墓情 荒木経惟×ギメ東洋美術館」

 

 

 

【鈴木佳恵の他の記事はこちら】
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Writer

鈴木 佳恵

鈴木 佳恵 - Yoshie Suzuki -

フリーランスの編集者。
広告代理店に勤務後、フリーランスに。
得意分野は映画と純文学。
タルコフスキーとベルイマンを敬愛し
谷崎潤一郎と駆け落ちすることが夢。

 

暇があれば名画座をハシゴしています。