感性が奮い立つ「FESTIVAL de FRUE 」
今年も11月に野外音楽フェスティバル「FESTIVAL de FRUE 2022」の開催が決定。昨年11月に開催された第5回目にはArtalk編集部も参加。根っからの音楽好きだけでなく、フェス初心者も五感をフルに働かせ楽しめた、2日間の体感をお伝えする。
“魂の震える音楽体験”を。「FESTIVAL de FRUE」とは?
2012年、“パーティー”としてスタートした「FRUE(フルー)」は、強さ、深さ、精神性の濃さを持ち合わせる世界各国のさまざまなジャンルのミュージシャンを招き、イベントを開催してきた。2017年からは、「FESTIVAL de FRUE」として野外音楽フェスをスタート。以降毎年11月の初旬、静岡県掛川市にある「つま恋リゾート彩の郷」で開催している。フェスは2日間の開催となるが、テント泊だけでなく、会場近くのリゾートホテルや最寄駅である掛川駅付近のビジネスホテルも利用できるので、宿泊もカジュアル。軽装備で参加することができる。
「FESTIVAL de FRUE」の会場は、THE HALL(ホール)とGRASS STAGE(グラス・ステージ)の2つ。メイン会場であるTHE HALLは天井つきの半屋外イベントホールで、土地の傾斜を利用したつくり。立ち見はもちろん後方部には座席が設けられているので、座りながらステージを見ることができる。一方のGRASS STAGEは、日あたりのいい芝生の広場。テント泊のチケットを購入した人はそこで寝泊まりもしている。
FRUEの例年の来場者数は1300人程度。THE HALLだけでも3000人の収容人数があることを考えると、混雑はほとんどなく、かなり落ち着いた雰囲気のフェスであることが容易に想像できるだろう。客層も30〜40代が中心で、子どもを連れて来る人も多い。ゆったりのびのびと楽しむことができる野外フェスなので、初心者でも存分に楽しむことができるのだ。
感覚を呼び戻すために。ひさびさのフェスへ
東京から新幹線とシャトルバスに乗り、2時間と少し。「FESTIVAL de FRUE 2021」の会場にたどり着いた。掛川市は年間を通じて温暖な地域ということもあり、この日も日中は暖かな空気に包まれていた。薄手の長袖2枚で充分なので、身も軽やかだ。
受付でワクチン接種証明やチケットを見せ、会場内に入る。斜面になっているコンクリートの地面の広間の先に、フード・ドリンクの屋台がならぶ。その奥にメイン会場であるTHEHALLがあるようだ。屋台の上にせり出す屋根からは、さまざまな色でドローイングされた垂れ幕が何枚もおろされ、風が吹くたびゆったりとはためく。その様子を見ながらゆっくりと深呼吸する。筆者にとって、約2年半ぶりとなる野外フェス。いくらか緊張していたのだろうか、布の動きを見ているうちに少しずつ肩の力が抜けていくのを感じた。
五感を満たしながら、エンジンをかける
「FRUEはごはんのクオリティが高い」
これまでFRUEのフェスに参加したことがある経験者たちは、そう口をそろえて言う。実際に静岡をはじめ、軽井沢、東京などから食通も唸る名店が軒を連ねているそうだ。その奥にはマーケットエリアがあり、雑貨や野菜、本まで販売している。音楽を聴きながら、ベンチに腰掛けて購入した本をじっくり読んでいる人たちもいた。筆者もマーケットを覗いてみたが、特に気になったのはやはり本だ。GEZANのマヒト、やけのはらなど、参加アーティストに本を書いている人が多いということから、静岡県にあるHiBARI BOOKSがさまざまな関連本をセレクト・販売。知識欲を刺激された。
時間は午後2時過ぎ。腹が減っては音を楽しめぬということで、まずは腹ごなしをしようと、ADI TOKYOのカレーを食べることに。ネパール出身のシェフ、アディカリ・カンチャンさんがつくるカレーは、バランスよく配合されたスパイスの香りとやさしい味わいが特徴。身体にしみ入り、内側からほっこりと温めてくれる。思わず追加でホットチャイも注文してしまった。
