12人12色 「12 Rooms 12 Artists UBSアート・コレクション 」
現在、東京駅丸の内北改札口にある東京ステーションギャラリーで開催中の「12 Rooms 12 Artists UBSアート・コ
レクション 」。
今年日本で設立50週年を迎えたグローバル金融グループUBS。
世界各国にいる地域の方々が現代美術に親しめるように、アート・バーゼルをはじめ様々な支援を行ってきました。
民間企業による世界で最も重要な現代美術コレクションの一つであるUBSアート・コレクションの作品群が、東京駅
の歴史を体現できる美しい煉瓦壁の展示室を持つ東京ステーションギャラリーにて展示されます。
それでは、本企画展の見どころを押さえながら作品を紹介します。
入り口からエレベーターで3階まで登り、そこで私を出迎えてくれたのは、スーザン・ローゼンバーグ氏の作品です。
かつてローゼンバーク自身がダンスを学んだ経験から描かれた6点組の《1,2,3,4,5,6》。
身を乗り出す、もたれる、飛び上がる、かがむ、立つ、休むという6つの基本動作によってシークエンスを生み出して
います。力強くありながらも軽やかな筆さばきから、身体の軸や方向、動作の流れがわかってきます。
作品を見つめていると躍動と静止を繰り返す”踊る人物”が浮かび上がってきます。
写真:スーザン・ローゼンバーグ《1,2,3,4,5,6》
この他にも、彼女の代名詞といわれる《馬》の作品が2点出品されています。
そして、次の大きな展示室に入ると27点もの作品が出品されています。
こちらの作品群を手がけたのはアメリカのポップアートのパイオニアといわれているエド・ルーシェイ氏。
彼は単独の言葉と図像を記号的かつ無表情に組み合わせることで独自のスタイルを確立していきました。
特に私が驚いたのは…オーガニック・シルクスクリーンという独自の技法を用いた「ハリウッド」シリーズの作品
です。タイトルに含まれている《ペプト・キャビア・ハリウッド》の”ペプト”は胃腸薬、そして《フルーツ・メトリ
カル・ハリウッド》の”メトリカル”はダイエット飲料。食品と薬を混ぜ合わせて、その液体で制作したものです。
無表情と言いながら…そこにはハリウッドスターやセレブに対してのブラックジョークが感じられました。
その他にも、ルーシェイ氏が手がけた初期の作品から展示しているので、年代を追いながら作品を鑑賞していくと
変化が感じられて面白いと思います。
そして、同フロアにある多角形の展示室には”アラーキー”の愛称で知られている荒木経惟さんが手がけた国内未発
表の作品シリーズが7点も出品されています。
テレビコマーシャルの画面を撮影した写真を、人の顔や商品の中央を破いてから貼り直した、少し不穏な印象を受
けてしまう作品。
UBSアート・コレクションに所蔵された時のタイトルは《The Day We Were Happy》でしたが、本企画展への出品
に際して、日本語タイトルは《切実》と荒木氏によって改めて題されたそうです。
荒木経惟《切実》 1972年、ゼラチン・シルバー・プリント、粘着テープ ©Nobuyoshi Araki UBS Art Collection
また、絵画、彫刻、写真といったジャンルだけでなく映像も出品されています。
陳界仁(チェン・ジエレン)氏が手がけた30分の映像作品《ファクトリー》。
写真:陳界仁《ファクトリー》2003年 ©Chen Chieh-Jen. Courtesy of the artist and Chi-Wen Gallery UBS Art Collection
過去を振り返り未来を想う余裕のないほど圧倒的な資本主義の速度に対して、作品を通じて歴史の空白と現在を
接続することで抗おうとする陳氏の眼差し。主役の女性労働者の表情は一貫して無表情、それどころかサイレント
映像のため、発言権を根こそぎ奪われているにもかかわらず強いメッセージが伝わってきます。
そして、映写室を抜けて階段を降りると…
次の展示室に飾られているアイザック・ジュリアン氏の美しい作品が私たちを出迎えてくれます。
こちらは《一万の波》という映像作品からシーンを抜粋した写真です。
2004年に英国モーカム湾で貝を拾っていた低賃金で雇われていた不法就労者の中国人23名が高波にのまれて死亡
した実存の物語と、海上に飛んで溺れる者を助ける能力を持つ航海の守護神・媽祖が漁師を救う福建省の伝説「
州島物語」を重ね合わせたものです。
ジュリアン氏が手がけた美しい中国の風景を中心に、警察の映像記録、CGIなどといった素材が混交し、過去と
現在、洋と東西が絡み合いながら不法就労者ビジネスと移民問題の闇を伝えてるそうです。
そして、同フロアにある広い展示室には本企画展のポスタービジュアルを担当する日本では公開される機会が少ない
ルシアン・フロイド氏の作品が展示されています。
写真:ルシアン・フロイド《裸の少女の頭部》1999年 ©Lucian Freud Archive/Bridgeman Images UBS Art Collection
学芸員さんの話によると…
フロイド氏が作品を手がける際には、人物を長きに渡って椅子に座らせ、観察しながら制作していくそうです。
この”長き”とは、1、2週間といった期間ではなく、半年以上ものをさしているのだそうです。
作品と向き合っていると髪の流れや顔の皺、その時々の光によって映し出される明暗など、その微妙な変化を一つ、
一つ、丁寧に汲み取り、捉えては逃さない彼の熱意が伺えました。
また、本展で出品している《大きなスー》に登場する女性を描いた作品は、アートマーケットできわめて高い評価を
得たことでもとても有名です。
