feature

日本初!アジアのメディアカルチャーが集まるMeCA(ミーカ)に潜入

NEWS

2018年2月18日

日本初!アジアのメディアカルチャーが集まるMeCA(ミーカ)に潜入


 

日本初!アジアのメディアカルチャーが集まるMeCA(ミーカ)に潜入

 

 

現代人の私たちは、多くのディスプレイに囲まれ、インターネットでつながり、多くのテクノロジーに支えられながら生活しています。気になる展覧会を検索する、友達や恋人にメッセージを送る、一つ一つの行為が、社会を動かす入力と出力の端子を担っています。そう捉えてみると、私たちもテクノロジーによって紡ぎ出された大きな生態系システムの一員と考えることもできます。私たちが世界を知覚する時、テクノロジーによって支えられた”出力の場=「メディア」の影響を大いに受けているのです。

 

このように、現代を生きる私たちにとって、メディアとの関わりは非常に重要になっています。アートを通してメディアと私たちの関わりを考えてみるのも思考のアプローチとして面白いですよね。

 

今回は、その中で2月9日~2月18日に開催された『MeCA l Media Culture in Asia: A Transnational Platform』(通称ミーカ、以降『MeCA』)を取り上げます。

 

『MeCA』はアジアからメディアカルチャーを総合的に発信する日本初のプラットフォーム。急速に発展するメディアカルチャーを表参道・原宿・渋谷を舞台の中心にして紹介するイベントとして、展覧会、音楽プログラム、ワークショップ、トーク、国際シンポジウムなど多岐に渡って展開され、アート、音楽、教育など分野をまたいで、次世代のクリエイティブシーンを見つめて行きます。

 

今回は、展覧会を中心にレポートをお届けします。

 

 

 

 

 

 

アジアのメディアアートシーンの「今」が凝縮!  

 

 

 

”self-reflexivity : Thinking Media and Digital Articulations” というテーマは、「自己反映:メディアを考えること、そしてデジタルで表現すること」を意味します。

 

MeCAプロデューサーの廣田さんによると、このタイトルが意味するところは「様々な表現があるメディアアートにおいて、今回はメディア自体を考えたり、デジタルの表現、その多様性自体を紹介することを目指した」とのことです。

 

まさに、冒頭でお話ししたように、身の回りに溢れる「メディア」について考えてみる時間を、デジタルで表現されたアートを通じて、自分の中に持つ体験となりました。

 

展示されているのは、日本のメディアアートを牽引し続ける、山口情報芸術センター[YCAM]や、日仏の文化事業で同時期開催のデジタルショック、そしてフィリピンのWSKフェスティバル、フランスのビエンナーレ・ネモ、同じくフランス・ナントのフェスティバルであるスコピトーン等の推薦を受けた8組のアーティストの作品。全作品、東京で初公開ということで、最先端のアートシーンに触れられる期待で、胸の鼓動が速まります。

 

 

 

今の時代に対する「問い」をデジタル表現で提示

 

 

 


右:Bani Haykal 《眠らない者のネクロポリス》 2015

 

 

 

ケーブルの繋がった2本の手が、静かにチェスをする本作。もともと音楽家として活動し、音楽を表現に落とし込むことをテーマに制作するシンガポールのアーティスト、バニー・ハイカルさんの作品です。

 

1770年のウォルフガング・フォン・ケンベレンによって発明された自動チェス人形『機械仕掛けのトルコ人』は、箱型のマシンにトルコ人を模した人形<がついていてチェスができるのですが、必ず人形が勝つ仕掛けになっていたそう。

 

当時【機械は人間よりも賢い】とされていました。つまり現代で言う「人工知能」が入っていると、大層、不思議がられ、人々を魅了していたそうです。が、何を隠そう優秀なチェスプレーヤーがこっそり隠れて人々を騙していたとのこと(!)

 

 

 


Bani Haykal 《眠らない者のネクロポリス》 2015

 

 

 

これをオマージュすることで、AIなどが個人の情報を吸い上げ、力をつけていく、現代の「見えない影響力」を表現しています。

 

チェスの駒の数や種類もバラバラなのは、「均衡ではない=不均衡」な今のグローバリゼーション社会のありようを映していて、静かな空間に響く機械音は、タイトルのように、眠ることなく進む現代のテクノロジーを彷彿させます。

 

この不思議な作品と対峙した時に感じた「新しい違和感」をきっかけに、テクノロジーと自分の関係について思いを馳せてしまいます。

 

 

 

石庭の中に透き通った泉が、来場者を待つ静謐な空間

 

 


坂本龍一+高谷史郎 《water state 1 (水の様態 1)》 2013

 

 

 

続いて、YCAMで制作され、5年ぶりに東京で初公開となる坂本龍一さんと高谷史郎さん共作の作品が展示された部屋に移動します。

 

中央に配置された水をたたえたブースに、水滴が落ちると美しい波紋が広がりながら、共鳴するように音が空間に広がります。

 

高谷史郎さんに解説をしていただきました。

 

「自然を取り込んだ作品で、波紋を音に変換するしています。波紋をどのようなパターンで出すかについては、アジアの気象データを使って、雨を降らすパターン、そして、そのパターンを音として作り直すアルゴリズムを組んで、坂本龍一さんが制作しました。坂本さんと京都の庭を一緒に旅行し、石や水面に映る変化を、作品の中に取り込めないかと話したことを、作品に反映しています。静かに長く観てもらえたら、と思っています」