まさか音楽フェスで、聴覚ではなく味覚から五感を開放していくことになるとは思ってもみなかった。野外フェスティバルのいいところは、自然と一体になりながら音楽を楽しめるところだが、FRUEの場合は、食欲も知識欲も満たされ、しかもリラックスまでできる。じわじわと感覚がリアルに捉えられるようになると同時に、この2年間でどれだけ自分の感覚が縮こまり、閉じられてしまっていたかを思い知らされる。なるほど、このフェスはリハビリのようなものだ。いつの間にか忘れていた深い呼吸、音を身体の芯から楽しむことを思い出そう。そう考えたときから、筆者にとっての「FESTIVAL de FRUE 2021」は始まった。
音楽に全身を揉みほぐされた1日目前半
お腹が満たされたので、5分ほど歩いた先にあるGRASS STAGEへ向かうことにした。コンパクトなステージの前にはパラパラと人が立ち、おのおのが自由気ままに踊っている。その傍では、腰をおろしたり、寝転んだりして聴く人もいる。
ああ、こういう自然のなかで、まったりと音楽を聴くことが好きだったんだ。そう思い出し、筆者もステージ脇の傾斜面にごろりと寝そべり、DJ mewのプレイを聴くことにした。食後の眠気に音楽はマッサージのように効く。地面から伝わるリズムと鼓動がリンクし、自然と身体がゆるむのだ。
食後の聴き寝をたっぷり楽しんだら、再びTHE HALLへ。Shohei Takagiのステージでは、「FRUEが一番好きなフェスなんです。全体的に暗いし、照明が青とか紫とかしかなくて。でも、その潔さがいいんですよね」という話があったが、言われてみればメインステージのセットも背景に布がひるがえるようにかけられているだけで、派手な要素はほとんどない。彼らの牧歌的な音楽とも相まって、「アーティストや音楽そのものに集中し、楽しもう」というメッセージが伝わってくるようだった。
会場をまわっていると、意外と知り合いにも出くわすものだ。新しい知り合いもできた。そこで次に何を聴くか、おすすめのお酒や食べ物、敷地内にあるサウナ情報などを交換するのも楽しい。そんな時間を挟んでいると、いつの間にか日が暮れていた。メインステージに戻ると、伸びやかなバイオリンの音色とやさしい歌声が聴こえる。2週間の隔離期間を経て参加したSam Amidonのステージだ。誘い込まれるように後方のベンチに座れば、より一層ふにゃりと身体がゆるむ。
ライブの終盤にはスペシャルゲストとして、2日目に出演する角銅真実が登場。急遽決まったセッションだったそうだが、楽しそうに息を合わせて演奏する様子にこちらも楽しくなる。終了後「最高のステージだった!」と噛み締めていたのも束の間、THE HALL入口の広間でサンバの音が突然鳴りだす。その騒がしさにどうしたことかと見に行くと、人だかりの中で巨大なガイコツが2体踊っているではないか。そしてひと通り演奏して、ガイコツたちはあっという間に去っていった。一体何だったのだろう?
“奇祭”の本領が発揮された1日目後半
実はフェス好きから「奇祭」と呼ばれているFRUE。あのガイコツが踊るサンバは、今思えば「今から本当の奇祭がはじまる」という合図だったのかもしれない。次のGEZANのステージからは、怪奇が怒涛のように押し寄せた。
GEZ@N experimental protozoa setという特別編成でドラマーのOLAibiを招いた今回。ツインドラムのパワーは凄まじく、電気風呂に入った時のように筋肉が勝手に動きだす。真っ赤な衣装を着るメンバーたちの動き、それと同時に真っ赤な照明が激しく明滅する様子を見ていると、自らの血がたぎっていくことを感じる。音楽に身を委ねることをすっかり忘れてしまった身体は簡単には動かない。しかし脳天に音が突き抜けるたびに、徐々に指先から温まり、魂までも奮い立つ。
1日目の最後を飾るのは、はるばるアフリカから来たアーティスト、Teno Afrikaだ。テクノミュージックにアフリカのリズムを掛け合わせたノレるサウンドは、「FESTIVAL de FRUE 2021」が公開されているプレイリストでも気になっていた。その前に悪魔の沼が2時間。ゆったり聴こうと思いベンチに腰かけたのだが、その目論みは叶わなかった。始まるやいなや、後頭部を鈍器で殴られるかの如く強烈で禍々しい重低音が地の底から這い上がり、揺さぶり起こしてくる。こんなに悪魔的な音楽をこのタイミングで聴けるとは。FRUE恐るべしである。
そして25時、ついにTenoAfricaが登場した。一転して明るいサウンドと、21歳らしい軽やかでチャーミングな動きが、再び元気を取り戻させてくれる。まさに荒療治のようなアップダウン。音楽って、これだからいい!
