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『ピエール・アレシンスキ―展』でパワーチャージ!

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2016年11月14日

『ピエール・アレシンスキ―展』でパワーチャージ!


『ピエール・アレシンスキ―展』でパワーチャージ!

 

”ピエール・アレシンスキー”という名前を聞いて、作品がクリアに思い浮かべられる人は、日本にどれくらいいるのでしょうか。

日本では”知る人ぞ知る画家”であるアレシンスキ―氏ですが、祖国ベルギーでは”日本でいうところの岡本太郎?”(Bunkamura magazineより)程の国民的スター画家なのだとか・・・。

私が展覧会の取材を希望したのは、 ” 90歳近い今もなお、描き続けている人の作品を見て、その生き様を伝えたい。” と強く思ったからです。

それではさっそく現在Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中の『ピエール・アレシンスキー展』をリポートします!

 

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彼の作品約80点が来日していますが、実は日本での大規模展は初めてとのこと。

なぜ、今なのか・・・それは日本・ベルギー友好150周年を記念してとのことです。

 

その中で良く知られているのは、感情の赴くまま、筆の滑りに身を任せているような激しい筆遣いが多いかもれません。

 

imgp1495(左)≪新聞情報≫1959年 油彩,キャンバス いわき市立美術館
(右)≪誕生する緑≫1960年 油彩,キャンバス ベルギー王立美術館

 

しかし、今回感じた彼への印象は”とにかく熱心な研究家”でした。

本展では彼が様々な人に影響を受けながら、また方法や画材を実験し、現在進行形で表現を模索し続けている様子を知ることができます。

”出会い”と”画材へのこだわり”という切り口で見どころをまとめたいと思います。

 

■2つの運命的な出会い■

 

①現代アートという舞台に出るきっかけとなった・・・”コブラ(CoBrA)”との出会い

 

”48年、コペンハーゲン、ブリュッセル、アムステルダムの頭の文字をとって命名されたコブラ(CoBrA)という国際的な芸術家集団の結成メンバーとなった・・・(中略)このグループはまさに威嚇する毒蛇のようなプリミティブで力強い、迫力ある作品を世に問い、戦後ヨーロッパの美術の潮流を形作ることになった・・・(中略)コブラのメンバーが模索した即興的な筆さばきに大いに共感し、また実験制作・共同制作、国際的な活動、因襲の打破、専門外への挑戦を目の当たりにすることも、若い彼には新鮮な経験であった。”(展覧会HP,学芸員コラムより)

 

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今回、この時期の作品は小さいサイズのエッチング作品(※■画材へのこだわり■で解説)が複数来日しています。激しい個性がぶつかりあった”コブラ”での活動は、3年ほどで幕を閉じましたが、ここで受けた影響の余波は大きく、彼らが目指したものをアレシンスキー氏が引継ぎ実践していきます。
また”コブラ”が解散した年の冬、彼は出会いや刺激を求めてパリに移り住みました。

 

②身体と筆が一体となるような筆さばきへー・・・”日本の書道”との出会い

 

一方、左利きを矯正された彼は、左手は絵を描く手、右手は文字を書く手としていたそうです。絵と文字の相違点と共通点を意識する中で、50年代初頭の作品には表象とも文字ともつかないものがキャンパスの全面を覆い尽くすような作品を制作しています。

 

14885892_1502760273074024_1107764570_n《夜》 1952 年 油彩、キャンバス 大原美術館蔵 © Pierre Alechinsky, 2016

 

こうして文字に対する意識を持ち始めた彼は、”日本の書道”と運命的な出会いを果たします。
パリで52年から通い始めた版画学校で、偶然日本の前衛書道誌『墨美(ぼくび) 』を見つけたのです。彼は一気に書道の世界に興味を持ち、雑誌を主宰していた書家の森田子龍氏と文通を始めたといいます。

日本に行くことを”夢”とし、数年後の1955年に実現します。

2か月ほどの滞在期間中、実際に有名書道家たちと交流し、またその間に白黒の短編映画「日本の書」(本展でもビデオ上映有り)も制作しています。

その映像には学校の授業風景も収録されており、空中に手で書き順を習いながら書道の”リハーサル”を行う生徒の様子など、”身体で書く”ことを無意識に学ぶ姿がありました。

アレシンスキ―氏は制作を行う際、若い時はよく床紙を置いて大きな筆を全身で使いながら描いていたということですが、そのルーツがこの映画にははっきりと残されています。

 

■画材へのこだわり■

 

 本展はとにかく大きいスケールの作品も多く、エネルギーを感じることができるのが魅力的です。そして一貫して”彼らしさ”が全面に出ている作風にもかかわらず、終始飽きさせないのは”紙”などの画材や”表現方法”にこだわり、今尚追究し続けているからでしょう。

最後に制作過程にも密着した映像があるので、こちらは是非全編見て頂きたいのですが、ご本人の作品が展示されているので、注目しながら鑑賞してほしいと思います。

 

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例えば初期作品に多いのは” エッチング”の作品です。銅板などに引っ掻くように描き、腐食させて版をつくるこの技法が彼の出発点です。≪職業≫シリーズは、エッチングならではの手書き的な性格を強調しつつ、しっかりと題材への解釈を伝えています。

