時代や地域を超えて人々を魅了し続ける「シンプルなかたち」のアートを考察する「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」。
先史時代の石器から、現代を生きるアーティストにインスタレーションまで、古今東西の「シンプルなかたち」は、すべてを超越した普遍的な『美しさ』を私たちに提示しています。
本展は、コンスタンティン・ブランクーシ、長次郎、アニッシュ・カプーア、アンリ・マティス、カールステン・ニコライ、杉本博司をはじめとする様々な、有名作家の代表的作品130点以上を9つのセクションで構成し、展示しています。
19世紀から20世紀のヨーロッパでは、様々な学問の観点より「シンプルなかたち」の美学が再度脚光を浴び、工業製品や建築に大きな影響を与えました。
その美学は、工業製品や建築だけでなく、アートにも息づいています。
品格のある美しさは多くのアーティスト達を魅了し、近代の様々な芸術作品に結実しています。
また、このような「シンプルなかたち」の美しさは、自然界や、世界各地の民族美術にも見いだすことができます。
特に日本では、茶道具、仏像や禅画などに「シンプルなかたち」の美しさを
感じることができるのではないでしょうか。
ジャン=バティスト・ロメ・ド・リール(1736-1790)
結晶モデル 18世紀 テラコッタ
Jean-Baptiste Rome de l’lsle(1736-1790)
Models de cristallographie
18th century Terracotta
西川勝人(1949-) ほおずき1996
Nishikawa katsuhito(1949-) Physalis 1996
ダチョウの卵 Ostrich Egg Date unknown
森美術館リニューアルを記念した本展は、ポンピドゥー・センター・メスとエルメス財団、そして森美術館、三者の初めてのコラボレーション企画となります。
ポンピドゥー・センター・メスで昨年開催された「シンプルなかたち」展に、独自に日本の作品を加えて再構成した巡回展です。
物と情報が溢れ、複雑化する現代において、「シンプルなかたち」を通してこれまでの人間の思考や地球の歴史を紐解く本展は、私たちに真の美や豊かさとはなにかを考えさせてくれる時間になると言えるでしょう。
クー・ボンチャン(1953-)
白磁壼 OSK 01 BW.OSK 02BW 2005
Koo Bohcnchang(1953-)
Jar,White Porelean.OSK01BW.OSK02BW 2005
タントラ・ドローイング、ラージャスータン、ジョードプール、インド 2008
Dessin tantrique,Rajasthan,Jodhpur,India 2008
余計なものが削ぎ落とされた「シンプルなかたち」という名にふさわしいアートが展示されている空間を目の当たりにすると、その存在感に圧倒され、美しさに魅了されてしまいました。現代アートや伝統文化、各方面にまで多大なる影響を与えているシンプルで美しい名作たちが本展では見られます。
マルク・クチュリエ(1946-) 半月 1990
Marc couturier(1946-) Half moon 1990
23の幾何学的立体 Before 1876
Collection de 23 solides geometric Before 1876
また本展覧会は銀座メゾン・エルメスにて開催さていれる「線を聴く」展(2015年4月24日〜7月5日、主催エルメス財団)に呼応する形で開催されています。
合わせてこちらにも足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
杉本博司(1948-) 観念の形009 2006
Sugimoto Hiroshi(1948-) Conceputual Forms009 2006
作品を通し、約2万年前のアートにまで遡ることができる「シンプルなかたち」展。自然界で生まれたプリミティブ・アートから、現代の建築の礎となった作品まで、多彩なラインナップが展示されています。
「2万年前の人々はどのような思考をもち作品を残していったのか」「猛威的なスピードで進み続けている現代の私たちには本当に必要なものは何なのか」…
鑑賞する人々にさまざまな問いを提示する展示構成となっています。
リニューアルされた森美術館をめいっぱい楽しめるのも、本展の魅力です。
様々なスペースを用いて表現される世界観は、今回のリニューアルで展示スペースが格段に広くなった森美術館だからこそ味わえるといえるでしょう。
大巻神嗣作品「リミナル・エアー」シリーズ(1971—)は、軽く柔らかい布状の素材を空中に水平に設置し、床から風を送ることで波状に浮遊させたインスタレーション。展示の奥に見える六本木の風景が、より一層非現実的な空間を演出しています。
また、ベルサイユを感動させた事でも有名な李禹煥(リ・ウファン)(1936-)の代表的なシリーズ「関係項」も見逃せません。
「空間や物体は、はたして見える通りのものなのだろうか」という問いを起点に、物と物の関係やそのあいだから立ち上がる空間、そして鑑賞者を含む周囲環境のあいだに生まれるバイブレーションによる、新たな知覚の喚起を目指したシリーズです。
本展で展示されている<関係項—サイレンス>では、床に置かれた大きな石と壁面にかけられた白いカンヴァスを「物」としてあるがままに提示し、物体を既成概念から解放することで、作品を取り巻くすべての関係性を露にするという試みが行われています。
さらに奥に進んでいくと、異様な作品空間が展開されています。
アニッシュ・カプーア(1954-)の「私が妊娠している時(1992)」です。
正面から見ると平らな壁が、移動すると膨らんで見えるようになり、鑑賞者に目の錯覚を起こさせます。今にも現れそうな存在を描くことで、生命を宿す状態の姿から将来起こりうることを、つまりは来るべき変化を想像させてくれる展示です。
この作品は、もはやカプーア自身の手によってだけではなく、作品に備わる力によって予期せず生み出されたものとして、鑑賞者の生きている空間へと侵入してくるのです。
この衝撃は、皆さんにも実際見て感じ取ってほしいです。
そして誰もが忘れられなくなるであろう作品が、カールステン・ニコライ(1965-)の「アンチ(2004)」です。
このサウンド・インスタレーションは多面体の形状を持ち、アルブレヒト・デューラーの絵画作品<メランコリア|>にインスピレーションを得たものです。
光沢のない漆黒の表面を持つニコライの<アンチ>は、内側から低音を発するミステリアスな物体として、スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」におけるモノリスやブラックホールをも連想させます。この作品によって、宇宙的な世界観とその謎について思考を巡らせるのもまた一興だと思います。
ル・コルビジェが集めた小石をはじめ、こちらでまだまだ紹介しきれない素晴らしい作品が130点も展示されています。
2万年以上も前の作品から、現代アートを並列で鑑賞できる本展を通して、「シンプルがどこからくるのか、そしてどこへ向かっていくのか」を感じとってみては如何でしょうか。
【情報】
—シンプルなかたち展 美はどこからくるのか—
会期:2015年4月25日(土) — 7月5日(日)】
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
10:00–22:00(火曜日のみ、17:00まで)
*入館は閉館時間の30分前まで
*会期中無休
■入館料(税込)
一般1,800円、学生(高校・大学生)1,200円、子供(4歳-中学生)600円、シニア(65歳以上)1,500円
*表示料金は消費税込
*4/29以降は、本展のチケットで展望台 東京シティビューにも入館可
*スカイデッキへは別途料金がかかります
■問い合わせ
Tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
公式HP:http://www.mori.art.museum/contents/simple_forms/
文 / 中塚 詠美 写真 / 洲本 マサミ