feature

フラワーロボットと考える、テクノロジーと人間の未来『Media Ambition Tokyo』トークショーレポート

NEWS

2018年3月7日

フラワーロボットと考える、テクノロジーと人間の未来『Media Ambition Tokyo』トーク


 

フラワーロボットと考える、テクノロジーと人間の未来『Media Ambition Tokyo』トークショーレポート

 

 

2月9日(金)から2月25日(日)まで、最先端のテクノロジー・アートの祭典、『Media Ambition Tokyo』(通称MAT)が都内各地で開催されました。アートのみならず、音楽・映像・パフォーマンス・トークショー等、盛りだくさんの内容で国内外のアーティスト、企業が参加し、多様なプログラムが催されました。

 

MATは今年6回目。未来を想像するテクノロジーの可能性を東京から、世界に向けて発信することを一つの目的としており、「都市型ショーケース」という名目の下、多様化してきました。

 

アートとテクノロジーの融合は、今や世界中で注目されています。日本ではリオ・デジャネイロ オリンピック/パラリンピック閉会式のインスタレーションや、Parfumeのライブパフォーマンス等が身近なメディア・アートとして記憶に新しいですね。

 

一方で、個人的には疑問を持つこともあります。海外での長期滞在後に日本に帰国した際、街中でロボットが接客しているのを目にしたり、美しいAIに恋した若者の悲劇的な物語にショックを受けたり。…テクノロジーが更に進化していき、未来はどうなっていくのだろうか?と。

 

テクノロジーが蔓延する世の中に対し違和感を覚え始めた時に、MAT出展作の一つであるの存在を知り、その姿に強く惹かれました。

 

 

 

<Connected Flower>について

 

 

 

本作は、Hondaとアーティストの浅井宣通さんのコラボレーションのアート作品です。12月にライブストリーミングでインターネット上で公開されたのち、MAT東京シティ・ビュー会場で公開されていました。

 

<Connected Flower>は、フラワー型のロボットで、花形の頭部が開き(咲き)、胴体と目の部分が光り輝きます。その仕組みが興味深いのです。

 

 

 

「地中の水を糧に、花は咲く。フラワーロボは、地球をめぐる「愛」に喜び、花咲く。」(作品ホームページより)

 

「世界中にきっと溢れているであろう「Love and Peace」を今日的なビッグデータのアプローチで確かめてみようというものです。」(作品ホームページより)

 

 

 


<Connected Flower>

 

 

 

ツイッター上で「ラブ」「ピース」という言葉が含まれたツイートが解析され、その一つ一つのツイートが光の粒子となってベースメント部分に描画されます。愛や平和の言葉を糧にフラワー型のロボットの頭部の花が咲くように作られています。

 

機械のような、植物のような、それでいて人間のような雰囲気をまとったフラワーロボ。展示会場では、ハッシュタグ #connectedflower を付けて「ラブ」や「ピース」についてツイートすると、その場でロボが私の名前を呼び、言葉を返してくれました。

 

Hondaの公式ホームページからイメージビデオを、是非ご覧になって下さい。

http://www.honda.co.jp/connectedflower/

 

 

 

MAT Talk「ヒューマニティをテクノロジーで拡張する」

 

 

 

<Connected Flower>の制作者達による、トークショーMAT Talk「ヒューマニティをテクノロジーで拡張する」が六本木ヒルズ・森タワー52階、東京シティ・ビューで2月19日(月)に行われました。

 

トークショーでは、浅井宣通さん、ロボットデザインを手掛けた、SOMARTAデザイナーの廣川玉枝さん、Hondaのチーフエンジニアの阿部典行さん、司会進行を務めるHondaの一之瀬秀実さんの4名が登壇し、作品の製作秘話や、テクノロジーと人間の未来像について意見を交わしました。

 

 

 

 

 

 

_製作のきっかけは?

 

 

 

阿部さん:エンジニアは技術を価値に変換する仕事。価値は数値と言い換えられます。いろんな技術を数値化することで(エンジンの馬力や、ハイブリット車の燃費等)物事の価値を判断してもらっていましたが、近年のお客様には数値が届きにくくなっていると認識し、それが悩みでした。

 

そこで、「お客様にどのように価値を届けたらよいのか」と考え時に、「意味の世界、アートの世界と技術を近づけていくこと」が、突破口になるのではないかと思いました。そして浅井さんに出会い、このプロジェクトに辿り着きました。

 

 

 

_何のためのプロジェクト?