 

 

 


坂本龍一+高谷史郎 《water state 1 (水の様態 1)》 2013

 

 

 

水や石といったテクスチャーや、自然の中にある有機的なパターンが体に響き渡り自然を感じられる本作品。でも、それを実現しているのは、最新のテクノロジーであるということ。自然とテクノロジーの関係の中で人間がどのような感覚を持つのか、と考えてしまいます。

 

 

 

女性は強い。でも女性と社会のあり方をもっと考えていきたい

 

 

 


左:Kawita Vatanajyankur 《SERIES: TOOLS / WORK》より《Squeezers》2015

 

 

 

最後にご紹介するのは、タイの女性メディアアーティスト、カウィタ・ヴァタナジャンクールさんの「女性」をテーマにした作品です。カウィタさんの作品は、ラフォーレミュージアム会場を中心に展示されています。

 

女性が日常的に行なっている行動がどれほど負荷になっているか、また、それを受け止める女性の強さに目を向けたのが《The Scale of Justice》です。

 

女性の体に下げられた2つの籠に、バナナが投げ入れられる様子が、ビデオインスタレーションとして流れます。これは、30キロのバナナを担いで運んでいる日常の行為を、投げ入れられるバナナという形に変換しています。

 

バスケットにバナナが溜まるほど、重くなっていきますが「それに耐える身体と、その状況に適用しようとする女性の強さを表現したかった」と、カウィタさんは説明しました。

 

 

 


作品解説をするKawita Vatanajyankurさん

 

 

 

本シリーズは6本のビデオインスタレーションで構成されています。他には、ヨガの肩立ちのポーズを取りながら、足裏の上にバスケットを置き、秤を模す《The Scale》があります。

 

バスケット目掛け投げられたスイカの数は、なんと60個!カウィタさん自身、いつ自分の顔にスイカが落ちてきてしまうか、恐怖を覚えながら作品を撮りました。

 

襲ってくる恐怖心に人間として耐えるのではなく、秤自身になることで、自分自身の感覚を捨て、自分の体や精神的な限界を超えて自分を物体化する…。そうして自分の限界を超えることで「瞑想状態」にも似た状態になり女性は強くなっていくことを表しています。

 

 

 


Kawita Vatanajyankur 《SERIES: TOOLS / WORK》

 

 

 

女性の身体や、女性自身に起こることが、ひたすら反復され記録される様子を見ていると、日常の困難や課題に自分を適用させながら、強さを獲得している女性の偉大さに気づかされました。

しかし一方で、女性だけではコントロールできない状況が存在することにも、問題点として認識させられます。ジェンダーに関する問題は、時代や国が違えど未だ根強いですが、現代を象徴するポップで可愛い色遣いが、ユーモラスなコントラストを生み印象的でした。

 

 

 

************************

 

 

 

今回、『MeCA』で展示を鑑賞して、メディアアートとは、現代に生きる私たちの日常の中にありつつも、普段見過ごしてしまっている状況やストーリーを、テクノロジーによって掘り出し、私たちに提示してくれる存在だと感じました。

 

新しいテクノロジーが駆使されることで、今までにない体験ができ、沢山の驚きがあることはもちろんですが、アーティストが作品に込めた想いや課題意識などを知ると、また今を生きる私たちの考えもちょっと深くなっていきます。

 

『MeCA』は2月18日で終了しましたが、今後もメディアアートからは目が離せません!

 

 

 

テキスト:一之瀬秀実
写真:新井まる、一之瀬秀実

 

 

 

【イベント概要】
イベント名:MeCA l Media Culture in Asia: A Transnational Platform
会期:2018年2月9日(金)〜2月18日(日)
会場:表参道ヒルズ スペースオー、ラフォーレミュージアム原宿会場、Red Bull Studios Tokyo、WWW、WWW X 他
展覧会プログラム開館時間:11:00~20:00 (18日(日)は17:00まで)
公式サイト:https://meca.excite.co.jp/

 

 

 

【デジタル×アートが好きな人にはこちらの記事もおすすめ!】
新たなアートを発見!? 第6回「デジタル・ショック」 ―欲望する機械― トークイベント「人工知能の時代のクリエーションについて」アフターレポート


チームラボ 猪子寿之氏インタビュー 〜デジタルアートで人類を前に進めたい〜



Writer

一之瀬 秀実

一之瀬 秀実 - –Hidemi Ichinose- -

ものづくりの会社で、カタリスト/プランナーとしてブランディング・コミュニケーション業務に従事。日々の生活に存在するものがたりの種を見つけ、社会につなげることで、文化のうねりを生み出すプロジェクトを手掛ける。慶應SFCでは、ミッドセンチュリーの建築プロジェクト「Case Study House」のデジタルアーカイブ化、デザインミュージアムの立ち上げに関わり、デザインマネジメント/アートマネジメントを軸に、文化づくりを幅広く専攻。現在、社会兼大学院生として、文化経済学を専攻しながらアートを媒介にした“文化と企業の良好な関係”を模索中。
テクノロジーとアートの交差点に立っていることが多く、メディアアートを中心に、先進テクノロジーが牽引するアートについて考察していきます。
思い入れのあるアーティストはオラファー・エリアソンと蔡國強。好きなものは詩、自然との戯れ、そしてトムヤムクン。