音に寄り添われ、感覚が広がった2日目
2日目。午前中の最初の目当ては、今年初出店となる軽井沢の名店LA CASA DI Tetsuo Otaの信州鶏を使ったバターチキンだ。2026年まで予約が取れない人気店というだけあり、前日もほとんどの時間帯で長蛇の列。これは早めに頂かなければと並んで購入した。熱されたバターの海でこんがりと揚げ焼きされたチキンは、うなるほど柔らかく、うまい。日常で食べる機会はないからこそ、その罪な味に没頭できた。
満腹で午後をむかえ、お酒も進んでほろ酔いになった頃、角銅真実のステージがはじまった。午後の陽光がステージに降り注ぎ、透明感のある神秘的な空気をつくる。ステージにはマリンバ。打楽器奏者である彼女が高校生の頃から弾き続けている楽器だ。奏でられる音はその情景と相まってキラキラとした響き。演者たちもその心地よさに嬉しそうな表情を浮かべ、見ているこちらにも伝搬する。
終盤、角銅真実のステージでも、Sam Amidonが参加し、「日本のフォークソング」と角銅が形容する長崎の民謡をモチーフにした「ララバイ」など、ファンと一体になれる楽曲を演奏。ますます会場に清々しい一体感が生まれた。
そして2日目の最後を飾ったのは、Terry Riley with Sara Miyamoto。コロナ禍を機にアメリカから日本に移住した巨匠Terry Rileyと、2019年から彼の弟子となりインド古典声楽(ラーガ)を師事する宮本沙羅。御年86歳とは思えぬ軽やかな演奏と、反復しながら変化していく旋律。頭のどこかが研ぎ澄まされていくのを感じながら陶酔していく。そして最後は、20分にも及ぶ即興演奏だ。2人の演奏に、エレクトリック・ヴァイオリニストの勝井祐二、Buffalo Daughterのベーシスト大野由美子、角銅真実、Sam Amidonが次々と加わり、各々の音を重ねていく。最初は探り合うような音が、徐々にグルーヴ感を掴んでいき、聴いているこちらの身体も自然と動く。時間が経つにつれ、雑味が取れていくようで、自身の気分もまたスッキリと爽快なものになる。どうかこのまま続いていてほしいと思うほど、心地のいい時間だった。
クセになる音楽体験を
いつのまにか錆び付いてしまっていた心と身体が、開放感にあふれた2日間でだいぶゆるんだ。この一連の体験はまるでアートを体験する時のようで、感覚の全てを塗り替えてくれる衝撃を与えてくれた。「FESTIVAL de FRUE 2022」の開催も決定し、チケット販売も開始されている。現時点でのアーティストのラインアップは不明だが、FRUEの奇妙でこだわりの詰まったオーガナイズ力に期待し、再び全身を投げ入れたい。
【アーティスト・プロフィール】
DJ mew
Shohei Takagi
1985年1月3日生まれ、東京都出身のミュージシャン、高城晶平によるソロ・プロジェクト。 高城は、2004年に結成したバンド“cero”の中心メンバーとして活躍するほか、ソロでは弾き語りやDJも行なう。また、東京・阿佐ヶ谷にてカフェバー「Roji」を経営するなど、活動は多岐にわたる。
Sam Amidon
アメリカのヴァーモント州で生まれ育ち、今はロンドンを拠点に活躍するフォーク系シンガーソングライター。
GEZAN
2009年に大阪で結成。国内外の多彩な才能をおくりだすレーベル・十三月主催。入場フリーの投げ銭制の十三月主催野外フェス「全感覚祭」を2014年より開催している。2021年5月に新しいベーシストヤクモアが加入。FRUE2021ではGEZ@N experimental protozoaとして、ツインドラムのスペシャル編成でパフォーマンスを行った。
悪魔の沼
COMPUMA、DR.NISHIMURA、AWANOからなるDJユニット。2008年結成。
Teno Afrika
ヨハネスブルグとハウテン州プレトリアの郊外で活動するLutendo Raduvhaによるプロジェクト。南アフリカのハウテン州のタウンシップで生まれたダンスミュージック、「アマピアーノ」が進化していく過程を、そのまま楽曲に反映させ、プロデューサーとして多くのアーティストとコラボレーションを行う。
角銅真実
マリンバをはじめとする多彩な打楽器、自身の声、言葉、オルゴールやカセットテープ・プレーヤー等を用いて、自由な表現活動を国内外で展開中。自身のソロ以外に、ceroのサポートや石若駿SONGBOOK PROJECTのメンバーとしての活動、CM・映画・舞台音楽、ダンス作品や美術館のインスタレーションへの楽曲提供・音楽制作を行っている。
Terry Riley with Sara Miyamoto
1935年生まれ。米国の現代音楽家。ラ・モンテ・ヤングらと即興演奏を行なうなかから、1つの音型を反復するという技法を開発し、ミニマル・ミュージックを創始する。インド音楽をはじめ、各地の民族音楽と積極的な関わりを持った新たな世界を構築している。
宮本沙羅は2019年よりテリー・ライリーに師事。600年の歴史があるカラナ流派の日本人唯一の継承者となっている。
FESTIVAL de FRUE 2022
4月下旬より順次ラインナップ発表予定
開催日:11月5日(土)6日(日)
開催地:つま恋リゾート彩の郷 (静岡県掛川市満水2000)
チケット販売サイト:https://frue.shop-pro.jp/
イベント詳細:http://festivaldefrue.com/
“魂の震える音楽体験を” FESTIVAL de FRUEがワンデイイベントとして東京・立川に登場!FESTIVAL FRUEZINHO 2022(フェスティバル・フルージーニョ・2022)
ラインナップ:Bruno Pernadas, cero …and more TBA
開催日:6月26日(日)
時間(予定):開場 14:30 / 開演 15:30
開催地:立川ステージガーデン(東京都立川市緑町3-3 N1)
チケット
早割:12,000円(限定500枚)
前売:14,000円
当日:16,000円
販売サイト:https://frue.shop-pro.jp/
※1月27日現在、1階フロアのみを利用した座席を外したオールスタンディング形式を予定しています。しかし、感染状況により全自由席のオールスタンディング形式になる可能性があります。また、チケットの販売状況次第で2階席、3階席を全自由席として追加販売いたします。
イベント詳細:http://fruezinho.com/