 

 

 

浅井さん:ロボフラワーはテクノロジーの象徴。 近年のニュースを見ていると人工知能、核兵器やドローン等、テクノロジーの力が強大になりすぎていて、人類に害を及ぼす危険性も出てきています。自分はテクノロジーが大好きだが、同時に恐ろしくもあります。「人間の為のテクノロジー」という視点で企画しました。

 

Hondaから最初に共作の話があった時に、Hondaは「未来に、人間の幸福に繋がる技術、プロダクトを作っていきたい」という理念を掲げていて、そこに「繋がり」というキーワードがあって共感しました。そのコンセプトであれば、アートとして表現できると思いました。普段は広告を作るので、商品をテーマにしてCMを制作するが、「人々のため」というコンセプトは普遍性があるのでアートとして表現できる。クライアントであるHondaに協賛してもらって作るのではなく、共にアート作品を一緒に作るという構図になっていて、お互いが作者である点が面白い試みだと思います。

 

一之瀬さん:Hondaは、全てのものづくりの中心に「人間中心、人間を尊重する」という考えがあり、「人間を中心としたテクノロジーの在り方」や「数値では伝わりにくくなっている価値」を形にするプロジェクトとなりました。

 

浅井さん:テクノロジーの意味を問いかけたいです。人工知能の最先端の研究でも、その危険性から、哲学・倫理や、人類の利益を研究し始めています。また、フラワーロボはHondaの象徴であり、未来へのヴィジョン・決意となりました。

 

 

 

_どのように、思いついたのか?

 

 

 

浅井さん:制作を始めた時期は、シリア問題、ヨーロッパのテロ、北朝鮮の核兵器やアメリカ銃乱射事件等、世界が荒んでいるように思えました。「この世界に愛も平和もないのか?」と。愛、平和という言葉にはリアリティーがない、実際にないから虚しく感じてしまうと考えました。

 

そこで、データで調べてみようと思い、今回の作品を作りました。仮のプログラムを作動させると、凄い数のワードが集まってきて、画面に広がりました。「愛と平和」ってあったんだあという気持ちになれたのです。そこで「World is full of love」(訳:世界は愛に満ちている)という言葉が思い浮かんできました。願望でも偽善でもなく、リアルに愛と平和をツイッターでつぶやいている人が存在していることが、素敵なことだと思い企画に繋がりました。

 

 


コンセプトボード

 

 

 

_実際の制作について

 

 

 

浅井さん:ロボットデザインは廣川さんに「オーガニックな生命体のようなもの」、「シンギュラリティを予感させるような機械生命体」、「ポジティブでもありネガティブでもあり、両義性をもつもの」と、漠然としたイメージを伝えました。

 

 

 

廣川さん:世界の愛の言葉で花を咲かせるロボットと聞いていて、デザインの根幹を決めなくてはいけないので、ラフな造形として「地面から何かを吸って花が開く」という形の構造を考えました。

 

 

 


最初のデザインデッサン

 

 

 


ディティールを詰めて人間の形ようになってきた

 

 

 


植物らしく配置を決めていく

 

 

 


服を考えるのと同様に、スカートの形、バックスタイル等を加えた

 

 

 

浅井さん:次にモデラーが3Dモデルに起こし、造形を完成させました。

 

 

 

多くの段階を経て3Dへ

 

 

 


メカニックの部分。メカチームとしては、首部分を安定させるために太くしたかったが、廣川さんの要望で首は細くなった

 

 

 

廣川さん:美人、スリムで繊細なロボットにしたかったので、今までにない有機的なフォルムに挑戦しました。3Dプリントで、多くの部分を作っていきました。

 

ロボットのデザインができることを、とても嬉しく思います。昔は動く花といえばダンシングフラワーみたいなものしかなく、それが現代はどんな技術で、どんな造形で創造できるのか、皆さんと作っていくのはとても楽しい工程でした。

 

浅井さん:ロボとは別にデータヴィジュアライザー(ホームページでも公開)を作成しました。画面左側に、約30ヶ国語の言語で検出した愛と平和の言葉が出てきます。右側は検出されたツイート。ツイッターの背景には、人々のリアルな生活があります。丸いビジュアライザーは地球をイメージし、データを映し出しています。

