過去最大級の大回顧展!”奇才”ダリの全貌に迫る『ダリ展』
”完璧を恐れるな”という衝撃的なフレーズの広告を目にした人も多いはず。
ついに日本では約10年ぶりとなるサルバドール・ダリ大回顧展『ダリ展』が、国立新美術館にて開催されています!スペインとアメリカのダリ・コレクション全面協力ということで規模は過去最大級!
筆者自身、最も好きなアーティストの1人であるダリ。日本中のファンが待ち望んでいた本展覧会がようやく京都から東京にきたのでさっそく取材に行ってきました!!
Collection of the Fundació Gala-Salvador Dalí, Figueres © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
展覧会の構成は、chapter1~8まで主に時間軸でダリの生涯を辿ることができます。
その内chapter4とchapter6のみ、それぞれ『ミューズとしてのガラ』、『ダリ的世界の拡張』というテーマでまとめられています。
chapter1は1904年、当時10代だったダリからはじまり、chapter2までは印象派からキュビスム、ピュリスム、未来派と美術界の動向を敏感に察知し、様々な手法で描いた作品たちが展示されています。ただ”真似ている”というのではなく、きちんと自分の中に咀嚼し、卓越した技量で描かれた作品たちからは早熟な印象を受けます。
chapter3はダリの人生で非常に意味を持つ”1929年”から始まるシュルレアリスム時代。
本展ではグループに熱烈に迎えられるきっかけとなった映画「アンダルシアの犬」も上映され、最もファンが多いこの時代への幕が開きます。
chapter4は”1929年”夏に出会い、ダリのミューズでインスピレーションの源、時には母親のようでもあり”ダリという奇才”をプロデュースしたガラの部屋。”ガラ・サルバトール・ダリ”とサインするようになったことが意味する通り、一心同体だった彼女への深い愛が伺える章です。
chapter5はアメリカ亡命後、それまで著名ではあったが様々な奇行と派手な交友関係で懐も人間関係も波乱だった時代にピリオドを打ち、”商業的”な仕事や出版を通し”シュルレアリスムの名士”としての地位を確立していった時代。そして続くchapter6ではヒッチコック、ディズニー、マルクス兄弟にも協力しながら映画や舞台へ更なる活躍の場を拡げていく様子を多くの”本邦初公開”作品と共に観ることができます。
chapter7は原子力時代の芸術というタイトル通り、日本への原爆投下に衝撃を受けたダリが”原子物理学”の知見と”宗教的神秘主義”を結び付け、”芸術のあり方”を模索する様子が描かれています。≪ポルト・リガトの聖母≫(1950年)は東京会場のみの展示です。
ラストのchapter8はポルト・リガトにガラと共に帰還後、再び古典芸術に回帰して様々な巨匠に触発された作品を多く描いています。
本展最後の作品は1983年。亡くなったのは1989年ですがガラがなくなった1982年に、「自分の人生の舵を失った」と激しく落ち込み、1983年の5月に絵画制作をやめてしまったからでしょう。
以上速足で解説しましたが、”ダリの生涯”を知ることができる展示であることは伝わったでしょうか?
