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世界各国の古道具屋を旅して見つけた作品に上書きする 大山エンリコイサム個展 「ファウンド・オブジェクト」

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2017年9月28日

世界各国の古道具屋を旅して見つけた作品に上書きする 大山エンリコイサム個展 「ファウンド・オブジェク


 

9月1日から30日まで広尾の「コートヤードHIROO 3F ガロウ」で、NYを拠点に活動している大山エンリコイサムさんの個展が開催されています。大山さんは「クイック・ターン・ストラクチャー」というオリジナルのモチーフを軸に、壁画や絵画を中心に、ライブ・パフォーマンスやサウンド・インスタレーション、コム デ ギャルソンやシュウ ウエムラとの商業コラボレーションまで広く制作。また、著書『アゲインスト・リテラシーーグラフィティ文化論』(LIXI出版、2015)や、作家自身が監修しグラフィティ/ライティング文化の特集に取り組んだ『美術手帖2017年6月号 特集*SIGNALS! 共振するグラフィティの想像力』を筆頭に、旺盛な執筆・批評活動も行なっています。

 

 

本展では、大山さんが古道具屋で見つけたドローイング、写真、プリントなどの作品に「クイック・ターン・ストラクチャー」を上書きし再構成する「ファウンド・オブジェクト」シリーズの新作15点を展示しています。同シリーズのみで展示内容を構成したのは初めての試みなのだとか。どういった作品なのでしょうか。

 

 

 

 

《FFIGURATI #189》 © Enrico Isamu Ōyama

 

《FFIGURATI #180》 © Enrico Isamu Ōyama

 

ギャラリーを訪れると、スペースを広く使った展示がされていました。今年6月29日から7月4日まで新宿・ルミネ0で行われた大山さんの個展「Windowsill」では、大型キャンバスにペイントした作品でしたし、ライブペインティングや巨大な壁画を制作されていることから考えると、大山さんの作品の中ではだいぶ小さめの印象です。

 

 

-展示されている作品とは

大山さんが活動拠点とするニューヨークや、世界を旅した際に見つけた”額装された匿名の作品“に、彼独自のモチーフを配置しています。
通常、作品の寸法とは額装を含まないサイズのことを指しますが、このシリーズでは額装の寸法を提示しています。ですので、キャプションに明記された寸法を見てから実物を見ると、さらに小さいと感じるかもしれません。

 

 

-大山さんの作品に一貫して使われるモチーフ「クイック・ターン・ストラクチャー」とは

 

《FFIGURATI #182》 © Enrico Isamu Ōyama

 

1960年代末にニューヨークで始まった、壁や電車に自分の名前をオリジナルのデザインでかく『グラフィティ/ライティング』という文化がありました。大山さんは同文化のレター(文字の造形)に関心を持ち、文字の要素は取り去り、線の運動のみを取り出して反復し、抽象的なモチーフに再構成します。それが「クイック・ターン・ストラクチャー」です。

 

 

 

 

-他に見られる、このシリーズの特徴は

ペインティングと合わせて、カービングの手法も使っています。例えば、今回たまたま連作のようになった3点のヨットの作品を見ていただくと分かりやすいと思います。アクリル絵の具で描いた作品と、上書きする部分を削り、その上にシャープペンシルで描いた作品とがあります。

 

《FFIGURATI #192》 © Enrico Isamu Ōyama

 

《FFIGURATI #191》 © Enrico Isamu Ōyama

 

 

-グラフィティ/ライティングやストリートアートでは、ライターやアーティストが描いた作品に、別のアーティストが上書きする行為がよく見られますが、このシリーズはそのイメージにも似た印象があります。

 

間近で見ていただくと気が付くと思いますが、大山さんはこのシリーズで、元の作品に描かれていた文字の要素を消すことも試みています。削られてしまっているので、そこに何が書かれていたかは、推測するしかありません。年代なのか、場所なのか、はたまたアーティストのサインなのか。

 

《FFIGURATI #181》 © Enrico Isamu Ōyama

 

《FFIGURATI #181》(一部分) © Enrico Isamu Ōyama

 

削るという作業も上書きになるのですね。

 

 

-元の作品はどこで見つけたものなのか

ヨットの3作品がアメリカ東海岸のミスティック、他はニューヨークです。大山さんが見つけた地名が、作品キャプションにも明記されています。

 

《FFIGURATI #195》 © Enrico Isamu Ōyama

 

 

-文字情報をなくし、抽象モチーフである「クイック・ターン・ストラクチャー」が描かれたことで、作品イメージがアップデートされる。時代を経てできた紙ヤケや汚れからも、様々な妄想が広がる

 

《FFIGURATI #187》(一部分) © Enrico Isamu Ōyama

 

大山さんは『オブジェクトとの出会いから創作が始まる』と言っていますし、古道具屋に積まれた多くの作品から、作品の基準で選んで手に取っています。その出会いのストーリーを考えるだけでも、イメージは広がります。

また、作品の文字情報が削られていることで、元の作品が制作された時代や、描かれた建物、撮影されたモチーフについても、いろいろな想像ができると思います。例えば、サンマルコ寺院を撮影した作品≪FFIGURAI♯187≫の画面には、街灯があります。街灯ができたのは1700年代ですが現在はないので、いつ頃なのかなぁと、想像を膨らませることができます。

 

大山さん自身『ストーリーを感じる作品』と言っています。見る人によって違う想像を働かせて楽しんでいただければと思います。

 

抽象的なモチーフが、古道具屋で見つけられた作中の空間を拡張させる「ファウンド・オブジェクト」シリーズ。古い作品が好きな方、グラフィティ/ライティングやストリートアートに関心のある方、どちらにも楽しめる展覧会でした。会場を訪れて、ぜひ間近でご覧ください。

 

 

 

【展覧会概要】
大山エンリコイサム個展「ファウンド・オブジェクト」
開催期間:2017年9月1日(金)~9月30日(土)
時間:12:00~19:00
休廊日:日曜日、祝祭日
入場料:無料
会場:コートヤードHIROO 3F ガロウ
住所:東京都港区西麻布4-21-2
電話番号:03-6427-1185
HP:http://cy-hiroo.jp/

 

 

【関連イベント】
クロージングプログラム
大山さんがエアゾールや墨を使用したライブパフォーマンスを、Co.山田うんのダンサー3名と共に繰り広げます。大山さんにとって初となるダンサーとのコラボレーションとなります。
日時: 2017年9月30日(土)18:30〜
出演: 大山エンリコイサム、川合ロン、木原浩太、酒井直之(Co.山田うん)
場所: コートヤードHIROO内
入場無料/予約不要



Writer

石水 典子

石水 典子 - Noriko Ishimizu -

ライターです。

元々は作家志望でしたが、藝大受験で4浪し断念。予備校生時代に周囲にいた、アーティストの卵たちの言葉に影響を受けた10代でした。

今は、取材することで言語化されていない言葉を引き出し文章化するインタビュアーとして、アートの現場に関わりたいと思っています。

そして今、興味があることは場の活性化です。

 

好きなアーティストは、ヨーゼフ・ボイス、アンゼルム・キーファー、ダムタイプ、ナムジュンパイクなど。日本根付研究会の会員で、江戸時代から続く細密彫刻、根付(ねつけ)の普及に努めています。