そして”書くから描くへ”とタイトルされた章からは次第に油絵へと向かいます。筆致の表情に見せる感受性は、彼の心の叫びのようであったり、憂いを感じたり・・・観る者を世界に引き込んでいきます。

 

その後、アメリカ人画家たちの大きいスケールへの憧れから、”自発的抽象”として ”アクションペインティング”も行います。

さらに、1965年からはアクリル絵の具を採用。描くそばから乾き、 塗り重ねられるという特性は、油彩作品の重苦しさや長い制作時間から彼を解放しました。

 

imgp1501左から≪肝心な森≫1981-84年 アクリル絵具/インク,キャンバスで裏打ちした紙 作家蔵
            ≪紙と墨の城壁≫1979年 墨,和紙 ベルギー王立美術館
            ≪中庭への窓≫1977年 アクリル絵具,和紙 ベルギー王立美術館
            ≪マス目ごとに≫1980年 エッチング,中国紙 作家蔵

 

”版画作品に記念碑的な性格を与えようと新しい技法を利用した”という≪手探りで≫という作品以降は、ビチュームを基盤とし、薄いワニスの層で覆った銅板に直接描画→ラベンダーの精油に浸し→素描を抽出という手法を発明します。
これは何より初めから作業をやり直さず追加と除去することを可能にした、画期的な方法だったようです。

 

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《ローマの網》 1989 年 インク・アクリル絵具、拓本、キャンバスで裏打ちした紙 作家蔵 © Pierre Alechinsky, 2016

 

≪ローマの網≫1983年、この作品以降”拓本”ともいわれる”フロッタージュ”の技法を好んで取り入れます。”マンホールカバー”や” 消火栓””鉄格子”に紙をのせてこすったものを用いた作品は、451点も確認されているそうです。

いかがでしょう。彼の表現方法の歴史を簡潔に紹介しましたが、”強い個性”を描き続ける上で、頑固になることなく、いい意味で”合理的”であったことにより”効率的”な手法を用いていることがわかります。

 

年齢を重ねていくと体力面の退化はある程度受け入れなければいけません。それでも彼が精力的に活動し続けることを可能にしているのは、新しい方法を研究し、また吸収し続けていることかもしれません。

 

14885916_1502760603073991_1519177081_n《至る所から》 1982 年 インク/アクリル絵具、キャンバスで裏打ちした紙 ベルギー王立美術館蔵 © Royal Museums of Fine Arts of Belgium, Brussels / photo : J. Geleyns – Ro scan
© Pierre Alechinsky, 2016

 

また展覧会を通して、私がひどく感動したのは作品に添えられている解説でした。

多くの作品に対して、ただ作品の背景を説明するだけではなく、様々な考察がされていました。

一見抽象的で理解が難しいような気がしてしまう方も、彼の作品をより楽しめると思います。

”アレシンスキ―氏には、インクの線を何かの前兆に変える才能がある”

等、文章の表現がとにかくかっこいいです。是非こちらは会場でお楽しみください!

 

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制作中のアレシンスキー 1986 年 © Agnés Bonnot, 1986

 

最後に・・・アレシンスキ―氏からのメッセージがとても素敵だったので紹介します。

 

”私の人生は終わりが近づいてきている。 もう表現しきったかもしれない。

でも明日も私は筆を持ち、動かす。 そうするとまた新しい作品が生まれる。

それをやめてしまえば本当に終わってしまう。 私は描き続ける。自分のために。”

 

年齢など関係なく、前を向いて生きる人は”生きている”という輝きを放ち続けていると感じました。そして私も自分のために努力し、世の中に何かを生み出し続けていたい、と強く憧れました。

 

最近疲れている方、ぜひ彼の作品とその生き方からパワーチャージしましょう!

 

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アレシンスキ―氏が一番好きな色という”ウルトラマリンブルー”を使った作品のパネルがフォトスポットになってますー!♪

 

 

文 : 山口 智子
写真: 丸山 順一郎 ・山口 智子

 

【情報】

『ピエール・アレシンスキ―展』

■開催期間■
2016/10/19(水)-12/8(木) 

■開館時間■
10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)

■会場■
Bunkamura ザ・ミュージアム

■主催■
Bunkamura、毎日新聞社

■協賛・協力等■
[後援]ベルギー大使館、J-WAVE
[協力]ヤマトロジスティクス株式会社、日本貨物航空株式会社

An exhibition of Pierre Alechinsky in cooperation with the Musées royaux des Beaux-Arts de Belgique, Bruxelles

■お問合せ■
ハローダイヤル 03-5777-8600

■他会場■
国立国際美術館 2017年1月28日(土)~4月9日(日)

■入館料(消費税込)■
一 般 1,400円 1,200円
大学・高校生 1,000円 800円
中学・小学生 700円 500円
◎団体は20名様以上。電話でのご予約をお願いいたします(申込み先:Bunkamura Tel. 03-3477-9413)
◎学生券をお求めの場合は、学生証のご提示をお願いいたします。(小学生は除く)
◎障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ねください。

■公式HP■
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/16_alechinsky/

 

 



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

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