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学芸員さん、教えて! 〜ギャップの人「ダリの魅力」とは?〜

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2016年11月22日

学芸員さん、教えて!  〜ギャップの人「ダリの魅力」とは?〜


学芸員さん、教えて!

〜ギャップの人「ダリの魅力」とは?〜

 

 

20世紀を代表すると言ってもいいくらい著名で、大人気の画家、ダリ。

トレンドマークのお髭と、破天荒なイメージのダリですが、実はかなり繊細なギャップの人だったそうです。

生い立ちや、愛してやまなかった奥さんガラについて…など、気になるダリの魅力について、日本で1番ダリのコレクションが多い、諸橋近代美術館の学芸員である大野さんに教えていただきました!

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※写真は特別に許可を取って撮影しています

 

ここがポイント!【ダリってこんな人】

①スペイン、カタルーニャの富裕層の生まれ

亡くなった兄の生まれ変わりとして育てられた、歪んだ家庭環境

死の恐怖と常に戦う繊細な心と、大嫌いな「柔らかいもの」

 

②イケメンなのに女性恐怖症

10歳年上のロシア人女性と不倫の末に結婚

プロデューサーの妻の手のひらで楽しそうに転がるダリ

 

③「ロブスター」や「卵」など殻のある硬いモチーフが大好き

妻のガラが若い画家と遊んでも、生涯愛し続けた一途なダリ

 

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スペイン出身の芸術家、サルバドール・ダリ(1904~1989)。無意識や夢の世界を表現する芸術運動である、シュルレアリスムのグループメンバーとしても知られています。静かな風景の中に現れる、ぐにゃりと曲がった時計や引き延ばされた肉体、ぶよぶよとした奇妙な軟体生物など、彼の作品は見た人に強烈な印象を与えます。それに加えてダリは頻繁にメディアに露出し、過激で突飛な言動で世間の注目を集めていたため、「奇人」「狂人」などと呼ばれていました。芸術家の中でも一際エキセントリックなイメージを持たれがちなダリですが、一個人としてはどのような人物だったのでしょうか。

 

 

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ダリは1904 年5月11日、スペインの北東部カタルーニャ州のフィゲラスに生まれました。父親のドン・サルバドール・ダリ・イ・クシと、母親のフェリーパ・ドメネク、そして4 歳下の妹アナ・マリアがダリの家族です。実はこの他にも兄がいたのですが、ダリが生まれる1年ほど前に亡くなっています。彼の名はサルバドール。長男の死を受け入れることが出来なかった両親は、同じファーストネームをダリに与えて溺愛したのです。

 

この事実はダリの幼少期に暗い影を落としました。両親はダリを兄の墓に連れて行き、お前はこの子の生まれ変わりなんだよと繰り返し聞かせていたそうです。幼いダリは次第に「死んだのは兄ではなくて自分なのではないか」という妄想に取りつかれ、自身の存在と表裏一体になった亡き兄を思いながら、死の恐怖に囚われる日々を送りました。

命が絶え身体が朽ちることに対する恐怖は、次第にダリの作品に反映されるようになります。彼の若年期の作品に奇妙な軟体生物やぶよぶよとした質感の物体が頻繁に描かれているのは、こうした出生の秘密からなるトラウマの影響と考えられます。ダリにとって形が不定型な柔らかいものは、肉体の腐敗を彷彿とさせる恐ろしい存在だったのです。

 

 

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 哀しい出生の秘密と亡き兄へのコンプレックスを抱えたダリでしたが、1929年に運命の女性と出会います。彼女の名前はガラ(1894-1982)。シュルレアリスムの詩人ポール・エリュアールの妻で、ダリよりも10歳年上のロシア人女性です。ガラはダリの芸術家としての才能を見抜き、世界で通用する一流の芸術家に育て上げるために奮闘しました。夫と幼い娘のもとを離れてダリと生活を共にし、衣食住の世話はもちろんのこと、制作のアドバイスや画材の研究、作品の売却など、あらゆる雑務をこなしたのです。

加えて、ガラはダリのメンタル面のサポートも行いました。ダリが不安に苛まれた時には、彼の才能がいかに素晴らしいかを説き聞かせて鼓舞したといわれます。心強いパートナーを得たことで、ダリは作品制作に没頭することを許されました。妻、マネージャー、そしてミューズとしてダリを支え続けたガラ。彼女の存在があったからこそ、臆病で脆弱な青年は奇才の芸術家ダリとして活動することができたのです。

 

 

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そんなガラの存在を、ダリは「殻」「鎧」と例えました。ガラとの出会いの後に制作された作品を観ると、ロブスターや卵など硬い殻で覆われたモチーフが登場しているのが分かります。自身のコンプレックスを刺激し存在を揺るがしてしまう「柔らかさ」に対して、「硬さ」はダリの憧れであり、彼に自信を与えてくれる要素だったのです。

 

大胆不敵でお騒がせな芸術家というイメージが強いダリですが、自分の脆弱さに悩み、愛する人を心の支えとしてコンプレックスを隠そうとしたという人間臭い部分も、彼の魅力なのではないかと思います。作品に描かれたモチーフを通して、ダリの知られざる一面をほんの少しでも知っていただけたら幸いです。

 

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解説:諸橋近代美術館 学芸主任 大野方子

見出し文・写真:新井まる

 

 

 

 

<今回教えていただいた学芸員さん>

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写真:ダリ美術館を目指して渡米した際のスナップ!

大野方子(おおのまさこ)

熊本県出身。幼少の頃から絵を見たり描いたりするのが好きで、美術館にも頻繁に足を運ぶ。高校時代に学芸員という職業の存在を知り、作品への理解を深めて様々な視点で紹介するということに興味を持つ。大学ではサルバドール・ダリについて研究。現在は福島県の諸橋近代美術館に勤務。津々浦々への出張業務を経たおかげで、弾丸一人旅の計画が目下の趣味。

 

 

 

<美術館情報>

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【公益財団法人諸橋近代美術館】

福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峰1093-23

TEL: 0241-37-1088

URL: http://dali.jp