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移りゆく儚き美の世界 『D’un jour à l’autre 巡りゆく日々』サラ ・ムーン写真展

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2018年4月18日

移りゆく儚き美の世界 『D’un jour à l’autre 巡りゆく日々』サラ ・ムーン写真展


 

 

移りゆく儚き美の世界 『D’un jour à l’autre 巡りゆく日々』サラ ・ムーン写真展

 

 

2018年4月4日(水)~5月4日(金)の期間、銀座のシャネル・ネクサス・ホールで、サラ・ムーンの個展『D’un jour a à l’autre 巡りゆく日々』展が開催されています。フランス生まれのサラ・ムーンは、1960年代にモデルとして活動し、70年代に写真家としてファッション業界で活躍した後に写真作家としてのキャリアを築き、数々の賞を獲得してきました。

 

写真家・映像作家として第一線で活躍してきたサラ・ムーンは、現代において最も重要なアーティストです。モデルとして無数のカメラのレンズに晒されたであろう彼女は恐らく、写真の特質を知り尽くした上で、ゆるぎない思想と審美眼に裏打ちされた世界を体現しているのでしょう。月の満ち欠けや吹き渡る風の気配など、時の流れを内含し、かけがえのなさを意識させるサラ・ムーンの作品は、繊細で幻想的ながら時代を超越する力があり、観る者全てを魅了します。

 

今回の展示は、シャネル・ネクサス・ホールの空間を作家本人が携わりました。日本初公開作と新作を含め、約120点という数多くの作品の中でサラ・ムーンの世界に浸ることのできる稀有な機会です。以下、ガールズアートークのライター2名での対話形式で、本展の見どころをご紹介します。

 

 

 

▼▼▼会場の様子が分かる動画はこちら▼▼▼

 

 

 

 

 

 

純白の展示空間

 

 

 

girlsArtalk 中野(以下、中野):本展は、会場の内装が真っ白で遠近感を失うのですが、自分が今どこにいるという前提に縛られないせいか、写真の世界に入り込みやすかったですね。

 

girlsArtalk Foujii(以下、Foujii):真っ白で、静寂な空間に作品が浮かび上がっているような、不思議な鑑賞体験でした。展示空間を手がけたナノナノグラフィックス・おおうちおさむさんにお話を伺ったところ、今回はアーティストの希望により、White Cube(美術作品の展示空間に採用される白い立方体の内側のような空間)を作り上げたそうです。スポットの照明もなく、シンプルで、奇を衒(てら)わず、潔いけれど感動が大きくなるような世界を目指したそうです。狙い通り、特別な空間が出来上がっていましたね。

 

 

 


サラ・ムーン写真展会場写真

 

 

 

 

写真家のスタイル

 

 

 

中野:今回プレスプレビューで、ムーン氏に対し「第一線の写真家としてあり続けるために、一番大切なことは何か」という質問がありました。ムーン氏は「幸運」と「欲望」と回答し、またアンリ・カルティエ=ブレッソンの「あなたが写真を撮るのではなく、写真があなたをつかまえる」のだという言葉を挙げていました。サラ・ムーンの世界は、港や木々、工場など、作家が繰り返し惹かれるモチーフがあるのだと思いますが、世界観に相応しい被写体が作家を引き寄せる、つかまえているとも考えられます。
Foujiiさんは、前回、シャネルで開催されたフランク・ホーヴァットの個展を取材していましたが、ホーヴァット氏も何かにつかまえられている感じだったでしょうか?

 

Foujii:あくまで私見に過ぎませんが、ホーヴァットの写真からは、写真家自身が決定的瞬間を捕まえようと意図的であると感じました。彼自身、「一枚の写真に様々な情報が収められていること」を良い写真の条件の一つとして語っていましたが、スタジオで名作絵画に倣ったシリーズを撮影するなど、写真を通して彼自身の思考を視覚化させているように思いました。
その点、サラ・ムーンは目に入ってきた風景をレンズを通して物語化する、もっと無作為で自然な創作スタイルのようなイメージ抱きました。

 

 

 

印象に残った作品

 

 

 

中野:全ての作品が素晴らしかったですが、特に美しい月夜を撮った《レナーテのために》や、白鳥が身を横たえている《白鳥の言葉》、葉の茂みがない部分が目に見える木が被写体の《仮面》と、呼応する形で展示されていた《仮面をかぶった女》などに強く惹かれました。
ムーン氏は、時の流れと共に、美しいものと思うものは変わるとおっしゃっています。「若い時より今の方が、自然の美しさを感じる」とのことだったので、自然の要素が加わっている作品の魅力が増しているのかもしれません。Foujiiさんはどの写真が好きでしたか?