 

 

 


データビジュアライザー

 

 

 

_どうして人型にしたのか。

 

 

 

阿部さん:最初はロボットではなく、花という企画だったが、廣川さんにデザインを依頼した段階で人の型になりました。花は自然が作ったもの、ロボットは人が作っていくもの。ネットワークや車、社会は人が意思を持って作り上げていくものなので、その象徴ならば、人型ロボットに愛と平和が集まってくるのはわかりやすいですね。みんなが協力しないといいものにならないというコンセプトは、ものづくりをしている我々のサイドからも非常に共感できます。

 

廣川さん:造形の美しい自然界の花に似せたデザインにしても、それに適うことはありません。 人々のラブとピースを集めて咲く造形物なら、人々が愛着を持つ、人間らしさ、生き物らしさがデザインから感じられる方がいい。顔がついていて、かつ女性らしい方がいいと思いました。デザインに反映していくと、花びらが髪のようであったりと。そのようにして造形が出来上がりました。

 

浅井さん:人とコミュニケーションする中で擬人化されている方が伝わりやすいということがありますね。

 

廣川さん:人間に近い、話したり、まばたきがある、人や動物に動きが近い方が、人々が愛着を持つのではないかと思います。

 

 

 

_リアリティーとファンタジーのバランスをどう考えるか?

 

 

 

一之瀬さん:扱っているものが、データやロボット、人間的なものと真逆にあるのに、最終的に有機的で人間らしいというバランスが面白いですね。テクノロジーと人間という真逆にあるものが共存している作品。リアリティーとファンタジーのバランスを、どう考えていますか?

 

浅井さん:テクノロジーが進化してきて壁にぶつかると、人間や生命の模倣を始めます。今の人口知能もニューロンの仕組みを模倣しようとしています。その先として、人間と機械が融合していくような感じがしていて、それを匂わせる作品にしたいと思いました。

 

阿部さん:車だと中に入るのが人間という生命体。本田宗一郎が「研究所(車を開発するところ)は人間を研究するところだ」と言っていていました。開発をする中でもプロダクトの様々な機能が人間らしくなっていっていると感じています。人間が使うものは、人間に近いものの方が使いやすいし、心地よいのかなと日々実感しています。

 

 

 

_現実に根ざしたプロダクトと異なる、アートだからこそ、伝えられた部分はどんなことだったか?

 

 

 

浅井さん:今、自分自身はデザインとアートの、ちょうど間で仕事をしていると思っています。「デザインはソリューション」で、「アートはプレゼンテーション」という言い方ができるでしょう。アートでは現実を忘れて理想を表現できると思います。

 

廣川さん:アートとデザインのバランスは、仕事の目的によって比重を調整をしていますが、今回の場合は「売るもの」ではなく「表現するためのもの」という点を打ち出さないと意味がありません。浅井さんのコンセプトである「ラブとピースを集めると花が開く」ということが一目でわかるようになデザインかつ、人が見て何かを感じ取るという目的が一番大切だと考えていました。

 

 

 


花を咲かせるフラワーロボ

 

 

 

_エンジニアとしての、ものづくりの考え方には何か影響を与えたか?

 

 

 

阿部さん:様々なところから集めたものを集約して一つの形を作り上げること、高みに登ることが参考になりました。 エンジニアは、日々、問題の解決にあたるのに、分解という方法をとります。難しい問題は簡単な問題に細分化し、一人一人の技術に落とし込んで解決するのが今までのやり方。 しかし、物事が複雑に成りすぎていて、従来の方法が通用しなくなっていて、問題解決の為には分解より統合していくことを今回学びました。

 

 

 

_何の為のテクノロジーなのか?どこへ向かっていくのか?

 

 

 

浅井さん:世の中をあっと言わせるテクノロジーに憧れを抱いていますが、同時に、凄いスピードで進化するテクノロジーが一人歩きしている現状を疑問視しています。テクノロジーと人と関わりを問いかけています

 

阿部さん:自身としては「テクノロジーはコントロールして使うべきである」という見方の下、研究をしています。ただ、コントロールされないものも出てきていることは危惧しています。例えばユーザージェネレイティブコンテンツ(消費者が生成、改変可能なコンテンツ)。コンシューマーがコンテンツを作っていく時代になっていくと、コントロールが効かなくなってくるので、いかに社会として折り合いをつけていくのかが課題となっていくと思います。

 

 

 

_今後、<Connected Flower>制作経験を自身の活動において、どのように発展させていきたいか?