また、こちらにもある多角形の展示室でも作品が展示されています。
こちらの造形作品《オダリスク》を手がけたアンソニー・カロ氏は、抽象彫刻で終始されている作家です。
しかし、本企画展のために厳選した作品は、具象とも見える人体を表現しています。
そして、この作品の見どころは台座からはみ出している脚です。
このように台座の平面からはみ出し、下へと伸びていく脚の動きから、moveを感じ取ってみてください。
アンソニー・カロ 《オダリスク》 1985年、ブロンズ ©Anthony Caro. Image courtesy of Barford Sculptures L
そして、次の展示室では小沢剛氏が手がけた作品があります。
こちらの写真に収められている少女たちが手に持つものは拳銃を象ったいくつもの野菜。
人参、ニラ、大根、じゃがいも…など、まさに作品タイトルのとおり《ベジタル・ウエポン》。
土着性、戦争、コミュニケーションといったテーマを混ぜていながら皮肉やユーモアが感じられます。
写真:小沢剛《ベジタル・ウエポン》
戦争やテロがあった地域や内戦が続いている地域の少女たちにモデルになってもらっているそうです。
そして、モデルにその地域に伝わる”皆で食べられる鍋料理”を教わり、そちらの料理に使用されている野菜でカメラ
マン自ら武器をつくります。
次に、《ベジタル・ウエポン》をモデルに持ってもらい撮影します。
撮影後は野菜の武器を解体してその食材を調理し、パーティーを開くまでが制作の流れになっています。
こちらの作品に鍋料理(Hot Pot)が出てくるのは、紛争地域(Hot Spot)とかけているそうです。
そして、展示室を抜けると複数の写真を組み合わせたブラジル出身の作家リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー氏の
作品があります。
写真:リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー《遠くない場所》
所属場所の曖昧な風景を描写している本作品は動物園で制作されました。
オリーヴオイルを塗ったレンズを介して複層化した生態系を撮影しています。
写真をよく見ると隠れている動物がいるので見つけてみてください。
廊下にはディヴィッド・ホックニー氏とミンモ・パラディーノ氏の作品があります。
本企画展に出品されている作品はわずか3点ではありますが、それぞれの作品から手法や時代の遍歴を感じ取って
みてください。
デイヴィッド・ホックニー《シャトー・マーモントの裏手の家》1976年、黒鉛、クレヨン、紙 ©David Hockney UBS Art Collection
こちらの大きな絵画作品を手がけたのはミンモ・パラディーノ氏。
ミンモ・パラディーノ 《三つの流れ星》 1983年、油彩、カンヴァス、着彩した木、動物の頭骸骨、手製の額 ©Mimmo Paladino. Courtesy of the artist UBS Art Collection
鮮やかな色彩とともに、人物の頭部や手足、植物や器などを配置し、浅い空間を作り出す特徴は、同時期にニュー
ヨークで活躍していたジャン=ミシェル・バスキアとの併交関係を思わせます。
特に目を引くのは右上にある動物の骨…こちらは羊の骨を使用しているそうです。
そして、左から伸びる木片と組み合わせてキリンを示していると言われています。
そして、廊下を抜けると2点の大きな絵画作品が出迎えてくれます。
こちらを手がけたのはサンドロ・キア氏です。
写真:サンドロ・キア《いかだの三少年》《自由な労苦》
コントラストの強い明るい色彩と動物的な官能と生命力を感じる人物像。
作品をじっと見つめていると何層にも重なる色…学芸員さんも「これだけの色を何層にも重ねているのに、作品の
トーンが暗くならないのが不思議です。」と仰っていました。
キア氏の作品と向き合っていると不思議とルノ・アール展で鑑賞した「欲女たち」を思い出しました。
展示作品にはコレクションの中でも特に著名な作家の作品をはじめとし、日本ではまとまった作品が公開される
機会の少ないアーティストの作品。また、ブラジルの新星であるリヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー氏など、
近年新たに加わった重要な作品が一堂に会するとても貴重な機会です。
会期中にはエド・ルーシェイ氏やアンソニー・カロ氏の作品にちなんでワークショップが開催されます。
この夏、アートを触れに東京駅に足を運んでみてはいかがでしょうか。
文・写真:新麻記子
【情報】
12 Rooms 12 Artists
UBSアート・コレクションより
【会期】2016年7月2日(土)-9月4日(日)
【休館日】
7月18日をのぞく月曜日、7月19日
【開館時間】
10:00 - 18:00
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館30分前まで
【入館料】
一般1000(800)円 高校・大学生800(600)円 中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者手帳等持参の方は100円引き、その介添者1名は無料
【HP】http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
【ワークショップ詳細】
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/event.html