 

 

 


《レナーテのために Pour Renate》2007 

 

 

 


《白鳥の言葉 langage de cygne》2009 

 

 

 


左:《仮面をかぶった女 Femme masquée》20011 右:《仮面 Le masque》2013

 

 

 

Foujii:そうですね。展示作品が多く、どれも素晴らしいので絞るのは難しいですね。
強いて言えば、私は10代の頃にファッション雑誌でサラ・ムーンの作品を見かけて衝撃を受けたので、女性像に特に思い入れがあります。《ヴェールの女》の薄い布の影によって際立つ肌白さのコントラストや《スローモーション》の垂直の空間構成が気になりました。

 

 

 


左:《スローモーション La Lalentie》2011 右:《Femme voilée 1》2011

 

 

 

また、数々の動物の写真には意表を突かれました。《叫び》は豹が獲物を襲い、牙を向く瞬間を捉えています。ヴィヴィットな「生と死」「強い者と弱い者」の世界ですが、永遠に繰り返される自然界の理をモノクロームの世界で冷静に語っているかのようです。
孔雀やカモメ、鴉など鳥が写る作品の羽根の質感も記憶に残りました。

 

 

 


《叫び Le cri》2003

 

 

 

タイトルも見どころの一つ

 

 

 

中野:サラ・ムーンの作品は、タイトルも一片の詩のようで素敵でしたね。写真や映像を見て感じ入った後でタイトルを確認すると、更に作品のことが好きになります。タイトルが、写真に秘められた謎を解く鍵や、写真の奥にある世界への導き手の役割を果たしているようにも思います。

 

Foujii:会場を訪れた方にはタイトルも必ず見ていただきたいですね。場所の名前だけでなく、サラ・ムーンの心情が反映しているものもあるようでした。作品の背景にある物語に近づき、想像の羽を広げてくれるタイトルばかりでした。

 

中野:確かに写真と共にタイトルを見ることで、サラ・ムーンの思いがより深く感じられるような気がしました。

 

 

 

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いかがでしたでしょうか。

 

会期中は、同ビルディング内のブティックや、アラン・デュカス東京にてサラ・ムーンとシャネルファインジュエリーとのコラボレーション作品も特別に展示されています。

 

 

 

 

 

 

会期は僅か1ヶ月。サラ・ムーンの絵画のような幻想的な作品の数々をぜひご鑑賞下さい。

 

 

 

写真:新井まる、Foujii Ryoco、中野昭子
文:Foujii Ryoco、中野昭子

 

 

 

【展覧会情報】
D’un jour à l’autre 巡りゆく日々 サラ ムーン写真展
開催期間:2018年4月4日(水)~5月4日(金)
時間:12:00~19:30
入場料:無料
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
公式ホームページ:http://chanelnexushall.jp/program/2018/dun-jour-a-lautre/

 

 

 

【シャネル・ネクサス・ホールの過去の展示はこちら】
女性の美的瞬間に迫る『フランク ホーヴァット写真展 Un moment d’une femme 』

写真が物語る、日本の過去と現在「東京墓情 荒木経惟×ギメ東洋美術館」

光と影が交差する、おとぎの世界のリアリティ 〜カール ラガーフェルドが撮る、ヴェルサイユ宮殿写真展〜

 

 



Writer

Foujii Ryoco

Foujii Ryoco - Foujii Ryoco  -

学習院大学文学部哲学科(日本美術史専攻)卒業・学芸員資格取得後、アパレル会社にて勤務。
フランス、レンヌ第二大学で博物館学やミュージアムマネージメントを学び、インターンを経験。
パリ滞在中は通訳、翻訳者、コーディネーターとして勤務。
日頃の関心はジャポニスム、日仏の美術を通しての交流。
フランスかぶれ。自称、半分フランセーズ。
アートは心の拠りどころ。アーティストの想いを伝えられるような記事をお届けしていきたいです。
Contact:Facebook・Foujii Ryoco#Instagram・coco.r.f

Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。