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自然に寄り添うライフスタイルへ「そばにいる工芸」展

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2016年9月30日

自然に寄り添うライフスタイルへ「そばにいる工芸」展


自然に寄り添うライフスタイルへ「そばにいる工芸」展

 

現在、10月25日(火)まで銀座・資生堂ギャラリーで、6名の工芸作家による身近な生活の中にある工芸を紹介する『そばにいる工芸』展を開催中です。

1919年に創設された資生堂ギャラリーは、「美しい生活文化の創造」を企業使命とした資生堂の理念を、展示を通して多くの人に伝えています。生活を豊かにするものとして当初から工芸に着目しており、1975年から1995年まで開催した「現代工藝展」では、現代工芸界の各分野からメンバーを選び展示を行いました。2001年から2005年までは「life/art」展では、「現代工藝」を今日的に発展させた形として、life(生・生活)とart(芸術・技術)との新たな関係性を探る展覧会を催しました。

そんな、資生堂ギャラリーと密な関係を築いてきた工芸。本展は、日常生活のなかでそっと人間と寄り添う工芸をテーマにしています。

 

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銀座に構える「一冊の本を売る本屋、森岡書店 」の森岡督行氏が、今回の展示に協力しました。
暮らしの基本となる「食」と「住」の側面から6名の工芸作家: 鎌田奈穂氏(金工)、川端健夫氏(木工)、飛松弘隆氏(陶磁器)、ハタノワタル氏(和紙)、ピーター・アイビー氏(ガラス)、吉村和美氏(陶芸)の新作や代表作が展示されています。

森岡氏は、柳宗悦の著作『工藝の美』を参照に「工芸」を考えると言います。親近感を抱かせる、「生活を美しくする工芸」という観点。2011年の東日本大震災の際には「工芸」が傍にある豊かさを実感し、日常生活を取り戻すにつれ「工芸」のある生活への感謝が生まれたといいます。会場では、柳氏のテキストを引用した、森岡氏が工芸の本質を問う思想を読んでいただけます。

鎌田奈穂氏は、金工で茶道具を作られています。油絵を志しましたが、「日常で使うものが作りたい」と金工の道に進まれました。つい昨年、お子さんが産まれたそうで、アトリエで撮影された映像では、製作の間に息子さんと遊ぶ微笑ましい姿が見られました。鎌田氏の作品は金属製ですが、冷たい感じはせず、手のひらに包み込みたくなるような優しい風合いです。

 

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川端健夫氏は、甲賀の里山で木製の「暮らしの道具」を製作しています。地元の子どもたちの要請で、今年はかき氷のためのスプーンも製作したそうです。木はデリケートな素材ですが、川端氏はメンテナンスもしっかりして下さるので、赤ちゃんがスプーンを噛んで傷がついても安心して使えるそうです。するっとしていて、口当たりが優しそうなカトラリーたち。

 

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飛松弘隆氏は陶磁器のランプを製作されています。飛松氏は、「気づいたらそこにある、気づいたらずっと使っている」飽きのこないもの、調和を乱さない、作家の入れすぎないものを作りたいと話していました。透光性のある陶土(磁器の原料になる粘土)に着目しています。磁器の表面に入れられた模様が、何とも言えないやわらかな光に透け、独特の空間を作りあげています。

 

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ハタノワタル氏は油絵を学んでいましたが、現在は日本一強度のある黒谷和紙を作っています。京都の黒谷にて、楮を植え、乾かし、加工するまでの工程を一人で行っています。東北大震災時にボランティアに行った際に感じた、大勢とスペースを共有するためのものとしての箱の必要性。可愛らしく、風合いのいい、「小さな気持ちを入れる」色とりどりの箱たち。

 

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アメリカ出身のピーター・アイビー氏の薄く透き通ったガラス作品。富山の古民家で、日本人のお弟子さんと息を合わせて製作しています。二千年前のローマで使われていたのと同じ技法で製作しています。機能は優先しながらも、繊細さと美しさを追求したゴブレットやグラスたち。

 

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アイビー氏が大学の卒業制作で作った作品「Soap Buddle Holder」のデモストレーションがありました。ガラスの球体に液体を入れ、ストローでそっと吹くと、、球の中にシャボン玉ができました。そして、コルクの蓋を閉めてしばらくすると、シャボン玉の上半分から徐々に消えていきました。シャボン玉の”儚さ”を愛でるという行為は、とても日本らしい楽しみだと思います。スタッフの方にお願いすれば、お試しできます!

 

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吉村和美氏は、益子焼を学び、現在はオリジナルの手法で独特な色合いの陶器を製作しています。植物、野菜、空の色、吉村氏が見た自然から作られた色が揃った展示台は、画家持っているパレットのようでした。どんな色のお料理と、飲み物と合わせようか、と想像力が掻き立てられます。

 

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今回、展示室中央のテーブルのみ、ご自身の手にとって、触れられるように設えられています。工芸は、そばにいるもの。視覚で捉え、手で触れてこそ、作家さんの思いを感じられますね。

 

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また、アトリエで撮影された各作家1分ほどの映像では、それぞれの工房で一人ずつ、もしくは弟子と共に、作品に命を吹き込む姿を見ることができます。

 

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感謝したくなる器たち。毎日の生活に、そっと寄り添ってほしい作品にきっと出会えることでしょう。

本文・写真 藤井涼子

 

【情報】

会期:2016年9月6日(火)~10月25日(火)

会場:資生堂ギャラリー

〒104-0061 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階

Tel:03-3572-3901 Fax:03-3572-3951

平日 11:00~19:00 日曜・祝日 11:00~18:00 (毎週月曜休)  入場無料

https://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/

 



Writer

Foujii Ryoco

Foujii Ryoco - Foujii Ryoco  -

学習院大学文学部哲学科(日本美術史専攻)卒業・学芸員資格取得後、アパレル会社にて勤務。
フランス、レンヌ第二大学で博物館学やミュージアムマネージメントを学び、インターンを経験。
パリ滞在中は通訳、翻訳者、コーディネーターとして勤務。
日頃の関心はジャポニスム、日仏の美術を通しての交流。
フランスかぶれ。自称、半分フランセーズ。
アートは心の拠りどころ。アーティストの想いを伝えられるような記事をお届けしていきたいです。
Contact:Facebook・Foujii Ryoco#Instagram・coco.r.f