「幻想的なのに、どこか懐かしく、あたたかい。」
ミヒャエルさんの絵画作品を見た一番最初の感想だった。
本展で初めて現物を観ることができて、作品に吸い込まれるような感覚になった。
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「ウィーン玉手箱」
油彩 25
ミヒャエルさんは日本人で初めて正式に国際結婚をした祖母を持ち、現在も日本人の妻と
湘南で生活しているなど、日本との関係が深い事でも知られるオーストリアの画家である。
クーデンホーフ=カレルギー伯爵家の人物であり、2012年にはオーストリア大統領から「教授」の称号も授与された。
本展では水彩と油絵がおよそ6:4くらいの割合で展示されており、
それぞれの特徴を生かした作品に多くの人がじっくりと足を止めて見入っていた。
水彩といっても、彼の作品はペンや色鉛筆を使って、細かい点描で輪郭が描かれている。
建物が透けているように見えたり、輪郭が二重に見えるように
描かれるなど、独特な表現が現実の景色をファンタジーに変えていく。
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「ウィーンのパノラマ」
水彩 28.5×37.3cm
本展では新作が中心ではあるが、全58点の内数点は1990年代の作品も展示されている。
年代別に並んでいるわけではないが、制作年に注目して作品を見てみると、最近の作品になるにつれて、彼が
「ウィーン幻想派」をただ継承するだけではなく、独自のフィルターで見つめ直し、変化させていることがわかる。
最近の作品は以前の作品より色使いが優しくなり、実際の場所というよりも彼がイメージで思い描く景色であったり、
異なる二つの国の風景を違和感なく合わせるなど、オリジナルの情景が描かれている。
そして、景色の中に人物が描かれていないことで、より一層“どこかで見たことがありそうなのだが、
でもやはり見たことがない夢のよう”なデジャブににも似た不思議さがあるように思えた。
現実と幻想とノスタルジーの境目がわからなくなる感覚に陥るのは彼の魔法かもしれない。
その一方で、本展にあるのは祖母・光子さんの肖像一点だけであるが、
人物画や植物の絵はとても写実的に描かれている。
また、東日本大震災で復興への願いをこめて描かれた「ガレキから芽吹く希望の若葉と昇龍」や
「時計仕掛けの魚」など、完全なフィクションの作品も展示されているので、
彼の様々な面を知ることができる見応えある展示になっている。
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「機械じかけの魚」
水彩 35.4×27cm
彼のフィルターで見た美しい世界。
優しく色彩豊かな作品たちに触れて、忙しい日常を忘れ、少し立ち止まってみてはいかがだろうか。
文 / 山口智子
【開催概要】
ミヒャエル・クーデンホーフ=カレルギー絵画展
期間:2016年1月29日(金)〜2月7日(日)
時間:10:00〜19:30
会場:Bunkamura Gallery
入場料FREE