本展は「”時間”を切り取ってメディアに定着させる」という写真の性質を活かしたさまざまな表現を鑑賞することで、
芸術表現としての”写真”の魅力を再確認して頂く試みです。
この冒頭の文は本展の案内に書かれていた言葉。
確かに写真は時間を切り取ります…
冒頭の文を改めて読み返すと、少し当たり前のような気がします。
難解ではありませんが、シンプルなテーマであればあるほど、この展示のように哲学的だったりします。
全世界の写真家が”時間”を捕まえると、どうなるのでしょうか?
存在しているようで、ふわふわと抽象的な”時間”という概念をカタチにすると、
大変面白く鑑賞できることがこの展覧会で分かるのです。
Part 1:「時間の露出 / 露出の時間」
「写真は、時間を切り取り、空間を平面に移し替えます。」(案内より)
平面に移し替えられた時間は、現実の時間と同じなのでしょうか?
クラウス リンケ 「瞬時の移動」 1972 年/251 x 130 cm/ゼラチンシルバープリント
© Klaus Rinke / Deutsche Bank Collection
杉本博司さんの”劇場”シリーズは、映画一本分の光をぎゅっと一枚の写真におさめています。
感じ方や捉え方は人それぞれですが、映画の時間、登場人物たち、観客の思い、
その全てが輝く平面の長方形になっているようです。
杉本博司 「ローズクラン ドライブインシアター、パラマウント」 1993 年/42 x 54 cm/ゼラチンシルバープリント
© Hiroshi Sugimoto / Deutsche Bank Collection
Part 2:「今日とは過去である」
写真にうつっているものは、写真というイメージのカタチでここに存在しながら、
そこに写っているものはもう存在しません。
ソ連時代のウクライナ。水着でワイワイしている人々。あの文化、あの体制のあの国はもう存在しません。
発展する前の中国。今の中国にはいけるけど、”あの頃”の中国にはもう行きたくても行けません。
純真そうな目でこちらを見る少年と向き合うしかないが、それはそれでいいのかもしれません。
壁に残された不思議な幾何学的な形。
これが何かお分かりでしょうか?
イト バラーダ 「系図」 2005 年/150 x 150 cm/C プリント
© Courtesy the artist and Sfeir-Semler Gallery, Beirut/ Hamburg / Deutsche Bank Collection
なんと、移民になった家族の写真がかかっていた壁の写真です。
作品の注釈を読むと…
急に、この丸や楕円や四角がものすごく圧縮された時間のブラックホールのように見えてきます。
ぞわぞわっとするけど、”時間”というものは何とも魅惑的なものですね。
Part 3:極限まで集中した瞬間
シャッターを切るその瞬間に撮る側と撮られる側の間にエネルギーが生じ、
それが凝縮されて写真の表面にうつっているのかもしれません。
ゾーラ ベンセムラ 「アフガニスタン」 2009 年/61 x 85 cm/C プリント
© REUTERS/Zohra Bensemra / Deutsche Bank Collection
北アフリカ出身の女性写真家であるゾーラ ベンセムラは、ロイター通信のフォトジャーナリストとして活躍し、
主に北アフリカと中東を取材しています。
この写真は駐留米軍が投げ渡した玩具を受け取ろうとする子どもたちを写したもの。
その他にはシンガポールの証券取引所のテンションをぎゅっと凝縮した写真。
といっても、いわゆる「報道写真」ばかりではありません。
雪の降り積もるどこかの喫茶店。
うっすら見えるハングル語の看板。
現実なのか夢の中なのか、静かでいながら不思議なオーラを放つ作品はヂョン・ヨンドゥさんによるものなど…
様々な作品から放出されているエネルギーを感じることができます。
Part 4:私の未来は夢にあらず
撮影した写真の中に未来を見ることはできるのでしょうか?
曹斐(ツァオ フェイ)さんのうつす写真の主人公たちを通じて、
その場にいながらその場にない彼らの夢が見えるかのようです。
曹斐(ツァオ フェイ) 「自分の未来は夢にあらず 02」 2006 年/120 x 150 cm/C プリント
© Cao Fei / Deutsche Bank Collection
今まで挙げたように原美術館の1階では、Part 1からPart 4までセクションごとに分かれ、
“写真”と”時間”を見ていきますが、2階ではこの全Partがコラボレーションするのです。
ここで紹介したのはほんの一部なのですが、大いにエンジョイしました。
そしてもちろん、原美術館と言えば、素敵なカフェ。
秋の夜にぴったりのマシュマロミルクティーに金平糖。
なんとも幸せ♡ぜひ行ってみて下さい。
【情報】
そこにある、時間 ―ドイツ銀行コレクションの現代写真
会場:原美術館
〒140-0001 東京都品川区北品川 4-7-25
会期:2015年9月12日(土) – 2016年1月11日(月・祝)
時間:11:00 a.m. – 5:00 p.m.
(祝日を除く水曜は8:00 pmまで/入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日にあたる9月21日、10月12日、11月23日、1月11日は開館)、
11月24日、年末年始(12月28日-1月4日)
入館料:一般1,100 円、大高生700 円、小中生500 円
原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料
20 名以上の団体は1 人100 円引
交通案内:JR・京急「品川駅」高輪口より徒歩15 分/
都営バス「反96」系統「御殿山」停留所下車、徒歩3分/
京急「北品川駅」より徒歩8 分
E-mail info@haramuseum.or.jp
ウェブサイト http://www.haramuseum.or.jp
★サラリーマン・OLさんの味方!
毎週水曜日(12月23日はのぞく)は8:00 p.m.まで開館しています♫
文 / Ksenia