青森県・十和田市現代美術館をめぐる。
「写真」の役割はなんだ?
『地霊〜呼び覚まされしもの〜東川賞コレクションより』
ずっと気になっていた美術館のひとつ…
青森県にある「十和田市現代美術館」にゴールデンウィークを利用して行ってきました。
十和田市現代美術館 外観
取材したのは、企画展『地霊〜呼び覚まされしもの〜東川賞コレクションより〜』
北海道上川郡東川町という町が1985年に”写真の町”を宣言し、現代まで毎年夏に国際写真フェスティバル東川フォト
フェスタを開催しています。
それにともない、『写真の町東川賞』が制定され、30年以上にわたって国内外の写真作家を表彰し、その作品を展示
するとともに、その作品のプリントを収集し続けているそうです。
マニット・スリワニチプーン《ピンクマン イン パラダイス #7》 2003年
この展覧会は全3部から構成されていました。
第1部では、写真は”生の世界と死者たちの世界とを結び付け、混ぜ合わせる装置のようなもの”だとし、 此岸・ 彼岸を
往還するように写真を撮りつづける写真家たちを紹介していました。
第1部を見て理解しやすかったのは荒木経惟氏の《センチメンタルな旅 冬の旅》シリーズ。
危篤状態である家族の元に久々に集まった人たちと、その”日常から非日常”、”生から死”へと移る瞬間を、作りこむ
ことなく写真におさめています。
泣いて悲しむという姿ではなく、最後に握り合う手、喪服姿でカラオケを楽しむ姿。
猫が膝の上でくつろぐ姿。
棺桶と遺影・・・白黒写真ということも効果を増し、ノスタルジック。
誰しもがいつかは経験する家族の死というシーンを、過剰ではなく、リアルに伝え、写真の中で死者と生者が結び
つくだけではなく、現代を生きる鑑賞者である私たちも結び付けられる気がするから不思議です。
荒木経惟氏《センチメンタルな旅 冬の旅 -手指をにぎりしめると、にぎりかえしてきた。
お互いにいつまでもはなさなかった。午前3時15分、奇跡がおこった。目をパッとあけた。輝いた。》1991年
参加している写真家たち全員が直接的に生と死というのを写真に撮っているわけではありません。
例えば小島一郎氏の《津軽地方1958》シリーズ。
普通に農作業をしている人々を撮っているのに、雲の切れ間とそこから除く空が白黒写真により濃淡だけで表現
され、”不穏”で”怪しい”ような雰囲気が際立っていました。
言葉にできない”この世のものではない”どこかにつながっているような気になります。
第2部では飛彈野数右衛門が”東川町”自体にスポットライトをあて、町役場で働きながら町民の生活を細やかに記録し
続けた写真が並びます。
”そこに生きる人も建物も被写体になることを意識”しているとか。
元々カメラ普及率が世帯あたり1984年の時点で86%以上だったというのを活かしたとはいえ、食物や伝統芸能など
ではなく形ではないものを生み出すことで、町興しをしたという発想は本当に素晴らしいと思いました。
第3部では『精霊との交歓』とタイトルがつけられ、国内外のお祭りや儀式の写真などが展示されています。
クラウディオ・エディンガー《カルナバルースカラの舞踏会/リオデジャネイロ 1991年》1991年
その瞬間を写真として切り取った時に”神”を感じるというよりも、その”場”にいることで”神”と触れることができた
ことが予想できる風景。
国籍、宗教という関係だけではなく、誰もが心で”神”を思い描いていることへの肯定をしているような、それでいて
それがいざ作品となった時には客観的になるような・・・なんともいえない感覚になりました。
特別展を見て感じたことは、青森で見るからこそより感じる、その土地とその地で生きる人々の魅力でした。
実際に東京でこのような展覧会をめぐる以上に、自分の知らない土地に来て、自分の肌で感じる空気やにおいがある
ように、まだまだ知らない魅力あふれる土地や風習があります。
そしてそこには人が息づいており、その人たちが意識して後世に残していかないと、風習は”過去”や”歴史”の遺産に
