「あなたの存在に対する形容詞」ミルチャ・カントル展【今週のアートニュース】
2018年4月25(水)〜 7月22日(日)までの期間、銀座メゾンエルメス フォーラムにて、ルーマニア出身のアーティスト、ミルチャ・カントルの日本初の個展が開催されている。
カントルは、一貫して「透明性」を追求している。彼にとって透明性とは、単なる言葉ではなく、一つの思想だという。政治や権力といった不透明なものを超えた先に在るものに惹かれ、模索し続けているのだ。
一般公開に先立ち、カントル本人から作品の説明を受ける機会に立ち会えたので、彼自身の言葉を用いて作品をご紹介したいと思う。
自身の作品を説明するミルチャ・カントル
風という物理的作用を人間に置き換えた作品『風はあなた?』
風はあなた?|2018|鐘、紐、アクリル、ドア|サイズ可変
風鈴は通常、屋外に設置され、風という自然の物理作用で音を響かせる。
その風の力を人間の力に置き換えたのが本作『風はあなた?』だ。
紐でドアに括られた風鈴のような鐘が、ドアを開けることにより一斉に鳴る仕組みだ。
ドアを開けるスピードを速めたり、反対に遅くすることで音の強弱に変化をつけられる。
人と物体が持つ緊張関係にも着目して頂きたい。
アーティスト本人の指紋がペイントされた透明の屏風作品『呼吸を分かつもの』
呼吸を分かつもの|2018 |エッチングインク、作家の指紋、ガラス、蝶番、|174×216×0.6cm、174×650×0.6cm
屏風は本来、「隠す」「分ける」「守る」など、透明性がないものである。
あえて、屏風を透明にしたらどうなるか?と挑んだのが本作であり、9.11で強化された指紋認証へのカントルの回答
「権力に対し指紋を出すのなら、アートとして提供したい」
という側面も持つ。
エッチングインクを使用し、よくよく近づいてみないと指紋だとわからなくしているのも、彼の狙いだ。
展覧会タイトルにもなったヴィデオ作品『あなたの存在に対する形容詞 』
あなたの存在に対する形容詞 |2018 |ヴィデオ|38’00’’
透明のプラカードを持った老若男女が東京の街でデモンストレーションを行う様子を収めたヴィデオ作品は、本展のメインともいえる。
撮影場所は、大学、市場、神社と様々で、出演者は全てボランティア、2日間で撮影された。
カントルはルーマニア独裁政権時代に生まれ育ち、デモンストレーションを幾度となく目にしてきた。
ルーマニアでは政権を支持するための手段として用いられていたデモンストレーションが、世界では反対意見を声高にするための方法だと気づいたのは、1999年にフランスに渡ってからだという。
あなたの存在に対する形容詞 |2018 |ヴィデオ|38’00’’
デモンストレーションという行為自体、もちろん意味のあることだ。しかし、それ以上に私たちの存在自体が、その土地の文脈に在り方を示し、どのような態度で向き合うかが重要なのかをカントルはヴィデオ作品で示唆する。
***********
カントルは、レンゾ・ピアノが設計した銀座メゾンエルメスの建築に強いインスピレーションを受けた。
ガラスブロックの壁がもたらす光の美しさに圧倒され、建築について考えることが本展の出発だったという。是非、建築と作品との調和にもご注目頂きたい。
【展覧会概要】
あなたの存在に対する形容詞
開館日:2018年4月25日(水)~7月22日(日)
開館時間:月~土 11:00~20:00(最終入場は19:30まで)日 11:00~19:00(最終入場は18:30まで)
休館日:不定休(エルメス銀座店の営業時間に準ずる)
入場料:無料
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8階
TEL : 03-3569-3300
テキスト:鈴木 佳恵
写真:中野 昭子