約250点という貴重な作品たちは全時代・全ジャンルが網羅されているといっても過言ではありません。
作品全てを語ることは到底できないため、一緒に取材に行った二人にお気に入りの作品を1つずつ選んでもらいました。
【ライター・Yoshikoのコメント】
私のお気に入りは、なんといってもシュルレアリスム時代の作品です。ダリは、精神分析学を創始したフロイトの著作を熱心に研究していたといいます。フロイトによると、夢には無意識下にある願望や欲望が、形を変え表現を歪ませて現れるとされており、ダリはその理論に基づいて、夢からやってくる無意識をインスピレーションの源としていたそうです。フロイトに感銘を受けるというからには、何かコントロールできない自身について強い探究心があったのかも……そんなことが、ふと頭をよぎりました。
サルバドール・ダリ《謎めいた要素のある風景》 1934年、72.8×59.5cm、板に油彩、ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵
Collection of the Fundació Gala-Salvador Dalí, Figueres © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
謎めいた要素のある風景。その名の通り、私の前に謎めいた世界が広がっています。中央には、ダリが高く評価していたオランダの画家・フェルメールが絵を描いています。看護師につれられている小さい男の子は幼少期のダリの分身。スイスの画家ベックリーンが好んだ糸杉の前には、布をかぶった亡霊のような不気味な人影。
ここは、暖かいのでしょうか、それとも涼しいのでしょうか。もしかしたら、温度を感じない世界なのかもしれません。きっと乾燥していているのでしょう。ほんの少しだけ風を感じます。イメージの世界を目の前にした時、私はそれを頭で理解するのではなく、身体で感じることからはじめました。そうすると、不思議なことに、その世界は、私も感じたことがある懐かしいものとして感じることができます。ここはダリの夢の中、つまり彼の無意識の世界かもしれませんが、私の無意識の世界にも通じてしまいます。この絵画は、無音の世界な気もしますし、その中でダリ少年の声だけがこだましてるような気もします。糸杉の前の人影が静寂のなか急に動き出しそうです。ぐにゃりと倒れるのか、はたまた踊り出すのか、どこまでもどこまでも広がっている大地。この孤独な大地の中にたたずむのは、小さな小さなダリと彼が熱烈な想いを寄せていたフェルメール。同じ場所にいるように見えても実際には彼らの時空は隔たれいるかのようです。フェルメールがダリ少年を描いているようには見えません。お互い見えていないかのように独立しています。夢を見ている大人のダリだけが同時に2人を見ているのかもしれません。決して交わることのない2人……。しかし、彼らを包み込む大きな空と強烈な赤と黄色の光のまばゆさだけは確かなものであると思いました
この絵画作品に何を感じるかは、私たちの無意識にあるものと関係が深いのかもしれません。
【ライター・Utaeのコメント】
私のお気に入りは、ダリの《テトゥアンの大会戦》という作品です。
サルバドール・ダリ《テトゥアンの大会戦》1962年、304.0×396.0 cm、カンヴァスに油彩、諸橋近代美術館蔵© Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
*東京会場のみ展示
ダリが手がけた作品といえば…有名なのは机や枝から時計が液体のようにダラ〜っとなっているもの。そして、私の中での印象とも同じく、とろけたチーズのような絵画だったり、不思議な構図で手や足が四方に長く伸びたような絵画のイメージでした。
しかし、本展覧会に足を運ぶとダリの様々な側面が見ることができたことに加えて、全体的に「こんな絵も描くんだ!」という発見が多かったように思います。
会場にて展示されているすべて作品を鑑賞しながら”奇才”という所以に感心を抱き、その中でも私の印象に深く刻まれたのは《テトゥアンの大会戦》という作品でした。
今までメディアを通じて私が見てきたダリの作品は、不思議な世界へと誘うかのような非日常的なものをテーマとしたようなものが多かったのですが、馬や武器などがたくさん描かれた戦での作品があることに意外性を感じざるをえません。
こうして写真で見ると分からないと思うのですが、この絵画作品を見て最初に驚いたのはそのサイズ!実際に展示会場に赴いて確かめてもらえると分かるの思うのですが…とにかく大きい!直径は人二人分くらいはあるんじゃなかろうかというほど、この迫力満点の作品からは今まで感じてきた不思議な世界観に加えて力強さと迫力を感じました。
“大会戦”という名にふさわしいほどの大きさと躍動感を汲み取って下さい!
