世界初の大規模公開!
『村上隆のスーパーフラット・コレクション ー蕭白、魯山人からキーファーまでー 』
森美術館で開催中の大規模個展『村上隆の五百羅漢図展』。
現代美術界における功績は然ることながら「世界のムラカミ」とまで言われ、トップクラスまでに上り詰めた
村上隆氏の偉業を見るため、会場に足を運んだ方々も多いのではないでしょうか?
今回、村上隆氏つながりで横浜美術館にて現在開催中の『村上隆のスーパーフラット・コレクションー蕭白、魯山人からキーファーまでー 』を取材してきました!
アーティストとして精力的に作品を創作する一方で、キュレーター、ギャラリスト、プロデューサーなど、
多岐にわたる活動を展開しながらも様々な角度で現代美術界に挑みつづけている村上氏。
本展ではコレクターとして独自の視点と美意識を発揮し、積極的に集めた国内外の美術品を数多く展示しています。
その知られざるコレクションには現代美術を中心に日本をはじめとするアジアの骨董品、
ヨーロッパのアンティーク、現代陶芸や民族資料まで大変幅広く紹介しています。
当初は400点だった展示作品数が、最終的に1100点にもなったんだとか!
会場を分けているセクションに沿って見どころをお伝えします〜。
まず、会場入って直ぐにあるエントランス、グランドギャラリーでは『彫刻の庭』が展開されています。
敗戦をイメージした飛行機の残骸に8㎜フィルムが巻きついているアンゼルム・キーファーの彫刻や、
資本主義を訴えている牛の革を縫い合わせた巨大なスフィンクスのようなジャン・ホァンの彫刻から、
歴史と芸術に関する複雑な関心が読み取れる作品が迎えてくれます。
アンゼルム・キーファー《メルカバ》2010年
ジャン・ホァン《ヒーロー No.1》2008年
その他にも、生活の中で身近な存在であるエレベーターが、とても小さなサイズに生まれ変わったこちらの作品では、
実用的では無いにも関わらずそこに金銭を支払う人間の行為から、美術作品に対しての意味や価値について問われて
いるかのようでした。
マウリツィオ・カテラン《無題》2001年
『日本・用・美』では陶磁器の作品群が展示されています。
中には縄文時代から12世紀に勃興していく地方 の古陶、桃山時代に制作されたと推定される茶碗、
その他にも北大路魯山人のポップで可愛いお椀や朝鮮・中国の陶磁器や生活雑貨など…日本やその他
アジアの作品も然ることながら、フランスやイギリスなどヨーロッパのもあります。
北大路魯山人 旧蔵 《仁清予水玉鉢》制作年不明
特に私が気になったのは江戸中期に制作された白隠慧鶴による《いつみても達磨》という掛軸。
『村上隆の五百羅漢図展』でもこの達磨が描かれている絵画が数点あり、そちらの作品を制作する際に
参考にしたのではないかと推測されます。
ディヴィッド・シュリグリーのインスタレーションがある『スタディルーム&ファクトリー』では、
展覧会期間中に訪れた観客が室内中央に立つ人体モデルの彫刻を自由にデッサンすることができます。
描かれた作品は壁に展示されることもあるので思い切って体験してみました〜!
数分後に目が瞬きをしたり、男性器から水が出るなど、その仕掛けに笑いが込み上げ、
集中力が切れそうになりながらも、童心に帰ったように画を描くことに夢中になりました!
ディヴィッド・シュリグリー《ヌード・モデル》2012年
訪れた人が描いたデッサンの数々。
続いて、『村上隆の脳内世界』と題されたセクションでは様々な作品が待ち構えています。
会場内の展示作品を入れていたことが伺える天井にまで積み上げられた大きな作品を入れる木箱。
その他には電飾の作品や行者の装束、木彫りの仏像や狛犬などが目を引きますが、昭和期のボロ布、
三ツ矢サイダーのグラスなども混じっており、ああらゆるものが等価に混在して展示されています。
そのおもちゃ箱をひっくり返したような空間世界から村上氏の脳内を覗くかのような不思議な体験ができます。
そして、2つの展示室に跨いぐ最も大きな『1950-2015』のブースでは、1950年代から現在に至るまで、
国内外のアート作品が、制作年に沿って紹介されています。
アーティストの名前を挙げればきりがありませんが…アメリカンポップアートの第一人者アンディ・ウォーホル。
インタビューをさせていただいた五木田智央さんやアートオークションで拝見した谷口真人さんの作品なども
展示していました!
絵画作品だけでなく…数多くの彫刻作品や陶芸作品もあります。
こちらのセクションでは独自の領域を切り開いてきた開拓者や新たな時代を作った人へのリスペクトとともに、
圧倒的な物量から「変容する美」や「芸術の真髄」など、村上氏が読み解いてきた美術史が見て取れます。
本展は個人的な趣好のために購入したアート作品を展示しているのではありません。
アーティスト活動の一環としてアート作品から制作過程を読み取るだけではなく、その他の活動から
アートマーケットの在り方や芸術と価値の成立といった視点から「芸術とは何か?」という命題に
向き合いながら集めた数々の作品を紹介しています。
タイトルにある「スパーフラット」とは…
平面性や装飾性といった造形的な意味のみに限定されるものではありません。
時代やジャンル既存の階級制から解放された作品の並列化を目指したものです。
藍染の雑巾
こちらの藍染の擦り切れた雑巾は先方とのやり取りを何度も重ねて譲り受けたものだそうです。
村上氏曰く…
「値段こそつかないものだけれども、そのものに含まれた時間や歴史に対して、どのように価値を感じるかどうか?」
だそうです。
そこにはアートマーケットに出展している作品全てに価値があるわけではないという、命題に様々な角度で向き合い
ながら模索を続けている村上氏ならではの言葉だと思いました。
圧倒的な物量と多様さを誇る作品群を通して、村上隆というアーティストの美意識の源泉だけでなく、
芸術と欲望や現代社会における価値成立のメカニズムについて考えてみてはいかがでしょうか?
また、展覧会会期中は関連イベントも開催されるのでそちらにも参加してみましょう!
文 / 新麻記子 写真 /新井まる・新麻記子
【情報】
『村上隆のスーパーフラット・コレクション ー蕭白、魯山人からキーファーまでー 』
期間:2016年1月30日(土)〜4月3日(日)
休館日:木曜日
時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
会場:横浜美術館
観覧料:一般 1,500円(団体 1,400円)、
大学・高校生 900円(団体 800円)、
中学生 400円(団体 300円)、
小学生以下 無料、
65歳以上 1,400円(要証明書、美術館券売所でのみ対応)
※団体は有料20名以上(要事前予約)。
※毎週土曜日は、高校生以下無料(要生徒手帳、学生証)。
※障がい者手帳の所持者と介護者1名は無料。
※観覧当日に限り「村上隆のスーパーフラット・コレクション」観覧券で横浜美術館コレクション展も観覧可。
【関連イベント】
学芸員によるギャラリートーク
日付:2016年2月26日(金)、3月11日(金)、25日(金)
時間:15:00〜15:30
会場:村上隆のスーパーフラット・コレクション展展示室
参加費:無料
【関連展覧会】
村上隆の五百羅漢図