 

 

 

阿部さん:ユーザージェネレイティブコンテンツとも関連するが、単純に商品を作るのではなく、市場やお客様とコラボレーションすることが大切だと気付き、少しずつでも今後は実現していきたいと思います。

 

廣川さん:初めてロボットを作って、気づきが多くありました。初めにインターネット上で発表する等、新しい試みもあり、次回作るのなら、もっとこうしたいというイメージがあり、可能性が広がりました。

 

浅井さん:「テクノロジー」「アート」「ヒューマニティ」をテーマに仕事をしています。現在、進行中のプロジェクトでも「人間と人口知能がどう関わっていくのか」を大きなテーマにしていきたいです。最先端のテクノロジーの世界では、哲学や倫理が研究され、それこそアートが取り組めるフィールド。それを発信する作品も作っていきたいです。

 

 

 

 

 

 

最後に

 

 

 

みなさんは <Connected Flower>から、どんなことを感じましたか?

 

世界のどこかで、誰かが「愛」や「平和」を願ったり、感じたりしていると思うと、ロマンティックですが、フラワーロボが咲く時は「リアルに」ツイッターの画面の向こうに、言葉として発信している人がいるのです。

 

テクノロジーという利便性だけが追求されがちな分野で、このようなアート作品が産まれることは、今日において意義深いと感じます。

 

展示は終了してしまいましたが、公式ホームページなどで是非ご覧になられてください。

 

 

 

文・藤井涼子
写真・新井まる・藤井涼子
取材協力:一之瀬秀実

 

 

 

登壇者プロフィール(MATホームページよりhttp://mediaambitiontokyo.jp/talk0219/

 

浅井 宣通
東北大学理学部卒。メディアアーティスト。グラミー賞でのレディーガガとのコラボレーション、AyaBambiとのフェイスマッピング作品INORI(Prayer)、Connected Colors、OMOTE、FACE HACKINGなどフェイスマッピングを中心とした作品で世界的に知られる。ルーブル美術館、モスクワのCircle of Lightなど世界各地のアートフェスティバルにおいてスピーカー、審査員としても活躍。文化庁メディア芸術祭、VFX AWARD、アルスエレクトロニカなど受賞多数。 http://WWW.NOBUMICHIASAI.COM

 

廣川 玉枝(SOMARTA Creative Director / Designer)
ファッション、グラフィック、サウンド、ビジュアルデザインを手掛ける「SOMA DESIGN」を設立。 同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。 第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜」の他Canon[NEOREAL]展/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展/ YAMAHA MOTOR DESIGN [02Gen-Taurs]など企業コラボレーション作品を多数手がける。2017年SOMARTAのシグニチャーアイテム”Skin Series”がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ。

 

阿部 典行 (Honda R&D CO., LTD Cheef Engineer)
東海大学動力機械工学科卒業。1984年入社。エンジン設計者として第二期F1プロジェクトを皮切りに直噴エンジンなど先進研究に従事。1990年代後半からは電動車両を主に担当し、燃料電池車や1~3Motorの各種ハイブリッド車用電動システムを研究。2016年10月より現室課にて新型電気自動車を開発の傍ら、企業改革プロジェクトに携わり現在に至る。

 

 

 

『MEDIA AMBITION TOKYO 2018』
2018年2月9日~2月25日開催(終了)
公式ホームページ:http://mediaambitiontokyo.jp
Honda ホームページ: http://www.honda.co.jp/connectedflower



Writer

Foujii Ryoco

Foujii Ryoco - Foujii Ryoco  -

学習院大学文学部哲学科(日本美術史専攻)卒業・学芸員資格取得後、アパレル会社にて勤務。
フランス、レンヌ第二大学で博物館学やミュージアムマネージメントを学び、インターンを経験。
パリ滞在中は通訳、翻訳者、コーディネーターとして勤務。
日頃の関心はジャポニスム、日仏の美術を通しての交流。
フランスかぶれ。自称、半分フランセーズ。
アートは心の拠りどころ。アーティストの想いを伝えられるような記事をお届けしていきたいです。
Contact:Facebook・Foujii Ryoco#Instagram・coco.r.f