なってしまうということです。
生と死、過去と現在をつなげ、融合する”写真”という存在の魅力を改めて感じた展示でした。
また、十和田市現代美術館というと、真っ白な外観に色とりどりの花で出来た巨大な彫刻《フラワー・ホース》
チェ・ジョンファ氏(韓国)をはじめ、無料で鑑賞することができる屋外展示が多いのも魅力の一つだと思います。
草間彌生(日本)《愛はとこしえ十和田でうたう》
アート広場には日本を代表するアーティスト・草間彌生氏《愛はとこしえ十和田でうたう》という天真爛漫な
カラフルな水玉の世界をはじめ、10を越えるダイナミックな展示が広がり、写真を撮る人達でにぎわっていました。
周りに高い建物がなく、空も作品の一部かのようにとても素敵です。
思わずその世界の住人になったつもりで楽しく写真を撮ってしまいました。
少し歩いたところにもアートが広がっているので、宝探し気分で散策してみてはいかがでしょうか。
エルヴィン・ヴルム(オーストリ)《ファット・ハウス》
天気によって見え方が変わるのも屋外展示の醍醐味ですね。
また晴れているときにも行きたい!と思いました。
最後に、次に展示が予定されている 「シンシアリー・ユアーズ ― 親愛なるあなたの 大宮エリーより」について
お知らせしたいと思います。
希望の海》2015年 ©Ellie Omiya
東京大学薬学部卒という意外な経歴を持つことでも知られる大宮エリー氏による自身初となる美術館での展覧会です。
鮮やかな色彩にどこか温かみのある大宮エリー氏の作品が「それぞれ手紙を書くかのように、絵を。」という
メッセージとともにあなたに贈られます。
《A DIRECTION》2013 ©Ellie Omiya
会期中はライブペインティングやトークショ等のイベントとともに、商店街にもアートがひろがるのだとか。
ダイナミックな外観含む常設展と、心にダイレクトにメッセージが届く特別展。
併せて是非お楽しみください。
Photo by MASARU FURUYA
また、室内の常設展は以前girls Artalk代表・新井まるが取材に行っている記事もあるので是非読んでみてください!
文・写真 : 山口 智子
展覧会名 シンシアリー・ユアーズ ― 親愛なるあなたの 大宮エリーより
会期 2016年5月28日(土)− 9月25日(日)
会場 十和田市現代美術館
十和田市 商店街
開館時間 9:00~17:00(入場は閉館の30 分前まで)
閉館日 月曜日(月曜が祝日の場合はその翌日)
ただし、8 月1 日(月)、8 日(月)、15 日(月)、9 月20 日(火)は臨時開館。
観覧料 企画展+常設展セット券1000 円。企画展の個別料金は一般600 円。
団体(20 名以上)100 円引き。高校生以下無料。
主催 大宮エリー展実行委員会、十和田市現代美術館
協力 小山登美夫ギャラリー
特別協力 株式会社中川ケミカル
後援 東奥日報社、デーリー東北新聞社、青森放送、青森テレビ、青森朝日放送、十和田市教育委員会
企画 児島やよい(当館副館長)
同時開催 大宮エリーの商店街美術館
会期 2016年5月28日(土)− 9月25日(日)
会場 十和田市 商店街
エースカメラ 十和田市稲生町16-55
桜田1 十和田市稲生町12-34
桜田2 十和田市稲生町12-34
古川 十和田市稲生町12-38
開館時間 9:00~17:00(入場時間は閉館の30分前まで)
閉館日 月曜日(月曜日が祝日の場合はその翌日)
ただし、8月1日(月)、8日(月)、15日(月)、9月20日(火)は臨時開館。
観覧料 300円(パスポート+缶バッチ付き)
アクセス 美術館から徒歩5分〜10分
特別展— 親愛なるあなたの 大宮エリーより
展覧会一覧shapeimage_3_link_0 シンシアリー・ユアーズ
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作品紹介
会期中、アーティストによるライブペインティング、トーク、ワークショップ等を予定しております。