また、そんな作中にダリらしいポイントがいくつかあるのでご紹介します。
一つは、絵画の中に数字が隠れされているのですが、それがこの作品を制作していた年齢である58という数字であところ。
二つ目は、よく見るとダリの自画像が描かれているところ。
ぼんやり絵の人々を眺めていると見覚えのある顔が…あれっ、これダリだ!あなたも見つけていてください。
三つ目は、遠くの方に細長い足のようなもの。これは記事の感想を書いている時に発見しました。
まだまだ私が発見できていないところがあるかもしれません。
人物や馬など一つ一つをよく見るとリアルに描かれていたり、よく見ると現実ではありえない面白い描き方がされていたりと、ただパッと見ただけでは分からないだまし絵のような楽しさを与える絵画作品という印象を受けました。
やっぱり、ダリらしい!!!
なるほど、観る方によって様々な切り口がありますね。
皆さんも是非、1人のアーティストとは思えない程様々な表現方法を使うダリの作品を鑑賞し、お気に入りを見つけてみてください。
ちなみに元々ダリの大ファンである私が特に感動したのは、ディズニーと協働で作られた映像『Destino』(2003)。
Collection of the Fundació Gala-Salvador Dalí, Figueres © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
こちらは1946年に企画がはじまり、ダリが手がけた習作を約10点描いたにもかかわらず、財政的問題により上映されなかったものですが、およそ57年後の2003年に完成し、公開されました。
実はこちら、ディズニーの甥であるロイ・エドワード・ディズニーと、当時ダリのアシスタントを努めたジョン・ヘンチが、 当初作られた18秒のテスト映像とデッサンを元にCG処理を施して仕上げたそうです。
約7分間の中に、溶けたカマンベールチーズのような時計や、手のひらから溢れる蟻をはじめとしたダリおなじみのモチーフが散りばめられ、多重イメージを駆使する独自の手法「偏執狂的批判的方法 (Paranoiac Critic)」を用いて、音の旋律上を流れるように次々と姿を変えていきます。
ダリの魅力を詰め込んだ本映像は、彼らのダリに対する止まない尊敬を感じ、心打たれるはずです。
《幻想的風景 暁(ヘレナ・ルビンスタインのための壁面装飾)》1942年、249.0 × 243.0 cm、カンヴァスにテンペラ、横浜美術館蔵 © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
《幻想的風景 英雄的正午(ヘレナ・ルビンスタインのための壁面装飾)》1942年、251.0 × 224.0 cm、カンヴァスにテンペラ、横浜美術館蔵 © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
《幻想的風景 夕べ(ヘレナ・ルビンスタインのための壁面装飾)》1942年、247.5 × 247.0 cm、カンヴァスにテンペラ、横浜美術館蔵 © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016.
また、全体を通して強く感じたのは時代によって変わる天才的な筆使いを生で観ることができた幸運です。
”奇才”として知られるダリですが、様々な巨匠達が一生をかけて磨くような技法をすぐに理解し、自分の物として進化させてしまうのは、真面目に”アート”と向き合い努力をしたからこそでしょう。
特にシュルレアリスム時代の筆跡を全く残さない丁寧な描き方には感動し、時間を忘れ見入ってしまいました。
絵画、映像、ジュエリーにインテリアまでが一同に集められた本展。
是非この機会に実際目で見て、彼の世界観に魅了されてください。
文 : 山口 智子
コメント協力 : Yoshiko、Utae
【情報】
『ダリ展』
【会期】
2016年9月14日(水)~12月12日(月)
【会場】
国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
【休館日】
毎週火曜日
【開館時間】
午前10時~午後6時 毎週金曜日は午後8時まで
※ただし、10月21日(金)、10月22日(土)は午後10時まで
(入場は閉館の30分前まで)
【主催】
国立新美術館
ガラ=サルバドール・ダリ財団
サルバドール・ダリ美術館
国立ソフィア王妃芸術センター
読売新聞社
日本テレビ放送網
BS日テレ
【共催】
ぴあ
WOWOW
後援
スペイン大使館
TOKYO FM
協力
日本貨物航空 日本航空
特別協賛
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協賛
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展覧会に関する
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03-5777-8600(ハローダイヤル)
公式HP:http://salvador-dali.jp/