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サクッと解説!「トーマス・ルフ展」

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2016年9月7日

サクッと解説!「トーマス・ルフ展」


《「Porträts(ポートレート)」シリーズ》

 

サクッと解説!「トーマス・ルフ展」

 

現在、11月13日(日)まで東京国立近代美術館にて開催されている「トーマス・ルフ展」。
本展覧会はドイツ写真界の巨匠と呼ばれ、ドイツ出身の現代写真家トーマス・ルフ(Thomas Ruff) 氏が、日本で行う初の本格的回顧展として注目を浴びている。

それでは本展覧会の見どころポイントを、わかりやすく解説を交えながら、読者の皆さんに紹介していこう。

 

知っておこう!
トーマス・ルフの基礎知識

1958年生まれ。ドイツ出身の現代写真家。1977年から1985年までデュッセルドルフ芸術アカデミーでベルント&ヒラ・ベッヒャー夫婦のもとで写真を学び、友人の肖像画をモチーフにした巨大な写真「Porträts(ポートレート)」シリーズが有名。ベッヒャー派とも言われている。

 

写真を学んだ
ベッヒャー夫妻との関係性

トーマス・ルフを語る上で避ける事が出来ないのが、この夫妻の存在だ!

ベッヒャー夫妻とは、ベルント・ベッヒャー(1931年〜2007年)とヒラ・ベッヒャー(1934年〜2015年)のドイツ人アーティストのカップル。
工業的な建築物の写真が有名で、一般的には「タイポロジー(類型学)・フォトグラフィー」と呼ばれている。彼らは1950年代末より、極めて有り触れた建築物の写真を複数並べることで見えてくる何かを追求してきた。ベッヒャー夫婦の影響を受けている作家達はベッヒャー派と呼ばれ、その後大きな飛躍を遂げている者が多いのが特徴。
アンドレアス・グルスキーもその中の一人である。

 

IMG_9948今回のオープニングのためにドイツより来日したルフ氏は、チャーミングなキャラクターの持ち主。

 

展示構成にビックリ!
18もの作品シリーズ

本展示は「Interieurs(室内)」、「Porträts(ポートレート)」、「Häuser(ハウス)」「Sterne(星)」、「Zeitungsfotos(ニュースペーパー・フォト)」、「Nächte(夜)」、「andere Porträts(アザー・ポートレート)」、「Stereofots(ステレオフォト)」、「I.m.v.d.r」、「nudes(ヌード)」、「Substrate(基層)」、「jpeg」、「zycles」、「cassini(カッシーニ)」、「ma.r.s.」、「Photogram(フォトグラム)」、「negatives(ネガティヴ)」、「press++」の計18のシリーズから成り立っている。

 

ここで!筆者が注目している作品をちょこっとだけご紹介しよう。

 

◉「Porträts(ポートレート)」

会場に入って右手にすぐ見えるのは、トーマス・ルフの代表作とも言える「Porträts (ポートレート) 」シリーズ。写真の大きさは210×165cmとかなり大きい。

ここに写っている人々は全てルフ氏の友人だそうだ。人々の表情は均一で、それぞれの顔や服装は違うにも関わらず、何故か個性の見えないポートレートである。
それもそのはず、彼はある決まったフォーマットに沿うようにと、撮影時には被写体に指示しているからだ。

均一性を保った写真の並びを見ていると、それは監視下の元に生きる現代人の肖像にも見えてくる。

IMG_9962《「Porträts(ポートレート)」シリーズ》

 

◉「ma.r.s.」

NASAの探査船が撮影した画像を使用した作品。「火星」という幻想のようで、実在するその風景は、ルフ氏の加工により芸術的な写真へと変化した。

IMG_9966

IMG_9941《(上)ma.r.s.シリーズ》《(下・左から)3D_ma.r.s. 10,2013・3D_ma.r.s. 09,2013》

こちらは、なんと3Dメガネを掛けて見る作品。
3Dメガネをかけることで、立体的な肖像が現れる。
彼は、将来私たちが実際に見るかもしれない火星の立体像を写真で作り出した。

 

◉「press++」

最後にご紹介するのはルフ氏の最新作。そして、世界初公開となるシリーズだ。

現在の報道写真はデジタルカメラで撮影することが当たり前の時代。
しかし、かつては印画紙に印刷された写真原稿が使用されていたことをご存知だろうか。

その写真原稿の裏面や余白部分には、撮影したカメラマン等によって、写真のあらゆる情報や指示が記されていたそうだ。
ルフ氏は、各写真原稿の両面をスキャンし、両面の情報を一つの画面に統合した。
その中には本展主催者でもある読売新聞社から入手した写真原稿もある。

IMG_9954《press++》11.07,2016 ©Thomas Ruff/VG Bild-Kunst,Bonn 2016

 

見たら欲しくなる!
ルフサイズなグッズたち

展示の最後を締めくくるのは、グッズコーナー。

トーマス・ルフ展のためだけにデザインされたレターパッド、T−シャツ、トートバック、ファイルなどが並ぶ。

本展覧会で購入できるグッズのテーマは、通常より大きい「ルフサイズ」でのデザインを展開しているそうだ。

ここだけのスペシャルなルフサイズグッズをあなたも手にしてみてはいかがだろう。

 

IMG_9976

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何度見ても楽しめる展示!

トーマス・ルフの作品は一見難解だと思うかもしれない。

なぜならば、さままざまなテクニックを使用した彼の作品は、わかりやすく完成された美しいコンポジションや、面白いフォルムといったものにとどまらないからだ。

彼の作品は制作プロセスからはじまっており、その作品一つ一つに自身が思い描く思想が込められている。さらに、その時代背景との関係も無視できない。

 

本展示は作品のシリーズと年代ごとに展示されているので、彼の軌跡を辿りながら鑑賞できる。
キャプションにはその作品の制作方法についての説明もあり、さらに音声ガイドを利用すれば小山力也による解説を聞く事もできる。

トーマス・ルフのことを知らない人でも、十分に満足できるコンテンツとボリュームを兼ね備えた構成になっているので、気軽な気持ちで会場に足を運んでみてはいかがだろうか。

 

文・写真:たなお

 

【情報】

トーマス・ルフ展

特設サイト:http://thomasruff.jp

会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー

会期:2016年8月30日(火)~2016年11月13日(日)

開館時間:10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)

*入館は閉館30分前まで

休館日:月曜日(9月19日、10月10日は開館)、9月20日(火)、10月11日(火)

観覧料:

当日(前売/団体)

一般  1,600(1,400/1,300)円

大学生 1,200(1,000/900)円

高校生  800(600/500)円

 

主催:東京国立近代美術館、読売新聞社、ぴあ、WOWOW

後援:J-WAVE

協力:Lufthansa Cargo AG、全日本空輸(株)

 

美術館へのアクセス:

東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分

〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1

詳しくはアクセスマップをご参照ください。

 

巡回:金沢21世紀美術館・2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)

 



Writer

たなお

たなお - TANAKA NAOKO -

女子美術大学大学院在学中。
ドイツ留学中に出会った「日独伊親善図画」という1938年の児童画コンクールについて研究中。
学外ではライター、アートプロデュースアシスタントとして活動中。 

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