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“画鬼”河鍋暁斎〜ほとばしる才能、おかしみの世界〜 「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」

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2017年4月4日

“画鬼”河鍋暁斎〜ほとばしる才能、おかしみの世界〜 「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界


“画鬼”河鍋暁斎〜ほとばしる才能、おかしみの世界〜
「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」

 

 

幕末から明治という激動の時代を生きた天才絵師・河鍋暁斎。世界屈指の暁斎コレクターとして知られるイスラエル・ゴールドマン氏のコレクションを収めた展覧会が、Bunkamuraザ・ミュージアムで4月16日(日)まで開催中だ。約180点もの展示のうち、ほぼ半数が日本初公開となる。様々な画法を学び、1つのスタイルにとどまることなく、多種多様なジャンルの作品を描き尽くした暁斎の魅力が詰まった展覧会だ。

 



《河鍋暁斎 《地獄太夫と一休》明治4-22(1871-89)年 絹本着彩、金泥
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

 

 

河鍋暁斎とはどんな人物?

河鍋暁斎(1831〜1889)は、3歳の時に蛙を写生しはじめ、7歳で人気浮世絵師・歌川国芳に入門。2年ほどして狩野派に学び、19歳という若さで修行を終えた早熟な絵師である。幕府に召抱えられていた狩野派の絵師たちは、幕府の崩壊で失業を迫られたが、暁斎はクライアントが後を絶たず、海外にまでその名を轟かせた。来るもの拒まず注文を受け、磨き上げた画力で庶民的な浮世絵・戯画から仏画など多様なジャンルを描いた。

最初の結婚では、放蕩が過ぎて離縁されたり、大の酒好きでお酒を意味する「米汁」という署名を用いるほど。6升、7升の酒を飲みながら即興で絵を描くこともあったという。ある日上野での書画会にて、酔いに任せて新政府の役人を揶揄する絵を描き、その場に居合わせた警視に捕まってしまう。入牢3か月、鞭打ち50回という刑を受け、逸話にも事欠かない人物だ。

 

 

様々な登場人物たち

暁斎の絵に登場するのは、蛙や猫などの動物たちから七福神といった神様、この世に存在しない幽霊から妖怪まで。また変わりゆく時代を捉え、文明開化後の日本の生活風景を描いた。擬人化された動物達は愛らしく、当時まだ珍しかった象も暁斎の鋭い観察眼で描かれている。

 


河鍋暁斎 《動物の曲芸》明治4-22(1871-89)年 紙本着彩
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

 

 

暁斎の画力の秘密

写生を重んじた暁斎は、様々な動物を飼い、動きを注意深く観察した。その方法は、脳裏に焼き付けては記憶によってできるだけ紙に描き、頭の中のイメージが消えると再び観察し刻み込むことを繰り返すやり方であった。火事が起きれば筆と紙を持って写生をし、近所で喧嘩があれば駆けつけて人間の動きを観察していたという。

絶えず絵とともにある生活。それは日々欠かさなかった絵日記からも見て取れる。世の中のニーズに応えながら暁斎ならではのユーモアで絵に命を吹きこみ、確実に腕を上げていったのだろう。

伝統的な絵画の流派である狩野派の絵師は新しい時代を描くことはないとされるが、暁斎は変わりゆく時代を冷静に見つめ、文明開化の象徴でもある電柱、人力車や外国人など、そこにある事象全てを受け入れ、描いていった。

 


河鍋暁斎 《名鏡倭魂 新板》明治7(1874)年 大判錦絵三枚続
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

 

 

おかしみの世界

本展示では春画も多く取り揃えられている。
暁斎の春画はおおらかな明るさがあり、春画の別称でもある「笑い絵」という名にふさわしい。『笑絵三幅対』では、絡み合う男女の後ろから性器をつつく猫が可愛らしくおかしい。『大和らい』(おおわらい)では絵に付随したパーツを動かすことで絵柄が変化する仕立てとなっており、大胆に性描写をデフォルメしたその絵柄に驚き見入ってしまった。他、春画ではないが『放屁合戦』も無邪気でバカバカしく笑いを誘う。

 

 

 

「ふざけてるんですか?暁斎さん」

「ふふふ」とこみ上げてくる笑いとともに、そんな言葉を口にしながら展覧会を巡った。時代を超え出て不思議と感じられる親近感と、溢れるユーモアに想像力。とてもチャーミングな人だったのではないだろうか。お雇い外国人などとの親交から、最先端のものに触れながら、熱心な絵画への探究心で目まぐるしい時代の変化を駆け抜けた暁斎。
『五聖奏楽図』では東西の神様や聖人が一堂に会している。
人間も動物も鬼も骸骨も妖怪もない交ぜになった場内で、生きとし生けるもの、「みんな仲良くやろうや」と暁斎の声が聞こえてくるようである。
おとぎ話ではあるが、現実世界でもそれを叶えられたなら、なんと素敵なことだろう。
様々なジャンルを究めようと絵に打ち込み、日々たゆまぬ努力を続けた暁斎。彼の自由さはあくなき探究心によって培われ、そうして絵に取り憑かれた男の魂は、エネルギッシュに生き生きと私たちに訴えかけてくる。

 

春風亭昇太氏を迎えての音声ガイドは、暁斎の楽しい世界への架け橋となり、初めて暁斎を知る方にもおすすめ。暁斎のユーモアを堪能できる一押しの展覧会だ。
東京での展示会期は4月16日まで。この機会をぜひお見逃しなく!

 

 

文/川嶋一実・写真/丸山順一郎

河鍋暁斎 《三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪》明治4-22(1871-89)年 紙本淡彩
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

河鍋暁斎 《百鬼夜行図屏風》
明治4-22(1871-89)年 紙本着彩、金砂子
イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

会場風景:「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」
Bunkamuraザ・ミュージアム 2017年2月23日(木)〜4月16日(日)

 

 

【展覧会情報】
■Bunkamura ザ・ミュージアム  (東京都渋谷区道玄坂2-24-1)
会期:2017年2月23日(木)〜4月16日(日)※会期中無休
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開催時間:10:00-19:00
※金・土は21:00まで/入館は、各閉館時刻の30分前まで
入場料金:一般1,400円、大学・高校生1,000円、中学・小学生700円
WEBサイト:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_kyosai/

※以下会期は予定
■高知県立美術館
2017年4月22日(土)~6月4日(日)

■美術館「えき」KYOTO
2017年6月10日(土)~7月23日(日)

■石川県立美術館
2017年7月29日(土)~8月27日(日)